第31話 背水の――
第5回DM杯、Day2。
俺達【伝説、お見せします】は時間いっぱいまで刄田いつきから初日のフィードバックとそれに伴った座学を受けると、遅延を付けて配信を開始する。
そして暫くして公式配信も始まるとまずは初日と同じOPが流れ、実況と解説による大会のルール説明と出場者、初日の結果が再度発表されると、いよいよ上位4チームと下位4チームに別れたトーナメントがスタート。
相手は予選3位のチームBこと【チルピック】。
スクリムと予選を通してフィジカルが強い印象の相手であり、実際彼らにはピストルラウンドを殆ど取れず、大分苦戦を強いられていた。
ただチーム事情的に相当イケイケドンドンな方針なのか、スキルを入れるタイミングの悪さや、撃ち合うポジションも悪かったり、それこそ詰め過ぎもしまったりと個々人のミスが目立つチームでもある。
それでもコーチの頑張りはマクロ面から垣間見えたが――3日間のスクリムで変えられなかった部分を1日で直すのは中々難しい。
故に、俺達はそこをしっかりと咎めることでラウンドを積み重ねていく。
とはいえエイム力で捻じ伏せられるのはやはり苦しいものがあったが――
『――っ! スマン! 中央階段に
『やったやった! いつきさん脇道にスモーク入れて!』
『はい! このままウルトを使って一気にα挟みします!』
『うわうっま……――! アオちゃんナイスカバー!』
『うっ! ごめんなさい! 洞窟ツー――いや全員います全員!』
「アネモネ! ペチュニア落とした! っ! 洞窟下80カット!」
『――――……ヨシッ!』
「いつきさんナイス!」
『やりました! これで決勝進出ですね!』
『せやな、やけどやっぱ【チルピック】のフィジカルは半端ないわ……』
『はい……結局最後はエイムって所をまざまざと見せつけられました』
結果的にやりたいことをしっかりと出来た俺達は無事15-9で勝利を収める。
つまり、残すところは決勝戦のみ。
『さて――いよいよ最後やな』
『3位決定戦が終わったらですね。流石にぼくも緊張してきました……』
『相手は当然【無敵ゲーミング】――うわ、予選4位の【美女とおっさんズ】相手に15-2はちょっと仕上がり過ぎなんだけど』
「……やはり菅沼まりんは今日もノってるか」
仮にも4位で通過している相手を完膚なきまでに叩きのめすとは――やはり彼女の闘志は一層燃え上がっていると見ていいらしい。
『あの子の
『ただWinは結構リスクが高いですから。無論まりんのSRは1人でエリアに圧を掛けれるレベルなので、脅威ではあるんですけど』
『予選でもまりんちゃんが気合のワンピックを取ってくるから、途中5ラウンドぐらい連取されちゃったしね……』
かくいうヒデオンさんもDOD時代にSR使いとして活躍したことで、【門真の死霊】という何とも言えない異名を持っている程。
事実ヒデオンさんのAWで救われたラウンドは多い。その彼が認めるということは菅沼まりんはSR使いとして本物ということ――
『しかも、その勢いを与えているのがまたKeyさんですから……』
『あいつのことやから、ここまで見越して最初から目ぇ付けてたやろな』
『何にしても、簡単に菅沼まりんに落とされないようにしないとね』
『ええ。その為にもピークは丁寧に、特にまりんがAWを持ち出しそうな時は
ジャンプピークとはSRを使う相手に特に有効となる技の一つ。
相手から見ると瞬間的にしか身体が出ない為弾が当てづらく、尚且つこちらは相手の位置を視認出来るのが大きなメリット。
「だが、それでも菅沼まりんは落としてきそうだが」
『はい。なので状況に応じて
『ただまりんちゃんを警戒し過ぎると、ぼく達がやるみたいに裏取りも――』
そう。
俺が抑えられればヒデオンさんやウタくんが動くように、当然菅沼まりんが抑えられれば向こうも同様のことをしてくる。
Keyさんの判断力は刄田いつき以上に高いのだ。事実俺達は一度も勝利していないだから、これだけやれば勝てるという作戦などある筈がない。
