第24話 機会がありそうです
何やかやと忙しく過ごす俺たちだが、魔境で一週間が過ぎた頃、ゴブリナが建設中の街にやって来た。あ、既に俺の屋敷は完成してるからそこに住んでいる。
「領主様よ〜、オラたちの村に行商人と焼き鳥やとか言う人がやって来ただよ〜。何でも領主様と約束してたとか言ってるべよ?」
そこで俺はナースコールでの出来事を思い出した。ああ、あの行商人カリュウさんと焼き鳥のおっちゃんが律儀にも来てくれたんだな。
でも里村に来たって事は焼き鳥のおっちゃんはともかくカリュウさんが前から来ていた行商人なのか?
「ゴブリナ、カリュウさんが前から里村に来てた行商人なの?」
俺は素直にゴブリナに聞いてみた。
「んだ、そうだべ。カリュウのおいちゃんはフラッとやって来てから気に入ったのかそれから定期的に来てくれるようになったべ」
ふーん、ナースコールの時はそんな事は一言も言わなかったけどな。まあ、良いか。取り敢えず会いにいこう。でも、カリュウさんはともかくとして、焼き鳥のおっちゃんは二ヶ月後って言ってたのにどうしたんだろうな?
そんな事を思いながらゴブリナについて里村に向かうと何やら良い匂いが漂ってくる……
焼き鳥やいてるよ、おっちゃん。そういえばおっちゃんの名前を聞くのを忘れてたな。って、うちの侍女たちがちゃっかり並んで焼けるのを待ってるんだが……
侍女たちはそちらに向かっている俺に気がつくとあからさまに目線を俺から逸らす。いや、良いからね。買い食いしたって罰したりしないし。今のところは休憩時間なんだから好きにしていいから。
俺はそう思いながら焼き鳥屋台の横からおっちゃんに声をかけた。この屋台もしかして引いてきたのか?
「お久しぶりです。でも二ヶ月後って言ってたのに何でこんなに早く来たんですか?」
そう声をかけてみたら俺を見ておっちゃんが言う。
「いや、カリュウが一緒に行こうって誘ってくれてな、屋台もカリュウの魔法カバンに入れてくれるって言うから着いてきたんだ。いや〜、ここは良い村だ。あんな大人しい飛鶏がいるとはなぁ」
とおっちゃんはさっそく家鶏に目をつけてるようだ。
「あれは飛鶏じゃねえだ。飛鶏と野鶏の間の子で家鶏だべ。森に偶に居るのを連れ帰って家畜にしてるだ」
ゴブリナがおっちゃんの間違いを訂正している。
「おっ、そうなのか? 嬢ちゃん、教えてくれてありがとうな。だが、何羽か〆る為に分けて貰えるか? というかここは本当にあの魔境か?」
おっちゃんも疑問に思ったようだけど……
「ここは間違いなく魔境の中ですよ。まあ、入り口付近という所ですけど。でも、家鶏で焼き鳥ですか? それも良さそうですね。あ、名前を聞くのを忘れてたので教えて下さい」
「おう! そういえば名乗ってなかったな。俺はヤマキというんだ。焼き鳥屋台のヤマキだ。よろしくな、領主様」
ん? よろしくなって?
「あれ? 言ってなかったか? 俺は領主様の開拓する街に移住するつもりだ。だからよろしくって言ったんだが」
たった今、初めて聞きましたけど。まあ移住してくれるなら住民一号だからね。俺はニコっと笑っておっちゃん改めヤマキに言った。
「はい、住民一人目ですね。よろしくお願いします」
「っと、この口調も改めないとダメだな。よろしくお願いします、領主様」
ヤマキはそう言って俺に対する口調を改めた。だが、街にはまだ住居は出来ていない。その事を告げるとヤマキは、
「ああ、それについては大丈夫だ、です。この里村の空き家に住まわせて貰う事になったから、です」
と、何とか口調を改めようと苦心している様子を見せながら教えてくれた。
「そうなんだ、それなら良かったよ。それで、カリュウさんは何処に居るか知ってる?」
「ああ、カリュウなら村長に会いに行ってるよ、です」
もう、口調はくだけてて良くね? 俺がそう思いベンを見ると苦笑しながらヤマキに言った。
「ヤマキと言ったか…… テツ様は寛大なお方だ。お前の口調を改める必要は無いそうだ。だが、出来ればで良いから他の庶民が居る前では努力はして欲しい。この里村の中ではくだけた口調でも構わないがな」
「おう! そりゃ有り難い。どうも丁寧語ってのは苦手でな! という訳でテツ様よ、ここでは口調を崩させてもらうぞ」
はいはい、どうぞ。俺も庶民とは言え年上の人にですますで話しかけられるのは慣れてないからな。あ、幼児の頃から一緒にいる侍女たちは別だけどな。それでも慣れるまでは時間がかかったしなぁ。いっそ、俺の領地では無礼講という事にしようかなぁ……
などと考えているとゴブリナがヤマキにただならぬ事を言い出した。
「おっちゃん、
ナニーっ!! オマイの準備だとぅ!! まっ、待て! ゴブリナよ! 俺も行く!!
