同接０人配信者の俺、無自覚に有名Vtuberやトップストリーマーから好かれる

第13話 トップストリーマーとの顔合わせ

『ということで無事全員揃ったので――というかヒデオンさんが進行して下さいよ、何であたしがしないといけないんですか』

『え～？　それは殺生やろ。確かに俺が一番年上やけども、リーダーはいっちゃんなんやからいっちゃんがやってえな』

『それは……んー、いやでもなぁ……』

『ところでGissy君って皆のことは知っとるん？』

「え？　それは勿論――」

　しれっとヒデオンさんに話を振られたが、恐らくこれは俺から話をさせることでチームに入って行き易いようにという配慮。

　DM杯に参加するにあたってヒデオンさんの切り抜きはいくつか拝見したが、彼はそういうさり気ないアシストが会話でもゲームでも本当に上手いのだ。

『ほな俺のことは知っとるか？』

「ヒデオンさんは――元FAMAST所属でDOD（デッドオアダイ）でDCJ（日本大会）最多優勝、DACL（国際大会）では世界３位の元プロゲーマー」

　Dead Or Dieはパソコンゲームが日本でまだ主流でない時代に人気だった爆破ゲーの先駆けであり、スタペと違い純粋な撃ち合いに特化したゲームである。

　かれこれ１０年以上も前の話だが、当時日本のDOD界で最強と言われていたチームがFAMAST、そのメンバーの１人がヒデオンさんだった。

「そして現在はLIBERTAのストリーマー部門所属で主にゲーム配信を――」

『……それはそやねんけど、何か俺のウィキを聞いてるみたいで嫌やな。そうじゃなくてもっとこう――あるやろ？　格好いいとかさ』

「滅茶苦茶面白い……ですかね」

『Gissy君、君はよう分かっとる』

『ヒデオンさんチョロ過ぎでしょ』

　満足げなヒデオンさんに思わず突っ込む刄田いつき。

　とはいえ、言葉遣いから分かる通りヒデオンさんは王道の関西人。

　彼らにとって『面白い』は褒め言葉な場合が多いので仕方がない。

　ただ皮肉ではなく彼のトーク力は配信者の中で随一。でなければ累計登録者が１００万人を超える配信者にはなれないだろう。

　まあ強いて欠点を上げれば、筋肉質な巨体にオールバックと髭を蓄えたその見た目は厳つすぎてリスナーから【おじき】と呼ばれてるくらいか。

『ほなら、ウタくんはどうや？』

「流石に仮詩さんはモコモコ動画の頃から知ってます」

　仮詩さんはDMに所属しているが、元々は動画投稿をしていた歌い手である。

　繊細且つ力強い歌声は『歌ってみた』動画を上げる度ミリオン再生した程で、仮詩と言えば歌い手という印象の人が多い程。

　ただしそのベールは謎に包まれており性別も年齢も不詳、一説ではモコモコ動画時代はまだ小学生で今は高校生なんて噂も――

　因みにVtuberではないがアバターを持っており、黄色のメッシュが入った青のショートカットに、落ち着いた中性的な声に違わぬボーイッシュな出で立ちをしている。

「つい１週間前にドームライブも成功させてましたしね」

『え？　僕のライブ観に来てくれてたんだ』

「あ、いや……で、でも楽曲は好きでよく聞いてます。【回帰現症】とか【寝ながらしにたい】は特に聴いて――嘘じゃないですよ？」

『――……ふうん？』

『おい、Gissy君はウィキで調べてるんやからな！　そんな疑うような――』

「ヒデオンさん、その言い方は完全に俺が死にます」

『まあまあ。でもその２曲は結構マイナーだからホントに好きなのが分かって嬉しいし――というか、実際はおじきの方が全然知らない癖によく言うよね』

『えっ、そ、そんなことはあらへんがな……』

『ヒデオンさんって普通に知ったかするし、何ならちゃんと調べるGissyさんの方がよっぽど偉いまであると思いますけど』

『い、いっちゃん……俺のことそんな風におもてたん……？』

『いやいや、おじき以外皆思ってるから』

『しかも無駄に口だけは達者だからただの厄介おじさんです』

『え、ええ～～～～！？　そ、そんな急におじさんこといじめて……こ、こんなん――――何か嬉しいな、恋かこれ』

『マゾで厄介おじさんは救いようがないって』

