第38話 魔境とは? だそうです

 それから地竜神様からの俺への話が終わり、次に魔境という地について話を聞かせて貰う事になった。地竜神様が言うには魔境は創造神様からの頼みで、地竜神様が気まぐれに魔力を込めて作ったそうだ。


 その際に神気も込めたので、本当の魔物は入ってこれないらしい。ゴブリン、オーク、オーガなどのクラスまでは弱いから入れるそうだが、それ以上のクラスの魔物は地竜神様の神気により近寄る事も出来ないそうだ。

 ただし魔獣は別で、地竜神様にしてみれば魔獣なんてものは普通の獣と変わらないので出入り自由にしたそうだ。


 それでか!? 俺はようやく納得できた。この魔境では強い魔物は少ないと思っていたが、強い魔獣はそれなりに出る。何でだろうと不思議だったがまさかの地竜神様の気まぐれだったとは。

 それでも竜などは地竜神様に遠慮をして滅多に入ってくる事はないそうだが。

 竜族は入る前に律儀に地竜神様に連絡を入れてくるそうだ。それはどんなに強い竜でも必ずそうすると教えてもらった。

 そして、魔境では竜族が暴れる事はないそうだ。


 邪竜、魔竜と呼ばれる種は別らしいが、その種も魔境の端っこでいきがる程度だそうだよ。まあ、それぐらいしか出来ないよな。

 そして、地竜神の名が示すとおり魔境の地の土は豊穣を約束してくれる。どこを耕して耕作しても作物に優しい土に変わるようにしてあるとの事。


「何でそんな風に作ったんですか?」


 俺は素直に思った事を聞いてみた。


「ウム、それはな。テツジロウとの約束があったからだ。大王国初代のテツジロウとは色々と約束をしたのだが、その中でこの大陸で生きるのに苦しみを感じた者たちがやがてこの魔境の地にたどり着くかも知れないとテツジロウは言っておってな。その際にはその者たちがあまり苦労せずに過ごせるように手を貸してやってくれと頼まれたのでな。勿論だがテツジロウからは対価を貰ったぞ。この屋敷の設計図だけでなく、知る限りの建物の設計図を教えて貰ったのだ。それが我がテツジロウに要求した対価だったのでな」


「僕が地竜神様のお話からそのテツジロウさんの子孫だという事ですが、僕の(前世の)家にはそのテツジロウさんの話は伝わってなかったのですが」


 そう、俺の家は桜貝おうがいの分家筋だが家系図はちゃんとあった。

 その中にテツジロウの名は無かった筈だ。


「ウム、これはテツジロウから聞いた話だが…… どうやらテツジロウはオウガイ家の嫡子ではなく、母が妾であった為に認知はされておったが、オウガイ家とは普段から離れて暮らしておったそうだ。そして、我と出会った時にはテツジロウは元にいた世界で妻子もおったという話だ。その妻子がどうなったのかはテツジロウは気にしておったがな。そこで我が元にいた世界の神と交渉をしてな。妻子のその後と明治とかいう時代までの子孫の話をしてやったのだ。それ以上進んだ時代については聞きたがらなかったのでな。我は勿論だがそれ以上先の子孫まで確認をしておるぞ」


 とニヤリと笑みを浮かべた地竜神様。そうか、それならば俺は本当にテツジロウさんの子孫なのだろう。うちにあった家系図は江戸後期1855年からのものだった。分家筋のウチの始まりは桜貝オウガイ梅治ウメジだったと記憶している。


「そのウメジがテツジロウの孫だな」


 俺の思考をよんだ地竜神様が教えてくれた。どうやらオウガイ家の本家から正式にオウガイ家の分家としてウメジの父、つまりテツジロウさんの息子さんは認められたという話だ。

 何故そうなったのかというと、オウガイ本家の主であった者の命を救ったからだそうだ。


「それにテツよ。そろそろ皆に説明がいるであろう? 我がこの場に居る者たちだけでも話しておくべきだと思ったので、こうして話をしておるのだ。自分の領地に戻ったならばちかしい者たちにはちゃんと話すのだぞ」


 どうやら地竜神様は俺が転生者である事を隠さずに皆に言えと言っておられる。そうだな、そろそろママンや他の皆にも言う時期が来たのだろう。俺はそれに素直に頷き、更にはこの場に一緒にいる皆に言った。


