#2 EDGE(Parallel)

第40話 DLQの秘密

『うわああああああああああああああああああああああああん!!!!! もういややああああああああああああああああああああ!!!! キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!』


 試合が終わり画面が暗転し、【DEFEAT】の文字が浮かび上がった瞬間、ヒデオンさんが今まで聞いたこともない奇声を上げた。


『もういやや! もういやや! こんなんおかしいって! 何でこんな――――フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


『はーいよしよし、ヒデオンさんチルですよー』

『う、うう……ア、アオちゃん……やっぱ俺ってトロールおじなんかなぁ……』

『まあそういう側面もあるにはありますけど』

『アオぢゃん!?』


 そしてアオちゃんから慰めているのか煽られているのか分からない発言を食らい更にショックを受けるヒデオンさんであったが――まあそれも無理もない話ではある。


(これでもう10連敗か……)


 DM杯が終わって約数週間後。


 俺は有り難いことに大会後も伝説メンバーからちょくちょくとゲームを誘って貰うようになり、主にスタペをしながら配信をする日々を過ごしていた。


 と言っても仕事がある手前毎日配信とは行かず、かといって同接も平均500人ぐらいであることを考えると仕事を辞めるなど到底不可能。


 あれ? 一時は2万人も視聴者がいた筈なのに? と思った人もいるだろうが、残念ながらこれが配信のリアルという奴なのである。


 いくらDM杯という大人気の大会で注目されても、それが終われば多くの視聴者は推しの配信者の下へと帰っていく。


 おまけに個人勢無所属は修羅と呼ばれる程人気になるのは難しい。正直500人でも固定で見る人がいるのは奇跡と言っていいだろう。


 とはいえ、俺はこうして遊べているだけ大いに満足であったのだが――


『ヒデさんもうおじいちゃんやからしょうがないって、トロールというより加齢による必然的劣化みたいな所あるから』


『は? オイオイオイオイオイ、エイム力あらへんのにAKARなんか使っとる人に言われたくないんですけど~?』


『は? ちゃんとスタッツ見てから言って欲しいんですけど~? 寧ろ416AR使っといてそのキル数の方がよっぽどヤバいと思うんですけど~?』


『うわかなんわ、これやからマクロ軽視してミクロでマウント取る人は』

『マクロで頭使い過ぎてるから最近ハゲてきとるんとちゃいます?』

『おい! それはライン越えやろ! 1on1で決着つけたってもええねんぞ!』

『おーこわ。どうせ負けるからってまた大きい声で誤魔化して』


 楽しく遊んでいた筈のスタペはいつの間にか泥沼の10連敗を喫し、ゴールドまで上がっていた俺のランクはシルバーに陥落する寸前に。


 何なら俺以外はダイヤやプラチナに陥落済みという地獄絵図と化していた。


 因みに今ヒデオンさんと喧嘩をしているのは伊地知いじちくるるというVtuberであり、アオちゃんの後輩でもある。


 同じ関西(何なら恐らく地域も一緒)出身ということもあって最初は随分と波長が合っている様子だったが、今ではこの有様。


 まあアオちゃんは苦笑しているし、コメントが荒れている様子がない所を見ると、いつものノリではあるようだが――


『はー……DLQも近いのにこんな状態で臨むなんてホンマ堪忍やわ』

『しかも何でくるると同じチームやっちゃうねんって話やからな』

『それはこっちの台詞やっちゅうねんって話やから』


「あー――そういえばDLQのチーム、もう発表されてましたね」


 DLQとは日本で三大と呼ばれるプロゲーミングチーム【Deep Maverick

、LIBERTA、Team Quest】が共同開催で行うストリーマーイベントのことである。


 年に数回行われるこのイベントはリスナーの間でも一大イベントと認識される程人気のイベントであり、加えて毎回行うゲームも、期間も、ルールも違う為配信者も大いに楽しめる仕様となっている。


 因みに今回行われるのはEDGEエッジというサバイバル系のゲーム。


 正直俺は全く経験のないゲームなので中々不安は大きいのだが――簡単に言うと特定のマップ内で素材を集めてはクラフト生成をし、それによって出来た武器や家(基地)等を使ってプレイヤーやNPCと戦うPvPvEプレイヤー対プレイヤー対環境らしい。