『そこに関しては――正直マクロ以上にミクロが重要になります。だからここはヒデオンさんの腕に賭けてもいいですか?』
『ん? 俺か?』
『はい。勿論全員が役割を全うしないといけないですが、Keyさんは傾向的にまりんの負担を減らす為に特に中央をコントロールしようとします。つまり裏取りを含め、何をするにしてもまりんを軸に作戦を立てているんです』
『ふむ、俺らもGissy君を上手く使ってはおるが――確かにまりんさんのスタッツを考えたら俺ら以上に軸にしとる気はするな』
『当然まりんを抑えることは必須――ですがやはり縁の下にいるのはKeyさんなので、中央をケアする為の最前線を担って頂きたいかと』
『成程――……ほなら今のうちにエイムを温めとかんとな』
それは言うなれば、ファン大歓喜の元FAMAST同士の対決。
無論スクリムや予選でも幾度となく行われてきた事だが――決勝という、絶対に負けられない場となるとぐっと空気が引き締まった気がした。
『すいません、IGLがこんな無茶を言ってしまって』
『かまへんかまへん――リーダーが言うんやったら俺は従うだけやから、な』
「…………?」
だが。
これまでどんな状況でも明るく盛り上げていたヒデオンさんのトーンが、一瞬低くなったような感覚を俺は持つ。
(まあ、対Keyさんには負け越しているから当然ではあるが……にしても)
しかし刄田いつきはその違和感に気づいていないのか、ヒデオンさんに『どうかよろしくお願いします』と返すと、そのままこう続けるのだった。
『では皆さん、必ず笑顔で大会を終えましょう!』
◯
第5回DM杯、決勝戦。
決勝は準決勝のようなアドバンテージはなく純粋なBO3で、兎にも角にも先に2勝した方が優勝となる。
因みに他の試合は既に終了し、残すは【伝説、お見せします】と【無敵ゲーミング】のみ。となれば必然的に視聴者は集中する。
公式配信も同接が20万人に到達しようとしており、何なら俺の配信に至っては8000人という、炎上した時以上の視聴者が詰め掛ける異常事態に。
『絶対に優勝します! もうそれしかないです』
『スクリム含めた全勝優勝は史上初らしいので、達成したいですね』
そして両リーダーが挨拶を済ませると、ついに決勝戦が幕を開けた。
「屋上1人! ――ごめん!
『えっ? そんな、まさかこの決勝でWinを……?』
『おいおい、なんちゅう強心臓なんや菅沼まりんは……』
『うわっ! ジャンプピークにヘッショしてくるなんて……』
『何とかボム設置だけでも持っていきたいですが――』
『――――くっ、ナイストライです……』
俺達は序盤から積極的な攻めを見せピストルラウンドを先取するが、それに対し【無敵ゲーミング】は
本来なら
(まさか本当にWinを使ってくるとは――)
スタペにおいて
ただWinは確実にヘッドショットが出来ないと人数不利を招くリスクがある為、カジュアル大会では早々出てこないのだが――
菅沼まりんはそんなプレッシャーなど無いと言わんばかりのフィジカルを見せつけ、気づけば資金的にも不利となり戦況が逆転する。
『ぐ……! スマン……多分中央1のα2や』
『これ、裏から回って来てる可能性が高いので注意して下さい』
『Gissyさん、一緒にピークするよ、せーの――』
「――! オッケーです、裏の
『Gissyさんナイス! ――っ! ごめん! 洞窟に
『大丈夫ですやりました! あと1人は分からないです!』
『アオ先輩! こっちは3人なので先に設置に入っていいです!』
『――……いや、これは相手
『はい……取り敢えず1本は取れましたね。でも――』
だが俺達も連取されてなるものかと、得意の連携面やセットアップでラウンドを取りに行くが、それでも中々流れを引き寄せることが出来ない。
一方的とまでは言わないが、予選の首位決定戦並のデッドヒートともならない、そんな状況がじわりじわりとラウンド差を広げていく。
その結果。
『うわ、これギリギリか……!』
『Gissy君解除フェイクや!
