第23話 街を作るそうです

 俺の開拓は今からが本番だ。そう、俺は今から街を作らなければならない。場所の選定は昨日、終わった。ハーフたちの里村から凡そ四百メートル離れた場所に俺の家を建てる事に決めた。本当なら五百メートル離してと思っていたのだが、その場所にちょうど小川が流れていたので百メートル縮めたのだ。

 

 因みにここはまだ主様の縄張りに入ってる。主様の縄張りは寝ぐらを中心に東に二キロ、西に一キロ、北に八百メートル、南に三キロらしい。その範囲内では以前ならば主様の庇護の元に魔物や魔獣が襲ってくる事は無かった筈だが、ママンの結界魔法により魔物や魔獣たちは主様の気配を感じ取れなくなった為に、俺が今から作ろうとしている街の建設中にも襲ってくる可能性がある。

 

 だが、それが俺の物理耐性体質を育てる機会になると見て主様にはそのまま寝ぐらか里村以外には行かないようにお願いをした。

 フッフッフッ、これで物理による耐性を身につける事が出来る筈だ。


 いくら俺の侍女たちが優秀だろうとも数の暴力には勝てまい。俺が戦う必要が必ずある筈だ。そんな事を過去十分前の俺は思ってました……


「テツ様、お怪我はございませんか?」


 いや、無いよメリエル。君の攻撃魔法により消し炭となり魔力石だけ残した森林狼十八頭を見る限り、俺に怪我が無いのは分かりきってるよな……


「テツ様! 危ないっ!!」


 いや、トゥリよ…… まだ二百メートルも離れてる飛鶏の群れ四十羽をひと振りで首を刎ねておいてその言葉は可怪おかしいと思うのだが……


「テツ様直伝の技を見ろっ!! 合戦武闘術中伝、【傀儡舞】!!」


 うん、カナはもうそろそろ奥伝を覚えてもいいようだね。俺も弟子が育ってくれて嬉しいよ……


「雷火遁!」


 マナミ、君には伝えたよな…… 俺の耐性体質について…… ひょっとしてもう忘れたのかな?


「ウフフフ、テツ様、お疲れでしょう。エイッ、【ゴッドブレス】!」


 ミユーリ…… 俺は精神的な疲れを感じているだけで、それもミユーリが抱きしめてくれてるから、後頭部に当たるミユーリの胸部装甲によって癒やされてるから、死者以外は完全に回復する魔法を使う必要は無いからな……


 とまあこんな感じで街作りが始まっていた。

 

 先ずはベンがハーフの里村から男手を集めて俺の住む場所を建ててくれている。大工スキルを持った男が三人居れば二階建ての建屋の骨組みって直ぐに出来るんだな…… もちろん、簡易作業テゴの人たちが五人ほど別に来てくれているが。


「テツ様、このような感じでよろしいでしょうか?」


 ベンに聞かれても頷くしか出来ない俺。だって半日で骨組み出来てるから。それもスキルだって説明を受けたけど木を切って柱を作ったのが昨日で、今朝から骨組みを建て始めて昼前に完成。凄すぎだろ、大工スキル。


 まあ俺も遊んでいた訳ではない。土魔法で街を囲うようにメリエルと二人で土塀を建てていったのだが、まだ予定の半分しか出来てない。だが、それも明日には完成する予定だ。


 大工さんいわく、俺の家も明日には外観が終わり内装に入るらしい。早すぎだろ?