 MOD改造ツールを入れればより自由度も高くなり、それこそメタバース的な遊び方も出来るらしいのだが――今回はそういう訳ではない。


『はー……流石にぎしーさんと同じチームにはなれませんでしたね……』

「まあ俺も知り合いがいた方が安心だけど、決めるのは運営だしな」


 DM杯のように5人1組のチームを5つ作り、4日間かけて【リエル】という金貨を集めたり奪い合ったりし、最終日が終わった時点で最も多くのリエルを持っているチームが優勝というのが今回のルール。


 そしてそのチーム分けはドラフトではなく運営が決めたもの、故に残念ながら俺はDLQに参加している伝説チームとは誰とも一緒になれなかった。


『昨日の友は今日の敵――こういうイベント事に参加すればしょっちゅうある話ではあるけども、慣れてへんと違和感はあるやろなぁ』


『因みにGissyさんは誰と同じチームなん?』

「俺は確か――……VGで言うとまりんさんとか、後はしろかふかさんですね」


『ああ、まりんがおるなら大丈夫よ。あの子はコミュ力高いし、しかもDM杯でやり合った仲なら話はし易いんとちゃう?』


「ははは……まあ、そうだといいんですけど」


 本当は菅沼まりんは伝説メンバーの誰よりも距離が近い人なのだが、そういうことは口が裂けても言えないので俺は笑って誤魔化す。


 というか、変に知ってるからこそ余計に話しにくいんだけどな……。


『まあそういう意味ならかふやんも無問題やで、クソガキみたいな所はあるけども、取っ付き易いええ性格しとるからな』


「そう言って貰えると有り難いですけど――でも流石に緊張はしますね」


【しろかふか】はDMに所属しているストリーマーであり、SpaceではKeyさんに継ぐ登録者数80万人超えの超人気配信者である。


 年齢は確か同じぐらいの筈だが、こんな俺とは違い喋りも達者な上にスタペでは元プロ、国内では優勝も経験している程の実力派。


 そんな人と同じチームになるなんて――DM杯の時もそうだったが、俺は今とんでもない世界にいるのだと改めて実感してしまう。


 まあそれもこれも、つのださんのお陰ではあるのだが――


『まあまあ。DLQはDM杯と違ってガチガチな大会ではありませんので、ぎしーさんも気楽にやればいいとおもいますよ』


『いやどうやろ? 確かにDLQは完全にお祭りではあるけど、MVPを取った時のリターンがデカ過ぎるし、割と皆本気でやると思いますよアオ先輩』


「? ……そんな凄いモノでも貰えるんですか?」


 実はDM杯で優勝した結果、俺は優勝賞金で300万(5等分)と副賞のトロフィー、更にはMVP賞で最新鋭のPCセットという超豪華なものを貰っていた。


 正直こんなに貰っていいのかと少々引いてしまうレベル。だのにそれを超える程のモノがまだあるとは到底思えなかったのだが――


「もしかして、宇宙旅行とか」

『いやいや、そんなもん四六時中引き篭ってる配信者が欲しい訳あらへんやん』

「それはまあ――ですがそうなると配信者が喜ぶものってことに……」


『まあ実際はただの噂なので全く信憑性は無いんですけど……ですがもし本当にそんなことが出来るなら是が非でも欲しいかもしれないですね』


「……?」


 MVPの景品なのに噂というのはこれ如何に、という話ではあったが。


 そんな是が非でもというモノがストリーマーのイベントで貰えるのかと、俺は思わず耳をそば立ててしまっていると。


 若干の含みを持たせた後、ヒデオンさんがこう言うのだった。


『何とな……MVPには【ストリーマー永年保証】が貰えるんや!』


「す、ストリーマー……永年保証……ですって?」


 そ、そんなそんな奇跡みたいなモノが、まさか本当に――?




「……いや何言ってんすか、10連敗で脳溶けてますよヒデオンさん」

『えぇ……めっちゃ言うやん……』

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