第29話 オマイが欲しいそうです

 今日は朝からメリエルと一緒にソーンの領民の土魔法を見ていた。

 二十三名のうち、十名は固くするという概念を持っていたので、五名ずつに分けてうちの街作りとソーンの街作りに振り分けた。

 そして残る十三名にはメリエルと一緒に土魔法を教えていく。


 俺の方が六名、メリエルが七名だ。メリエルの方には男が多い。七名中、五名が男だ。が、五分もしない内にその男たちは後悔しただろうと思う。メリエルって結構なSなんだよなぁ…… 見た目に惑わされた男たちよ、ご愁傷さまです。


 俺の方に居る土魔法を使う者たちはそれなりに魔力もあり、魔力操作も安定していたのもあり、一時間ほどで道を固める事が出来るようになった。

 なので、メリエルに後は任せてソーンを連れて午後から行く予定だったハーフの里村に、午前中に行ける事に。


「楽しみです。どんなハーフの人たちが居るのか。ハーフの方たちは親の良いところを受け継いでいる方も多いので、私の領地にきてくれると嬉しいですね」


 向かう道中でニコニコとそう語るソーン。傍らには主様も居る。


「テツ殿、この者はどういう立場になるのだ?」


 主様が今さらながらそう聞いてきた。その質問が今か? とは思わないでもないが、良く考えたら紹介も何もしてなかったと気がつく。俺は先ずソーンに主様を紹介する事にした。


「ソーン、こちらは主様ぬしさまといって魔境のこの辺り一帯をお守りしている神獣様だよ。ハーフの里村の者たちも主様に守られていたんだ」


「おお! なんとっ!! 知らぬ事とはいえご挨拶もせずに大変な失礼を!! どうかお許し下さいませ、主様。私はソーン・カルビという名で、大王国の大王陛下より男爵位を賜っております。この度、こちらのテツ・オウガイ子爵閣下の寄子よりことなりました。また、領地もここより北にある人種の街、ナースコールより南から魔境までの間となりました。どうかお見知りおきを!!」


「うむ、まあその神獣などではないが…… そうか、テツ殿の元でな…… よろしく頼む」


 主様はそう言ってソーンの挨拶に返事をした。その間は何だと言いたかったが、まあ黙っておいた。それに本人は否定するが神獣だと言うのは間違いないと思うぞ。


 それから俺をおいて二人で談笑を始めたのでそのままにして里村に案内する事に徹する俺。

 里村の中に入るとようやくソーンが辺りを見渡して言った。


「良い村ですね。何よりも雰囲気が柔らかいのが良い」


 そこに俺を見つけたゴブリナがやって来た。


「テツ様に主様よ、どうしただ? そっちの人は誰だべ?」


「ゴブリナ、こちらのソーンは僕の寄子となった男爵だよ。ナースコールより南〜魔境までの間を領地として新たに開拓を始めたんだ。それで挨拶に来たからこの里村にも案内してきたんだよ」


「寄子っちゅうのがよくわからないべが、テツ様の子分ってことだか? まあテツ様に主様が連れて来たんなら悪い奴じゃねぇべな。オニ子村長に知らせてくるべ」


 そう言うと駆け出すゴブリナ。相変わらず足が早い。


「いや〜、早いですな。さすがゴブリンとのハーフですな。それにしても本当にここは良いところです。それにしてもあの見慣れない作物は何でしょうか?」


 ソーンはそう言ってオマイを指差した。俺は後で食べてみようかとソーンに伝えて、オニ子の家に向かう。すると、玄関先でオニ子が立って待っていた。その姿を見たソーンが立ち止まる。


