第39話 南の主様だそうです
俺は先ずはママンの元にメリエルと共に向かう。いよいよ俺の秘密をママンに話す時が来たのだ……
ママンに嫌われたらどうしよう…… 俺の心はその不安でいっぱいだったのだが……
「テツ、やっと話してくれたのね。いつ話してくれるのかと待っていたのよ」
ニッコリと笑顔でママンがそう言ってくれた時には俺は体年齢相応に不覚にも泣いてしまった。そして、グズグズと泣きながら嫌われたらどうしようかとか考えてましたってママンに言ってしまったんだ。
そんな俺をママンは優しく抱きしめてくれ、
「あなたは私が産んだ最高に自慢できる子よ。嫌いになったりは絶対にないわ。それと、勇気を出して言ってくれて有難う。ますますあなたを誇りに思えるようになったわ」
そう言ってくれたのだった。俺はママンの胸部装甲Dに顔を埋めて、泣いた恥ずかしさを隠しながらもその感触を堪能してしまった……
それから、屋敷の主だった者たちにも俺の秘密を話した。全員がそれぞれが信仰する神に誓って秘密を守ると言ってくれたよ。俺はそんな者たちにこれからもよろしくねと笑顔でお願いをした。
こうして俺の中の憂いは無くなり玄武と白虎に言って南の主様に相対する事にしたんだ。けれどもその前にする事がある。
「玄武、メスオークたちの集落に向かうよ」
「テツ様、メスオークたちに話をなさいますか?」
「うん、地竜神様がせっかく申し出てくれたからね。乗り気のメスオークが居るならばそうした方がいいでしょ?」
「テツ様、ならばトゥリ殿とカナ殿を連れて行くのがよろしいかと思います」
玄武の提案でトゥリとカナに一緒に来てもらう事になった。メリエルは言わなくても着いてくるからな。
メスオークの集落に着くと、メスオークたちが早速歓迎してくれた。
首長が俺たちを出迎えてくれる。
「テツ殿、突然の訪問だが何かあったのか? ハッ、またオスを我らに斡旋してくれるのか?」
勢いこんでそう尋ねられるが、残念ながらそうじゃないんだ。俺は首長に言って集落の開けた場所にここに住む者たち全員を集めてもらった。
「これで全員かな?」
「うむ、我が集落に住む者たち私を含めて二十八名が揃っているぞ、テツ殿」
首長がそう確認しながら教えてくれたので、俺は地竜神様から受けた提案を話す事にした。
「この地の全てを守護する地竜神様からの提案があるのです。強制ではありません。望む人がいたならという提案で、皆さんの姿をオークから人に変えて下さるそうです。その際にオークとしての能力を損なう事はないそうですので、その点はご安心下さい。希望される方は居られますか? それと、もう一つコチラは僕からの提案なのですが、姿が人になった方は僕の領民となっていただければと思います。僕は領民の方々に幸せになってもらうようにこの地を栄えさせると約束します。この提案も強制ではありませんので、良く考えて答えを出して下さいね」
と俺が言うと首長が先ずは食いついた。
「それは本当かテツ殿? 地竜神様が我らを人の姿に変えて下さると? それにテツ殿は我らを領民として認めてくれると?」
「はい、今は近隣に住む盟友としてお付合いさせて貰ってますけど、もしも僕を領主として認めて下さるなら僕は喜んで皆さんを迎えます。それに地竜神様からの提案も嘘ではありません」
「なんと…… 我らはオークであるが故にテツ殿の領民となるのは迷惑になるだろうと遠慮していたのだが……」
あちゃあ、そうだったのか。そんな遠慮なんかしなくて良かったのにな。俺はこの気のいいメスオークたちを気に入ってたから、言ってくれたら直ぐに領民として迎えたのだが。まあ、それでも首長が乗り気ならば他のみんなもけっこう乗ってくれるかな?
そう思ってたら野太い声で質問が飛んできた。
「あの、テツ様…… それは私たちもでしょうか? その際に私たちは性別を変えていただく事も可能でしょうか?」
その野太い声のオークは身体はオス、心はメスのオークだ。前世でいうところのオネエさんだな。ここには五名いると首長が言ってたな。
「ゴメンね、性別については地竜神様に聞いてみないと僕には分からないんだ」
正直に俺がそう言った時に、地竜神様の声が届いたよ。
『勿論だが
いきなりだな、地竜神様。だがその言葉にオネエさんオークたちが跪きお祈りしだした。
他のメスオークたちもお祈りしている。そして、首長が代表して言った。
「地竜神様、我らは人の姿になる事を望みます。そして、テツ様の領民となりその力を領地の発展に尽くすと誓います!!」
『その願い、しかと聞き遂げた。全員、先ずは
ああ、メリエルに転移させるのかと思ったけど、歩いて来させるつもりなんだな。それが地竜神様なりの試練という事か。トゥリとカナには俺からもよろしくねと頼んだ。
「テツ様、お任せ下さい。このトゥリが一人も欠ける事なく連れていき、連れて戻ります」
「テツ様、道中、この者たちを鍛えます。なのでご安心を」
トゥリとカナの頼もしい返事を聞いて、俺は安心してその場を後にした。さあ、南の主様といよいよご対面だ。
俺と玄武、メリエルの三人は時々襲ってくる魔獣を軽くいなしながら南へと進んでいた。すると、炎の壁が現れた。
「テツ様、あれが南の主の結界です。あの炎は主が守護している人族を守る為に張られてます。が、悪心なき者は通れますのでご安心を。もう少しお近づき下さい」
玄武にそう言われて炎の壁に近づくと、壁の一部の火が消えた。すると、壁の内側に居た人が驚いた顔をして俺たち三人を見ている。
「あんれまあ、この壁が開くのは十八年ぶりだが、あんたらは何処からきなさった?」
驚いた顔のままそう聞かれたので答えようとしたら、空から一人の女性が降ってきて
「大丈夫よ、ノーラ。この方たちは私のお客様なの。私がお相手するから仕事に戻ってちょうだい」
そう村人に声をかけて俺たちを見たのだった。
「主様のお客様だか。分かっただ。オラは仕事に戻るだよ」
うん、南のゴブリナだな。俺は密かにノーラをそう名付けたのだった。
「さてと、北の。随分と強くなったようだけど…… いったい何があったのかしら? 立ち話もなんだから村の中にある私の家に行きましょう。同行者さん二人もご一緒に」
南の主様はそう言うと俺たちを案内して、自分の家に招いてくれたよ。
ひょっとしたら話合いで俺に臣従してくれるかもと俺は内心で思ったんだが、その考えが甘い事を数十分後に思い知る事になる……
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