　そんな仮詩くんの言葉に思わず笑ってしまう俺達。

「……？」

　――だがそんな雰囲気の中で、１人だけ全く反応していない子がいた。

『…………』

　一体どうしたのか、体調でも悪いのだろうかと思っていると、刄田いつきが見かねたような声で彼女に声を掛けた。

『あのアオ先輩、流石に緊張し過ぎですね』

『へっ！　い、いいや、い、いつも通りなんですけど……？』

『ん？　何や緊張することなんてあるんか？　Gissy君以外は皆大会で一緒やったり、ゲームしたこともあるやろ？』

『そのGissyさんに緊張してるんですよアオ先輩は』

「は？　俺？　なんで？」

　全く以て想定していなかった発言に、俺は思わず変な声が漏れる。

　いやいや流石に冗談だろ、一体俺の何処に緊張される要素が――

『実はアオ先輩、Gissyさんのファンガなんですよ』

「えっ？　もしかしてだが……あの動画で？」

『そりゃそれ以外ないでしょ』

　驚愕の事実。登録者数実質０人の俺に総登録者数１００万人超えのファンがいた件について。

　とはいえ、それでも尚何かの罰ゲームで言わされてるだけでは？　と疑いたかったが、流石に刄田いつきがそれを言う意味がない……。

　因みに青山アオはVGの初期メンバーの１人であり、おさげの明るい青髪に少し幼さも感じる可愛らしいアバターをしている。

　舌っ足らずな高い声でいつも明るく、だが懸命にゲームをする姿が好評で、前シーズンのブレイバー到達配信には５万人が詰めかけた程。

　故に通称【がんばり屋さん担当】な所が青山アオの魅力、しかも歌も上手くイラストの才もあるという万能性まで持ち合わせているのだから恐ろしい。

　ただ、調べた限りでは、動画で俺の話なんてしてなかったが……。

『Gissyさんって言わずもがな一般人なので、あまり配信で言ったりして迷惑は掛けられないから身内にしか話してないんですよ』

　すると俺の無言で察したのか、刄田いつきがそんなことを言う。

『しかも中々勝てない時はGissyさんの動画を見返しては奮い立たせてた程なので、結構ガチ目のファンガです』

『ちょ……！　いっちゃん何でそこまでいうの！』

『いやだって、そんな黙ってたら気まずくなっても可哀想だし』

『だとしてもそこはぼくに言わせてよ！　もう！』

『え～？　あーじゃあ、後はどうぞ先輩』

『いくらなんでもフリが雑すぎるでしょ！？　この後輩マエストロなのにカバー力がモブなんですけど！？』

　刄田いつきの後輩とは思えない扱いに憤慨する青山アオだったが、そのお陰かようやく彼女の緊張も少し溶けたように思える。

　まあ、その代わり俺がどうしたらいいか分からんのだが。

　それにしても、ヒデオンさんといい刄田いつきといい、人気配信者は本当に雰囲気作りが上手いんだなと感心してしまっていると。

　急にヒデオンさんがこんなことを言うのだった。

『ふむふむ――そういうことやったら、ここは一つAOBでもやろか』

「え？　いや、あの……俺のことを考えて言って下さっているのは有り難いんですが、本当に大して上手くないですよ？　ブランクもありますし――」

『いやいやGissy君、謙遜したい気持ちは分かるけどアジアサーバーで１位のキル数は偶然だけで取れるようなもんではないで？』

「うーん……そうなんですかね……」

『考えてもみいや、AOBは殆どの配信者が世話なっとるし、プロもようけ輩出されたけど、誰も１位になったモンはおらん、つまりそういうことやろ』

　別に贔屓をするつもりはないが、プロの世界で鎬を削ってきたヒデオンさんにまで言われると、本当にそうじゃないかという気がしてくる。

　何なら、DM杯も予想以上に上手く行くかもしれないという淡い期待すら。

「じ、じゃあそういうことでしたら……１戦だけ――」

　故に少し調子に乗った俺は、ついその提案に乗ってしまう。

『お、Gissy君ええやないか～！　ほな早速お手並拝見といこか』

『え！　ぎ、ぎぎぎしーさんとAOBがで、で出来る……！？』

『アジア１位のキル保持者と戦えるのは流石に僕も楽しみかも』

　だが。

　この油断が自分の首を絞めることになるとは、この時はまだ気づいていない。