第27話 話すそうです

 カリュウとの死合は苛烈なものだったよ。勝敗? それは内緒にしておこうかな。ただ、まあ、俺もカリュウからカリュウの合戦武闘術を教わる事になったし、カリュウは俺から俺の合戦武闘術を教わる事になったと伝えておこう。


「テツ様、このカリュウ、名を改めます。テッサイ・カリュウと今後は名乗ります。どうかその事をお許し下さい」 


 えっ? 名前変えるのか? 俺と同じ名だと嫌だとか…… 違った。どうやら畏れ多いと思ってくれたようだ。まあ、本人がそれで良いなら名を変える事に俺に異存はない。


鉄砕テッサイってテツより格好良いね。テツを砕くって意味だよね?」


 俺はそう言ってカリュウからテッサイと呼ぼうと内心で決めてからチラッと揶揄ってみたのだが、テッサイは慌てて言う。


「違いますよ! 鉄宰テッサイはテツ様の仕事を司る事を意味して名乗る事にしたのです。どうか、私をテツ様の家臣の一員としてお認めいただければと思います」


 そこで深々と頭をたれるテッサイ。真面目だなあ。するとベンが俺に言う。


「テツ様に匹敵する腕前。他国へと気軽に動ける能力…… テッサイ殿、情報を集めて頂けますか? 私からもテツ様にお願い致します。テッサイ殿を家臣としてお認め下さい」


 ベンがそう言うならば俺に異存はないよ。


「うん、これからよろしくね、テッサイ」


 すると、清史郎と藍史郎の二人までが、


「いや、私も家臣の端くれに!」

「楽しそうだから俺も加えて欲しいなあ!」


 などと言い出した。更には焼き鳥やのヤマキまでが、


「それじゃ、俺はお抱え焼き鳥やという事で!!」


 などと言い出す。面倒になった俺は、


「うん、わかったよ! みんなよろしくね! でも詳細はベンとルチア、メリエルと話してね」


 と丸投げしておいた。それより何より、遂に俺はやったのだ!

 物理耐性の一つである【衝撃耐性】を身につける事が出来た!

 テッサイとの死合中、幾度も体と体がぶつかり合った事で得る事が出来たのだろう。

 けれどもここで俺を落ち込ます事が……


 これまでの各種耐性では出なかった数値が衝撃耐性の横に出ていた。


【衝撃耐性0.2】


 えっと、今まで他の耐性関係は普通に1からだったよな? 何でいきなり小数点から始まった? 結構な衝撃を体に受けていたけど、それで0.2ってあんまりじゃないか? ここは1で良いんじゃないだろうか…… 

 俺は数値を見て落ち込んだが、それでもやっと物理耐性の一つが身についたので嬉しさのほうが勝ってきた。


 そんな俺にテッサイがコソッと言ってきた。


「テツ様に後ほど話があります。流派についてなのですが……」


 なるほど、俺も気になってたしここはママンにお願いしよう。


「母上、テッサイと内密に話したいのですが、遮視、遮音の結界をお願いできますか?」


 ママンは焼き鳥丼をおかわりしながら、


「いいわよ。テツとテッサイだけを囲めば良いのね」


 と言ってくれたがそこにメリエルから待ったがかかった。


「お待ち下さい! 確かにテッサイ殿は家臣となられたのでしょうがまだ新参! 護衛もつけずに二人きりになるのは侍女長の立場からして許容できません!!」


 うーん…… まあ、メリエルならいいか。


「分かったよ、メリエル。それじゃ母上、メリエルも一緒にお願いします」


「はい。それじゃメリエルはテツの横に、テッサイはそこでいいわ。ぬし、よく見ておくのよ」


「ハッ!! 師匠!!」


 いつの間にやら師弟関係もちゃんと出来てるなぁと思いながら、ママンの結界に包まれた俺たち。


 で、気がつけば俺は後ろからメリエルに抱えられている。ああ〜、後頭部に至福の胸部装甲が〜……

 って違った! 真面目に話をしようと思ったのに、これじゃ話しづらいじゃないか。


「ちょっ、メリエル、下ろしてよ。今からテッサイとメリエルに大事なことを打ち明けるんだから」


「なりません! テツ様、私はテツ様をお守りするのに最適な体勢をとっているのです(ああ〜、テッサイ殿が一緒なのは気に入らないけど、私にも大事なことを打ち明けてくださるなんて! 鼻血出そう…… それに、分からないようにと思ってるのでしょうが、テツ様が私の胸に後頭部をグリグリされてるのはバレバレですからね…… ヤン、ちょっと感じてしまいますわ!! ウェバー神様に心からお祈り申し上げます! どうかテツ様がご成長されるまで私の見た目を今のままでお願い申し上げます!!)」 


