第35話 地竜神様だそうです
新刀と新防具を手に入れて館に戻ったらトゥリ、マナミの二人からも絶賛された。
ママンも俺を見てウルウルした目で言う。
「テツ、立派になって……」
「母上、これで領民たちをも守ってみせます!」
俺の言葉に遂に涙を零してママンがウンウンと頷いた。そして優しく俺を抱きしめてくれる。
ああ〜、やっぱりママンの胸部装甲は最高の癒やしだ〜。
それから俺はメリエルに向かって言う。
「メリエル、明日は魔境の奥に向かうよ。この魔境の
俺がそう言うとメリエルは頷き、そして脇に控えていた主様が口を挟んだ。
「ならば私が案内しようテツ殿」
「有難う主様。よろしく頼むね」
こうして遂に俺たちはテッサイたちが先に出会ってしまっているが、魔境の
翌朝である。領都を出たらソーンがオニ子を連れて来ていた。どうやら昨日のうちに転移陣でコチラに来ていたようだ。
「テツ様! 勿論ですが私も参りますぞ!!」
声がデカいよ、ソーン。俺はまだ耳は遠くなってないからな。
「分かったから、声が大きいよソーン。まだ朝早いんだから少し声を落としてね。それで、オニ子はどうして?」
「はい、テツ様。実は主様に誘われまして。ゴブリナも来る予定だったのですが…… 最近になってカルビ様の領都に恋人が出来たようで…… 今日はデート日だからパスと断ったようです……」
そ、そうなんだ。まあ、恋愛は大事な事だからな。でも、まさかゴブリナに限っては無いとは思うけど、悪い男に騙されたりしてないだろうな。
「テツ殿、ゴブリナには我が目を与えているから心配いらぬぞ」
あら、顔に出てたか? 主様に突っ込まれたよ。
「アハハ、そ、そうだよね。まあ、それじゃ、行こうか。メリエルにマナミもよろしくね」
今回はカナ、トゥリ、ミユーリはママンの護衛として残って貰う。みんな行きたがってたけど、さすがに全員でって訳にはいかないからな。
ベンは俺の代わりに報告書や意見書に対して決済をしてもらわないとダメだから勿論居残りだ。
こうして主様に案内してもらい出発した俺たちだが、今は立ち往生していた。
「いよう! 北の
「いや、西の! 今回はお前の守護地を通らせて貰うから事前に
「いや、そこだよ、北の! 魔通信だけで会いに来ないなんておかしいだろ? まだ百二十戦六十勝六十敗の決着もついてないのに!」
「いや、だからだな、今回は地主様に我が領主となられたテツ殿をご紹介に行くから、お主と将棋を指す暇はないと知らせたであろう……」
って、将棋かよ! つうか将棋あるのか…… その事実に俺はやりたくなったが、先ずは魔境の主に挨拶するのが先だと自分の心を戒めた。
「え〜、そんな人種の子供を何で領主なんかに選んだんだよ、北の。お前なら十秒で倒せるだろうがよ。俺なら五秒だけどな」
と恐らくだけどこの魔境の西を守護してる主様が言った途端に俺の連れたちが殺気だった。
こらこら、ソーン、お前は弱いんだから引っ込んでろ。
「ちょっとお待ちなさい! 今聞き捨てならない事を仰いましたね? 西のとかいう名なのかしら? あなたが主様とどういう関係なのかは知りませんが、我が主たるテツ様を貶める発言! テツ様の侍女長を勤めるメリエルがお相手致しましょう! その身を持って己の愚かな発言を悔いなさい!!」
そこで何故か主様が大慌てになる。
「待て! 待つのだ! メリエル殿! ここはどうかその矛を収めてくれ! 私からこの馬鹿によーく言い聞かす! だから一旦、私に預けてくれないか、どうか頼む!!」
必死になってそういう主様を見てメリエルが一つ息を吐き、
「主様がそこまで言うならば…… ですが二度は無いですわよ」
とそう言うと下がる。
「おいおい! 北の、何でそんなに慌ててるんだよ! 俺たちが人種ごときに後れを取る事は無いだろうが。おい、そこのネーチャン、お前が相手か? まあ女をいたぶる趣味はないから一瞬で大怪我しないようにしてやるよ、さあ、どっからでもかかってこい!!」
