第34話 新防具だそうです

 藍史郎が取り出したのは……


「着流し! それに羽織!」


「ほう!? テツ様、良く知ってるな。確かにコレは着流しに羽織という名だが……」


 あ、しまった、つい知らない筈と思われてる名前を懐かしさから口走ってしまった…… いや、まだ大丈夫だ。俺には秘策がある!


「うん、ソーンの館にあった図書室で見た本に絵と名前が書かれていたんだよ、藍史郎」


「おう! そうか、テツ様は勉強出来るんだな! 俺は本なんて表紙を見ただけで眠くなるけど」


 そうか、藍史郎には本がデバフになるのか。


「まあ、いいや。それよりも早速着てみてくれよ、テツ様! コイツは最高の出来だぜ!!」


 藍史郎のその言葉にサッと着流しと羽織を手に取る二人の女性がいた。


「カナ、お離しなさい。貴女にはテツ様のお着替えはまだ早すぎるわ!」 


「アラ? メリエルこそ離しなさいよ。貴女にはこの防具の着せ方も分からないでしょう? 私はテッサイ師匠からちゃんと教えられているのだから!」


 ほら、始まったよ…… ってメリエル、ダメだ! ここで最上級魔法は!? ってカナよ! 合戦武闘術の奥伝技【嵐斬】はダメだって!? 

 清史郎と藍史郎の工房兼住居がメチャクチャになるぞ!?


 と俺が咄嗟にダメだと言おうとした時には、メリエルもカナもフニャリと膝から崩れ落ちた。


「くっこ、これは、まさか……」

「と、とんだ伏兵が、いた、ものね……」


「ダメよ〜、二人とも〜。他所様の家屋を壊すような事をしちゃ! メッ! ですよ〜」


 諭すようにそう言いながら力の抜けた二人から着流しと羽織を取るのはミユーリだった。


「二人ともオイタをしたからそこで暫く反省しててね〜」


「ひ、卑怯な! ミユーリ、デバフを解け!」

「くぅ! ち、力が入らない……」


 あ〜…… そういえば回復が得意なミユーリだけど、バフとデバフも大王国第一位の使い手だったな……


「アラ? テツ様のお着替えが済むまでは解けないわよ〜。藍史郎さん、奥をお借りしますね、テツ様、参りましょう」


 二人にニッコリと微笑み、その笑顔のまま俺を誘うミユーリに逆らう勇気は俺には無かった。

 だって、メリエルもカナもそれなりに強力なデバフを跳ね返すぐらいの強さがあるのに、その二人をあっさりと腑抜けにさせるんだぜ…… 

 うん、素直にいう事を聞いておこう。


 で、俺は素直にミユーリと奥に行き、今着ている服を全て脱がされた。何故に? 羞恥無効だから別になんとも思わないのだが、俺の股間を凝視するミユーリがちょっと怖い……

 その内、女性視線無効とかが育ちそうだな……


「テツ様…… ご立派になってきてますね。ウフフ、あと三年、いえ、五年ほどの辛抱かしら? メリエルちゃんよりも早く私が……」


 怖えよ、ミユーリ…… 最後の方のブツブツと呟いた言葉は良く聞こえなかったが、背筋がゾゾゾっとして、サブイボが腕に出た。


「アラ、アラアラ、私ったらついつい見惚れちゃって…… さ、それではコチラを先ずはお召し下さいね〜。藍史郎さんから言われてますから」


 と、ミユーリが差し出したのはまさかのフンドシ。それも赤フンだった。俺まだ九歳だから還暦のお爺ちゃん用の赤は早いと思うんだよな。

 そう思ってためらっていたら、藍史郎が入ってきて、


「違う! そっちじゃないって言ったろ! ミユーリ殿、コッチの真っ白の方だよ!」


「えーっ、こっちの方が絶対にテツ様にお似合いだと思いますのよ? ダメかしら?」


「ダメだ! こっちの真っ白!」


 どうやら藍史郎なりのこだわりもあるようだが、俺も真っ白の方が良いから熱心に頷いて同意した。

 因みに今は全裸だから透視はオフにしてるぞ。ジュニアがオッキしたらマズいからな。


「しょうがないですねぇ……」


 そう言いながら俺の体に手を回しフンドシを締めるミユーリ。おい、どさくさに紛れて俺の大事なジュニアに触れるな!


「ウフフ、あっと五年、あっと五年……」


 何だその鼻歌は?


「さて、それじゃコチラの防具を着ましょうねぇ、テツ様」


 そして俺は着流しを着て帯を締め、上から羽織を羽織った。そしてステータスを確認してみた。



【攻・防】

攻撃力:325+800(+600)

防御力:318+900

武器:常清(+800) 清刃(+600)

防具:着流し(+600) 羽織(+300)



 えっとだね、藍史郎くん? 俺が着てるのは着流しに羽織だよな? うっすい生地だけどどうしてこんなに防御力があるのかな?


