同接０人配信者の俺、無自覚に有名Vtuberやトップストリーマーから好かれる

第28話 悔しい？悔しい

『ボム解除いけますか！』

『――いやアカン！　まだ無理や！』

「ダリア落とした！　これで多分解除に行け――悪い！　左にゼラニウム！」

『ゼラニウムやりました！　解除行きます！』

『アオ先輩急いで！』

『ぐ――――――アカン、間に合わんわ』

　第五回DM杯、予選最終試合。

　俺達はKeyさん率いるチームDこと【無敵ゲーミング】との試合を行っていた。

　ここまでお互い全勝同士、しかも公式で配信される試合というのもあり、同接は１５万超えというとんでもない数字を叩き出していたらしいが、俺達はその期待に恥じない白熱した試合展開を繰り広げていく。

　俺達が強気な攻めで序盤からラウンドを連取すれば、向こうは舌を巻くような守りを見せこちらの勢いを潰してくる。

　ならばと刄田いつきが仕込んだセットアップを仕掛けまたラウンドを取ると、なんのと今度は鋭いリテイクで切り返されラウンドを落とす。

　１４ラウンドを終え攻守が替わってからもその流れは変わらず、一進一退の攻防を続けていたが――終盤でゼラニウム（菅沼まりん）が持つAW（SR・スナイパーライフル）が無双状態に入ったことで一気に流れが変わり始める。

