第19話 侍女たちが怖いそうです
【主様の内心】
『うわー、バカ、私のバカ!! 勢いでつい力を示せなんて言ってしまったーっ!? 何でさっきの私はそんな事を言ったのかな? 馬鹿なのか、私は賢いって思っていたけどホントは馬鹿なのか……』
【注釈】主様の性別は男性です。
力を示せと言われたのは俺だ。だからワンチャン、これは物理耐性を手に入れるチャンス!!
そう思って飛び出そうとした俺を後ろからメリエルがガシッと抱きしめた。
ああ〜、後頭部に至福の柔らかさが〜……
って違う! 離してくれ、メリエル!!
「メリエル、主様のご指名は僕だよ!」
だがそんな俺の抗議は虚しくメリエルに跳ね返された。
「何を仰っているのですか? テツ様。あの程度の者をテツ様が相手をする必要はございません。マナミで十分です」
言われたマナミは既に忍刀を抜き放ち、雷遁を唱えて打っていた……
主様は体をくねらせて雷遁から身を躱す。
主様の尻尾がマナミを襲うが、マナミは空蝉の術でその攻撃を躱したのちに忍刀で尻尾に斬りつける。
すぐさま主様の頭がマナミを襲う。が、その頭を大きく飛び越えてマナミは主様の背中に飛び乗り、火遁と風遁の複合術、爆火遁をその背に向かって放ち飛び降りた。
のたうち回る主様の様子を暫く見たのちにマナミは忍刀をおさめ、主様に語りかけた。
「これ以上は弱い者いじめになるから止めましょう」
そのマナミの言葉に主様の姿が再び人型になる。そして……
「フフフ、よもや私がこうもなす術無くあしらわれるとは思いもしなかった…… まさかとは思うがお主、本当に人か? まさか私と同じく人の姿を仮にしている高位の魔物ではないのか?」
そう言い放ち、問答無用でマナミの鉄拳を食らってしまった…… マナミよ、弱い者いじめは止めような。
「グッ、私はこれでも
ガクリと膝をついてそう呟く主様だが、マナミは言う。
「あなた程度では私たちテツ様四天王の相手をするのは無理よ。ましてや、私たちをまとめるメリエルの相手もね。更に言うならばテツ様ご自身の相手もつとまらないわ」
いや、俺は物理耐性が育ってないからもしも主様の尻尾の一撃が当たったら即座に戦線離脱になるぞ、マナミ。だが、そんな俺の思いも虚しく主様が言う。
「やはりそうか…… 我らの
主様がそう聞くとマナミはフッと鼻で笑い返事をした。
「フッ、勘違いも
あ〜…… 何か頭頂部にポタポタと落ちてくると思ったらメリエルの鼻血か…… って鼻血! 俺は慌ててメリエルに聞く。
「だっ、大丈夫、メリエル。体調が悪いなら休まないとっ!?」
「ヒャイっ! テツ様、大丈夫レス! 体調はすこぶる快調レス! 今なりゃ神が相手れも勝れまひゅっ!!」
鼻が詰まって言い難そうだけど、体調が悪い訳ではないらしい。
だが、俺からは見えないメリエルの顔を主様は見たのだろう。ブルブルと震えだして…… そして言った。
「分かったっ!! 私の敗けだっ!! 私共々、ハーフの者たちも了承するならばテツ・オウガイの領民となろうっ!!」
高らかに、微かに震える声でそう宣言をした主様を見て、オニ子さんもゴブリナも笑顔になったのだった。
【主様の内心】
『じょっ、冗談じゃないぞ。私を赤子扱いするマナミとやらが最弱で、その上に四人も居て更にテツ・オウガイは更に強いなどと!! 無理、無理無理無理!! 我が
そんな主様の内心を知らずに俺は主様にお礼を言う。
「有難う、主様。決して領民たちを不幸せな目に合わせないとここに誓うよ!!」
俺の突然の宣言に主様は戸惑いながらも「お、おう」と返事をしてくれた。それから主様の名前を聞くと、
「私に名は無い」
そう言われたのでこれまで通り
人型のまま主様が俺たちと一緒にハーフの里村に来ることになり、連れ立って歩いていくと里村に住む人たちが並んで待っていたのには驚いた。
「主様、ようこそ里村に」
「主様、今日は何用ですか?」
「村長、主様に無理を言ってませんか?」
どうやら主様はかなり慕われているようだ。里村に住むみんなが揃っているのを見てオニ子さんが言った。
「みなさん、ちょうど良いわ。今から主様にお話をして貰います。広場に揃って貰えますか。子供たちも連れて来て下さいね」
それから俺たちもみんなを呼びに行き、五分後にこの里村に居る全ての者が広場に集まった。主様が俺の横に立ち話しかける。
「この度、この里村と私の守る土地を横にいるテツ・オウガイ子爵殿の領地とし、私を含めて皆が領民となる事を、皆に相談せずに了承した事を先ずは謝罪する……」
そう言う主様に里村の人たちは、
「今までワシらを守ってくれた主様が決められたなら」
「オラたちは主様の決めた事なら賛成するべ」
「主様、謝罪などいりませんよ」
と、主様の謝罪をいらないと言ってくれた。主様は言葉を続ける。
「テツ殿はまだ幼いが、優秀なのは従僕が慕っているのを見れば良くわかる。更には、私はこちらの侍女の方に敗れたが、テツ殿はこちらの侍女よりも更に強いとのことだ。そんなテツ殿が一つ私に約束をしてくれた。それは、私を含めて領民になった者たちが不幸になるような事は絶対にしないという約束だ。私はそれを聞いてテツ殿に仕えようと思ったのだ。そして、またみんなもテツ殿の元でならば更に幸せになれると思っている……」
主様はそう話を締めくくった。そこで俺がみんなに声をかける。
「みなさん、初めまして。僕はテツ・オウガイと言います。オウバイ大王国の子爵ですが、みなさんがここに来る前のように迫害される事が決してないようにしますので、どうか僕の領民となって一緒にこの地を開拓していって下さい。よろしくお願いします」
そこで里村のみんなが俺の名前をコールして、最後に盛大な拍手をしてくれた。どうやら受け入れて貰えたようだ。
詳しくどうするかは、主様、村長、里村の長老や仕事面での代表の人たちと明日以降に話合う事になった。
取り敢えず今日はこれで解散してもらい、俺たちも馬車で寝る事にしたのだった。
【主様の内心】
『良かった…… 里村の者たちが賛成してくれて…… テツ殿の母のアミーレと言ったか…… あの方も尋常じゃない魔力を持っている…… それとベンと名乗った侍従は剣を持たせたらかなりの使い手だろう…… 私に勝った侍女たちを含めて、
主様は心の中でそう考えていた。
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