 何で立ち止まるんだ? 俺はソーンに聞いてみた。


「どうしたの、ソーン? あそこに居るのがこの里村の村長のオニ子だよ」


 すると、ソーンは


「うっ、美しい!! あの女性は独身ひとりみなのでしょうか?」


 などと言い出した。えーと…… 


「う、うん。オニ子は結婚はしてなかったと思うけど……」


「ならば私が結婚を申し込んでも大丈夫ですね!! そこの美しいお嬢さん! 私と生涯を共に過ごしていただけませんか? 大切にお守りすると誓います!!」


 俺の返事を聞くなりオニ子にプロポーズするソーン。しかしながらオニ子からの返事は辛辣だった。


「失礼ですが…… 私は私よりも近接戦闘が強い男性でなければ嫁ぐつもりはありません。貴方がどれほどの強さなのか分かりませんが、私よりも弱いと思います」


 うん、オニ子よ。言ってる事は分かるけどな、もう少しオブラートに包んでって、この世界にオブラートはないか。まあ、それでも俺としても村長であるオニ子を連れて行かれるのは困るしな。


「むう! ならば腕比べといこうではないか。私もそれなりに格闘には自信がある。貴女を倒して私の愛を受け入れてもらおう!!」


 だから、何でそうなるのかな? メリージ元伯爵が優秀、有能な若者だって言ってたけど、本当かと疑いたくなるな。


「そこまで言うならば良いでしょう。お相手いたします。しかし、私に格闘で挑むなんて…… 命知らずなお方……」


 いや、オニ子よ、受けるのかい! ヤりそうな気配だからちゃんと釘をさしておこう。


「オニ子、僕の元に馳せ参じてくれた男爵だから程々にね。ヤったらダメだよ」


 俺の言葉にオニ子は跪き、


「はい、テツ様! 程々に自信をぶっ潰します!」


 と宣言した。うーん…… まだヤバそうだけど自信を潰すだけなら良いかな?


 それからの時間はソーンがオニ子のサンドバッグになる時間だった……

 二十分後…… 


「グハッ!! 男爵領では炎の右腕と呼ばれた私の右を尽く躱すとは…… 敗けたよ…… しかし、私も炎のカルビ男爵と呼ばれた男だっ!! いつの日か再戦して貴女を負かせて私の妻にして見せるっ!!」


 どうやら敗けた事は認めるけど自信までは潰せなかったようだな。と思ったらオニ子がまたドカバキッとソーンを殴る蹴ると始めてしまった。俺は慌てて止める。


「ストーップ! オニ子、どうどう!! これ以上ヤると死んじゃうから!?」


「いえ、テツ様。この者の根拠のない自信をここで潰しておかなければ……」


「いやいや、もう潰れてるから、僕からも言い聞かせておくから、ねっ!」


「テツ様がそう仰るなら……」


 フウ、やっと止めてくれたよ。命が助かって良かったな、ソーン。 


 そこにヤマキを連れたゴブリナが鍋を抱えて戻ってきた。


「あんりゃ!? どしただ? ボロボロじゃねぇか! ほら、これ食って元気だすだ」


 ゴブリナはそう言って器に炊き上がったオマイをよそい、その上にヤマキの焼き鳥を乗せてソーンに手渡した。

 何とか手と口を動かして食べたソーンの体が光り、


「おっ!? おおっ!! 体が癒やされる!! しかも、体の奥底に眠っていた新たな力の躍動を感じるっ!!」


 と、ボロボロだったのにスッと立ち上がったのだ。オマイパワー凄いな…… まさか、ボロボロになった後に食べたらそんな効果があったのか。


 立ち上がったソーンは確かにオニ子に敗けた時よりも力が増しているようだ。けれども普段から食べてる者たちにはそんな効果は無いようだが……


「これは、先ほどの穀物だろうか? 私の領地にも是非とも欲しい!! どうか売って貰えないだろうか? 取り敢えず五百キロほど欲しいのだが」


「そんなに売ったらオラたちの分が無くなるべ。種籾やるから自分たちで育てるがいいだ」


 いや、ゴブリナよ、領主である俺を差し置いて勝手に決めるなよ……


 俺はそう思い、ソーンにオニ子、ゴブリナを交えてオマイをソーンの領地でどうするかについて話合いを始めるのだった。 



 

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