同接０人配信者の俺、無自覚に有名Vtuberやトップストリーマーから好かれる

第22話 奇跡への軌跡

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！！！！」

▼おいおいおい

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ！！！！！！！」

▼怪鳥いない？

▼壊れちゃった……

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……！」

▼本番前に死ぬどこれ

▼でも死ぬほどエイム綺麗なの草

▼追い込まれると覚醒する男だったか

▼けど何でそこまで必死？　別に損なくね？

　どうやら、俺の視聴者にはウタくんガチ勢はいないらしい。

　確かにそれなら【この賭け何の損もないし、寧ろ負けた方が最高までしかなくね？】と思われても無理はないだろう。

　だが日の浅い間柄において、距離感は意外と大事なのだ。

【この人親しみやすいし、楽しいな～】などと思い調子に乗ると、キレるのは当人ではなく周囲（ファン）なのである。

　特に無名が調子に乗るのは超ハイリスク、無名だからこそ頑張らねばというのは分かるが、相当な話術が無ければ謙虚が一番とさえ言える。

　それに何より俺も燃えやすいといえ鎮火傾向にある状況――だのにこんなことでまたチームに迷惑を掛けたら目も当てられない。

　故に俺は自分でもよく分からないまま、奇声を発しながらデスマを回すのだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

