第4話 恨まれてるそうです
で、二歳になった俺は日課の魔力を流しながらも侍女たちの噂話をちゃんと聞けるようになったんだ。
侍女たちは俺が理解出来ないと信じて、色んな話を俺の前ではするからな。
お陰で色々な事情が分かったんだ。
先ず俺のママンについてだけど、侍女たちの噂話によると俺のママンは大王のご乱心によって俺を孕んだらしい。で、その時に護衛として大王についていたメリエルの兄が、大王のご乱心を止められなかった罪で解雇されて、現在は牢に幽閉されているそうだ。
メリエルがママンに殺気を向けているのはその事が関係していると推察出来る。但し、これも噂話なので自分で確認するまでは参考程度に思っておく事にしている。
で、大王は俺を認知だけして第五王子として認めはしたが、王位継承権は与えないと名言した。
まあ、それは良いんだが……
そこで今現在、問題なのが正妃である王妃のオバちゃん(現年齢三十三歳)。彼女は嫉妬に狂って何とかママンや俺を亡き者にしようと、色々と画策しているらしいのだが、それを先読みしていた大王が先手を打って、ママンと俺の周りの従者たちを、凄腕の者たちでかためたそうなのだ。クソ親父かと思ってたけど、一応はママンを守ろうとしていると知って安心した。
そして実際にこの話をしていた侍女も、その凄腕の一人で、相手をしていた侍女も勿論だがそうだった。
何の凄腕かと言うと、或いは剣術、或いは魔法、或いは毒味、或いは気配察知や自身の隠密などなどどこから集めた人材なのかは知らないけれども、そういった者たちがママンと俺を囲み守ってくれてるそうだ。
感謝しかないのだが、一つだけ不満があるとすれば…… いや、ほんのちょっとの毒なら与えてくれてもいいじゃん! 腹痛になるだけの軽い毒どかさ。俺の体質知ってる? 耐性体質なんだよ! 人から盛られないと耐性つかないんだから!?
と心の中で思ってもそれは言えない。まあ、今はまだ物理的にも言葉を発するのが難しいのだが……
この世界ではスキルで鑑定があるらしいが、人相手だと分かるのはスキルと身体能力だけらしい。
攻撃力や防御力なんかは見れないそうだ。俺が神様から貰った能力の一つは体質なので鑑定されても見えない。
見えるのはスキルである便利箱と身体能力になる。それなら別に見られても大したことは無いから特に俺は気にしてなかったのだか、侍女の一人がその鑑定持ちだったらしくて、俺の気力と魔力の数値を見て、ママンに言ったようだ。
ある日、ママンが侍女たちが居ない時に俺の部屋に来て、独り言だが俺に対して聞いてきたのだ。
「テツ、愛しい子…… 貴方を望んでいたと聞かれたらそうじゃないと言わなければならないけれど…… でも、産まれてきてくれて有難う。そして、何らかの素質を持ってるのよね? 私には分からないけれども、それで貴方が生き延びられるなら、私は嬉しいわ……」
そう言いながらママンは涙をひと粒俺の頬に落としたのだった。
そうか…… やっぱりママンに望まれていた訳じゃないよな。でもそんな俺を愛しい子と言ってくれてるママンを俺も守れるようになりたい! いや、絶対になる! 俺はそう心に誓って出来る事はやっていこうと思ったのだった……
で、三歳(数え年)になった俺。今はまだ少しぎこちないけれども言葉を発する事が出来るようになった。メリエルは相変わらずママンに殺気を向けているけど、俺に対してはいつも笑顔だ。
「さあ、テツ様! 今からお見せするのは魔法を使う為の訓練にもなるお遊びですよ〜」
そう笑顔で俺に話しかけてくるメリエルに俺も笑顔で頷く。
「はい、それではテツ様。先ずは私の手を握って下さいね」
そう言って両手を俺に差し出してくるメリエル。俺も自分の小さな手でその両手を握る。と言ってもメリエルの人差し指と中指の二本だけだが。
「ウフフフ、それじゃ行きますよ〜。テツ様! 先ずはご自分の手に力を入れてみて下さい!」
笑顔でそう言うメリエルの言葉に、俺は今の自分が出せる目一杯の力でメリエルの二本の指を握る。
「お上手ですよ、テツ様。その調子です。それじゃ、そのままずーっと力を入れてて下さいね」
そう言って俺に二本指を握られたまま、メリエルが指先から俺の手のひらに向けて魔力を流してきた。それはとても細くて柔らかく、優しい。
ユルユルと俺の手のひらから入ってきてユックリと俺の体を回ろうとしている。
「わかりますか? まだ分かりにくいですかね? テツ様、分かりにくければすこーし力を抜いて見て下さい」
俺は既にメリエルの魔力を分かっていたが言われたとおりに少し力を緩めてみた。すると、細かったメリエルの魔力が俺が力を緩めた分だけ太くなった。
なるほど、俺が手に力を入れてると一気になだれ込まずに細くユルユルと魔力を流せるのか。
「分かりましたか? これが魔力です。テツ様が今感じておられるのは私の流した魔力ですけど、流れる感じを知っていただけたら次やる時にはテツ様ご自身の魔力を流してみましょうね」
笑顔でそう言うメリエルに俺もニコーッという笑顔を作って頷いた。
「ハゥッ! そ、その笑顔は反則です〜、テツ様……(ヤバい、鼻血出そう)」
そう言ってからメリエルはポツリと呟いた。
「ハァ〜、何でテツ様はアミーレの子供なんですかね……」
うん? 俺がママンの子供なのが悪いのか?
「でも、この尊さはそんな事を消し飛ばしますけど……」
俺が聞いても理解出来ないと思っているだろうメリエルは俺を膝に抱え込み抱きしめながらポツポツと呟く。
「アミーレがあの時、あんな場所に居なければ大王様のご乱心も無かったし、私の兄様も責めを負って幽閉される事も無かったのに…… でもまさか一回きりで妊娠しちゃうなんて、アミーレもまた可哀想な子だけど…… それでもやっぱりアミーレを恨んでしまうは…… 私の大切な兄様が幽閉されるなんて……」
ふむ、どうやらメリエルの兄は近衛だったようだな。ちょうどクソ親父がママンを襲った現場に居合わせていたにも関わらず、クソ親父を止められなかった罪で幽閉されてるんだな…… という推察をした俺は、膝に抱えられている為にメリエルのその柔らかな太ももをポンポンと軽く叩いた。
確かにその時にママンがそこに居なければ出来事は起こらなかっただろうが、それだと俺も産まれていない。
「あ〜、メリー〜、メリ〜…… だじょぶ?」
俺は未だに上手く喋れない言葉を使用してメリエルを元気づけた。
「テツ様! フフ、有難うございます。大丈夫ですよ。そうね、こうしてテツ様に出会えたんだから、アミーレを恨むのはもう止めましょう。兄様だってそろそろ幽閉が終わるって聞いているし! さあ、元気出して行きますよ〜、テツ様!!」
にわかに元気になったメリエルを見上げて俺も笑顔になった。
「クゥッ、そ、その見上げ顔は反則です〜、テツ様……(ホントに鼻血出そう……)」
けれども、数年後に真実を知ったメリエルはまた小さな、とても小さな恨みをママンに持つようになるのだが、それはまだ先の話だ……
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