同接０人配信者の俺、無自覚に有名Vtuberやトップストリーマーから好かれる

第23話 深夜のダル絡みおじさん

『Gissy君お疲れさん』

　それから。

　反省会と座学を経て、気づけば深夜３時過ぎとなった頃。

　チーム【伝説、お見せします】は明日（というか今日）が本番の為一旦解散となったが、当然俺の２４時間配信はまだ終わっていない。

　残す所あと１０時間、同接もいよいよ３００人を切りかけた所で眠気もピークに達し、正直一番辛い時間帯ではあったのだが。

　ヒデオンさんが来てくれたお陰で、俺は少しだけ目が覚めていた。

「あ、ヒデオンさんお疲れ様です――こんな夜遅くに、しかも寝て起きたら本番なのに付き合って貰って本当に申し訳ないです」

『かまへんかまへん、配信者に昼夜の概念なんてあらへんからな。Gissy君もスタペを上手くなる為だけに２４時間起きとるのは中々辛いやろ』

「お気遣いは感謝しますが……中々そうも言ってられませんし」

『……つうかGissy君硬過ぎるわ、もっと楽にした方がええで』

「え？　あー……ですが、皆さん大先輩ですし」

『まーGissy君は社会人やし、礼儀を重んじてまうのは分からんでもないが――せやけど、ちょっと失礼なぐらいがストリーマーとしては正解な時もあるで』

　確かに言われてみると、人気と呼ばれる配信者の多くは年齢差などまるで意に介さず、同年代の友人のような関係性を築いている。

　軽んじている訳ではないが重んじている訳でもない――まあだからと言って急に出来るモノもないのだが……と思っていると。

　唐突にヘッドホンから『プシュッ』と音が聞こえてきた。

「ヒデオンさん？」

『根を詰め過ぎてもええことはあらへん、少し休憩しようや』

「え、いや、そういう訳には……」

『ちょっとぐらいサボってもバチは当たらへんて。ここはおじさんの顔を立てるつもりで晩酌に付き合ってえな』

　そう言われチラリとコメントを確認すると▼いいじゃん▼おじきなら誰も逆らわんからセーフ、とあり俺は思わず喉を鳴らす。

（刄田いつきは丁度仮眠しているし今は見てない……）

　何より大御所のお達しだ、断るのは失礼まである。

「……分かりました、ちょっと待って下さい」

　故に俺はそう言って即座に自室を飛び出すと、ノンアルビールとアテのジャーキーを取って戻ってくる。

　そしてプシュりとプルタブを引き上げると、缶を掲げてこう言うのだった。

「えー……KP（乾杯）！」

『KP～』

　女子禁制の、深夜のおじさん会の始まりである。

　早速俺は缶に口を付けると、一気に半分まで胃の中へ流し込んだ。

「ふー……あー、この時間にこれは中々禁忌ですね」

『せやろ、実はこうやって毎週末深夜にリスナーと一杯やってんねん』

「ほう？　オンライン飲み会みたいな感じですか」

『そや。やっぱリスナーも人間、実生活では大変なことも多いやろ？　そういう愚痴を酒と共に吐き出そうって会やな』

　いうて何か解決する訳でもやないんやけど、それで週明けから頑張れるならええやんって話やな、とヒデオンさんは言う。

「凄く良い交流だと思います」

『おうもっと言うてくれ、ポジティブキャンペーンは大歓迎やで』

　ヒデオンさんはそう言って満足そうに煙草をふかす音を立てる。

　言われてみるとここ最近あまりに色々なことがあり過ぎて、まともに休んだ瞬間がなかったように思える。

　と言ってもこれはヒデオンさんがお酒を飲みたいだけの口実だと思うが……それでも会社の飲み会では決して無い雰囲気が、少し疲労を和らげていた。

『因みに３日間スクリムやっての感想はどんなもんや？』

「そうですね……最初はあまりに何も出来なくて、正直焦りしかなかったかと」

『そらそうや。別にGissy君に限らず、５番手で出る子らはスタペのスの字も知らんかった事実に皆パニクるもんやで』

「自分は低ランク帯だから、ちょっと撃ち合いが強いだけで勝ってるだけと戒めてはいたんですが……そんな次元の話ではなかったですね」

『しゃあないよ。ハイレート帯は如何に相手を不利な撃ち合いに追い込むか、その為の知識を持ってて当たり前やからな』

「モク、フラッシュ、サーチ、スタン……皆スキルを使うタイミングが上手いし、あとIGLが出来る人は本当に凄いです。盤面がちゃんと見えていてリスク管理も徹底して――ホントに同じゲームをやってるのかと思いました」

