第47話 情け無用
ゾンビアタックとはなんぞやという話をすると、大した武器もアイテムもない状態で敵陣へと突っ込み、殺されてしまったらリスポーンしてまた敵陣へと突っ込むという行為をひたすら繰り返す戦略のことである。
一見するとそんなものの何が戦略だと言いたくなるが、敵チームから見るとゾンビアタックほど面倒臭いものはない。
まず相手をするだけでも時間と労力と素材を消費するし、だからと言って無視をしたらしたで邪魔をしたり攻撃をしたりしてくる。
しかもその攻撃で迂闊にも死んでしまえば、相手に超低リスクで武器や素材を奪われてしまう最悪の展開になることも。
果たしてこれ程ウザい足の引っ張り方があるだろうか、いやない。
(ただ――これは本来序盤にするプレイではない)
終盤の戦闘で敗北を喫し、もう勝利の芽がないという時に、全員で敵の優勝を阻みに行くぞ! と完全に開き直ってするもの。
おまけに1人では、その効果もあまり高くないと言って良い。
となれば、本当にやっていいのかと思わなくもないが――
「……ゾンビアタックと言う名のベイトなら、ワンチャンあるかもしれんな」
「神吉さんで気を引かせて、俺達で攻撃をすると?」
「そう。幸いまだ若干素材は残ってるから、まず限界まで武器と回復を量産する。んでオレ等はちゃんと武器を装備して1人拠点内3人拠点周辺で待機、めーちゃんだけは馬に乗って貰って拠点周辺を徘徊して貰う」
「ヒデオンさんチームに神吉さんを見つけて貰うって話ね」
「こっちから撃つより撃たせた方が後々の交渉で役立つかもしれんしな。後は銃声が聞こえたらオレらでその位置を叩く」
「倒したらめーちゃんにヒデオンさん達の武器を奪って貰う感じかなー?」
「もしくは近くにいる誰かが回収に行く感じやな。何にせよ向こうがやられて1番嫌なんは武器を奪われることやから、オレらはそこを狙うしかない」
「なら……奪うことで戦力がトントンになったら勝利か」
「そゆことやね。まあ勿論ボコられたらヒデオンチームの奴隷確定やけど」
分かっちゃいるが、そう言われると若干ピリっとした空気が俺達の間に流れる。
(ううむ……それにしてもまさか初日からこんなことになろうとは……)
恐らく俺達を除いて、誰もこの状況を想定などしていないだろう。
今頃他のチームはわいわいコツコツとファームをしながら武器や拠点を強化しているのだと思うと、急に視界が眩しくなってくる。
とはいえ。
「ここまでめるは何も役に立ってないから……何としてもやってみせます!!!」
気丈ながらもトロールに責任を感じてそう(別に感じる必要もないし、この失敗に関してはトロールは関係ないが)な彼女に、見せ場の一つぐらい与えてはあげたい。
それが泥臭いものでも、無いよりはきっと良い筈。
まあ同じ初心者である俺に、そこまで出来るか微妙ではあるが――
「よし……そいだら、一発かましに行くとするか」
何れにせよKFKのその合図に俺達はナケナシの武器を準備すると、ヒデオンさん達が来る前に各配置へとついたのだった。
◯
「おいおい……こらまた随分と見窄らしい拠点やなぁ」
ヒデオンは丘の上から
「うわぁ……幾ら初日といえ、まだこんな進んでないチームがあるんやね」
「これ――もうそのまま同盟にする形で進めた方が良くないですか?」
石油プラットフォームでしろかふかチームを全滅させ、物資を回収したヒデオン達はその後どうするかについてこう考えていた。
しろかふか達に追撃はかけるが、恐らくすぐに降伏する可能性が高い、なればそのタイミングで落し処を作るのがいいだろうと。
その内容はまず同盟という形を取り、その上で他チームとの同盟、特に東側に位置するチームとの同盟を禁止すること。
理由はヒデオンチームは西側に拠点を構えている為、南側に位置するしろかふかチームと北西側にいるチームとの板挟みを避けたいから。
とりわけ北西側のチームはノラ・スタブルフィールドの偵察によって相当文明が進んでいることが判明している。
つまり、北西側は中々手強い経験者が指揮をしているということ。
故にレイドが解禁されれば苦戦は必至、だのに背後から東側と同盟を組み復讐を目論むしろかふかチームが来たら100%負けるだろう。
だからこそヒデオンチームは支配下に置くのではなく、武器供給を対価にこの条件を飲んで貰うことで、壁という名の友好関係を築く道を選んだ。
「ふうむ、確かにやり過ぎて逆恨みされるのは排除したいしなぁ……」
「多分向こうも素直に要求を飲んでくれそうですし、ここは――」
「…………いえ、せめてしろかふかチームに戦力がないことを確定させてから交渉をしたが良いかと。万が一向こうに力が残ってる状態で交渉が決裂し戦闘が開始された場合、攻める側である私達が不利になるので」
「それはまあ……そこまでの話になったらそうやけども――」
すると、リスポーン用の拠点を建ていた伊地知くるるが少し言い淀む。
とはいえ、そんな反応になるのも無理はない。
実際配信者にとって、何処までやるべきかというのは実に難しいものがある。
何故ならゲームに限らずこういったチームを応援するという構図は、一部の人間が感情的になることが往々にしてあるから。
だからこそ、いくらノラ・スタブルフィールド意見が正しいとしても、皆肯定も否定も出来ずにいてしまっていると――
「どりゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!! キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
