第26話 開幕
「すっげ……」
お洒落以外何者でもない【Deep Maverick杯】と書かれたタイトル画面が切り替わると、まるで映画の予告みたいなOPが始まった。
荒廃した大地を一人歩く勇者の眼前が、突如眩く光ったかと思うと、中世の宮殿と思われる玉座の間へワープする。
周囲には貴族が――いや天使が拍手で勇者を迎えており、視線を前に向けると玉座に腰を掛ける皇帝の姿が。
それを睨みつける勇者、不敵に笑う皇帝。
そして勇者が剣に手を掛けた所で場面が転換し、過去のDM杯のハイライト映像が熱い実況と共に流れていく。
【さあ残すは1on1! Keyまずいか!? いや決めたあぁ~!!!】
そんな手に汗握るシーンが暫く流れると、また勇者が剣を抜いた場面へと戻り、飛び上がった勇者が皇帝へと刃を振り下ろす箇所がアップになった所で【Deep Maverick杯】のタイトルが浮かび上がりOPは終了した。
「これ……クオリティ凄過ぎません……?」
『Gissyさん知らなかったんですか? 第3回からこんな感じですよ』
『でもぎしーさんが驚くのも分かります。BGMもカッコいいし、何よりCGのクオリティがすごく高いですもんね』
『つのだはエンタメのバケモンやからな。こんな1分も満たない映像にも赤字覚悟でやるんがあの女のやり方や』
『だからこそ視聴者目線としてはたまんないんだけどね』
確かにウタくんの言う通り、コメント欄はあまりの熱狂ぶりに表示が追いつかなくなるレベルの書き込みがされ続けている。
因みに公式の同接は既に8万人超え、このまま行けばドーム2個分の観客が埋まるのだと思うと少しゾッとした。
『――ま、せやけどナンボ視聴者がいようとやることは変わらん。気にするにしても目の前にいるリスナーだけにしときや』
「! それは、その通りですね」
実際DM杯の公式配信には多くの視聴者が詰め掛けているが、個々人の配信となるとまた少し話が変わってくる。
事実、俺達のチームの内訳は大体こんな感じ。
刄田いつき 同接7200人
ヒデオン 同接26000人
青山アオ 同接11000人
仮詩 同接2200人
俺 同接500人
あれ? 24時間配信終盤にいた3500人は何処へ? と思うかもしれないが別に何も難しい話ではない。
配信者が一斉に同じゲームをプレイすれば、自分の推しや人気配信者を見に行くのは自然の摂理なのである。
いくら24時間配信で力を付けようと、人気差はその程度では覆せない。
(伝説WINの
アオちゃんや刄田いつきに向けたFAの中に自分も混ぜて貰っていたが、顔出ししてないせいで絵師さんが困っている感じだったのは申し訳なくなる程。
まあ何れにせよ、マルチ視聴を含めて500人は多いぐらいだろう。
つい数週間前で0人だったことを考えれば快挙まである。
▼#伝説WIN!
▼DOWIN!!!
▼まずは勝利! そして予選通過だ!
▼ぎしーよ、俺達に伝説を見せてくれ
ならば言う通り、俺はチームと500人に向けて頑張るだけである。
『さてと、あと5分くらいで第1試合開始ってとこかな』
『相手はチームBで【ロー&ハイアーズ】。スクリムの戦績は2勝5敗だったみたいです、勿論ぼく達は負けてますが』
『スクリムでの印象は丁寧に立ち回る相手かなと、マクロが完璧までとは言えないけど、基礎はそれなりに出来てると言いますか』
『確かコーチは元プロの子やろ、その辺は仕込んでそうやな』
『恐らく。ただ勝利を積めていない所を見ると、個々人の部分――つまりミクロやIGL面が上手く成長出来なかった気はしますね』
「なら相手のやりたいことさえ潰せれば……」
『瓦解して初勝利にぐっと近づける筈――因みにGissyさん、お渡した動画は見てくれました?』
「ん? ああそれは勿論――」
24時間配信が終わった後、俺は刄田いつきから一本の動画を渡されていた。
無論それは感動的なメッセージ動画などではなく、彼女が編集したと思われるDM杯全出場選手の過去のプレイ(スクリムを除いた)動画。
正直何故このタイミングで? と思わなくもなかったが、見ると立ち回り等参考になる点は多く、かなりのボリュームだったが一応全て確認していた。
『――そうですか、なら問題はないです』
「? ああ――」
『よーし、ほなそろそろ円陣でも組もか、いっちゃん宜しく頼むで』
『えぇ? いやあの……あたしそういうの苦手なんですけど……』
『ほな俺がやるわ、えー本日は宴も酣ということで――』
『ごめんなさい分かりましたあたしがやります』
いくら盛り上げ役は嫌でも、ヒデオンさんの長尺ボケよりはマシと思ったのか、渋々感は否めないものの刄田いつきは即座に止めに入る。
そしてふぅと小さく息を吐くと、こう言うのだった。
『えー……あー…………まあ…………ゆ、優勝するぞぉ~~~~~!!!!』
