第7話 爵位だそうです
その問いかけの答えは……
「ウム、我が子よ。アミーレがこの婚姻を了承したならばスケール侯爵家に養子として迎えられる事になろう。だが、もしもアミーレが了承しなかった場合には……」
「しなかった場合には?」
俺はクソ親父の最後の言葉を疑問形にして聞いてやる。
「そなた自身が八歳になるのを待って子爵位を授けて大王国の南の辺境地を領地として与えよう。開拓する必要がある領地だがな…… それにアミーレもついていく事になるな」
その言葉に侍女たちが少し殺気を醸し出す。が、俺は頭をかくフリをしながら殺気を抑えるように手振りで示した。
そして俺はママンに言う。
「母上、僕は母上が一緒に来てくださるならば領地開拓を頑張ります!!」
精一杯のやってやるぜーっ感を言葉にのせてママンにそう言うと、ロドスは苦い顔をして俺に言ってきた。
「テツ王子、簡単におっしゃいますが南の辺境地は魔境と呼ばれ、東側は我が国と国交のあるクレセン魔法国ですが、西側は魔族の領地と隣接する場所です。そんな場所を八歳になった王子が開拓出来るとは思えません。私の養子として悠々とお暮らしになる方が楽だと思いますよ?」
言葉は丁寧だが明らかに俺を馬鹿にしている口調でそう言ってくる。だから俺はクソ親父を交えて反論してやった。
「ロドスとやら、不敬であろう? 未だ僕は君が言ったように王子だ。目上の者に対して許可なく発言するのがオウバイ大王家の家臣の作法なのですか、父上?」
「ムッ、そのような事はないぞ。口を慎むのだ、ロドス!」
「ハッ、申し訳ございません……」
悔しそうな顔で俺を睨んでくるが、この場ではどうせ何も出来やしない。だから俺は涼しい顔でママンに言った。
「母上、母上の望む通りにお答えくださいね」
俺の言葉が後押しになったのだろう。ママンは勇気を振り絞ってクソ親父に向かって言った。
「私はロドス様の妻にはなりません。我が子テツの八歳の成長を待って、一緒に南の辺境地へと参りたいと存じます」
クソ親父はママンの返事を意外そうに聞いたが、口に出しては了承の言葉を出した。
「フム、相わかった。ならばその様に手続きをしておこう。テツが八歳になるまでは対外的には第五王子のままと致す。八歳になり次第、この屋敷を出て領地へと赴くのだ。良いな? そして、後ろに控える侍女たちはついていくと言うのならば自由にして良い。それはメリエル嬢も含めてだ」
言うだけ言って立ち上がるクソ親父。その出ていく後を追いかけながらもロドスがママンに言った。
「私を振ったことをいつか後悔なさいますよ、アミーレ様……」
その顔はとても醜く歪んでいたのだった……
そしてメリエルがその日に実家に一時帰宅した。何でも屋敷にやって来たロドスはメリエルの知るロドスと違っていたらしく、真相を確かめに行ってきますと言ってたので、ママンも俺も許可したのだ。
何やら他の四人とも話合っていたけど、メリエルの表情が硬かったな…… 後でマナミにでも何の話をしたのか聞いてみよう。
マナミは一番年下で俺の誘導尋問に引っかかりやすいからな。他の三人だと難しいけど。
【メリエル視点となります】
大王様と共に出ていった兄様を見送った私は王都にあるスケール侯爵家の屋敷に向かう事にしたわ。そこには兄様の侍従であるベンがいる筈。
ベンに話を聞かなければならない。私は【テツ様ラヴ四天王】の四人にそう言ってから、テツ様とアミーレ様に一時的に帰宅する許可を得た。
その時に四天王から聞かされた兄様の評判は…… 私の全く知らない兄様の姿だった……
あの四人が私にそんな嘘を吐く必要はない。だから私は早急にベンに確認する必要があると思ったの。
私が王都の屋敷に戻るとちょうど会いたかったベンが出迎えてくれた。どうやら兄様は戻ってないらしい。だから私はベンを私の部屋に来るように伝えた。
…… のだが、ベンが言い難そうに言う。
「メリエルお嬢様のお部屋はもうございません。現在は物置となっております。幸いと言っては何ですが、私と妻の家が敷地内に建てられました。そちらでよろしいでしょうか?」
「えっ!? ええ…… 分かったわ。ベン、いつの間に結婚したの? 知らなかったわ…… 言ってくれれば良かったのに」
私の言葉にベンは更に言い難そうに言う。