ふいにこちらに向かって、馬に乗って突っ込んでくる1人の少女が現れる。
「えっ?」
唐突な出来事に誰もが対応に遅れてしまうが、唯一人ノラ・スタブルフィールドだけは
「チックショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
すると少女は断末魔のような声を上げながら馬から崩れ落ち、呆気なく地面へと倒れ込むのであった。
「ビックリした……なんや? 神吉ちゃんか?」
「もしかして1人で仕掛けてきたんかな? にしては随分と無謀――」
「…………いや、これは――あっ」
刹那。
今度は鋭い銃声が聞こえてきたかと思うと、ノラ・スタブルフィールドが膝から崩れ落ちダウンしてしまう。
それを見て、ようやく全員がしろかふかチームから攻撃を受けていると理解した。
「
「いや分からへん! というか一発ヘッショってどんなエイムしてんの!?」
「この異常なまでの正確さ――多分まりんだ」
同じVG所属で一緒にプレイした経験もあり、何よりDM杯で嫌と言うほど味わって来たからこそ分かる、菅沼まりんの正確無比なエイム。
それがEDGEというゲームでも遺憾なく発揮されている事実に刄田いつきは驚きながらも、即座に身体を伏せ射線を切ろうとする。
「不覚……! まさか向こうはやる気満々やったとはな……!」
「いつき! ノラちゃんのこと起こせそう!?」
「いや! 流石にまりんの位置が特定出来ないと無理!」
「…………恐らく湖を挟んで向こう側の崖。一旦リスポーンするから待って」
もしここで全滅すれば、折角の有利な交渉がそうもいかなくなってしまう。
いくら混乱しようとその点は共通認識としてある為、こうなればやるしかないと、ヒデオン達は菅沼まりんの位置を見つけ出そうとする。
「――……おったわ! 120の所にある岩場の裏――――っぶなぁ!!」
「くそ、マジで上手いな……鬼に金棒、菅沼まりんにSRとはこのことか」
「流石にダブルピークでまりんを牽制しましょう。その間にノラちゃんには自分の
「まりんを警戒するのもやけど、神吉ちゃんのこと考えたら多分他にもおる筈やから、周囲のクリアリングをちゃんと……――!?」
「このこのこのこのこの…………!! ムキーーーーーーー!!! あ、後少しだったのにいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「おいおい……何でもうこんな所まで戻ってきて――」
するとヒデオンの警戒に応えるかのように、ついさっき倒したばかりの神吉めるがすぐ側まで来て自分を倒そうとしていることに気づく。
しかし彼女の
「これ……どっか別に建物作ってそっからリスポーンしてへんか?」
「言われてみれば拠点からは誰も――まさか神吉さんでゾンビアタックを……?」
「やっぱ完全に迎え撃つ準備をしとったってことか、こら面倒やな」
てっきりあるとしても精々軽い銃撃戦(しかも一方的な)だと思っていたことが、皮肉にもじわりとヒデオンチームを苦しめ始める。
「…………
それでもノラ・スタブルフィールドは神吉めるを封じようと即座に動くが、伊地知くるると刄田いつきを嘲笑うかのように別の岩場に移動していた菅沼まりんによって、またしても一撃ヘッドショットでダウンさせられてしまう。
「く…………しつこい……!」
嫌でも神吉めるに意識が逸れていたとはいえ、このミスには伊地知くるると刄田いつきも焦ってしまい、連携もなく菅沼まりんの行方を追おうとする。
「まりんめ――……えっ? し、しもうた……!」
「くるる! ――あっ! くっ……」
その結果、足音を立てずに近づかれていたGissyに伊地知くるるは至近距離から
更には刄田いつきがそれに対応しようとしたことで、その隙を菅沼まりんが逃さず
これであっという間に、残るはヒデオンのみに。
「アカン……ここで俺までダウンしてもうたら完全に詰――――うっ!」
「めるも……めるだって伊達に何年もシルバーやってないんですよ……!」
しかし、そんな窮地でまたして現れたのは神吉める。
だが彼女が手に持っていたのはEDGEの中で最もエイムが難しい弓であった為、ヒデオンは彼女をスルーするとGissyの方へ
無論、その選択は正しい。何故ならGissyは彼女を囮にすることで、ヒデオンとの撃ち合いに勝とうとしていた筈だから。
おまけに、この位置だと
となれば後は純粋なエイム勝負だと、ヒデオンはそう結論づけたのだったが。
「――……あぇ?」
ビイイイィィンと。
何かが刺さった音がしたかと思うと、ヒデオンの視界は赤く染まり画面にダウンしたことを告げる文字が表示される。
つまり何が起ったのかと言えば、絶対に当たることはないと高を括っていた筈の神吉めるの矢が、脳天を直撃したことを指す。
「ん、んなアホな……」
あまりにも、あまりにも運が無いとしか言いようがない状況。
けども慢心か温情か、それは定かではないが、中途半端な判断をしてしまったことが招いた事態なのも否定は出来ない。
「ヒデさんチームの建物にあった
何れにせよその末路がこれだと言わんばかりに、少し離れた所から聞こえてきた淡路シオリの台詞は、全員が拠点まで
要するに、持ち合わせた武器や素材は全て奪われるということ。
(これは流石に痛い……こ、こうなったら全力でゴネ散らかすしか――)
ただ、それでも足掻こうとヒデオンは
「あ」
そんな策も虚しく神吉めるがすっと目の前に現れたかと思うと、無情にも0距離で頭を弓で射抜かれ確殺を入れられたのであった。
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