第38話 (閑話)テツジロウ

 われがテツジロウに出会ったのは今から随分と前になる。あの者は人とは思えぬ大きな度量と夢を持っておった。

 テツに出会い、われはテツジロウとの出会いをまるで昨日の事のように思い出した。


 まあ、われも神である故に忘れる事などは無いのだが、それでも鮮明に思い出したのはテツが持つ雰囲気の所為であろう。テツジロウと同じ魔力、同じ闘気をその身に宿したテツを見た時にはテツジロウと声をかけそうになった程だ。


 今からテツジロウと出会った頃の昔話を少し語ろうと思う。良ければ神の戯言たわごとだと思って聞いて欲しい。



「うおーッ!? 大きいなぁ、お主。何を食ったらそんなに大きくなるのだ?」 


 われを見た第一声がコレだ。全くもっておかしな奴だった。たいていの者はわれを見たらおそれ、逃げ出すのだがテツジロウの奴は挙げ句の果てには、


「のう、お主。見上げすぎて首が疲れたのだ。少し縮んでもらえぬか?」


 などと言い出したのにはわれも呆れたよ。まあ、今思えば要望に応えて人型になってやったわれもどうかと思うが。人型になったわれを見たテツジロウの言葉は、


「うおおーッ! お主、男前じゃなっ!! さぞかし女を食い物にしてきたであろう」


 だったので思わず殴ってしまったのは仕方ない事だろうと今でも思っておる。


「痛いではないかっ!」


 とかほざいていたがわれはその言葉を無視しておいた。


「それで、そなたの名は何という? 何用があってここに来たのだ?」


 われはそう尋ねた。


「おう! そうだった、そうだった! 肝心な事を言ってなかったな。それがしの名はオウガイ・テツジロウという名だ。気がつけば日の本よりこの変な世界に来ておったのだ。そしてな、聞くところによればどうもそれがしが居った世界ではないと聞いてのう。この地に居るという神に尋ねてみれば良かろうとここから北にあった村で年寄りに聞いたのでな。それでここにやって来たのだ。で、お主に神について聞いてみようと思っていたのをお主のデカさと人型になった男前ぶりにすっかり忘れておったわ!? ワハハハハっ!!」


「フム、名はテツジロウか。神についてというが、われが恐らくは年寄りの言っておった神だと思うぞ。それで、何を聞いてみたいのだ? 知る事ならば答えてやろう」


 われの言葉にテツジロウは驚いたように言う。


「何と、この世界では神が本当に顕現しているのか!?」


「そなたの居った異世界では神は顕現しておらぬのか?」


 われは思わずそう聞いてしまった。


「いせかい? おう、そうか! それがしが居った世界はこの世界からすれば異なる世界となるな、確かに」


 とまあこのような会話をしたのだが、それからテツジロウはわれの元を去り、気づけば国を興しておった。オウガイ王国の王となったテツジロウが再びわれの前に家臣を連れてやって来た。


「久しいな、地竜神よ」


「うむ、八年振りか? それで今回は何用があって来たのだ」


「いや、ウチの家臣どもがこの地を開拓せよと煩くてな。拙者はこの地は神が居る故に開拓などはできんと言ったのだが信じぬのでな。こうして連れてきたのだ。それでだ、地竜神よ。契約を結ばぬか?」


 テツジロウはわれの姿を見て畏れる家臣たちを無視してそう言ってきた。その時に結んだ契約が今も生きている筈の不可侵の契約だったのだが、現オウバイ大王国では受け継がれておらなんだようだ。


 まあ、それはテツとの新たな契りが出来たので不問とする事にしたのだが、われがやがて出すであろう神託を無視して攻めてきおった時には神罰を与えてやろうと考えておる。テツジロウが興した国ではあるが、間違いは正さねばならぬからな。


 そうそう、われはその時に王国とは別にテツジロウとも個人的に契約を交わした。その頃のわれはまだ今ほどの神力を持っていなかったのだが、それでもテツジロウは人外の強さを手に入れた。


 誰にも言っておらぬが、実はテツジロウはまだ生きている。今は違う大陸に渡り旅をしている。契約者の居場所はわれには分かるのでな。


 フフフ、テツジロウとテツがやがて出会うであろう時が今から楽しみなのだ。

 われと契約を交わしたテツジロウは今のテツよりも遥かに強い。己が子孫が転生している事をテツジロウが知ったならば必ずや会いに来るのは間違いないのだが、今のテツを見たら直ぐに自分が鍛えねばとか言い出すのは分かっているので、もう少しテツが成長し、強くなるまではテツジロウには知らせずにおこうと思う。


 われとしては二人の出会いは最高の形にしたいのでな。


 とまあこのような話だったのだが……


 何だ、居眠りをしておるのか? フム、昔話は退屈であったか? まあ良い、まあ良い。これからテツの活躍を見守ってやってくれ。

 われの昔話に付き合ってくれて感謝するぞ。


 さて、また語りたい事が出来たならば語らせて貰うとしよう。その時にはそなた達が居眠りせぬように面白く語れるようになっておくのでな……


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