第7話 閑話的な私情
『あれ、今日は1人ですか?』
その日は祝日だったが、水咲は友人と勉強会で不在だった。
故に俺は昼過ぎから配信を付けずソロでスタペのランクを回していると、刄田いつきからパーティの誘いがありVCを繋ぐ。
「そりゃ、いつも一緒にいる訳じゃないからな」
『まあそうだけど――妹さんはどちらに?』
「勉強会に行ってる。ああ見えてmisakuは受験生でな」
『そういえば学生と言ってましたね、高校生?』
「そう。優秀だから別に遊んでても合格出来るとは思うが」
『ふうん……受験か、懐かしいな』
……うっかり設定を忘れている辺りVtuberあるあるなんだろうなと思ったが、突っ込むのも野暮なので聞かなかったフリをする。
『ふあぁ……ねむ』
「なんだ、昼寝でもしてたのか」
『いや……今起きた』
「今って――もう14時過ぎだぞ」
『うーん……ちょっと前は12時ぐらいには起きてたんですけど、最近座学で大会の動画とか見るようになったので、それで』
それでも12時は大分不健康極まりないんだが。
しかしよくよく考えると、徹夜でスタペをしていた時も俺達は眠くて仕方なかったのに刄田いつきは終始元気だった。
神保も配信者の生活リズムは終わっているとか言ってた気がするし、昼夜逆転はデフォかもしれないが――
「身体を壊したら元も子もないないし、もう少し早く寝たらどうだ」
『……うわ、母親面したリスナーみたいな事言わないで下さいよ』
「あまりにも辛辣過ぎるだろ」
別に若いから大丈夫だろうけど……効くなぁそれ。
『もしかして妹さんにもそういうこと言ってないですよね』
「言ってねえわ。妹は真面目だからな、基本夜更かしなどせん」
『まぁ確かに、しっかりしていそうではありますけど』
「同じ兄妹とは思えないぐらい自慢の妹だよ」
『でも毎回思いますけどホント仲良いですよね。いくら年が離れてても、ここまで尊重し合って、一緒にゲームなんてしないですよ』
「そうか? まあ他の兄妹事情を知らんから何とも言えんが」
『というか、仲良くても【お兄様】とは言わないし』
「…………ぐうの音も出ん」
いずれ突っ込まれるというか、寧ろ遅いぐらいではないかと言いたくなる指摘に俺は観念した声を上げる。
実際お兄様とか、何処の中世の貴族だって話だわな。
『それともアレですか、Gissyさんが言わせてるんですか』
「だとしたら妹と配信までやってる俺はキモいじゃ済まんやろ」
若干引き気味な声でそう言う刄田いつきに俺は即座に否定を入れる。
だが、そんな疑いを掛けられても無理はない。
ただな……水咲がいない所で話すのは如何なものか……。
「…………」
『……えーと、言いたくないなら話を変えますけど』
「いや……まぁ、変な誤解されても困るから簡潔に言うが、妹は元引きこもりでな。その時よく俺が一緒遊んで――それキッカケで慕われてる」
『へえ、そうだったんですか』
「なんか普通の反応だな」
『まあVtuberになる前でしたら多少驚いたかもしれませんが、配信者でそういう境遇の子って割といるんで』
「? そうなのか」
『引きこもってずっとゲームしてたとか、ちょっと辛い過去がーとか、割りと配信内で話してる人もいますよ』
「へえ意外だな、皆あんな喋りが達者なのに」
『勿論努力もあります。が、意外とそういう子程才能があるものなんですよ』
「特化型……言わば配信者になる為に生まれてきたようなものか」
『そうですね。――それに比べてあたしはかなり普通の人生だったんで【こいつには敵わない】って子が多過ぎて困ります』
「だが――――いや、何でもない」
お前だって十分人気者じゃないかと言いそうになったが、それは刄田いつきの傷に触れると思い口を噤む。
しかし流石に悟られたか、刄田いつきはクスリと笑うとこう言うのだった。
『別に大丈夫ですよ。本当の意味で人気じゃないのは事実なんで』
