優秀な侍女たちのお陰で、危険はありません!(建前)強すぎ侍女たちよ、俺に機会を与えてくれ!(本音)

しょうわな人

第1話 転生できるそうです

 俺の名前は桜貝哲おうがいさとるだ。今日、念願の三十歳の誕生日を迎えた。


 フッフッフッ、これで俺も長年の悲願であった魔法使いだっ!!


 俺は幼い頃に知った、男は三十歳まで童貞でいられたならば魔法使いになれるという秘話を信じて、今日まで溢れださんとする性欲を自家発すらせずに抑え込み、遂に今日という日を迎えたのだ。


 幼心に魔法使いになる!! と思った俺は、小学生の頃に魔法だけでは心許ないと考え、近接戦闘も出来なければと家の近くにあった古武術の道場に飛び込んだ。


 【合戦武闘術かっせんぶとうじゅつ】というその道場では、対人戦闘において一対一、多対一、相手が武器を手にしていた場合などの他に、対動物、対空想上の生物をも想定した戦闘術を学んだのだ。

 

 小学三年生から学び始め、十八才で免許皆伝を得て、それから十二年間かけて秘伝、奥伝までをも身につけた俺は、自分で自分を褒めたよ。


 身につけたわざはどれも危なくて現代社会では試せないものが多かったのだが……

 それでも、中学、高校と身長が伸び悩んで百五十三センチチビだった俺が誰にもイジメられる事なく過ごせたのは合戦武闘術のお陰だと言える。

 やって来た不良と呼ばれるヤンキーたちを尽く返り討ちにしてやったからな。

 

 そんな俺も高校を卒業して一年経ってから何故か身長が伸び始めて、百七十八センチまで成長出来たのは良かったと思う。まあ、その所為で高校以来会ってない同級生には俺だとバレないのも嬉しい誤算だ。


 高校卒業後に就職した会社では、受付嬢をしている同期の女性に、


「入社時の可愛い桜貝くんは何処に行ったのっ!?」


 と言われてしまうのだが……


 因みにその女性とは良い仲になりそうな雰囲気だったのだが、俺は魔法使いになる為に血涙を流しながらお断りをしたのは六年前の話だ。


 今では気のおけない同期として、また良き友人としてお付合いさせて貰っている。


 そんな努力も実を結び、いよいよ本日、遂に、遂に、俺は魔法使いになる日を迎えたのだっ!!

 俺が産まれたのは午後十八時十八分十八秒だったと亡くなった両親から聞いている。

 そして、俺は退社して家路についているのだが、後五秒ほどでその時間を迎えるのだ!!


 顔には出さずに内心で興奮していた俺は、他の人より気づくのが遅れてしまった。


 何にって? 暴走するダンプカーに……


 衝撃を感じた瞬間に、


「あっ! コレッてダメなヤツ……」


 と思ったので、俺は死の間際に叫んだ。


「返せ! 俺の魔法使いライフ!!」


 俺の死後、その言葉がトレンド入りしたのかどうかは知らない。だって、死んだんだから……


…… …… …… …… 


 気づけば見知らぬ空間に居た。何処だ、ここ?


 辺り一面に咲く彼岸花に似た花。決して見慣れた彼岸花ではないのだが、やけによく似ている。

 小川のせせらぎも聞こえるし、見えるのだが、俺にはそれが遠い世界のように感じられている。

 そう思った時に声がかけられた。


桜貝哲おうがいさとるさん、申し訳ありません。貴方は私の部下のミスによりお亡くなりになってしまいました。本来ならばあのダンプカーに轢かれて亡くなるのは貴方ではなく、隣に居た指名手配犯である人物だったのですが…… あ、事故の影響でその指名手配犯は逮捕されましたので。結果オーライでしたけど』


 いや、結果オーライじゃないよな! その部下連れて来いやーっ!!


