第22話 農についてだそうです


 昨日はママンの新たな一面を見た所為で途中で止めてしまった会議を今日は朝から再開する事にした。

 ノムラさんとエイリンさんもちゃんと来てくれている。そして、昨日は居なかった長老さんが二人きてくれた。

 オークと人のハーフであるゲルグさん(男性)と、ハーピーと人のハーフであるスレイナさん(女性)だ。どうやら二人は夫婦らしい。


「フォッフォッ、ワシらが役に立つかのう? 婆さんや」

「ホッホッ、年寄りの意見も重要じゃて、爺さんや」


 って言ってるけど二人とも見た目は三十代後半だから違和感が半端ない…… だが、オニ子によればゲルグさんは七十二歳でスレイナさんは六十八歳らしい。

 どういう事なんだと思ってたら、一瞬目の前が白くなりウェバーの前に俺は立っていた。


「ウオッ! イキナリだな!?」


『はい、お久しぶりですね【童貞】魔法使いさん。アナタにこの世界の年齢と見た目のギャップについてお知らせするのを忘れてましたので。あ、ここでの時間は一秒に満たないので時間経過は気にしなくて大丈夫ですからね』 


「ここで会ったが百年目ーっ!! 喰らえ! 合戦武闘術奥義【流連拳】!!」


 しかしその攻撃がウェバーに当たる事は無かった。


『ここで業務連絡です。ここに私の実体はありませんので、悪しからず』


 クソッたれ〜……


『何をそんなにお怒りになられてるのかは分かりません(クスッ)が、取り敢えず説明をさせて下さいね。私の管理するこのマルセラームでは、男性も女性も信仰心のあつい者には【見た目特典】を授けております。これは管理神である私だけではなく、このマルセラームで神として崇められている神々全てが自身の信者に与えている特権です。その信仰心のあつさにより違いますが、最高でも三十代前半で見た目年齢をストップさせる感じですね。ですので、実際の年齢と見た目が違う場合にはその者の信仰心があついのだと思って下さいね。以上、説明を終わります』


 いうだけ言って元に戻された俺。だが、それで納得はした。ならば俺も頑張ってウェバー以外の神を信仰しようと思う。

 絶対にウェバーアイツを信仰したりはしないっ!!


 心に固く誓い俺はゲルグさんとスレイナさんに言った。


「お二人とも今日はよろしくお願いします。ゲルグさんは鍛冶の腕も確かだとお聞きしてますし、スレイナさんは料理の腕が素晴らしいとお聞きしております。そんなお二人の貴重なご意見をお伺いさせて下さいね」


 俺がそう言うと二人とも目を丸くして言った。


「こりゃ驚いた!? 婆さんや、この子は本当に八歳かの?」

「爺さんや、私もおったまげ〜じゃよ!」


 いや、そこで夫婦漫才をしない。ママンも俺が褒められて嬉しいのは分かるけどニコニコなままドヤ顔はやめようね。因みにハーピーとのハーフだけどスレイナさんはちゃんと腕がある。肩から羽が出ているけど、ハーフの弊害なのか飛べる力は無いらしい。それと羽はちゃんとたためるようになってる。


「長老様方、領主様に失礼ですよ」


 オニ子がそう言って二人を諌めたけど、俺は気にしてないからな。


「良いんだよ、オニ子。僕は確かにまだ子供なんだから。お二人からしてみれば孫? ひ孫ぐらいの年齢なんだし」


 俺の言葉に二人は嬉しそうに目を細めて言った。


「どうやら本当にご領主様はハーフに嫌悪感を持っておられんようじゃの」

「そうだね、爺さんや。こりゃ私たちも、もうひと踏ん張りしないとダメだねぇ〜」


 俺は二人の言葉によろしくお願いしますと言ってからノムラさんに聞いた。


「ノムラさん、この地では主に何を作っておられますか?」


「ご領主様よ〜、オラ、口が悪いけんど許してくれよ〜。それと、オラの事は呼び捨てでいいだからな〜。この地ではよ〜、偶に来る行商人から勧められてよ〜、主食用としてオムギとオマイっつう穀物を作ってるだ〜よ〜。野菜は、気候事になるだが、暑い時はウリ関係が多いべな。寒くなる少し前の涼しい時はトマットやオーナスを作ってるべ。あ、ダーイコンやオカブもあるべな。村で消費しきれない分はエイリンがナースコールに持って行って売ってくれてるだ」