 だがその疑問を口にする前にミユーリに抱えられた俺。


「とてもお似合いで凛々しいですわっ! テツ様!!」


 と頬ずりまでされた。ミユーリのほっぺた、柔けぇ……

 じゃない! 危ない、胸部装甲以外にこんな武器を持っているとは。危うく楽園に昇天しかけたぞ。


 ミユーリはそのまま俺を抱え上げ、表に出ていく。すると、まだ力が戻らないのかグッタリとしたままのメリエルとカナがどうにか椅子に座っていた。清史郎が何とか座らせてくれたようだ。

 だが、そんな二人が着流しと羽織を着た俺を見て目を輝かせ、そして……


「ふっ、ふっかーつっ!! テツ様、何と凛々しいお姿ですか! このメリエル、眼福を頂戴致しましたっ!!」


「キャーッ、テツ様!? 素晴らしくお似合いな上にとても防御力が高くなられましたね!! 今のテツ様に私の攻撃など通用しないでしょう!!」


 メリエルもカナもいきなり元気になった。


「アラアラ? まだデバフを解いてないのに、やっぱりテツ様は凄いですわ〜。私のデバフを自力で解かせるなんて」


 とミユーリがまた俺に頬ずりしてくる。それを見た二人の眼が危険な光を放った。


「フフフ、カナ、ここではマズいけど館に戻ったら共闘しましょうね……」


「ええ、メリエル。もちろんよ。私の最大の技をミユーリに叩き込むわ……」


 いや、出来て間もない俺の館が吹っ飛ぶから止めてくれ、二人とも。仕方なく俺はミユーリに下ろして貰い、先ずはメリエルの元にいき、


「似合ってるかな? メリエル」


 と両手を広げて聞くと、メリエルもちゃんと俺を抱え上げて、


「これ以上ないぐらいにお似合いです、テツ様!」


 とミユーリと同じように頬ずりしてきたので、俺からも頬ずりを返しておく。そして、耳元で囁いた。


「メリーとカナが本気でミユーリを攻撃したら僕が困るから止めてね。頬ずりぐらいいつでもするからね」


「はい! テツ様!」


 それからカナにも同じ事をして、同じように頼むと、カナも


「分かりました、テツ様!」


 と返事を貰ったよ。全くもって前世ではこんなにモテた事がないから不思議なのだが、まあ今の俺の容姿は自分で見ても何処の天使だと思うぐらいだからな…… そこだけはウェバーに感謝してやってもいいぐらいだ。


 それから藍史郎がこの防具の事を教えてくれた。


「テツ様よ、良いか? それじゃ説明をするぞ。その着流しだけど、雲紡糸うんぼうしと言われる雲を紡いだような糸に神霊糸しんれいしと言われる神の髪の毛のような糸を混ぜてある。その効果は斬撃、刺突、殴打などの物理的な攻撃をほぼ完璧に防ぐ。ほぼなのは、手や足首など出ている場所までは保護してくれないからだ。だから首から上も要注意だな。それと羽織だが、以前にカリュウがこの大陸に渡った際に倒した竜の鱗と皮を糸に加工して、それに雲紡糸を混ぜて作ったんだ。羽織にも着流しほどじゃないが物理攻撃を防ぐ効果があるが、本領は対魔にある。ほぼ全ての魔法的な攻撃をその衝撃まで含めて防ぐんだ。どうだ、メリエル殿? これならテツ様も魔獣討伐に連れて行ってもいいだろ?」


 藍史郎の言葉にメリエルは生活魔法の火を俺に向けて放った。俺は藍史郎を信じているからそのまま火が向かってきてもジッとしていた。すると、俺の五十センチ前で火は忽然と消える。


「この効果は最上級でも大丈夫なのかしら?」


 メリエルの問いかけに藍史郎は言う。


「取り敢えずカリュウに試させたが、俺達が想定しているメリエル殿の最上級魔法の威力は魔境の奥に住まう神獣と同レベルだと考えてそこまで行って頼み込んで息吹ブレスを放って貰ったが、カリュウの一メートル手前で息吹は消えたぞ」


 なに危ない事を試してるんだ! もしもダメだった時はどうするんだよ。それに、魔境の奥に勝手に行ったなんて報告受けてないぞ!

 俺はトコトコと藍史郎に近づき言った。


「次からは勝手に動いたらダメだよ、藍史郎。清史郎もだよ。カナからもテッサイに言っておいてね。僕が少し怒っているって」


 俺の言葉に清史郎、藍史郎、カナの三人は目の前で跪き、


「「「申し訳ありません!!!」」」


 と謝ってきた。


「過ぎた事だし、みんな無事だったし、僕の為に動いてくれたのは感謝するけど、それで君たちが居なくなったら僕は後悔して懺悔を繰り返す日々を送る事になっちゃうよ。だから、今回は許すけど次からは絶対に黙って動かないでね」


 俺のその言葉に涙する清史郎とカナ。藍史郎は、


「本音は自分も神獣に会いたかった、だろ、テツ様?」


 と俺の本音を見事に言い当てて来やがった。だからゲンコツでコツンではなくゴツンとやっておいた。やっと涙目にしてやったよ。


 けれども、これでまた物理耐性を身につけるのが難しくなったよなぁ……


 凄い防具に嬉しいと思った反面でそう考える俺なのだった……

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