第41話 思いがけない接点
ストリーマー永年保証。
それはつまるところ配信者として永久的に食べていけるという話になるが、果たしてそんなことが本当にあり得るのだろうか。
(例えば事務所が正社員として雇用し、定年まで給料を貰いながら配信をするというのは不可能ではなさそうだが――)
確かに配信といういつ尻すぼみしてもおかしくない世界で、もしそんなことをして貰えるのであれば夢のような話でしかない。
結局配信というのはシビアな話稼げない、稼げなくなることが一番の負担になる、故にそれさえ解決すればストレスとは無縁の生活を送れることは必至。
そんな景品なら、気合が入ってしまうのも頷けるが――
(――とはいえ)
アオちゃんが言っていた通り、これはかなり眉唾な話である。
何せこのストリーマー永年保証、運営は全く以て明言をしていないのだ。
MVP自体はあるにはあるが、その景品が何であるかは一度も公表されたことがなく、ただ【配信者にとって最高なモノ】と書かれているのみ。
つまるところその文言が独り歩きした結果、いつの間にかストリーマー永年保証などという話に歪曲してしまっただけなのである。
(運営もはっきり否定すればいいものを、何も言わないのがまた……)
しかも察しの良い方はお気づきかと思うがこのMVP、実は選ばれた者は今まで誰一人としていない。
それだけハードルが高いと言えば聞こえはいいが――正直運営もイタズラに期待を上げ過ぎて選べなくなってるだけな気がしてならない。
「……ま、何にせよ俺は変に期待せずイベントを楽しむ、それだけだな」
▼は?
▼売れかけてる今こそDLQで活躍する時だろうが
▼DLQで売れ切って俺を厄介古参ファンにさせろ
▼Gissyなら出来る、俺達は信じてるぞ
すると。
そんな俺のボヤきに対し精鋭であるリスナー達が俄に騒ぎ始める。
「いやいや……まだ売れかけてもないだろ」
因みに今はスタペも終了し雑談配信の最中。
DM杯特需もあり、最近は雑談配信でも見に来る人がおり感謝しかないのだが――何故か俺のリスナーは【
無論叩かれるよりは何億倍もいいので悪い気はしないが……何だか水咲が増えたような気もして若干気味が悪い。
「それに俺はEDGEはほぼ未経験。悪いがそんな状態ではMVP級の活躍なんてのはどう足掻いても出来ない」
▼そうか? EDGEなら大丈夫だと思うけどな
▼単純な撃ち合いだけで言ったらAOBと似てるしな
▼まあ経験者には勝てんだろうけど、パワーバランスは運営も考えてるだろうし
▼しかもこのイベントは撃ち合いの強さだけが全てじゃない
「まあ……それは確かにそうだが」
今回のDLQは前にも説明したがEDGE内で
ただ、無論他にもルールは存在し、その中でもキモとなっているのが最初の2日間に関してはレイド行為が禁止だということ。
レイドとはMMO等では複数のパーティで強いボスに挑むことをを指すが、EDGEにおいては敵の基地(建物)を攻撃することを指す。
つまり敵チームが蓄えたリエルを奪えるのは3日目からであり、必然的にそれまでは
ファームはすればする程建物は強化され、武器も沢山揃えることが出来る為、当然ながら激戦となる3日目以降のレイドを優位に戦える。
故に、ファームを笑う者はファームに泣くと言ってもいい程。
▼外交も結構重要になってくるよな
▼2日目が終わった時点での5チームのリエル差、戦力状況、これでどのチームをレイドするか、どのチームと同盟を組むのか決まってくる
▼だからこそ相手チームとどう交渉するのかは見ものなんだよなー
▼しかもそれと関係ない対立でレイドされることもあるから面白い
「ふむ……」
とはいえ、そう聞かされた所で『俺にも活躍出来る場はありそうだ!』となるようなモノでもない為、俺は適当な相槌を打つことしか出来ない。
こう言っちゃなんだが、俺はDM杯によって出来た穴を、お祭りという気軽な形で埋められるかもしれないと思って参加しただけだしな――
正直これで更に売れようとか、MVPを取って永年保証をとまでは考えていなかった為、リスナーに囃し立てられると妙なプレッシャーがかかってくる。
(それにいくらお祭りでも、変に気張ってトロールしようものなら即炎上――)
リスナーの期待に応えるのが配信者の使命ではあるが、やはり身の丈に合わないことはするべきではないと、そう結論づけていると。
▼とはいえ、こういうイベントで一番大事なのは結局面白さだよな
▼
▼ただおじきも言ってたけど、Gissyさんはちょっと真面目過ぎるのが……
▼それな、そろそろGissyは社会人の魂を捨てて社不を全面に押し出していけ
▼しろかふは元AOB勢だし、そこを取っ掛かりにするのもいいかもしれん
「おい、勝手にリスナー同士で俺の行く末を決めようとするな――って、しろかふかさんって元AOB勢なのか」
暴走が留まるところを知らないリスナー達に対し俺は苦言を呈そうとしたのだが、思わずAOBというワードに反応してしまう。
▼そうだよ
▼あんまり知られてないけど、プロになる前の無名時代はAOBやってたで
▼確か上位500位しか貰えない称号も獲得してた筈
▼正直AOBでも全然プロになれたぐらいFPSの才能は凄いよ
「ふうん……まあスタペでプロなんやから当然と言えば当然か」
▼AOB時代の名前は【KFK】だったかな
▼懐かしいなその名前、というかもしかしたらGissyさんも知ってるんじゃ?
▼小さい大会とか参加型にはいたから知ってる人は知ってるよな
「いや俺は…………――ん?」
以前にも言ったと思うが、俺は基本的に水咲と以外は殆どソロでAOBをしていただけなので、プロシーンと極一部の配信者以外は詳しい訳ではない。
故に多分知らないと言おうとしたのだが――
何故か、その名前に聞き覚えがある自分がいることに気づく。
(あれ? 何で俺、その名前を知ってるんだ……?)
もしかして大会で一緒になったとか? ――いやでも俺はAOBをうん千時間としてきたがそういう大会には一切参加しなかったし……。
なら何故KFKという名を――と思った刹那。
俺は記憶の奥底で眠っていた、本来なら思い出すことも無かった記憶が飛び起きてきた感覚を覚える。
そうだ思い出した……KFKは――――
「――……あの、知ってる人がいたら教えて欲しいんだが」
▼ん?
▼しろかふさんのこと?
「ああ……その。もしかして何だが、しろかふかさんが所属してたクラン名って【月白旅団】だったりしないか?」
▼だったりも何も、そのクランのリーダーがしろかふでは?
▼なんだ、やっぱりGissyさんも知ってるじゃん
「いや――知ってたというか、俺……多分そのクランに所属してた」
▼え?
▼は?
▼マ?
◯
「――すまないね、本当は休止期間に入る筈だったのに」
「いやいや、オーナーの命令は絶対みたいなとこがあるんでそりゃもう」
「おいおい人聞きの悪いことを言わないでくれ。私ほど自由にやらせている事務所は他にないと自負しているぐらいだというのに」
「自分でそれを言うことが尚更怖いんだって――まあでも、折角この面子でやらせて貰えるなら休むのはちょっと勿体ないと思ってはいたんでね」
「そう言って貰えると助かるよ――そういえば風の噂で聞いたのだが、Gissy君と面識があるっていうのは本当なのかい?」
「んー……まぁ、あるっちゃありますよ」
「ほう。全く、彼は実に不思議な縁を沢山持って――」
「ですけども」
「?」
「正確に言えば、Gissyは1発ぶん殴らなアカン対象ではありますけどね」
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