　そしてスクリム開始まで残り５分となった所で。

　俺はようやく感度を変えてから初めて１位を取っていた。

「あ、危ねえ……」

『ホントに１位取っちゃったよ……正直大分厳しいと思ってたけど、短時間でここまで慣れるなんて相当なもんじゃない？』

「いや……まあ……そら気合ですわな……」

『何なら最後の方は僕も撃ち負けてたし、素直にこれは――でもさー』

　と、若干意識が朦朧とする俺に対し、急にウタくんは不満げな声を上げる。

『まさか奇声を上げるほどデートしたくなかったなんてねぇ……』

「えっ！？　い、いや……別にそういう訳では――」

　万が一にも炎上をしたくないからとは言えず、俺は歯切れの悪い返事をしてしまうが、ウタくんは尚も追撃をかけてくる。

『まあ別に友達でもいいけど……、折角もっとGissyさんと距離が近づくと思ったのに、何かちょっとショックだなぁ……』

「その……まずはお友達からというか――あ、いや別に悪い意味ではなく……あれ？　いや深い意味ではなくてね？」

　疲労と焦りからか、殆ど自分でも何を言っているのか分からなくなってくる。

　だ、だが俺ともっと仲良くなりたいだと……？　いや馬鹿が落ち着け、ウタくんはからかっているだけだ、他意などある訳が――

Itsuki_hata〚Gissyさんそろそろスクリムの時間です、集合して下さい〛

「え？」

　すると。

　あたふたと混乱を極める俺に対し、まるで助け舟だと言わんばかりに刄田いつきから個人チャットが入る。

『あ』

　しかもどうやらウタくんにも同様の内容を送ったらしく、ウタくんは小さく声を上げると気まずそうにこう言うのだった。

『ま、まー何にせよ１位は達成したんだし、約束通りTalkingのIDは後で送っとくから、じゃあこれで一旦おしまい』

　そう言うや否やウタくんのアバターはドロンと消えてしまうと、そのままチームチャットへと移動する。

▼ウタくん♡

▼ウタくんかわよ

▼何かGissyさんくっそ気に入られてない？

▼ウタくんイタズラ好きだし、深い意味はないんじゃね？

（まあまあまあ……これなら流石にワース（大丈夫）か）

　にしても、まさかウタくんにここまで弄ばれようとは……。

　お陰で嫌な汗がべっとり服に張り付いてしまっていた。

　とはいえ、プラスに捉えればチームとして良い交流が出来たのは間違いないが――と思っていると、また刄田いつきから個別チャットが入る。

「あ、悪い、今すぐ――」

Itsuki_hata〚Gissyさんってそういうのに弱いんですね〛

「……は？」

　いや、確かに大分みっともない姿は晒していたが……何か文章から妙な圧を感じるのは気のせいか……？

　別に弱みを晒したつもりはないというのに、俺の中で妙な焦燥感を掻き立てる。

　いかん。このままではトロールした暁に今度はチームから悪戯をされるかもしれん――そう思った俺はまた頬を強めにしばくと３本目のエナドリに手をかけた。

　　　　　　　◯

「右倒した！　――悪い！　張り付きがいる！」

『それ倒しました！　一旦ボムの解除音ならします！』

『アオ先輩、ハーフまで解除したら一回止めて』

「いや――多分その前にフラッシュ入る」

『え？』

『っ！　――――よぉし！　逆転です！』

『ナイスフラッシュ回避！』

『アオちゃんナイスや！』

■６試合目（VSチームF）

　１３－１５、１５－８、２０－２２

『ごめん！　噴水裏ツー！　アイリス１１０削ってる！』

『ヒデオンさんこれαに回りましょう』

『オーケイボム設置完了や、後は遅延――！　スマン！　洞窟２人や！』

「大丈夫ですアイリスを――あ、２枚抜きでした」

『ナイスです！　ぎしーさん上手すぎ！』

『思った以上に寄りが……いやマジでナイスカバーや、助かったで』

■最終試合（VSチームH）

　１５－７、１０－１５、１２－１５

　スクリム最終日。

　まるで俺達のチームはついに覚醒したかのような、そんな死闘に死闘を重ねる闘いを繰り広げていたが――結果から言えば全敗である。

　要するに０勝７敗。清々しいまでの負けっぷり。

　本来なら空気も最高潮に重く、互いが互いを慰め合うか、若干の衝突が生まれてもおかしくなかったのだが――

　俺達は誰一人として、肩を落としていなかった。

『負けはしたが、悪い要素は殆どないとおもとる』

『ですね。索敵の甘さ等は若干ありましたが、各々がすべきことを理解してる上でマクロも良くなってたので、後は勝利だけです』

『皆報告を怠らんからいっちゃんも落ち着いて盤面を見れとったしな――何よりワンピック、少人数戦も拾えるようになってきとるのはデカい、その点に関しては特にGissy君の撃ち合いが光っとったと思うで』

「皆のお陰です。正直自分も今日は手応えがありました」

　実際、俺は今日のスクリムが一番落ち着いてプレイ出来た自覚があった。

　それまでは思うように撃ち合えないことが焦りに繋がり、果ては壊れたラジコンと化してミスを重ねるばかり。

　だが刄田いつきによって環境を整えられ、それに合わせる為の練習メニューをこなしてから挑むと、そこには安易に撃ち負けない自分がいたのである。

　その瞬間ぱっと視界が晴れ、チームの声が聞こえるようになった。

　するとマクロの理解が深まり、上手く自己判断も出来るようになっていく――

　それは、自分のスタッツにもはっきりと現れていた程。

（全ては刄田いつきが想定していた通りになっている）

　だからこそ俺も、後は勝つだけだと思っていた。

『いや～スクリム前にしたエイム練習がそのまま出てたと思うね。ということは僕がGissyさんを育てたお陰かもしれないな～』

『は？　いやちょっと待――』

『いーえ！　ぎしーさんはぼくが育てました！』

『え～？　ほなら俺もGissy君を育てました！！』

『いーや！　ヒデオンさんは何もしないでヤニ吸ってただけです！』

『ええ……？　アオちゃんそんな殺生な……』

「いやあの……それ恥ずいんで止めて貰えないですかね……」

　というか俺が配信で言った【Gissyは俺が育てた】発言擦られ過ぎだろ。

　まあそんな冗談を言えるようになったのは、良い傾向に違いはないが。

　そう思うと、急に力が抜けそうになるが――それを引き締めさせるかのように今度は３連の台パン音が聞こえてくる。

　どうやらその音を立てたのは刄田いつきだった。

『と、兎に角！　着実に良くなってはいますが、まだ確率が少し上がっただけです。優勝を目指すのであればあまりふざけず反省会を――』

『まあ、それはその通りやねんけど、先にチーム名を決めへんか？』

『え？　あ、そ、そういえば……まだ決めてなかったですか』

『ホンマはスクリムまでに提出せなアカンかってんけど、Gissy君らも練習しとったし、大分無理いうて伸ばして貰っとてな』

『それは良くないですね……んーでも何にしますか』

『僕は全敗からの逆転みたいな名前がアリだと思うけどね』

『下剋上、とかですか？』

『勝ちたいんや！　でもええな』

「いや、ヒデオンさん、それは――」

『ほなVやねんか』

「アレがあるのに言わないのは反転アンチでは……」

　まあヒデオンさんのおふざけは置いといて、現実的に考えればアオちゃんの下剋上が一番いい気もするが、ちょっと安直なようにも思える。

　だからと言って代案がある訳でもないのだが――

『快進撃……ジャイアントキリング……成り上がり』

「躍進、奇跡、伝説……うーん、難しいな……」

『……あ、そうだ、【伝説、お見せします】はどう？』

『えっ？　いや……ウタくん、それ本気言ってます……？』

『痛いのは承知の上で言ってるよそりゃ。でもそれぐらいの方がより優勝への覚悟が出ていいと思うんだけど』

「確かに、優勝出来なかったら確実に笑い者なチーム名ではある」

『おもろいやんか、俺はウタくんに１票やな』

『ぼくもいいと思います、ここまでやったら優勝しかないですし』

『……まあ、開き直ってる方が逆に良い……か。分かりました、ではあたし達のチーム名は【伝説、お見せします】しましょう』

　そんな訳で。

　事情を知らないリスナーから見れば、あまりにも負け過ぎておかしくなったとしか思えないチーム名に俺達はなったのだが。

『送っといたで、これでもう後には引けへんな』

『あ～……自分言っといてなんだけど、ちょっと怖くなってきたかも』

『大丈夫です！　死ぬ時は皆一緒でもありますから！』

『まあ実際勝てばいいんですよ、勝てば――』

　この名前にしたことが大躍進の布石となることを、まだ俺達は気づいていない。