第42話 杞憂民か否か
『こんちわーす! よろしくお願いしゃっーす!』
しろかふかもといKFKと初めて出会ったのは、
確かランクは上から2番目――そのランク帯だと最高ランクのプレイヤーともそこそこマッチングしたので恐らく合っている筈。
「あ、よろしくお願いします」
スタペのみならず対人系のゲーム全般に言えることだが、野良試合というのは基本的にVCで会話をすることがない。
あるとしても報告を入れるだけかチャットを使う程度――それこそピンを刺すだけで指示を出せるならそれでやる人が一番多いだろう。
『お、Gissyさんこんちゃーっす! 調子はどんなもんっすか!?』
「え? うーん……ちょっと停滞気味ですね。足引っ張ったらスイマセン」
『いやいやそんなん、野試合なんて連携もクソもないし! 第一ランクも近いんですからお互い様ってことで気楽にやりましょうよ!』
「はは……それは確かに、ありがとうございます」
ただ中にはこうして友好的にコミュニケーションを取りたがる人もおり、KFKは完全にそのタイプというのが俺の第一印象だった。
『因むとGissyさんは今何歳なんっすか?』
「今は――21ですね、しがない大学生やってます」
『え! いや
「え、そうなんですか? じゃあKFKさんも大学生で?」
『いや、オレは高卒バリバリニート!』
「え?」
『最近親に小言いわれ過ぎてストレスでハゲてきたけど、でもAOBが面白過ぎて止められんくて! どうしたらいいと思う!?』
「ど……いや、まあプロになってみる……とか?」
『いやーやっぱそうか、オレも流石にハゲたくないしなぁ……』
(将来よりもハゲることを気にしてるのか……)
しかしそんなコミュ強なプレイヤーの中でも、彼は相当異質な部類であったことは今振り返っても言うまでもない。
はっきり言って小中高から交友関係は狭く、大学に至ってはほぼ友人などいなかったら俺からしたら、本来話すこともなかった人種だろう。
でも、だからこそ彼の姿は俺にとって新鮮に映り、同年代ということもあってか自然に話をすることが出来ていた。
『よっしぇ~い! そいだら
そんな軽い雑談を経て。
俺はKFKと他2名(VCオフ)のクワッズで試合を始めたのであったが。
ここから俺は、彼がただのニートではない事実を目の当たりにすることとなる。
『東――80ぐらいの所で車移動してるな、200メートル以上はあるわ』
「了解。多分パルス的にあの山手にある家に行くかな――って!?」
『おーし運転手落としたな。よっしゃ皆で壊滅させるで~い!!』
そこそこ距離のある位置を走っていた車の運転手を、KFKは
そして俺達が容赦なく弾を打ち込み2人倒すと、最後は車からピークしてきた1人をまたしてもKFKがSRヘッショ1発で落としあっという間に全滅。
中々に強気なキルムーブだが、それに恥じない強靭なフィジカルに俺はこの時点で驚愕していたのだが、まだそれだけでは終わらない。
『この窪みはまーじで強いね。後あの家もパルスの収縮次第では意外と使える』
「詳しいな……もしかして全部の強ポジを理解してるのか?」
『んー一応全マップ大体把握してるな。やっぱ知っとかないと勝てへんから』
「……まじか」
俺が何となくの、行き当りばったりで判断してしまっていたことを、ちゃんと知識にして落とし込んでいることにも驚かされたり。
「――あっ! くそっ! 悪いダウンした!」
『大丈夫大丈夫! 窮地でやる
「おお……! ナイス! 残り3人! ――……2人……1人……おいまさか……」
『さあさあ諦めてその岩場から顔出しんさいな! 出した瞬間その頭をヘッショで抜いたるけえ――……ッシャイ! ナイス
「す、すげえ……」
極めつけはフルパを倒せば勝利という場面での
正直あまりの上手さにただ感心することしか出来ず、彼の戦い方から学ぶ余裕など当時の俺にはありもしなかった。
『皆ありがとうな~ほんじゃまた』
そしてKFKはそんな挨拶と共に颯爽と去っていったが、スタッツには俺達が数キルなのに対し彼だけ21キルという、ワンマンショーな事実が残る。
「……いやはや、上には上が幾らでもいるんだな」
俺からしたら水咲ですら十分凄いというのに、最高ランクにはあんな化物がゴロゴロいるのかと思うと、若干気が遠くなりそうになる。
ただ――あのレベルは卓越した才能があってこそであり、俺みたいな凡庸はどう足掻いてもKFKと同じルートを辿ることは出来ない。