「いや、それは違う。いつきさんはちゃんと評価されてるよ」
『いや? 不人気とまでは言わないけど、流石に登録者に見合った実力は――』
「確かに伸びたキッカケは参加型エンペラー配信かもしれない。だが俺はその企画が無くても今の登録者数になっていたと確信してる」
『……何を根拠に』
「刄田いつきの良さはスタペの上手さより人に寄り添える所だからだ」
『? 人に……?』
「実は切り抜きや動画を数本見させて貰ったんだが――解説動画が初心者でも分かるというか、他の配信者より圧倒的に丁寧だった」
『はぁ、それは……どうも』
「正直スタペは爆破ゲー経験が無い人には結構難しいゲームだと俺は思ってる。やるべきことが多過ぎて何から手を付けたらいいか分からないし――しかし解説動画は本当の意味で手取り足取り教えてくれるものは意外とない』
『…………』
「だが、いつきさんは【猿でも分かるスタペ講座】を超基本的な所から、順序立てて作っていた。つまりそれは主観でなく初心者の立場になって真剣に物事を考えられている何よりの証拠、実際コメント欄にも感謝の言葉が沢山あったしな」
『! ――』
「それに、いつきさんはファンや配信者との接し方にも根の優しさが垣間見えることも多い。こういうのはやろうと思っても中々出来る立ち回りじゃない」
やはり配信者も人間である以上、悪気はないとはいえゲームやリスナーに対しつい苛立ちが言葉や態度に出てしまうことがある。
無論それが良い結果に繋がることも多い――だが当然悪いこともあり、生配信する者としては中々辛い事情だと思うのだが――
俺が見た限りでは、彼女にはそれが一切無かった。
「だから少なくとも俺はそれがいつきさんの才能であり、人気の秘訣だと思う。まあだから――上辺だけ見て叩く連中のことまで考えてあげる必要はないと思うぞ」
本当に自分を想ってくれる人だけ見ればいいんだ、と俺は最後に付け加えた。
『…………なるほど、素敵なお兄様だ』
「うん?」
『いえ何も、有り難いお言葉感謝します』
「まあ率直な感想を言っただけなんだが」
『――ところで急に話を変えますが、Gissyさんって昔からFPSをやってました?』
「へ? いや……あるとしてもコンシューマーで触ったぐらいじゃないか、本格的に始めたのはAOBからだと思うが」
『……ではあたしと似たような感じですね』
「当時は無茶苦茶バトロワ系が流行ったし、AOBからって人は多いよな」
『ですね、因みにその頃からユーザー名はGissyで?』
「多分そうだったと思うが……今確認しようか?」
『あ、いえ、そこまでして貰わなくていいんですけど――』
「いや、何か久しぶりに自分のアカウントが見たくなったから見るよ。何だかんだ3000時間以上はプレイしたからなぁ」
『…………』
と言いながら俺は一旦スタペを落とすと、少々長いアップデートの末AOBを起動し名前を確認する。
「えーと――名前は一緒だな。つうかこのスキン懐かし過ぎだろ」
『
「そりゃなぁ、シーズン9で初めて最高ランクに行った時に貰えた報酬スキンなんだが、嬉しくて最後まで使ってたんだよな」
『ふうん……』
「4月……丁度働きだして、妹も高校に行き始めた頃に辞めてるな――――そうだ、折角なら今日は久しぶりにAOBでもやらないか?」
『いや、だからこそ今日はスタペをしましょう』
「は? あ、はい……」
丁度AOBの話になったし、懐かしさも爆発した俺はウキウキ気味にそう提案したのだったが、まさかの即刻で振られちょっと寂しくなる。
まあ別にスタペも楽しいからいいんだが……もしかして今時の子にはそういうノリはないんだろうか……。
『何してんですか、早くゴールドに上がる為に練習しますよ』
「お、おう……」
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