『そのほうらの願い、しかと聞きとげた』


「(えっ!? ウェバー神様!! ん? その方ら? 私以外にも居るのね…… カナ、トゥリ、ミユーリ、マナミの四天王ね…… まあ良いわ! 願いは聞きとげていただけたのだから!)ですので、テツ様はこの体勢のままとなります、テッサイ殿」


「う、うむ、それは良いのだが、メリエル殿…… 顔が紅潮し息も荒く、鼻血がたれておるが大丈夫なのか?」


 あ〜、またメリエルの体調が悪くなってるのか。俺が密かにグリグリしてるのが気持ちわるいのか? いや、バレてない筈だ!!


「フフフ、ワラヒ(私)のころ(事)はおひに(お気に)なはらすに(なさらずに)」


 まあ、メリエルがそう言うならばいいか…… 俺は先ずは前世の記憶がある事を語る事にした。


「僕の話を取り敢えず最後まで聞いてくれるかな? 途中で質問があっても口を挟まずに頼むね」


 それにテッサイが頷いたのを目で確認して、メリエルが頷くのを気配で感じて俺は話を始めた。


「僕には前世でこの世界じゃない異世界で生きていたっていう記憶があるんだ。その世界での名は桜貝哲おうがいさとるっていう名で、三十歳まで生きてたんだ……」


 そうして俺は地球での生活を語り、学んだ武術を語った。それを黙ったまま聞いていたテッサイが理解したように頷くのも見た。


「…… という訳で僕は今は見た目は完全に子供だけど、厳密に心の中まで子供だという訳じゃないんだ。騙してたみたいでごめんね、メリエル……」


「いいえ! テツ様! テツ様はなにも悪くありません! そのような事をこれまで誰にも言わずにおられたなんて! 私は侍女長失格ですね…… テツ様の懊悩を悟れなかったなんて…… (キャーッ! やったわ! 来たわっ! 大人ショタ! ある意味、合法よね! まさか八歳で性に目覚めているのは少し早いのではと心配していたけれども、それならば納得よ! これからは攻めに攻めるのよ! 先ずはお風呂からね…… ウフフフ、私の魅力でテツ様がメロメロに……)」


 何故か背後から悪寒がくるほどの妖気を感じたけれども、口に出しては


「ううん、メリエルはいつだって僕の味方をしてくれたんだ。だから今の僕が居るんだよ」


 と答えていた。事実、そうだしな。赤子の頃から常に俺を見守ってくれたメリエルには感謝しかない。


「テツ様…… 勿体無いお言葉、有難う存じます……」


 それからテッサイは、


「なるほど、それで少しばかり私の合戦武闘術とテツ様の合戦武闘術は違うのですね…… 私の方は実際に魔物、魔獣を相手にした動き。テツ様の方は想像上の魔物や妖魔の動きを想像しながらの動きだったからか…… しかし、素晴らしい遣い手がテツ様の前世には居られたのですね。私自身も学びたいと思ったぐらいですから。また、名が同じなのは何やらえにしを感じますな」


 そう言って合戦武闘術について納得してくれたのだった。


 それから、取り敢えずは俺の前世の話についてはママン以外には内緒にしておくという事を決めて、俺たちはママンに合図をして結界を解いてもらった。今晩、メリエルと一緒にママンの部屋に行き二人でママンに話す事も決めたよ。  


 その日、俺が風呂に入っていると、何故かメリエルとカナが後から入ってきて、お背中をお流ししますと、胸部装甲を用いた洗浄行為をしてくれたのはママンには絶対に内緒にする事にした……


 

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