第28話 カルビ男爵が来たそうです
街作りを始めてそれなりに形もでき始めたころ、一台の馬車が護衛の騎士十名に囲まれてやって来たそうだ。
俺が土魔法で街中の道を固めている時にシャイとメイが教えに来てくれた。
俺がその馬車の停まっている場所に向かうと見覚えのある顔が…… えっと、カルビ男爵だったかな?
そういえばベンに手紙を見せられたよな。今の寄り親であるメリージ伯爵派閥から抜けて、俺を寄り親としたいって書いてたっけ? で、俺も俺で良いよ〜って軽く書いて返事をだしたような……
そんな事を思いながら近づいて行くと、
「オウガイ子爵閣下! このカルビ、子爵閣下の元に馳せ参じました! 大王陛下より領地替えの許可も頂きまして、ナースコールより南、魔境の間までを新たな領地として賜りました! そして、領都を建設する為に、旧領都より私に着いてきてくれると行った庶民を連れて来たのです。現在、テントにて生活をしながら頑張って領都の建設をしてくれております!! それもこれも、全ては子爵閣下が魔力石を譲って下さったが故に可能になった事なのです! このカルビ、オウガイ子爵閣下に終生仕えます事をここに誓います!!」
と大声で宣言しながら俺に一通の封書を差し出してくるカルビ男爵。
「こちらは私の元の寄り親である、メリージ伯爵閣下からの書状でございます! どうかこの場でご一読をお願い申し上げます!」
えっと、元の寄り親さんからの苦情ですか…… それをこの場で読めとカルビくんは仰る……
まあ読むけど。書状を読んで見ると……
【テツ・オウガイ子爵殿】
この度、我が派閥の末席にいるカルビ男爵より派閥を抜けたいという申し出があり、それを了承した。カルビ男爵はまだ二十二歳と年若く、前途有望な若者だ。対して私は既に老境に差し掛かり、後を継ぐ甥はカルビ男爵を軽んじている。よって私は快くカルビ男爵の申し出を受けた。
カルビ男爵はオウガイ子爵殿に返しきれない程の恩を受けたと聞いている。なので遠慮せずにカルビ男爵を派閥に入れてこき使ってやってくれ。
経験を積ませれば今よりも更に有能になるだろうと思う。私の後を継ぐ甥には、この手紙をオウガイ子爵殿が読んでいる頃にはカルビ男爵が派閥から抜けた事を伝えているだろう。
私の甥からの妨害がもしもあったならば……
そのときは大王国の王子として対処していただければと願います。
私自身としてはカルビ男爵を我が子のように思っていたのですが、大王国の法により甥が後を継ぐ事に決まってしまっているので、どうか王子殿下、カルビ男爵を守ってやって下さい。そして、またこの有能な若者を王子の元で経験を積ませて更なる成長を促してやって下さい。よろしくお願い申し上げます。
老い先短いメリージより……
クレームじゃなかったよ。そうか、メリージ伯爵は代替わりするんだな。それもどうやら嫡子が居ないからか甥に後を継がせる事になるのか。大王国の法でそういう決まりがあるのは知っていたけど。
で、その甥がろくでもない奴だと…… しかしメリージ伯爵は俺が大王国の王子だとどこで知ったんだろうな? 確か聞いた話では認定はされているが、大々的に発表はされていないから一部の公爵と侯爵しか知らない筈なんだが……
まあ、それは良いか。カルビに聞いても知ってそうにないし。書状を読み終えた俺はカルビ男爵に声をかけた。
「メリージ伯爵閣下よりカルビ男爵のことをよろしく頼むとの書状だったよ。これからよろしくね、カルビ男爵。それで、ナースコールから南、魔境までの間が領地になったんだよね。どの辺りに領都を建設してるの?」
「ハイ、ナースコールより南に十五キロ進んだ場所に建設中です。魔境まで半日で来れる場所になります」
「そうなんだね。土魔法の遣い手は多く居るのかな? もしも居るのなら僕の領都建設にも手を貸して貰えたらと思うんだけど……」
ダメ元でそう聞いてみたら、カルビ男爵が不思議そうな顔をした。