「まっ、待って、ゴブリナ!! 僕も見に行っても良いかな? 実はあの田んぼっていう畑に実ってたオマイに興味があって!?」
慌てて俺はゴブリナにそう言うと、不思議そうな顔をしながらもゴブリナは頷いてくれた。
「領主様は変わってるだなぁ。あのオマイはそんなに美味しい物じゃないべ。だからこの焼き鳥と合わせてなら少しは美味しくなるかなって思っただけだべ。それでも興味があるなら見にくるべ?」
行く、行くとも! 恐らくだが炊き方に問題があるんだろうと思う。俺が真のオマイの美味しさをこの里村から発信してやる!!
そう心に誓いをたてて、俺はゴブリナに着いていったのだった。
そしてゴブリナの家には納屋があり、そこにオマイがあった。が、玄米状態のままだったので俺はゴブリナに聞いてみた。
「ゴブリナ、精米ってしないの?」
「精米ってなんだべ?」
そうか、ここでは玄米のままなのか…… だがしかーし! 俺は白米が食べたいのだ!! 俺は自分の便利箱の中を必死で検索する…… あったよ、ちょうど良さそうな石臼が!!
本当は麦を潰して粉にする為の石臼だけど、ちょうど良いよな?
いや、確かに用途は違うけど使用出来そうだからコレを使おう。そしてオマイを
俺はゴブリナに言う。
「ゴブリナ、ちょっと試したい事があるからオマイを少しわけてくれる? 僕の知識が正しければかなり美味しくなると思うんだ」
「ええ〜、ホントだべか? オマイが? 美味しくなるって? まあ、良いだよ。ホレ、これぐらいでいいだか?」
そう言うとゴブリナは三キロ程のオマイを俺にわけてくれた。よーし、やるぞ!!
わけてもらったオマイの玄米を石臼に投入して、搗くのにちょうど良い木を手にした俺を見て着いてきていたベンが聞いてくる。
「テツ様、何をされるのですか?」
「ベン、今からこの木で臼の中のオマイを搗いていくんだ。そうしたらこのちょっと黄茶色の表面が擦れて白くなってくるから、そうなるまでひたすら搗いていくんだよ」
俺は自身に身体強化をかけて見本を見せてベンに説明をした。あまりに力任せに早く搗くと熱が出るから一定のリズムを保ち、木の重さに任せて玄米を搗いていく。
「テツ様、要領は分かりました、代わりましょう」
ベンがそう言ってくれたので途中で交代する。身体強化をかけてるとは言え、なかなかの重労働だ。何気にゴブリナの方を見ると玄米を洗米せずに無造作に鍋に入れて、水をたっぷりと入れて火にかけていた。そりゃ、美味しくないよ、ゴブリナ。
「ゴブリナ、いつもそうしてるの?」
「んだ、コレがオマイをこの里村に持って来てくれた人が教わったやり方だべ。だけんどその人が言うにはもっと粒が長いオマイだったって言ってたべな。何故かこの里村でオマイを植えると短い粒にしかならないべ」
土壌の違いか、微生物の働きか分からないけど突然変異したって事か? まあ、どっちでも良いか。俺は火にかけたばかりの鍋を火からおろしてゴブリナに言う。
「コレもちょっと待って。今から僕がやるやり方を見ててね」
そう言い俺は鍋の濁りきった水を捨てた。それから二回ほど玄米を水で研ぎ、✱手分量で水を図って鍋に入れる。そして、鍋のフタをゴブリナに言って用意してもらい、フタをして火にかけた。
「そったらしたら火が通ったか分からないべ」
ゴブリナがそう言うが、俺は大丈夫だからと言って火の番をゴブリナに頼んだ。フタを押し上げてボコボコしてもフタを取らないでねと念をおしておく。
それから石臼を見ると五分づき米ぐらいにはなってるからベンにもう良いよといって、糠と米を分けた。この糠は後でゴブリナに上げよう。
ぬか漬けにも使えるし、畑の肥料にもなるし。
それから俺は精米した米を手早く洗米して、鍋に玄米の時と同じように水を入れて火にかけた。
はじめチョロチョロ中パッパッーだ!!
炊き始めて二十分ほどでゴブリナの知らない香りが辺りを包んだ。
「ほえ〜、初めて嗅ぐ香りだけんど、悪い匂いじゃねぇべな」
玄米の方は既に炊きあがっているから途中で火からおろしてもらい、蒸らしている。コチラの白米もそろそろだから、鍋のまま持って行くことにした。
やっと、
✱注釈
【手分量】
作者が遥か彼方である幼少の頃に父から教わった米に対する水の量の図り方です。
洗って入れた米の上に手の甲を上にしておき、甲の七割〜八割弱が水に浸かるまで入れると良いというものでした。
目盛りが無い土鍋や飯盒などで炊く際にはその方法で水の量を決めております。
新米か古米で水の量は変わりますので、七割〜八割弱という幅になります。
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