『まあいっちゃんのIGLは大分抜けとるけどな――せやけどGissy君も大分余裕が出てきたんとちゃうんか？　俺の目から見ても普通に戦えとるし』

「皆の手厚いサポートのお陰でしかないかと。本当にありがとうございます」

　俺はそう言うと、見えるでもないのにモニターに頭を下げた。

『……頑張ったのはGissy君や、それ以上も以下もあらへん。寧ろその姿勢を見せてくれたことに、俺も感謝したいぐらいやで』

「いえそんな――それに、まだ皆さんの実力には遠く及んでないので」

『アホか、この短期間で俺らぐらい強うなったら５番手どころか１番手、無双で優勝して大会が冷えてまうわ』

「それでも無双出来るぐらい強くなりたいんですけどね……残り１０時間では流石に現実味がないのは分かってますが――」

　そこまで言った所で、急速な眠気が俺を襲う。

　どうやらノンアルだというのに脳みそが変な勘違いを起こしたらしい。

　これは一旦シャワーを浴びた方がいいか……？　と思うも、重い身体がそれを許さずついボーッと飲んでしまっていると。

　唐突にヒデオンさんがとんでもないことを言い出すのだった。

『ところでGissy君はチーム内で誰がタイプなん？』

「ブッ！　ぐ……！　ごっ、ゴホッゴホッ！」

『なんや！？　どないしたんや！？　まさか俺がタイプやったんか！？』

「な、な訳ないでしょ……驚いて気管にビールが……」

『ええ？　別にビックリするようなことあらへんやろ。Gissy君もしかしてムッツリか？　あ、シスコンかスマンスマン』

「何で急にボコボコにされてるの俺」

　容赦の欠片もない攻撃に俺は若干唖然としてしまうが、これは恐らくアルコールによるダル絡み以外の何者でもないだろう。

（しかも、チーム内という言い方が中々にタチが悪い）

　無論これだけ親切にして貰ったのだから人として全員好きだが、如何せんまだ半月も絡みがないのだ、その段階にいる筈がない。

　というか、その段階にいたとしても安易に言える訳ねえだろ……。

『まあVtuberは皆かわええから迷うのは分かるけどなぁ～。見た目もさることながら声が堪らんのよ。やのに才能にも溢れとるとか脅威でしかないで』

「まー……そこに関しては完全に同意ですね」

　DM杯を機に俺もそれなりにVtuberを知るようになったが、最早チーターと言っても過言ではない程に才能を持ち合わせた子しかいない。

　そりゃ人気になって当然だわと、何回思ったことか。

『因みに俺は昔からアオちゃんが好きでな……実は１年ぐらい前に告白したんやけど……見事に振られてもうて……』

「ヒデオンさん妻帯者でしょ、何いってんですか」

　しかもそれは公式番組で企画の一環でやったものである。

　ネタとはいえ、いい年したおじさんが振られて駄々を捏ねる姿が滑稽と切り抜かれていたのを、偶々ヒデオンさんについて調べた時に見たので覚えていた。

『でも俺はアオちゃんが好きや言うたで！　さあ次はGissy君の番や！』

「は？　いや、それは卑怯でしょ……」

『卑怯もクソもあらへんがな。まさかGissy君、俺にここまで言わせておいて自分は言わないなんてセコい真似はせえへんよなぁ～？』

「ぐぐぐ……」

　く、くそ……まさかお酒が入るとこんな面倒臭いになるおじさんになるとは……――いや、というか別に言わせてはねえし。

（だがこのままでは…………！？）

▼Aochan: ٩(ˊᗜˋ*)و

▼K_Uta3: ଘ(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

　しかしそんな状況から逃さんとばかりに、いつの間にか俺の配信にはアオちゃんとウタくんがいるという地獄が起こっている事実に気づく。

　おまけに自分のデフォルメキャラがサイリウムを振り回すスタンプを連打し、完全に煽ってきているという始末……。

▼！？

▼アオちゃんとウタくんも見てます

▼盛り上がって参りましたｗｗｗｗ

　そしてそれに呼応した視聴者までスタンプを連打し始めたことで完全に悪ノリムードとなってしまい、気づけば俺は完全に退路を断たれてしまっていた。

（弱った……こうなると【皆好きなんで】で躱すのは大分寒いぞ……）

　だからといって俺にはヒデオンさんみたくネタでかます技量はないし――

　なればただ困っているだけの姿を見せ続け、笑い者にされるべきかとも思ったが、それはそれで変な気の遣い方をされてしまう可能性が……。

（こうなったらもう、明後日の方向に振り切るしか……！）

　故に俺は腹を決めると、残ったノンアルビールをぐいっと飲み干し、破れかぶれにこう言ったのだった。

「えー……その、やっぱり俺にはmisaku（妹）がいるので、ええ」

　秘技、キモキモお兄ちゃん炸裂である。

　嗚呼、許せ妹よ……俺は金輪際ガチ目のシスコン兄貴として激痛のデジタルタトゥーを背負うことになってしまった……。

　まあシスコン気味なのは事実なんですけども。

　とはいえ流石のコレには皆ドン引きし、この悪ノリも止まってくれるだろうと、俺はチラリとコメント欄に視線を送ったのだが。

▼妹……成程、そういうのもあるのか

▼いつからmisakuはお前のものだと錯覚していた？

▼misaku愛してるって言え

▼Aochan:じゃあぼくも妹になります……か

▼K_Uta3:リスナーさん養子縁組のなり方教えて？

「なんでやねん」

　何故か余計に面倒臭いしキモいことになっていた。

「いやあの……そういう話ではなく――というかヒデオンさん何で黙ってんすか！　振ったならせめて突っ込みぐらいはして――」

『ぐー……』

▼おじきは爆飲み気絶部に入部しました

「ふざけるなよあのおっさん」

　まあつまるところ、お酒と深夜の相性は誠に悪いという話であり。

　結局ヒデオンさんが目覚めるまでの数十分間、無事俺はリスナーとチームメンバーのおもちゃとして遊ばれ続けたのだった。