「実はロドス様に止められまして…… まあ、詳しいお話は我が家で。どうぞ、こちらでございます」
私はベンの案内で屋敷の敷地内に建てられた彼の住居に向かった。
「今、帰ったよルチア。今日はメリエルお嬢様をご招待したんだ。何か食べる物を用意してくれるかい?」
「まあ、お帰りなさいませ、メリエルお嬢様! ベンと一緒になったというのに何のお知らせもせずに申し訳ございません!?」
そう言ってルチアが私に頭を下げる。ルチアは十三の歳から我が家に行儀見習いに来ていた子爵家の次女で、ベンもとある伯爵家の次男だ。お似合いだと思っていた私は素直に祝福の言葉を伝えた。
「良いのよ、ルチア。そのお腹を見れば幸せなのは分かるわ。こんな時にお邪魔してごめんなさいね。でもどうしてもベンに聞きたい事があったの……」
私の言葉にヘニャリと困ったような笑顔になるルチアだけど、それでも
「有難うございます、お嬢様。うちの主人が役に立つならばどんな事でもお聞き下さいませ」
と言ってくれた。
そして居間にてベンに言われて座った私にベンから先に話しかけてきたのだった。
「お聞きしたい事は分かります。ロドス様の事でございますね。お嬢様、申し訳ございませんが魔法で防音にして頂けますか?」
言われて私は直ぐに風の結界を張り住居自体と共に部屋にも二重に防音を施した。
私の魔力を読んだベンが、
「有難うございます。では、お嬢様のご質問にお答えする前に、私からお嬢様にお話させて下さい」
と言って、兄ロドスについて語り出した。
「この事を知っているのは
衝撃的なベンの言葉に私は何も言えずにいた。思えば二十歳前までは兄様はよく私に手紙をくれ、コッソリと会いにも来てくれていたのは確かだ。だけど二十歳の誕生日以降は手紙を送っても素っ気ない返信が届くだけで、単純に兄様もお忙しいのだろうと考えていたのだけど…… 私は闇魔法の真贋を使用していたのでベンが嘘を言っていないのは分かっていた……
ふらりと立ち上がり私は私の為に何か用意をしてくれているルチアの元にいき、土下座して謝った。
「ごめんなさい、ルチア。謝って許される事ではないけれど、兄がしでかした事に私は貴女に謝る事しか出来ない……」
あまりにも情けなく、涙が溢れて止まらないまま、私は土下座をしていた。そんな私の両手を取ってルチアは、
「頭を上げて下さい、メリエル様。貴女様の所為ではございません。幸いにして私にはベンという伴侶を得る事が出来ました。ひょっとしたら屋敷内の他の侍女たちに同じような事をロドス様がしているかも知れません…… その子たちをどうか守っていただけませんか?」
ルチアの言葉に私は頷くと直ぐに転移で領地に飛んだ。飛んだ場所はお父様の執務室だ。
「なっ!? メリエル、どうしたのだっ? いきなり?」
ビックリしているお父様に私は詰め寄った。そして、王都の屋敷内の侍女たちを全てテツ様とアミーレ様の離れ屋敷へと移動させる許可をとる。勿論だがベンとルチア夫婦もだ。
そして、王都の屋敷には今後一切十代の侍女は雇わないと誓約してもらった。侍従(男性)だけでしばらくは切り盛りして貰う事になる。
そこまでお父様と約束を交わしてから私はまた王都の屋敷に戻り、すべての侍女たちをテツ様のお屋敷で雇うとベンとルチアに告げた。
「もちろん、あなた達二人もよ。来てくれるわね、ベン、ルチア?」
私の言葉に躊躇いを見せる二人。ベンが代表して言葉を発した。
「しっ、しかし、メリエル様も雇われの身でそのような事を勝手にお決めになっても大丈夫なのですか?」
そこは抜かりなく私はテツ様に念話でお話をしておいたのだ。テツ様からは皆が良いなら来てもらってよという有り難いお返事を頂いている。
「大丈夫よ。私の主であるテツ様はまだ幼いけれども大空のように広いお心をお持ちなの。だから、安心して来てちょうだい」
その日、スケール侯爵家の王都屋敷から十二名の十代から二十代前半の侍女と、ロドスの専属侍従であったベンとその妻ルチアが出ていく事になった。ベンとルチア夫婦についてはテツ第五王子殿下より二人を我が家に引き抜くとロドス侯爵に後日だが通達があったそうだ……
現侯爵であるロドスは事後通達にかなり怒っていたと諸貴族たちの間で噂が聞こえていたらしい……
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