西の主様がその発言をした瞬間に北の主様が西の主様の頭をかなりな力でどつき回した…… アレは痛い。不意打ちだし余計に痛いだろうな。
「馬鹿か! お前は! お前の命はいま風前の灯だぞ!! 私がせっかくお前の為を思って取りなしてをいるのに、何をバカな真似をしてるのだっ!!」
頭をおさえて呻きながらも西の主様は北の主様に反論した。
「ぐうぅ…… い、痛いじゃないか! お前の馬鹿力でいきなり殴るなよ! それに、何度も言うが俺たちが人種に負ける訳ないだろうがっ。お前、ひょっとして
そこまで言った時にメリエルが再び前に出た。
「主様、その方につける薬は無いようです、お下がりなさい」
俺はメリエルに一言だけ言う。
「メリエル、魔境の主の大切な部下なんだろうからヤッちゃうのはダメだからね」
「はい、勿論ですわ、テツ様。けれども、思い知っていただくのは重要ですので!! 死なないように死なせますわっ!!」
いや、ダメだからな、メリエル…… ダメだ聞いてない…… しょうがない。最後は俺が止めるとしよう。
その言葉に主様…… ややこしいから北の主様が下がる。西の主様は前に出てきてまたメリエルに何かを言おうとしたようだが……
「スキだらけですわ! 【神雷】」
メリエルが静かに唱えた最上級雷魔法によって真っ黒になった…… いや、止める暇が無かったけど、取り敢えず回復してみるか?
俺は水と光の複合での回復を使用した。
「【癒やしの光水】」
すると真っ黒に煤けていた西の主様はキレイになったが、感電までは消して無いのでピクピク、いやビクビクと跳ねていた。釣られた魚みたいな動きだな。まあ、取り敢えず生きてるしいいか。
とそう思った時だった。急激に辺りの魔力密度が濃くなり、俺の前十メートルほどの場所に集まったかと思うと一人の偉丈夫がその場に立っていた。
「ほほう? 人ならざる魔力を感じてやって来たのだが、今のはお主じゃあないな。そちらの女性か?」
俺は直ぐに分かったよ。この偉丈夫が魔境の主だって。だからメリエルが返答する前に俺が前に出て答えたんだ。
「はじめまして、魔境を統べるお方。僕はオウバイ大王国の大王陛下よりこの魔境の開拓を命ぜられたテツ・オウガイと申します。子爵位を大王陛下より賜っております。今回は魔境の
俺の言葉に偉丈夫はフムと頷き、ビクビクしてる西の主様に向かって指パッチンをした。すると、西の主様がバッと起き上がり、
「ちっ、地竜神様、違うのです、この女に後れを取った訳ではなく、油断をしていだけで……」
言い訳をしようとして尻つぼみになってるよ。
「フフフ、西の守護を任せたお主は魔力を読むのが下手だからな。気にする事はないぞ、お主が弱い訳ではない。この女性、それからそちらの女性、それに我の目の前にいるこの少年が我が四方守護を任せたお主たちよりも強いというだけだからな」
そう言ってメリエル、マナミ、俺を指し示しながら微笑む地竜神様。おお、お顔もイケメンだ。俺が女だったら惚れてるよ。って、メリエルもマナミも興味無しか…… 俺は君たちの男性の好みを心配するよ。
「テツ・オウガイと申したか。お主、似ておるのう、オウバイ大王国の祖である、オウガイ・テツジロウに」
いきなり地竜神様がそう言ってきたけど、俺はそのテツジロウさんを知らないから、首を傾げるしかない。
「フム、ここでは落ち着いて話も出来ぬ。これより我が屋敷に招待しよう。騒ぐでないぞ」
地竜神様がそう言うと俺たちは気がつけば全員が立派な平屋の大屋敷の前に立っていたのだった……
やべえ、いつ転移させられたのかも分からなかったよ。こりゃ、力の差がありすぎるなとそんな事を屋敷を見ながら俺は考えていた。
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