　そこにゼラニウム（菅沼まりん）がいると分かっているのに、圧倒的なフィジカルでワンピックを取られ人数不利を強いられる俺達。

　それでも何とか食らいつこうとしたが――結果は１２－１５で敗戦。

　このまま全勝で優勝だと勢いに乗る俺達だったが、難攻不落の【無敵ゲーミング】だけは落とすことが出来なかった。

「すいません……もっと怖じけずに勝負が出来れば」

『しゃあないよ、あんだけAWで落とされたら流石に足も止まるわ』

『エリアコントロールも抜群に上手かったですし、マクロ面でも上回られた感じは正直してしまいましたね……』

『まあそこはケイ君やな。どのチームも俺らの戦略に混乱してたのに、あれだけ瞬時に対応出来るのはあやつ以外におらん』

「…………」

　――確かにスクリムの時から相当強いチームなのは分かっていたことだが、本番になって【無敵ゲーミング】は更にギアを上げてきていた。

　事実俺を甘く見ずにしっかり潰しにきていたし、その強さは一瞬スクリム初日の情けない自分が過ってしまった程。

　これが【優勝請負人】こと、Keyさんの実力か――

《それでは勝利チームとなった【無敵ゲーミング】にお話を訊きましょう！　【無敵ゲーミング】の皆さ～ん！》

　そんなことを思いつつ俺は公式配信を見ていると、実況のアナウンサーが勝利者インタビューを始める。

《ではまずKeyさんにお話を伺いましょう。全勝同士の対決ということになりましたがまずは率直な感想を訊かせて下さい》

『スクリムで【伝説、お見せします】が全敗なのは勿論知ってましたが、本番で負けなしと知って、気を引き締める必要があると思いましたね』

《やはりスクリムで大きく成長したと、そう感じましたか》

『ええ。ただいつきさんとは昔フルパしたことがあって、その頃から知識面から判断力まで優れていたので、全敗のまま終わるとは思ってなかったですね』

《実際スクリムとは全く違う大接戦となりました》

『正直敗北の二文字が何度も過っちゃいましたよ』

　Keyさんははっきりとした口調で、しかし何処か余裕のある雰囲気を見せながら淡々と受け答えをしていく。

「……全勝なのに落ち着いてますね」

『昔からケイ君はこんな感じやで』

『Keyさんって大会になるとポーカーフェイスですよね。普段ゲームをしてる時は全然そんなことないのに』

『喜んではいるんやけどな。これはワザとやっとんねん』

『勝ってかぶとの緒を締めよ、って感じですか？』

『いーや、これが格好いいと思ってやっとるだけや』

　と、ヒデオンさんは仲が良いからこその毒づきを見せるが、実際はアオちゃんの言っていることが正しいだろう。

　何故ならDOD時代のFAMASTでも、精神的支柱は誰かという質問に皆が口を揃えてKeyと言った記事を見たことがあったから。

　事実ヒデオンさんを含めた全盛期メンバーの中で、一番キャリアが長かったのがKeyさん。常にブレない精神力こそが勝利への秘訣なのかもしれない。

《では勝ち切れた要因は何だったんでしょうか？》

『いやー、そこは流石にすがむーに訊いた方がいいんじゃないですか？　この試合のMVPはどう考えても彼女ですから』

『え？　あ～！　いや何かすいませんね、お膳立てして貰っちゃって』

　するとまだキャスターが紹介していないにも関わらず、待ってましたと言わんばかりに食い気味のすがむーこと菅沼まりんが入ってくる。

『お、いっちゃんとアオちゃんの後輩が来よったで』

『いやー……もうマジでまりんは強過ぎでした……』

『ぼくも抜かれ過ぎたので最早菅沼先輩ですね……』

《いやー菅沼まりんさん、終盤の怒涛のキル素晴らしかったですね》

『いやそれはもう！　私がストライカーなので【無敵ゲーミング】を名乗る以上は絶対全勝で行こうと、その一心でした』

《K/DもACSも予選では１位ということになりましたが》

『えっ！　本当ですか！？　まあストライカーなので高いのは当たり前なんですけど、だとしても１位は嬉しいですねえ。それに――』

　と、菅沼まりんは意気揚々とした語り口から急に含みを持たせると、こんなことを言い出すのだった。

『やはりGissyさんには勝ちたいと思ってましたので』

「…………は？　お、俺？」

『おいおいGissy君、これは愛の告白とちゃうんか！』

「どう考えても違うでしょ、おじさん思考止めて下さい」

『でも名指しで言うなんて中々挑戦的ではあるね』

『同じストライカー、推薦枠なのもあるんでしょうか？』

　詳しく見ていた訳じゃないが、確かに俺と彼女のACSは予選最終試合まで抜いて抜かれてというデッドヒートではあったらしい。

　そして言う通り、俺達は推薦枠という少し特殊な境遇でもある。

　良きライバルとして見て貰えたのであれば、決して悪い気はしない――

　が。

（どうにも、そんな気はしないんだがな……）

　何せ良きライバルとして見て貰うには、あまりにも関係性が皆無。

　しかも俺は無名な癖に炎上をしたという、唾を付けておくにしてもあまりに旨味のない存在なのは誰の目から見ても明らか。

（となると、やはり最初のアレと、彼女を調べた時の違和感の通り――）

　ただそれは流石に口には出来ず黙っていると、いつの間にか勝利者インタビューは終わり、予選の結果が発表される。

・１位　無敵ゲーミング　　　　　（７勝０敗）

・２位　伝説、お見せします　　　（６勝１敗）

・３位　チルピック　　　　　　　（４勝３敗）

・４位　美女とおっさんズ　　　　（４勝３敗）

・５位　Re:takers　　　　　　　　（３勝４敗）

・６位　NO SMOKE NO LIFE　　（２勝５敗）

・７位　くせのあつまり　　　　　（１勝６敗）

・８位　ロー＆ハイアーズ　　　　（１勝６敗）

〚勝敗が同一だった場合は同率チームとの勝敗etc…で順位を決定〛

　結果は言うまでもなく２位通過。

　スクリム全敗をしていたあのチームが、６勝１敗で決勝トーナメントに進出など拍手喝采してもいいぐらいの成績だったが。

『――――悔しいもんやな』

　ヒデオンさんがポツリと呟いたことをきっかけに、皆が口々に同調し始めた。

『悔しいですね。この１敗も大差じゃないので、余計に』

『悪くない、全く悪くない訳じゃないんだけどねえ』

『久しぶりにこんなくやしい気持ちになっちゃいました』

「必ず、決勝でリベンジしたいですね」

　必死に練習をしたからこそ、１敗でも悔しい。

　少し前の俺なら間違いなく悔しさよりも不甲斐なさが出ていた筈だが、そう思わないということはそれだけ練習した何よりの証拠だろう。

『まあでも……募る話は一旦脇に置いて、今日は解散しましょう』

「え？　練習はしないのか？」

『はい。全員しっかりと身体を休めて欲しいです。特にGissyさんはハイになってて忘れてそうですがほぼ寝ていないので』

「あ、それはそうか……」

　よく考えると俺は３時間寝て２４時間起きてまた３時間しか寝ていなかった。

　現状は問題なくとも、これではいつ支障が出てもおかしくはない。

『あんな無茶振りしておいてどの口がという話ですが、睡眠不足は無意識の内にパフォーマンスを低下させてしまいます』

「確かに……それなら睡眠学習をした方がいいな」

『ですね。だから明日の為に今日は爆睡して貰うと助かります』

『ま、Gissy君以外もあんま寝てへんしな。因みに明日は何時集合や？』

『Day２が１６時からなので、昼前には集合したいですね』

『はいよ。ほな今日は解散！　皆お疲れや、明日もよろしゅうな』

　すると若干強引な感じではあるものの、ヒデオンさんはそう号令をかけると真っ先に厳ついWaveのアバターをドロンと退出させる。

　恐らくこの状態だと嫌でもダラダラすると踏んでの行動だろう。

　それに大御所が率先して終わってくれると、俺達も素直に辞めれるというもの。

『ではあたしも失礼します』

『じゃあ僕も、皆おやすみ』

『ぼくも抜けますね、明日も頑張りましょう！』

「皆ありがとう、お疲れ様」

　故に皆次々とチャットを抜け始め、そして最後に残った俺も抜けると――そこでようやく本番初日が終わったと感じる静寂が訪れる。

「２３時過ぎか――マジであっという間だったな……」

　仕事でもこんなに早く時間が過ぎたことは一度もない。

　まさか俺にこんな集中力がまだあったとは、と思いながら深く伸びをしていると。

「…………ん？」

　ふとWaveの着信音が鳴っていることに気づく。

　はて、刄田いつきが何か伝達し忘れていたのかと思い、俺は閉じていたWaveを開き相手確認をしたのだったが――

「――菅沼……まりん……」