 なるほど。エイリンさんは純粋エルフだからナースコールに行っても迫害されたりはしないんだな。


「エイリンさん、ナースコールではどれぐらいの売上があるんですか?」


 俺の問いかけに答えるエイリンさん。


「領主様、私もエイリンと呼び捨てにして下さい。(ハアハア、鼻血出そう……)そうですね、村で消費しきれない野菜類を持って行けば大体いつも銀貨三枚から四枚ほどにはなります。これは野菜としてはかなりいい値だと思っております(だから褒めて下さい、ご領主様!?)」


 確かにだな。量は分からないけどそれ程大きな畑や田では無いから村で消費しきれないといっても大した事は無いと思う。それでこの物価の安い世界で銀貨三枚〜四枚になるなら大したものだと思う。そう思った俺は素直にエイリンさんを褒めた。


「それは凄いね。何かしらの付加価値でもあるのかな? いや、きっとエイリンの交渉術が凄いんだね!!」


「(ほっ、褒められた〜!! でもここで喜んじゃダメよ。エルフの里の二の舞いになるわ! ショタがバレて追放されたと知られたら…… 耐えるのよ、私! 私は氷の微笑のエイリンなのだから!?)

そ、そんな事はございません。この地で作られてる野菜たちが余りにも美味しいからです。ノムラの力ですわ!」


「いや〜、それ程でもあるっぺな〜!!」


「ハハハ、きっと両方が良いんだろうね。でもそれなら僕も一つ食べてみたいな。今ならウリ関係の野菜があるのかな?」


「おお、食ってみるだか? ホレ、コレはオラとこの畑で取れたキウリだべ」


 ノムラが直ぐに反応してキウリ(キュウリだな)を差し出した。だが、その横からゴブリナが同じくキウリを差し出してくる。


「ノムラのおっちゃんのよりオラの作ったキウリの方が美味いべ。領主様、食べ比べてみるだ」 


 二本のキウリを見比べてみると、僅かにだがゴブリナのキウリの方が輝いて見える。そこで、メリエルが収納袋からまな板とナイフを取り出して輪切りにして皿に乗せた。


 俺とママンとベンとメリエルとミユーリはそのまま食べ比べてみたのだが……

 どちらも美味い! だが、ゴブリナの言うとおりゴブリナのキウリの方が美味い!!

 前世ではどちらかといえば嫌いだったキウリ(キュウリ)だが、このキウリならばいくらでも食べられるぞ。


 他のみんなも口々に美味しいと言って驚いている。


 そこで俺はノムラの名誉の為にある提案をした。


「確かにゴブリナのキウリの方が美味しいね。だけど、ノムラのキウリも美味しいよ。それと、ノムラのキウリなんだけど…… メリエル塩はあるかな?」


 俺がそう言うとメリエルが塩を出してくれたのでノムラのキウリにババッと塩を振り暫く待った後に塩を軽くもみこむ。それから生活魔法の飲水を利用して余分な塩を流した。

 それを二回繰り返して俺はまな板でキウリを切ってみんなに配った。勿論だがゴブリナのキウリにも同じ事をした。


「食べ比べてみてよ」


 俺がそう言うとみんなが驚く。


「ノムラさんのキウリの方が美味しい!?」

「なっ、なんでだべ?」


 俺はゴブリナに説明をしてやった。


「ゴブリナのキウリはそのまま頂くならば天下一品の出来栄えでとても美味しくて瑞々しいよ。一方、ノムラの方のキウリはその瑞々しさが一歩及ばない。でも、そのお陰で塩がよく浸透するんだ。実はゴブリナのキウリの方も一分だけ長く塩を浸透させたら同じ味になるんだけど、時間短縮出来る方が良いよね?」


 そう、軽く塩もみする簡単なお漬物を作ったのだが、それにはノムラのキウリの方が合っているのだ。


「いんや〜、すんごいべな、ご領主様は!?」


 ノムラが驚き、スレイナさんが、


「コレって新しい食べ方だね〜。領主様、村のみんなに教えても良いかしら?」


 と聞いて来たので俺は勿論と頷いた。他にもあるよと思ったけどここでいちどに披露するのはやめておく。何処で得た知識なんだと突っ込まれると困るからな。既にママンからは何処でこんな知識を? みたいな目線を貰っている。あとで何かの言い訳をひねり出さないとな……


 それから、俺たちは話合いをして俺が街を作るまではナースコールに売りに行く。街ができたら住人の割合を見ながら俺が買い取るという話になったのだった。


 本当はオマイを早く食べたいけど、まだ我慢するよ……




 



 

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