第25話 オマイを食べたそうです
遂にこの日がやって来た。俺は心の中で感動している。この世界に産まれて七年(歳は八歳だけど)、遂に前世の主食、米、ライス、オマイを食する日がやって来たのだっ!!
まだ酒が飲めない年齢の俺は何かを食する度に、ああ、この肉は米にあいそうだ! とか、この調味料を使って焼き飯を作りたい! とか何度思ったことか!!
そして、遂に焼鳥丼を食する機会が今、この時にやって来たのだった!! 感無量である!
いや、まだだ! 感無量になるのは実際に食べてからだっ! 焦るな、俺よ!!
俺が鍋を持つベンとゴブリナを引き連れて戻るとヤマキが聞いてきた。
「おお、その中にオマイがあるのか? 師匠が言ってたオマイをここで食べられるとは!? 来て良かったよ!」
俺は便利箱から簡易な机と椅子を出した。机の上に鍋を置いて、先ずはゴブリナの玄米鍋のフタをとった。
よーしっ!! 見事なカニ穴がそれなりにある!
残念ながら底が平たい鍋だからか前世の土鍋や炊飯器で炊いたみたいには数がないけど、それでも十分に美味しく炊けてるだろうと思う。
だが、ゴブリナがそれを見て言った。
「うわ〜、ポコポコとメメズ(ミミズ)穴が空いてるべ。気持ちわりいなぁ……」
「いや、違うから! ゴブリナ、コレはね、カニ穴って言って上手に炊けた証なんだよ」
俺は慌てて訂正したが、他のみんなの目にはもはやメメズ(ミミズ)穴にしか見えてないようだ……
それでも俺が器に炊き上がった玄米をよそうとゴブリナがまた声を上げた。
「アレ? いつものより臭くねぇべ…… いつもはもっと臭いんだべっけど……?」
それはね、洗米せずに炊くからだよ。表面の古いぬかが悪さをしてたんだ。古ぬかを洗米でさっと落としてやればそこまで臭くならないんだよ。
一口食べたゴブリナは、
「こりゃ、うんめぇべーっ!!」
と大きな声を出した。その声に村人も集まってくる。
「どうした? ゴブリナ? ん、それは玄米か? 玄米がそんなに美味しい訳ないだろ?」
「ゴブリナ、そったら大声だしたら皆がビックリするだよ!」
口々に言う村人の口にゴブリナは炊き上がった玄米を放り込んでいった。
「っ!? うめぇーっ!!」
「まだ、多少の匂いはあるけど、気にならないな…… 確かにいつもより美味しい!!」
村人の反応も上々だ。そこでヤマキに断って俺は焼鳥を串から外して炊き上がった玄米の上に置いた。
「一緒にかきこんでみてよ。絶対に美味しいから!」
俺の言葉にご領主様が言うならと、玄米と一緒に焼鳥をほおばる村人たちの目が光った。いや、村人たちだけじゃなく、ベンの目も、ヤマキの目も輝いた。
「ふぉーっ!! 私の中の私が喜びを!!」
ベン、大丈夫か? 何か筋肉がシャツを破りそうな勢いだけど…… ああ、そういえば玄米って白米よりも栄養素が豊富なんだよな。ましてやここは異世界だから何かの効果が付与されるのかな?
「こっ、こっ、こっ、これはっ!! 新しいっ!! 俺の焼き鳥が進化、いや神化しやがったーっ!?」
いや、違うからなヤマキ。決して進化した訳じゃ無いからな。
俺も玄米の上にちょこんと乗せたモモ肉と一緒に頬張ってみたが、確かに美味い。だが、コレが白米だと…… そう、俺の本命は白米だ。
フッフッフッ、この里村にオマイレボリューションを起こしてやるぜっ!!