「僕は前世の記憶があってね。その前世では魔法が無くて科学という技術が発達していた世界だったんだ。その知識が元でウチの領地や今回の地竜神様のお屋敷に作ったトイレが出来たんだよ。他にも領地にとって快適に領民が過ごせそうならば、いろいろな知識を出していくから、これからも皆よろしくね」


 俺の言葉にメリエルは当たり前のように頷き、マナミは何故か感動したように涙ぐみ、ソーンは跪き、オニ子は両手を合わせて俺を祈る。何故祈る、オニ子よ?


 玄武と白虎はどこまでもお供しますと言ってくれた。


「それでは戻りましたらテツ様、まずはアミーレ様にお話しましょうね。その際にはこのメリエルがご一緒いたしますのでご安心下さい」


 メリエルがそう締めくくってくれたので、俺が転生者だという話題はここまでとなった。


「それでな、テツよ。今は家鶏かけい家豚かとん家牛かぎゅう家羊かよう、シーバは生殖能力がないであろう? それらの家畜かちくたちに我から祝福を与えようと思っておるのだ。我の祝福により、アレらにも生殖能力が出来て家畜として育てていく事が出来るようになるからの。しかし、それらは肉として加工して他国へ販売するのは認めるが、家畜として生きたまま出荷するのは認められん。そこをテツに徹底して欲しいのだ。出来るか?」


 うーん…… 出来ない事はないか? ウチの領民たちには悪いが家畜農家の者たちとは神契を結んで貰い、更には逃げ出さないようにシーバを二頭は飼って貰う。そうすれば地竜神様のいう事を守れると思う。肉加工をする者たちとも神契を結ぶ必要があるな。

 俺が頭の中で色々と考えていたらマナミが、


「テツ様、それらは戻ってベンやルチアに相談してみれば良いかと思います。ハーフの里村の者たちについてはオニ子が大丈夫だと頷いておりますが、ウチの領民とソーン様の領民たちについてはジックリと話をして決めるべきだと思います」


 そう助言をしてくれたので俺はそうする事にした。


「という訳なので、地竜神様。一度領都に持ち帰って相談してみます。決まったらお知らせしようと思いますが、連絡手段はどうすれば良いでしょう?」


「ウム、メリエルよ、転移の魔法陣は作れるな? ならばこの屋敷とテツの屋敷を繋いでくれ。それで我も神気をだしながら移動せずに済む。何せ我が転移すると神気が漏れるのでな。魔獣たちが隠れて長ければひと月は出てこなくなる。それでは人の生活に影響を与えすぎるのでな」


 そう言われて早速メリエルは屋敷に仕える使用人さんたちに転移陣をしいてもよい場所を確認していた。


「テツよ。この魔境の地にそなたの考える国を作ってみせよ。それを我はこの場所より見守らせて貰おうと思う。だが、その前に南と東のぬしを従える必要があるからの。それを成し遂げた後にまた色々と話をしようではないか。良いな?」


「はい、地竜神様。また必ず近いうちにご相談にあがります。その時はウチの屋敷にておもてなし料理を作りますね。前世の料理ですので、食事はなされないとの事でしたが、一口でも良いので食べてみて下さい」


「フフフ、そうか。前世の料理をな。ならば楽しみにしておこう。帰りは案ずるな。メリエルの仕事が済めば、全員をテツの屋敷に飛ばしてやるからの」


 そう言ってくれたので甘える事にした俺たち。いや、実に有意義な時間を過ごせた気がする。


 そして、メリエルが転移陣をしきおえて戻ってきたので俺たちはおいとまする事にした。


「ではな、テツよ。白虎はテツの屋敷より西の守護をせよ。今のお主ならば可能だ」


「ハッ、我が神。仰るとおりに致します!」


「地竜神様、それではよろしくお願いします。また近日中にお呼びしますね!! 今日は有難うございました!」


 俺のその言葉に笑顔で手を振り、それを見たと思ったら地竜神様の力で俺たちは俺の屋敷の玄関前に立っていた。 


 よし、先ずは地竜神様の宿題を一つ一つ片付けよう!!

 俺は気合を入れたよ。


 

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