第12話 味方からだそうです

 そうして、俺、ママン、メリエル、カナ、トゥリ、ベン、ルチア、サート、ナーナ、アオイ、レーイ、サユリに五名の侍女たちは歩きで屋敷を出て、大王宮の門も出た。そして、西門方面に向かう。


 西門では貴族門を利用して出たのだが、門兵に


「あの、僭越ながら私が馬車の手配を致しましょうか?」


 と心配されてしまった。まあ、幼い子も連れているからそう言ってくれたのだろうが、その心優しい門兵に何かあってはいけないと思い、


「有難う、その心遣いは必ず覚えておくよ。もしも何か助けが必要な時にはコレを飛ばしてくれ」


 と、マナミ特製の式紙を渡しておいた。その式紙は産婆さんにも渡しているし、俺たちの事を好意的に見てくれている者たち全てに渡してある。

 それを見てカナなどはマナミの残した物を使うなんてと憤っているが……


 そう、カナもトゥリも俺に退職届を出して侍女を辞めたミユーリとマナミに対してかなり怒っている。勿論だがそれに着いていった五名の侍女たちにも。しかし、まだ大王都から近いこの場所でその話をするのは不味い。

 ベンがそれとなく二人に言う。


「カナさん、トゥリさんもそれぐらいにしておけ。一番悲しいのはテツ様なんだから。そのテツ様に思い出させるような話はするな」


 ベンの言葉にハッとするカナとトゥリ。直ぐに、


「テツ様、申し訳ありません」


 と二人から謝罪を言われた。が、俺は笑いを堪えるのに必死で肩を震わせ二人に背を向けたまま頷く事しか出来なかった。それを見た二人が俺の悲しみが深いと思ったと後で聞いた時には大声で笑ってしまったが。


 しかし、ベンは役者だ。沈痛な表情で話すものだから、真実を知るルチアやママンまでもが悲しそうな顔をしている。一人だけ澄ました顔をしているのはメリエルだ。

 どうやらメリエルは察しているらしいな。


 それから俺たちは黙々と歩き続けた。大王都から五キロ離れた場所でママンが魔法を使用した。


「それじゃ、やるわねテツ。【遮視結界、遮音結界、遮気結界】」


 今やママンの魔力は178で結界魔法もママンを中心に最大半径五十メートルまで展開出来る。

 今はママンを中心に八メートルほどで展開してもらっているけどな。


「母上、有難うございます。コレでもしも追手が居ても遠目などでは僕たちが見えないので安心して移動できます。ベン、案内を頼むよ。それと、ルチア、ナーナ、レーイは子供たちを連れてきて」


 俺はそう言うと便利箱に入れていた乳母車を出した。前世の乳母車を参考にベンに頼んで作らせたのだ。三人は寝ている子供たちを俺に言われるままに乳母車に乗せた。

 ゴムは無かったけどバネはあるこの世界。サスペンションはバッチリだぞ。


 それにゴムの代用品としてスライムの皮とスライムジェリーでタイヤを作ったからな。ある意味ノーパンクタイヤだ。

 スライムの皮は熱を加えると縮むけど、表面がかなりしっかりして石程度では破れなくなるんだ。この世界ではそれを利用して傘が作られているけどな。


 こうして準備できた俺たちはベンの案内で街道から少し外れて歩き出した。ベン曰くこの先に寝泊まり出来る家屋があるとの話だ。


 そして歩くこと十五分。遂にその場所にたどり着いた。俺たちをそこで待っていたのは……


「テツ様、お待ちしておりました!」

「テツ様、準備は全て整ってます!」


 辞めた筈のミユーリとマナミに五名の侍女たちだった。

 カナとトゥリが口をパクパクさせている。メリエルはやっぱりといった表情だ。

 ママンとベンとルチアは知っていたから通常通り。他の侍女たちは辞めたと聞かされていた五名に会えてビックリしているが。


「テッ、テツ様…… 何故ここにミユーリが、マナミが?」


 みんなを代表してトゥリがそう聞いてきたけど、先ずはこの家屋に入ろうという話になった。家屋は二階建てで前世でいう三十坪(約九十九平米)ほどの面積に建てられている。

 ママンは先程の魔法を解除してから、家の中心に用意された魔力石に先程と同じ結界魔法に足して忌避結界魔法を込めた。

 これでママンの魔力を使用せずにこの家屋は見えなくなった。魔力石を中心に半径五十メートルの範囲だ。

 