故に、じっくりコツコツとやる以外に道はないと俺は改めて自分を戒め、彼のことは意識の外へと置こうとしたのだが――
【KFKさんからフレンド申請が来ています】
「おっと……1戦会話しただけなのにフレンド申請してくれるなんて、流石はコミュ強だな……まあ当然承諾を――――ん?」
【KFKさんから〚月白旅団〛への招待が来ています】
◯
『――別にそこまで珍しくはない話って感じがしますが』
「実際その通りではある」
時間は現在。
俺は会社から帰宅し、DLQの運営からイベントの説明を受けた後、暫しの待機時間にしろかふかとの出会いを菅沼まりんに話していた。
別に会社で話しても良かったのだが、あんまり一緒にいると変な噂を立てられても彼女に悪いので、帰宅後にTalkingを使って通話をしている。
因みに何故菅沼まりんに話したのかと言えば、チーム内で関係性があるのが彼女だけなのと、事情を知っている人間はいた方がいいと思ったから。
まあしろかふかと関係性があることは俺が配信で口を滑らせてしまったので、既に若干広まってはいるのだが――
『無論話の流れから察するにそこから先はあまり良い話ではないのは分かりますけど……でも
「ううん……それはそうかもしれないが」
『確かにDM杯の時点でGissyさんに反応しなかったのは気になりますが……それでも頭を下げればあっさり済むとは思うんですけどねえ』
まあ何にせよ、形だけでも謝っておけば大丈夫でしょう、と彼女は言う。
「……そうだな。チームの為にも、まずはしっかり土下座をするか」
『流石に配信上はアレなので、初日が終わってからでお願いしますけどね。――というか、そんな気まずくなるって一体何をしたんですか?』
「――それは」
【まもなくイベントを開始します。参加者はEDGE、DLQ鯖にお集まり下さい】
と、俺はいよいよ本題へ入ろうとしたのだったが、無情にも運営からイベント開始のアナウンスがWaveに流れてきてしまう。
『あ。まあ……もうしょうがないんで、一応ギスった場合は私が間を持ちます。と言ってもかっさんの性格的にほぼ100%問題ないとは思ってますが』
「ああ……悪い。この恩は――」
『投げ銭かサブスクでお願いします。さあ行きましょう』
そう言うと俺達はTalkingを切り、いよいよEDGEを起動し配信を開始する。
(楽しむつもりで参加したイベントで、まさかこんなことになろうとはな……)
とはいえこれは自業自得。兎にも角にも初日を一生懸命頑張ったら、その後はKFKに膝とデコが擦り切れるまで土下座しよう――
そんな決意と共に俺は初期リスポーン地点に、総勢25名に及ぶ有名ストリーマー達と降り立ったのであったが。
「おれえええええええええええええええええええいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!! Gissyワレこれええええええええええええええええええええええええええええええいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
騒がしく暴れまわる配信者の中で、一際よく通った怒号が聞こえて来たかと思うと、1人のプレイヤーが俺に向かって突っ込んでくる。
それは自分を模したと思われる、白銀の短髪が特徴的な男性キャラ。
俺はそれがしろかふかであると瞬時に理解すると、エモート機能で土下座をしようとしたのだったが――それより先に彼の拳が頭に鋭く突き刺さる。
「えっ!? ちょ――か、かっさん落ち着いて!」
「お、なんや早速喧嘩かいな、いや~若いモンは熱があってええなぁ」
「年を取るとああいう熱は無くなるから、実に羨ましい限りだね」
「大御所二人が何呑気なこと言ってんですか! ちょ運営さ――」
「いや! いいんだ、菅沼さん――」
やはり俺が月白旅団を抜けたことを、許してはいなかったか――
だがそう思われても仕方のないこと。だからこそ、この拳は受けるべき報いなのであると俺は一切抵抗をすることなく殴られ続ける。
まあ、死んだ所で即リスポーンするだけなんですけども。
「このヤロウ! Gissyテメエこのっ――!」
「KFK……許してくれとは言わん、だから気が済むまで俺を――」
「はぁ!? 許して欲しいの俺の方やっちゅうねん!!」
「――え?」
「お前クラン抜けた理由――妹さんの為やったんやなァ!?」
「…………は? Gissyさん?????」
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