恥ずかしいです、勘弁して下さいと言わんばかりの、実に頼りのない叫び声。
だがそんな心情など関係ないぜと言わんばかりに、その声に滾った俺達は一斉に叫び返すのだった。
「よっしゃ勝つぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『一丁かましたろやないかい!!』
『ふぁいてぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!』
『レッツゴー!!』
◯
予選は全7試合、BO1の総当たりとなっており、上位4チームが決勝トーナメントへと進み、下位4チームが順位決定戦のトーナメントへと場所を移す。
そして決勝トーナメントは予選1位が予選4位と、予選2位が予選3位とBO3で試合をするが、1位と2位に関しては1ゲームを先取した状態でスタート出来る為、かなり有利な仕様となっている。下位の4チームに関してもそれは同様。
つまり優勝を目指すなら予選2位以上は至上命題。
まさに絶対に負けられない闘いが続く訳だが――
『やはりβラッシュですね、モクで塞ぎました、一旦下がります』
『スタン入れとる! 噴水裏ツーや!』
「モク中1人落とした――噴水裏も2人やった!」
『ごめんフラッシュ食らった! 屋上ダリア!』
「屋上ダリア倒した倒した!」
『っ! スマン! アネモネローや! 激ロー!』
『サーチ入れた! Gissyさんとアオ先輩で挟んで!』
「了解――――――っしゃァ! オラァ!!」
『ナイス
『おいおいGissy君いきなりかましたなぁ!!』
『これがぎしーさんの本領発揮ですよ!!!』
スクリム初日とはまるで違う感覚が、俺の中で駆け巡っていた。
誤解を恐れず言うのであれば、本当に彼らは初日に戦った相手と同じなのかと勘違いしそうになるまでに。
『橋いない! 橋いない!』
『βエリア内入ってるで! 1人や!』
『それたおしました! あとこれ屋上2人だけです!』
『屋上モク入れたで! いっちゃんサー――!』
『サーチ入れま――――えっ?』
「……え? あ、あれ、マジか」
『今度はモク抜きかいな! 運営さんチーターいますよー!』
「いやヒデオンさんやってない! やってないから!」
『でもこれは流石に相手も萎えてそうだね』
『…………』
だが、それ程までに有利に動き続けられている自分がいる。
無論仲間のスキルを使うタイミングの上手さ、的確なコール、そして刄田いつきのIGLがあってこそなのだが――
(……ヒデオンさんは顔合わせをした日、謙遜する俺にアジア1位のキル数は偶然では取れないと言ってくれた)
まあ、俺はそれを慢心という形で受け取ってしまったのだが――
でも、今なら少しだけ分かる。
AOBで積んできたことは、決して無駄じゃなかったのだと。
だから、俺はそれら全てをスタペでも――
『あ、あと1ラウンドですよ…………!』
『アオ先輩、
『行くんはαでええんか?』
『かなりβ警戒の布陣になると思うので、αでいいと思います』
「流石にウルトも出していいかな」
『ガンガン使いましょう。あたしが脇道をモクで塞いだら、321の合図で
『一気に殲滅したらええっちゅうことやな』
「分かった」
『スキルを吐くタイミングはあたしが言うので、決して勝ちに急がず、慌てないように動いて下さい』
『よし、ラストも気を抜かずに行こう!』
そして、迎えたマッチポイント。
初勝利が目前へと迫っても、決して気を抜かない俺達は刄田いつきの指示通りに試合を運んでいく。
エリアを広げ配置が整った所で、予定通りスキルを入れ俺がαにエントリーをし、後続の刄田いつきがボム設置した所でβからαへ寄ってきた敵をスタンウルトでリテイク阻止すると、ウルトで網に掛かった1人を
マッチポイントで、セカンドバイをしたとはいえそれでも武器も、ウルトもない状態では敵も相当萎えているのは明白で、ボム解除が間に合わない焦りもあってかスタンウルトの網に掛っては落ちていく様は得も言えない光景だった。
だが、優勝を目指す俺達は、一切手を緩めることはない。
『あと1人! 洞窟! 洞窟にいる!』
故に、最後の1人の位置を刄田いつきがコールした瞬間、ヒデオンさんが
刹那、画面がスローになり、暗転し現れる【VICTORY】の文字。
スクリムを通して、DM杯で初めて勝利した瞬間だった。
『よっしゃあああああああああああ!! 伝説の幕開けやぁ!!』
「やった……ようやく……勝った――」
『全部! ぼくたちのやりたいことが全部出来ました!』
『やっと勝ってGGって言える……!』
『はぁ……ヤバいかも……まだ1戦終わっただけなのに……』
■第1試合(伝説、お見せします VS ロー&ハイアーズ)
15-7。
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