 さてと、説明だけどベンにしてもらおうかな。俺が我が物顔で説明したら嫌味ったらしい八歳児になるしな。俺はそう思ってベンを見た。

 ベンは全てを心得ているように俺を見て頷きかけ話を始めた。うん、本当に優秀だ。


「さて、先ずはコチラの皆様には謝罪を致します。今回の事は私の発案でして、アミーレ様とテツ様には反対されたのですが、私が強引に事を進めさせて貰いました。申し訳なく思います」


 いや、何を言ってるのかな、ベンは。俺の意見でしょうが。


「ベン、ダメだよ。僕が立案して実行をお願いしたんだから。そこはちゃんとしておこうよ」


 俺がそう言うとベンは困ったような顔をして言う。


「テツ様…… いえ、そうですね、テツ様ならばそう言われる筈でした…… メリエル様、カナさん、トゥリさん、それにシャイ、メイ、セイ、マイ、キイの五人とも、私がテツ様からのご指示でミユーリさんやマナミさん、それに、ラミ、レミ、ナミ、タミ、スミの五人を辞職した事にしたのだよ。私はロドス様からの嫌がらせを読んでいたので、そのご報告を一年前にした際にテツ様が今回の事を立案されたのだ。ここにある建屋は昔からある建屋で、元々は私の実家のものだったのだ。何年も放置していたので傷んでいたが、テツ様からご了承を頂き修繕しておいたのだ。そして、私が派手に動き魔境への準備をしているように見せかけている裏で、ミユーリさんやマナミさん、五人の侍女たちが協力してここに魔境へと赴くための準備を着々と進めてくれていたのだ」


 ベンは主にシャイ、メイ、セイ、マイ、キイの五人に語っている。まあ、その事をメリエルたちに黙っておくように指示したのは俺だけどね。それについては俺から言っておく方がいいよな。


「屋敷にあった古い書物の中に先人の知恵が書かれていた物があったんだ。その書物には【敵を欺くには先ず味方から】という言葉があってね。狡猾な敵を欺く為に一時的に味方をも欺く事で完璧な作戦となると書かれていたから僕は実行させて貰ったんだ。でも、騙すような形になってしまってみんなごめんね……」


 殊勝な顔でそう謝るとカナやトゥリ、それにシャイたちも首を横に振り、


「いいえ! それでマナミたちに降りかかる火の粉が無くなるならば、ご英断だと思いました!」


 と言ってくれたよ。ホッとしたね。メリエルだけは俺の前に跪き、


「私はいついかなる時もテツ様を信じておりました」


 と言って俺の頭をその胸に抱えてくれたよ。俺に至福の時間が訪れた。


 ああ〜、今は疲れてるからそんな至福を与えられたら寝てしまうぞ、メリエル〜


 ……と思っただけで本当に寝落ちしてしまったようだ……


 翌朝である、ミユーリやマナミたちが用意してくれた馬車に乗り込み、俺たちは移動を開始した。馬車は一台である。が、この馬車は空間魔法を使用した特別製で、内部はとても広い。そして、勿論だが魔力石が設置されていて、ママンが結界魔法を込めてくれているのだ。更にはバネを利用してあるし、車輪は乳母車のタイヤと同じようにスライムの皮とジェリーを使用している。


 引いてくれている馬は二頭。実は魔獣とのあいの子で、処分されようとしていたのをミユーリが助けて大切に育てていたのだ。

 頭も良くて力も強い。もちろん、飼い葉も食べるのだが、少量の果物と水、魔力を与えてやる方が喜んでくれる。


 さあ、コレで快適な旅は約束されたぞ。魔境までは飛ばせば十日ほどで着いてしまうけど、急ぐ訳ではないので、ユックリと進む事にした。


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