第4話 視聴者参加型(同接1人)

「し、視聴者参加型って……」


 あたしは思わず同接を確認するも、そこには『1』以外の数字はない。

 つまり参加も何も、出来るのはあたししかいないということ。


「どう考えても誘われてる……よね」


 けど何でこんなことを急に――

 まさかユーザー名で刄田いつきと分かったから、一緒にプレイして自分達を宣伝しようって魂胆?


 ……いやでも、今のあたしにそこまでの価値はない。


「どうする……やるべき……?」


 どうせ復帰することになれば真っ先にやるのはスタペ、ならこれを機に鈍った感覚を戻す為にやるのは悪い判断じゃない。


「けど、万が一何か起きてしまったら今度こそ……」


 やっぱりここは無視して、ブラウザバックを――


『あ、あの! 別にスタペじゃなくてもいいんです! やりたいゲームは全て視聴者さんに決めて貰うつもりですので!』


「え?」


『俺達はただ視聴者とゲームをしたいだけだ。それ以上でも以下でもない、何なら要望があるなら全て従うつもりだ』


「……これって」


 やっぱりあたしが刄田いつきと分かった上で、迷惑はかけないと言ってる。

 だからと言って何も保証がある訳じゃないけど――でも。


「――……」

『だからその……一緒に遊びませんか?』


「あー……これはさぁ……ほぼ反則だよね」


 Gissyさんが妹に甘いと思う部分は前からあったけど……確かにこんな風に言われてしまったら断ることに罪悪感が生まれる。


「あ~~~! もう! 可愛いから許す! どうにでもなれ!」


 故にあたしは防音室内でぐわっと叫ぶと、2ヶ月ぶりにスタペを立ち上げた。


       ◯


『やっぱり……厚かましいお願いでしたでしょうか』

「大丈夫、同接はまだ『1』のままだ」


 とはいえ、ここで断られたら完全に終わりだろう。


 妹の思いを汲んで行動を起こしたとはいえ、失敗してお通夜になる訳には――と思っていると、スタペの待機画面にフレンド申請の通知が入る。


「! ……良かったな水咲、来てくれたみたいだぞ」

『本当ですか!』

「水咲、分かっているとは思うが」

『はい、勿論です』


 俺はすぐにフレンド欄を開き『Itsuki0222』からの申請を確認すると、それを承認した所で一旦配信を切る。


 勿論アーカイブは残していない。


 そして彼女をパーティに誘うと、数秒の間があった後に刄田いつきが姿を現した。


『――! わ、わー、お兄様視聴者さんが来てくれましたよ』

「有り難い話だなぁ、いつも見てくれてる視聴者さんだぞ」

『う、嬉しいですー』

『……いや、あの』


 しかしあまりにも臭すぎる大根芝居に煙たくなったのか、『なんだこいつら』と言わんばかりの低めの声が飛んで来る。


 だがそれでも、俺達は構わず話を進めていった。


「いやーいつきさんありがとう、参加してくれて」

『え、まあ……そりゃあたししかいなかったですし』

『あ、あの、ゲームはスタペでも大丈夫でしたか?』

『全然それは――ただアンレートしか出来ないですよ』


「ああ。どうやらランクも一番下のモブみたいだしな――それだとプラチナの妹とはマッチング出来ない」


『――そうですね』

「よし、じゃあそうと決まったら早速始めるとしようか」


 そんな挨拶程度の雑談を早々に切り上げると、いよいよ俺達はスタペを始める。

 余談だがアンレートとはランクに影響がない試合のこと。


 ランクマッチと違いポイントの上下が発生しない為比較的治安が良く、初心者の練習や友達同士でダラダラ話しながら遊ぶには最適なのだ。


「さてと、キャラは――」

『あ、ちょっと待って』

「え?」

『あの、Gissyさんっていつもサザンカ使ってますよね』

「ああ、そうだな」


 スタペは保有スキルの違う10人のキャラクターから1人をピック選択してしてプレイするのだが、俺はいつもサザンカを好んで使っていた。


 理由は単純に、見た目が渋くて格好良いから。

 だが刄田いつきは小さく息をつくとこう言うのだった。


『サザンカはマエストロタイプなので、ストライカーの動きをするGissyさんがサザンカを使うのははっきり言って大トロールです』


「……? マエストロ?」


『やっぱり知らなかったんですね……。スタペは主にストライカー攻撃クローザー守備、そしてマエストロ指揮の3タイプにキャラクターが分けられているんです』


「……全然知らんかった」


 いや、調べれば幾らでも出てくる基礎知識なのだろうが、俺はあまり説明書を読まないタイプなのでやれば覚えると思っていたのである。


 まあ2ヶ月もやって覚えてないのだから世話ないが。


 ただ思い返してみると偶に仲間から『何でサザンカが詰めてんの』と苦言を呈されていたので、どうやら俺は相当終わっていたらしい。


『まあそれでシルバーまで行ってるのも異常だけど……』

「何というか……色んな人に申し訳ない」


『いずれにせよ、タイプによって使うスキルも違えばロール役割も違う訳です――ただ妹さんは感覚派とのことですが、正直知ってましたよね』


『えっ、あ、ええとその……一応やり過ぎないようコントロールはしていましたが、一番はお兄様が楽しむことなので』


『トロール兄妹過ぎ』


 グサリと厳しい一言に俺と水咲は返す言葉も無かったが、それだけ俺が迷惑を掛けていたとなれば致し方ない。


『兎に角ストライカーならアイリスかゼラニウム、ヴァイオレット――Gissyさんなら高速移動スキルや即死ダメージのウルトを持つアイリスがいいかと』


「それは俺のフィジカルが、という意味でか?」

『ですね。純粋な撃ち合いだけならその辺の配信者より上ですから』

「随分高評価だな、だが現実は結構撃ち負けてるぞ?」


『撃ち合いが強いから勝てる訳でもないのが爆破ゲーなんですよ。ただそれでもフィジカルの強さは圧倒的なアド、得難い才能です』


 俺にそんな才能があるとは到底思えんが、彼女の言葉にはとてもキャリーでエンペラーになったとは思えない言葉の重みがある。


「…………」


 故に変に否定することも出来ず言葉が出ないでいると、それに気づいた刄田いつきは『あっ』と声を上げて実に申し訳無さそうにこう言った。


『す、すいません、遊ぶだけなのに余計なことを――』

「いや、そんなことはない。俺が無知なのが悪いんだしな」


『ですがやはり分かる人には分かるのですよお兄様。なので伝説の52キルも偶然ではありません、必然なのです』


『52キル?』

『お兄様はあのAOBアタックオンバレットで一試合52キルをしたことがあるんですよ』

「おいmisaku、恥ずかしいから止めろ」


 すると水咲はここぞとばかりに俺の成績を誇らしげに語りすが、どう考えても痛い自慢話でしかなかった為慌てて引き留める。


「すまんいつきさん、今のは忘れてくれ」

『AOBで52キル……どっかで聞いたような――』

「? 聞いたことがある?」

『ああいや……多分気のせいです。というか、いい加減やりましょうか』

「それはそうだな。全く――あんまりアホなこと言うなよmisaku」

『嫌です。お兄様の凄さはもっと世に知れ渡るべきです』

「気持ち悪い反抗期やめろ」

『ふふ……ホント仲良すぎ』


 あまりにみっともない兄妹の姿に無様にも苦笑されてしまったが、そのお陰か少し場の空気が良くなったように思える。


 うむ。最初はどうなるかと思ったが――これなら大丈夫そうだな。


「よーしじゃあ、ここは勝敗なんて気にせず、楽しくやるとするか」

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