第26話 創始者だそうです

 俺はこの魔境で胃袋を掴む事によって魔境の全てを従える事が可能なのではないかと考え出すのだった……


 などと馬鹿な事を考えていたらコチラに向かって来る人々に気がついた。

 オニ子とカリュウさん、それと見知らぬカリュウさんと同年代だろう男性が二人いる。


「あーっ!! 私も食べるーっ!!」


 オニ子よ、村長の威厳は何処にいったんだ? 年相応のその態度も好感が持てるけどな。


「一週間ぶりですね、オウガイ子爵様。約束通り、開拓に役立つであろう品物を揃えて参りました。それと、コチラの二人はオウガイ子爵領への移住希望者です。こちらが清史郎で、こちらが藍史郎といいます」


 清史郎というとこの時宗をうった刀鍛冶か!? えっ!? 移住してくれるのか? それは願ってもない事だけど…… もう一人の藍史郎という人物も雰囲気が清史郎と似てるな? 刀鍛冶なのか?


「藍史郎は清史郎と同じような職人ですが、主に防具を専門にしております」


 俺の考えが顔に出ていたのかカリュウさんがそう説明をしてくれた。そうか、鎧鍛冶なのか。

 その時、マナミが周りに聞こえる様にハッキリと言った。


「竜斬の剣と防竜の鎧を作られた職人さんが、テツ様の領民にっ!?」

 

 えっ? なに、その情報? 俺、知らないんだけど……


「マナミ、それってどういう事か詳しく話してくれるかな?」


 知らない事は聞けば良いんだよ。俺は素直にマナミにたずねた。


「テツ様、私もギルドで聞いた話ですので確認までは出来ておりませんが…… この大王国のある大陸の東端の帝国領の港町で暴れ回る赤竜を一刀のもとに斬り伏せ、更にはその地の心正しいランクの高いハンターにだけ、売られた武防具があるとか…… その刀を打った鍛冶師の名が清史郎様で、鎧鍛冶師の名が藍史郎様だったとお聞きしております」


 赤竜ってアレだよな? 確か剣で斬り付けてもその鱗で跳ね返されて、魔法も上級水魔法がちょっとだけダメージを与えられるっていう、あの赤竜の事だよな? そんな化物を一刀のもとに斬り伏せたって? それってこの腰にある時宗でも可能なのか?


「ご領主様、お腰にある時宗もこの清史郎が心を込めて打った小刀にございます。ご領主様ならば赤竜ごとき一刀のもとに斬り伏せるのも容易いかと存じます」


 俺の疑問顔に時宗に手を置いた様子を見て清史郎がそう言ってくれるが、何で? 俺は魔法使いだから普通は近接戦闘が出来るなんて思わないよな?


「でも、僕は魔法使いだよ清史郎。何でそう思ったのかな?」


「職業病とでも申しましょうか…… 私は自分の刀が意思を持っていると感じております。ご領主様の腰にある時宗はこのあるじに差して貰えて嬉しいという感情が溢れ出ております」


 つ、付喪神かよ? まあそう思ってくれてるのなら俺も嬉しいが。


「そうなんだね。それで二人には一つだけ確認したいんだけど、何で僕の領地に移住しようと思ってくれたのかな?」


 俺の質問に答えてくれたのは藍史郎だった。


「カリュウからご領主様の話を聞いて、これからこの地では面白い事が起こりそうだと思ってな。ほら、そこに居る大蛇うわばみが素直に従っている事からして俺にしてみれば非常に面白い事なんだよ」


 うん、口悪いけど嫌な気にはならないな。職人さんだからかな。それに、一応はご領主様って言ってくれてるしな。それにしても主様は人型なのにその正体を見抜くなんて凄い眼力だな。


「ほう? 私の事が分かるのか? まあ、東方には私の眷属が多く住まうからな」


「ああ、あんたの気配は俺たちの国に居た大蛇うわばみたちの比じゃないから、恐ろしいと思ったが、素直にご領主様に従っているのを見てな」


 その二人の会話にカリュウが割り込んできた。


「そこで一つ提案があるのですが、よろしいですか、子爵様?」


「うん、何かな? 僕で出来る事ならやるよ」


 実際にこの二人が移住してくれるなら願ってもない事だからな。


「有難うございます。実はこのカリュウ、腕に覚えが多少ありまして、そちらのカナ様に一手ご指南願いたいと思っておりまして。その後にもしも可能でしたなら子爵様ともお願いしたいのですが、ダメでしょうか?」


 その言葉はマズイよ、カリュウ。カナのハートに火がついちゃったよ……


「フフフ、カリュウ殿、ご冗談が過ぎますね。この私との試合あとにテツ様と試合が出来るとでも? 私も舐められたものですね。良いでしょう! もしも私に勝てたならば、テツ様との試合を許可しましょう!!」


 勝手に決めてるよ、ホラ、トゥリに後頭部をどつかれたよ……


「痛いっ!? 何するのよ、トゥリ!」

「勝手に話を決めたからでしょ。テツ様のご意見を無視して」

「ハッ!? そ、そうでした、よろしいでしょうか、テツ様」


 ここでダメって言うほど勇者じゃないよ、俺は。


「うん、良いけど。大怪我させちゃダメだからね、カナ」


 そう、この時は誰も何も思ってなかったんだ…… 主様ですらそう考えてなかったんだよ。 まさかカナが敗けるなんて……


「グハッ!? バ、バカなっ!! 私の攻撃が掠りもしないなんてっ!!」


「カナ殿、筋は良いですよ。だが、まだまだ未熟ですな」


【主様の内心】

『なんで領主殿の元には化物ばけものばかりが集まるのかのう…… こやつ、ひょっとしたら領主殿よりも……』



 俺は我が目を疑っている。あのカナが敗けているのだ。まだ奥伝まではいってないにしても、合戦武闘術の中伝までを修めたカナが手も足も出ない状態だとは…… それに、カリュウが使っているのは間違いなく合戦武闘術だ。だが、俺の知る合戦武闘術とは少しだけ違っている…… 

 メリエルすら言葉もなく見守っている中で、俺は二人に声をかけた。


「それまで! カリュウの勝ちだよ! 次は僕の番だね!」


「テツ様!? ッ、ツ、ま、まだです! まだ私はヤれます!!」


「ダメだよ、カナ。母上と僕の護衛をする力を残しておいて貰わないと」


 俺のその言葉にカナは素直に従ってくれた。


「参りました……」


 カリュウにそう言って素直に下がるカナ。俺は外面そとづらは優しい眼差しを心がけてカナにご苦労様と声をかけているが内心では、

『ウヒャーッ! 来た、コレッ!! 物理耐性ゲットだぜっ!!』

 と小躍りしてたのは墓場まで持っていく所存だ。


「どうやらやっと子爵様の腕前を見れるようですね」


 カリュウがそう俺に言ってきた。


「うん、そうだね。カリュウがすごく強い事を知って僕は驚いてるよ。それじゃ、正式な対戦として互いに流派があれば名乗りあう事にする?」


「よろしいですな。我が国の作法までご存知だとは、さすがは子爵様です……」


 俺とカリュウは凡そ八メートル離れて対峙した。そして、お互いに流派を名乗った。


「合戦武闘術師範代、テツ・オウガイ! 参る!」

「合戦武闘術創始者、テツ・カリュウ! 参る!」


 奇しくも同じ名前の流派に俺たち二人の視線は交わるが、周りが驚く中、気にせずに互いに死合しあいを始めるのだった……


 けど、カリュウの名前ってテツだったのな…… そっちの方に俺は驚いてるよ……

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