その時だった。コチラに向かってやって来るママンを筆頭としたメリエル、カナ、トゥリ、ミユーリ、マナミにルチアを目にした俺は咄嗟にママンに向かって叫んだ。
「母上!! ちょうど良いところに!! 是非とも母上に試食して頂きたい物があるのです! あ、この侍女たちには僕が命じて先に試食をさせてました!」
俺の言葉に俺より先にこの場に居た侍女たちから感謝の眼差しが向けられる。ナーナにセイ、マイ、レミ、ナミよ、貸し一つだからな。
だが、ルチアとメリエルにはお見通しのようだ。しかしここで俺の面目を潰すような真似はせずに、ため息を吐きながら俺に言う。
「ハア〜、テツ様。勝手に侍女たちに仕事を命じないで下さいね。あなた達、さあ街の建設現場に戻って大工さんたちにお茶の用意をしてきなさい」
ルチアのその言葉にハイと返事をしてそそくさと立ち去るナーナたち。それにしてもこのタイミングでコッチに来るとはさてはマナミの式紙だな。
まあ、ちょうど良いか。ママンには是非とも食べてもらいたかったからな。
俺は便利箱から土魔法で作った器、丼を取り出した。女性用に少し小ぶりなやつだ。
そして、満を持して白米鍋のフタを取る。すると、前世でも大好きだった芳醇な香りが漂った。
「ほぇ〜、いい匂いだべ〜」
ゴブリナがウットリとした顔をする。
「領主様よ、コレが精米っちゅうやつの効果だべか?」
ゴブリナがそう聞いてきたので俺は答えた。
「そうだよ、ゴブリナ。精米すると栄養価は落ちるけど、味は格段に良くなっって更にこの焼き鳥との相性も抜群に上がるんだ」
俺は言いながらも丼にご飯をよそい、その上にヤマキから受け取ったネギマとモモを串から外して乗せて、更には秘伝のタレを大さじ一杯回しかける。
「さあ、母上。ご試食をお願いします!!」
先ずはママンに手渡してから、自分の分をよそう俺。その後は俺の真似をして各自自分たちでよそってもらった。
ママンは全員がよそったのを確認してから一口、パクリっと食べた。その目がこぼれ落ちんばかりに見開かれる。
「ん〜〜、ん〜〜、ん〜〜、おっ、美味しい〜!! 何コレ、何なの、テツ!! こんな美味しいのを初めて食べたわっ!! 焼き鳥だけでも思ったけど、コレはそれ以上の美味しさよ!!」
フッフッフッ、そうでしょうママン。コレが白米マジックです!
俺は既に返事が出来る状態じゃないから、頷いてママンに返事をする。
美味すぎる!! ザ・白米!! ビバッ白米!!
白米は神の食事だ!!
見てみろ! 他のみんなも夢中でスプーンでかきこんでいるじゃないか!! いつかは箸も導入してやる。そうだ、そこはカリュウさんに頼めば何とかなりそうだな。島国にセウユ(醤油)があり、焼き鳥文化があるならきっと箸文化もある筈だから。その時には協力をお願いしよう。
ゴブリナに至っては完食した後にまた白米をよそって白米だけで食べている。
「ブハァッ!!」
「ハアッ、ハアッ!!」
「コレは何だっ!!」
里村の者たちも息を切らしているぞ。息をするのを忘れてかきこんでたからな。死ぬよ、ホントに。美味しいのは分かるけどな。
「コレがオマイの真の食べ方だよ!!」
ここぞとばかりに俺が宣言すると、みんなが俺に平伏したのにはビックリした。ママンまでっ!?
「我ら一生、ご領主様についていきますっ!!」
いや、ちょっと待て! 焼き鳥丼でコレならTKGや、他の丼系を教えたらどうなるんだ?
まだ食べてない者たちも多くいるが、その者たちにも食べさせるときっと同じような反応をすると確信した俺。
実際にいつの間にか来ていた主様まで平伏してるし……
俺はこの魔境で胃袋を掴む事によって魔境の全てを従える事が可能なのではないかと考え出すのだった……
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