『いや、ハーフまではやりましょう! 間に合いません!』
「分かった――……いや、やっぱりピークして来ない……クソッ! 時間が!」
『~~~~~~~~~~~っ!! GGです……』
迎えたマッチポイントで、俺は菅沼まりんとの1on1を上手く躱され敗北。
第1戦は9-15で【無敵ゲーミング】の勝利となってしまった。
これでもう――俺達は2連勝する以外に優勝の道はない。
『……まりんの
「Winのせいでエコラウンドがエコになってないのは相当キツい……」
『隠し持ってたというか、プロシーンだとメタになってる武器構成を出すなんて』
『この1試合目のために裏で練習してたんでしょうか……』
『――……』
だが今度こそは負けないと意気込んでいただけに、想定の斜め上をいかれた敗戦に完全に意気消沈する俺達。
とはいえ、当然まだ終わった訳ではないのだ。
いくら菅沼まりんにフィジカルで圧倒されようと、俺達がやってきたことが全く通用していない訳ではない。
再び気を引き締め、しっかりと声を出していければ、必ず勝機はある。
あるのだが。
(……明らかにヒデオンさんが中央で勝てていない)
俺はストライカーというロール上αやβのエリアに向かう際、刄田いつきかヒデオンさんと行動を共にすることが多いのだが、この決勝戦においてはヒデオンさんが撃ち負ける回数が圧倒的に増えていた。
無論俺やウタくんがカバーに入るのだが、防御側になると1キル1デスのトレードはマイナスな上、一旦中央から引く場面も出てしまう。
何より二人共落とされた時にはほぼ負け確。
となれば必然的に中央はケアし辛くなり、Keyさん達の動きを抑えきることも出来ず、結果射線も増え苦しい戦いを自ら作り出す展開に。
ただ――ヒデオンさんここまで負けているのは初めてのことだった。
(恐らく決勝という絶対に負けられない状況が、プレッシャーとなってヒデオンさんの精度を下げているのかもしれない……)
かつてDODで国内最多優勝をしている彼がプレッシャー? と思うかもしれないが、昔がそうなら今も、とは決して限らないのだ。
現役のプロですらそういった調子の狂い方はいくらでもある。ましてや相手が常勝にして戦友のKeyさんとなれば比較すらしているかもしれない。
やはり――試合前のヒデオンさんの異変は見間違いではなかったのか。
(だが、問題はそれを誰も上手く言えないということ)
いくらフランクで親しみやすいヒデオンさんでも、ストリーマーを代表する大御所であることに変わりはない。
ミスの指摘なら出来るが、不調に対し励ますというのは相当難しいものがある。
そういう意味では、もっと近しい世代の人がいれば良かったが――
『――では、是が非でも1勝をもぎ取りに行きましょう。あたし達なら出来ます』
故に、刄田いつきもその点に関しては言及出来ないまま終わってしまい、全く雰囲気を変えられないまま第2戦へ。
『くっ……クソぉ……』
『…………ホンマにすまん』
『ナイストライナイストライ、切り替えて行きましょう』
しかし当然Keyさんによる徹底した中央コントロールは続き、それによって菅沼まりんの勢いは一層増し、ふとスコアを見れば0-6に。
あれだけ出ていた声もどんどん小さくなってしまい、流石にこれはまずいと思った刄田いつきは堪らずタイムアウトを取った。
『いや……一回落ち着きましょう。大丈夫です、あたし達は誰よりも練習をしてきたんですから。そんな簡単に負ける筈はないです』
そうは言うものの、刄田いつきの声は明らかに余裕がない。
『そう……だよね』
『うん、それは分かってるよ』
『…………』
加えてアオちゃんもウタくんも負けがちらついているせいかポジティブな言葉が出てこず、ヒデオンさんに至っては声も出ない状況に。
そんな中俺はと言えば――比較的冷静だった。
何故なら負けている理由が実力的なものでは一切ないから。
精神的なものであるなら、キッカケ一つあれば何とでもなる。
(ならば――まずは俺が不調を打破する突破口となるしかない)
『えー……だから取り敢えずですね、行かなくてもいい場面で行ってしまったりとか、その逆も然りなので、もっと落ち着いて声を――』
「いつきさん」
『はい、どうかしましたかGissyさん』
「次は――バイラウンドってことでいいんだよな?」
『? ええまあ……そうですが』
「なら、
『えっ? LMG……ですか?』
「ああ、それで流れを変える。だから――一旦皆さん俺と心中してくれませんか」
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