 

 で、街割を早めに考えて計画書を出して欲しいとも大工三人衆に言われたので、ベンと二人であーでもないこーでもないと書いては消し書いては消しを繰り返している現在……


「テツ様、領主の屋敷の近辺には何も建てずに街の中心部に役所や治安維持の兵士詰め所、それにギルド関連の建物を建ててそこから住民の住居、農地、各種販売所や商店、宿屋などを決めて行きましょう。そうしないといつまでも決まりません」


 ベンの言葉に頷く俺。


「うん、そうだね。そうしよう。但し、役所と兵士の詰め所は僕の家から一本道で繋ぐ事にしようよ。連絡が直ぐに僕に届くようにしたいから」 


「そうですね、テツ様。街中での出来事が直ぐに連絡が来るようにしておくのも大切ですから。それならば、この案を元にこうしていけばどうでしょうか?」


 とベンがボツにした案の中から一枚を手に取り書き直しながら街割を示してきた。

 俺はそれを一部訂正して、更にベンも訂正を入れてようやく二人ともが満足する形に出来た。


 で、今、俺とベンの目の前には怒れる美女が七人ほど居る……


 ママン、メリエル、カナ、トゥリ、ミユーリ、マナミ、ルチアが俺とベンの傑作街割図を見てダメ出しをしているのだ。


「テツ、これは何? そう、街割なのね…… でもね、テツ、これじゃダメじゃないかしら? 畑などの農地をどうして外にしたの? それに家畜小屋まで…… あらそう、私の結界で守るの? 魔力石を利用して? へぇ〜、ベンも賛成したの? 私には一言の相談もなく?」


 ママンからの怒りの威圧オーラを食らって俺は既に気死しそうだ。気力だけは人並み以上にあるのに……


「ベン、どういう事かしら? 私たち筆頭侍女の部屋がテツ様のお屋敷の外の離れにあるなんて? 貴方は侍女の仕事を分かってないようね? いついかなる時でもお側にいてテツ様をお守りする私たちの仕事を!!」


 メリエルにそう詰められるベンは更には、


「貴方…… 失望したわ、こんな街割を考えていたなんて…… これでは街の発展を望めないわ…… サートと二人で貴女の元を去る事になりそうだわ……」


 と妻であるルチアにまで辛辣な言葉をかけられて涙目になっている。

 俺には更に、カナ、トゥリ、ミユーリ、マナミから、


「テツ様、街に住む者たちの安全を守る治安維持の兵士の詰め所が一か所で足りるとでも?」(カナ)

「テツ様、宿屋を二軒としたのにはどんな理由がお有りですか?」(トゥリ)

「テツ様、治療所が無いのは何故なのかしら? 街では誰も病気や怪我にならないのかしら?」(ミユーリ)

「テツ様、街に住む人たちが気軽に運動出来る場所が見当たらない? 無いの?」(マナミ)


 などとダメ出しを食らっている。怒れる美女たちの遥か後方には大工さんたちが街割図を受取に来ているのだが、五メートル後方にいた筈が今は二十メートルは離れてる。


 俺とベンはお互いの目を見て確認しあう。そして、互いにタイミングを合わせて目の前にいる怒れる美女たちに土下座して叫んだ。


「「スミマセンでしたーっ!! 愚かな僕(私)たちの街割図をどうか手直しして下さいっ!! よろしくお願いしますっ!!」」


 そう素直に謝ったのが良かったのだろう。美女たちはやっと怒気をおさめてくれ、それから街割図について修正をしてくれた。


 待っていた大工さんたちは震えながら受け取っていたが……


「さあ、テツ様! あの街割図でしたら土壁の範囲を今よりも広げる必要があります! 頑張りましょうっ!!」


 俺はメリエルに手を引かれて土壁作りに向かう。当初の予定では農地関係を土壁の外にするつもりだったけど、美女たちの街割図では街中になったので…… うん、今出来てる土壁も五百メートル外に押し出す必要があるんだな…… 分かりました、メリエル師匠。俺のミスなので俺がちゃんとしておきます……


 こうして、俺の子爵としての領都の建設が始まったのだった……


 ベン? ベンはその後にルチアと仲直りをする為にママンに仲裁を頼んだらしいよ。で、ママンの仲裁によってルチアとちゃんと仲直り出来たそうだ。

 何だかママンが大王国の王都にいた時よりも逞しくなっている気がする……

 ひょっとして弟子を持ったからか?

 

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