第30話 街が出来たそうです

 取り敢えず、オマイについての話合いをする為にオニ子の家に入った俺たち。

 オマイを食べてすっかり元気になったソーンだが、恋心からかオニ子の家の中をキョロキョロしている。


 それからオニ子に居間に案内され座った俺たちは先ずはソーンの言葉を待っていたのだが……


「ソーン、そんなにキョロキョロしてないで本題に入ろうか」


 いつまでもキョロキョロするのを止めないソーンに俺が待ちきれなくなり声をかけた。俺の言葉を聞いてハッとするソーン。


「ハッ、失礼しましたテツ様! それで、村長さんにお願いがあります。オマイを私どもの領地にも卸していただけないでしょうか?」


 何故そこでゴブリナに向かって言う…… 色々残念だぞ、ソーン。


「オラ、村長じゃねぇべ。村長はそこに居るオニ子だべよ」


 ゴブリナの言葉にソーンの顔が赤くなる。


「そっ、そうでした…… つい、先ほどの会話から…… 失礼しました、オニ子村長。それで、どうでしょうか?」


「今、私たちは確かにオマイの備蓄をしております。それでもテツ様の方にお売りする分を考えると男爵様の領地に卸せるのは百キロがいいところですね。それよりも先ほどゴブリナが言っておりましたが、テツ様の了承があるのでしたら種籾を卸す事は可能です。オマイ用の栽培技術もテツ様の了承が得られるならば格安で提供いたしますが」


 うん、流石はオニ子だ。ちゃんと領主として俺を通せと話してくれている。


「テッ、テツ様!! どうかよろしくお願い致します!!」


「街割りはどうしてるの?」


 俺はソーンに尋ねる。


「はい、今回は街の中に畑関係も入れてしまうつもりで建てていってます。後ほど、移民なども居るかもしれないと考慮し広さは余分に見ております」


「そうなんだ…… それなら一度僕が見に行ってもいいかな? それから決めたいと思うんだ。畑の水やりはどうするのかとかね」


 そう、幸いにして俺の領地は近くに川があるので、そこから農業用水や生活用水を引いて、排水時には魔力石を利用した浄化装置を通してから排水する予定だ。

 排水を下流に流す際に汚れたままだとダメだからな。その辺りを考えているのかソーンの街割りを確認してからオマイについては再度相談する機会を設ける事にした。  


「分かりました、テツ様。それでご視察にはいつ頃来られますか?」


 うーん…… なるべく早い方が良いんだろうけど…… 明後日辺りにしておこうか。


「そうだね、明後日にしようか。それまでにうちの領地の道を固める作業を終わらせるよ」


「分かりました!! それならば私は早速建設中の領地に戻りまして資料をまとめておきます! それでは失礼いたします! オニ子さん!! 私はまだ貴女を諦めておりません! また自信がついたら再戦をお願いしますっ!!」


 言い逃げしてソーンはオニ子の家を飛び出して行った。


「ふう、テツ様、あの男爵様に言っておいて下さい。あの程度では相手にならないと」


 オニ子が疲れたようにそう言ってきたけど、口調に言い寄られて悪い気がしてないのが表れていた。俺は頷いて返事をしたけどいずれ二人は結婚するんだろうなと予感したよ。



 それからの事だが、時間の経つのが何か早かった気がする。俺は約束した通りにソーンの建設中の領地へと向かうと、視察をしてみた。


「少し遠いけどあの川から水を引こうと思えば引けるね。土魔法を使って水路を作ればいいと思うよ」


 何か建設に関しては土魔法万能説を唱えたくなるな。街を囲う塀を木で作っていたので、補強する意味を込めて木塀に土魔法で固い土を覆わせるようにとも助言したよ。


「なるほど、そうすれば更に強度が上がって領民が安心して暮らせるのですね」


 ソーンは年下の俺の意見も素直に聞いてくれる。前世なら八歳の子供の言うことなんて誰もまともに聞いてくれなかったぞ。


 そうして視察を終えて俺はハーフの里村に行きオニ子に種籾を売って貰いそれをソーンに渡した。また種籾から苗に育てる方法、水田の作り方などの指導をハーフの里村の者に頼みソーンの領地へと派遣した。