「あの、子爵閣下…… 街の建設に土魔法が何かの役に立ちますか?」
うそ? 使ってないのか? 俺は取り敢えず来てくれと言ってさっきまで俺が固めていた道までカルビ男爵を案内した。
そしてその道を見てもらい、踏んでもらい確認してもらう。
「おお! こ、これは! まるで土が石のように固く!!」
「土魔法でこうできるんです。ここまで固くすれば草木も生えてこないので石を敷くよりも手軽で良いと思いますよ」
「まさかこのような土魔法があるとは…… 勉強不足でした! 早速戻りまして土魔法の遣い手を集めて参ります!! それと、私の領地でも真似させて頂いてもよろしいでしょうか?」
うーん…… 一般的だと思ったけど違うのか? まあ真似は別にしてもらっても構わないけど、この固くする魔法を覚えないと無理みたいだな。
「カルビ男爵、真似はもちろんしてもらって構わないけど、その前に土魔法を使える者を全員連れてきてみて。固くするという概念がなかったなら練習する必要があるかも知れないから」
「おお! 有難うございます。では今すぐ戻って確認して土魔法使いを連れて参ります!!」
善は急げとばかりに言うだけ言って護衛も置き去りにして走り出したカルビ男爵。
身体強化がかなり凄いレベルだな…… 護衛たち慌てて馬に乗って追いかけてるけど、多分間に合わないだろうな…… 可哀想に。
それから俺はまた街の道を作り始めたのだが、夕暮れ時になってカルビ男爵が護衛以外に二十三名の人を連れてやって来やがった……
いやもう明日でいいじゃん…… 今日はもう仕事終わりだよ。仕方がないから大工さんやテゴの人たちが昼間に休憩するのに使ってた小屋を開放して泊まって貰う事にした。
カルビ男爵はうちの屋敷に招いたよ。護衛は六名のうち、三名だけ招いた。騎士爵一名、平民二名だな。
「申し訳ありません!! 一刻も早い方が良いかと思いまして……」
とカルビ男爵が言った時に、横から騎士爵の護衛が言う。
「だから言ったでしょう。この時間になるから明日にしましょうって……」
この騎士爵はどうやらまともな時間感覚をもっているようだ。
「まあ、良いよ。これで明日の朝からみんながどれだけの土魔法を使えるか分かるようになるし。取り敢えず今日はカルビ男爵の歓迎会だね。あ、小屋に泊まって貰ってるみんなにもちゃんと食事と一杯だけになるけどお酒を用意したからね」
「有難うございます!!」
カルビ男爵と護衛三名が声を揃えて礼を言ってくれた。
俺は食事をしながらカルビ男爵に聞いてみた。
「ソーン、呼び捨てで良いかな。親しみを込めて名前呼びさせてね。僕の事もテツと呼んでもらっていいからね。それで、一つ聞きたいんだけど、ソーンはハーフの人たちに嫌悪感なんかは抱いているのかな?」
俺の唐突な質問にビックリしながらも、
「テツ様、テツ様とお呼びさせていただきます。私自身の前領地にはハーフの者も多くおりました。ちなみに騎士爵である護衛長のこの者、トーイ・ベルクもドワーフ種と人種のハーフです」
と意外な事を教えてくれた。
「そうなんだ!! トーイはドワーフとのハーフなんだね。その太くたくましい腕はドワーフ種の親から受け継いだんだね」
俺がそう言うとトーイは
「ハイ! テツ様。父から受け継いだこの両腕は普通の人よりも膂力に優れており、今までにも幾度かソーン様をお守りしてきました。私の誇りです」
と嬉しそうに言った。
「それで、テツ様。唐突にハーフの事を言い出したのには何か理由があるのでしょうか?」
とソーン・カルビ男爵が聞いてきたので、俺は主様に目線で了承を得てからハーフの里村について語った。
「何と、そのような里村が! しかしご安心下さい、テツ様。私自身もそうですが我が領民もハーフに嫌悪感を持つ者はおりません」
そう言ったソーンに俺は明日の午後に里村に案内すると伝えたのだった。
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