『いえ、部下の責任は上司たる私の責任です。全てのミスによる損害は私が被ります。最もそんな時の為にゼウス保険には入ってるのですが』


 いや、保険入ってるのか! ならその保険で俺を生き返らせてくれよ!


『それは無理です。貴方の肉体は既に火葬済みですから。魂だけの貴方が入る器が無くなってますので』


 えっ! もう火葬済みって…… ダンプカーに轢かれて直ぐに?


『いえ、貴方がダンプカーに轢かれてから十五日が過ぎてます。貴方の魂をコチラに呼び寄せて復元するのにそれだけの時間がかかりました』


 じ、十五日も過ぎてるのか…… それで、今更な質問だが、アンタは誰で何で俺の魂を復元したんだ?


『本当に今更な質問ですがお答えしましょう。私は地球ではない五つの世界を管理している神、ウェバーと言います。今回、貴方をミスして死なせてしまったのは地球の管理を任せていた私の部下の一柱なのですが、それにより私には貴方に説明責任が生じたので貴方の魂を私の管理下に呼び寄せて復元させていただきました。そして貴方の魂を復元した理由のふたつ目、それはですね…… 』


 それは…… ゴクリッ 


 俺は出ないつばを飲み込んだ。


『貴方を地球に生き返らせる事は出来ませんが、私の管理する五つの世界の中からどこか一つに転生して頂こうかと思いまして。それによって部下のミスを帳消しにして頂ければ、私の監督不行届という不名誉も無くなるのですが……』


 て、転生出来るのか!?


『はい、但し私の管理する五つの世界は五つとも地球とはまるで違う世界となりますが……』


 そ、その五つの世界の特徴を教えてくれ!!


『おや? 思ったよりも前のめり…… いや、コホンッ、失礼しました。まず一つ目ですがこちらは創造したばかりの世界で、未だに原生生物しかいませんので、貴方が転生する場合もアメーバとかになります。二つ目の世界は少し進んで、地球で言うところの恐竜世代にまで進んでおります。と言っても地球で見つかった化石のような恐竜とはまるで違いますが、弱肉強食の世界となりますのであまりオススメはしません。三つ目は地球で言うところの原始人が誕生したぐらいの世代ですね。まだ言語は出来ておりませんので、身振り手振りでの意思疎通と、力が強い者が正義な時代と言えます。四つ目は山と川と海しかないですが、人は居らず地球で言うところの動物だけの楽園となっております。ここはちょっとオススメです』


 四つ目まで聞いた俺の絶望感よ…… いや、普通は転生って言ったら剣と魔法のファンタジーを思い浮かべるだろ? でもそんな世界が無さそうなんだよな、このウェバーとかいう神様の管理する世界は…… それでも俺は最後の五つ目に期待した!


『それで、最後の世界ですがここはあまりオススメできません。何故ならば権謀術数が渦巻く善人には生き難い世界だからです。更には地球には無い魔法が発達した世界でして。魔物や魔獣、気難しい聖獣や神獣、気高いと思ってる神の端くれなどが居る世界なのです。衛生管理も地球よりも低く、直ぐに病気になって死ぬ可能性も高いのです』


 いや!! 待てっ!? ソコ! ソコが良い!! 魔法があるんだろ? しかも権謀術数って事は人が地球と同じように生活している世界って事だよな?


『はい、確かにこの世界【マルセラーム】では普通に人々が生活しておりますよ。地球のように人族だけでなく、長耳族、鍛冶族、小人族、獣人族などなど他の種族も居りますが、そんな地球で育った方からしたら異常に見える世界で大丈夫ですか?』


 大丈夫だっ!! ソコが良い! というかソコ一択しかないっ!!


『そうですか…… そこまで言われるならば貴方の転生先は【マルセラーム】にしましょう。それで、転生させるだけでは保証としては弱いので、何かしらの能力をお付けしようと思うのですが何かご希望はありますか? あまりに突飛な物はお付け出来ませんが、大抵の能力ならお付け出来ますよ』


 そう言われ俺は必死に考えた。そして出した結論は…… 

 

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