 テント生活を強いられているソーンの領民たちの為に大工のテゴとしてハーフの里村の手の空いている者に行ってもらうのも手配をしたよ。


 ソーンについてきた領民の中にはハーフの者も多く居て、知り合いに会えたと喜んでいる者も居たよ。


 そうして一月半の月日が経ち、俺の領都もソーンの領都もほぼ同時に完成したんだ。俺の領都は結局は小川も取り込んで、街の中心部から半径1.5キロほどの広さだ。街の中心部まで領主館からは遠くなってしまったが、そこはメリエルが転移装置を設置してくれた。

 ソーンの領都は俺の領都よりも広い。四角く作った領都は一辺2キロだ。ついてきた領民たちだけには広いが、何故か農地に多くを割いている。農地開拓主にオマイを目指すみたいだ。頑張ってくれ、俺の為に。



「出来ましたね、テツ様」


 ベンが俺の横に立ちそう言うと、メリエルらが拍手をして完成を祝う。


「みんな、有難う。こうして立派な領都が出来てやっとスタート地点に立てたよ。まだまだこれから領民を呼び込み、住んで貰う必要があるけど取り敢えずはソーンの領民の中で八名ほどが移民したいと言ってくれてるから、ソーンの了解を得て移民してもらう事になったよ。ソーンの領都にはナースコールからの移民希望者が五十名ほどいるらしいからね」


 ハーフの里村からも五名が移住するとの事だった。逆にソーンの領民の中から八名がハーフの里村に移住するらしいけど。


 それからソーンの領都には各ギルドの支部が置かれる事になっている。うちの領都には置かないけどね。ギルドを通さずに全てを領主である俺が決済する予定だ。

 この世界のギルドは結構な額をボるからな。まあそれでも人材派遣なんかはソーンの領都のギルドに依頼するけどな。

 それにうちの領民になるにはママンの結界を通れないとダメだからな。


 そして、ヤマキの焼き鳥は屋台から店舗になったよ。


「本当に良いのか、コレを貰っても?」


 ヤマキが新店舗を前にして何度めか分からない問をしてくる。


「うん、良いんだよ。だけど売上に対してちゃんと税金はかけるからそれは支払ってよね。僕の領地では土地、家屋に関しては税を課さないけど、住むならば住民税を、商売をする者には住民税と売上に対する税を。農業を営む者にも生産に対する税を課すつもりだよ。だからヤマキもちゃんと支払ってね」


「ああ、それはもちろん支払うよ。だが、住民税が一年に銅貨二枚(二千円)とは安すぎないか? それで領は成り立つのか?」


 とヤマキは心配そうに言うけれども、基本的には魔境の魔物や魔獣を狩ってその素材や魔力石を売るから領の運営は成り立つんだ。

 それに主様に教えて貰ったが、少し森の奥に入ると洞窟ダンジョンがあるらしく、そこには鉱石が多く取れるとの事。採掘してそれらを売ったら左団扇の生活になると考えている。


 俺は領民募集をナースコールより北にある小さな村などにかけた。

 その際に領民になりたいという希望者にはママンの結界の簡易版を通って貰い、通れる者だけを招いた。

 簡易版結界はハーフに対する嫌悪感を持たない者を選別するものだ。


 こうして、俺の領都にも新たに領民が増えて人口も百人を超えた頃に、アイツがやって来る事がマナミの式紙によって知らされた。


 アイツとはロドス・スケール侯爵のことだ。騎士を三十名も引き連れてコチラに向かって来ているとの事。名目は視察だと言うが、果たして……


 まあ、来てもうちの領都にははいれないけど、ソーンの領都にははいれるな…… 

 何かの対策をしておく必要があるか? いや、いっその事、俺がソーンの領都に行ってそこで相対するのが良いか。


 方針を決めた俺はマナミに引き続きロドスの動きを見張って俺に知らせるように伝えたのだった。

 

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