第32話 制裁だそうです

 醜く顔を歪めたロドスが言う。


「カルビ男爵よ、私は侯爵で貴様の寄り親は子爵…… どちらに従うのが正しいのか貴様なら分かるな?」


 おっとそう来たか。だがロドスよ、お前はソーンの実直さを知らないだろう。返事を聞いて激怒するが良い。


「はい! 侯爵閣下! 私はしっかりと寄り親であるテツ様に従います!! ですのでご安心くださいっ!!」


 ソーンの返事を聞いたロドスは血管が切れても知らないぞというレベルで白い顔を真っ赤にして怒鳴った。


「馬鹿かっ! 貴様は! ここは爵位身分が上である私に従うのが正しいに決まっているだろうがっ!!!」


 そう言われてキョトンとした顔をするソーン。良いぞ、ソーン。もっと煽ってやれ。


「はて? 私が間違っておりますか? 私は寄り親に寄りかかる寄子です。例え爵位が上だとしても侯爵閣下よりは寄り親に従うのが正しい事かと存じますが?」


 うんうん、その通りだぞ、ソーン。だけどまともな貴族にはちゃんと従うんだぞ。そこの所は後で教育しておこう。


「くっ! この寄り親にして寄子ありか! お前たち、この馬鹿者を捕らえよ! 見せしめとして大王都にて裁判をする! 罪状は目上の者に対する反逆だ!」


「ハッ! 閣下!」


 しかしそこで動くのはメリエル。


「お待ちなさい! 正気ですか? あなた達はスケール侯爵の騎士であるのでしょう? 真の騎士ならばあるじの間違いをただすのもつとめでしょう。罪状の目上の者に対する反逆などはこじつけも良いところです。その命令に従うというのならこのメリエルが相手になりましょう!!」


 大王国で五本の指に入る偉大な魔法使いであるメリエルにそう宣言されて怯む騎士たち二十五名。けれどもロドスは構わずに命令をする。


「案ずるな! あの女は既に侯爵家の者ではない! 私の妹でもない! あの女を見事に捕らえた者にはあの女を好きにして良い!!」


 その言葉にメリエルがキレる前にソーンがキレた。


「仮にも血を分けたご兄妹に対してあまりな言い草!! このソーン・カルビが相手だ!!」


 待て待て、ソーン、俺にもおいといてくれ。こんなちゃちな騎士たちが相手ならちょうど良い物理耐性の相手になる筈なんだから!

 

 と、思ってた俺は馬鹿でした…… メリエルが居る事を忘れて飛び出ようとした瞬間に後ろ抱きされて、またもや後頭部にメリエルの胸部装甲を感じて至福に至ってしまう俺……


 その間にソーンが騎士たち二十四名をバッタバッタと倒していき、ハッと正気に戻った時には、


「全て急所は外してある。今すぐ手当すれば助かるだろう」


 と、一人だけ残した騎士に宣言しているところだった。


「ソーン様、腕を上げられましたね(テツ様、もっとグリグリしても良いんですよ)」


 メリエルの言葉に頷く俺。だが、ロドスがそれを黙って見ている筈はなかった。スラリと剣を抜きソーンに迫る。


「この私に逆らう事がどういう事なのか教えてやろう!! 死ね! カルビ!!」


 その腕前は確かだったが、メリエルから抜け出した俺が目の前に居たのが誤算だったな、ロドス。


「合戦武闘術【秘伝】鉄斬り!!」


 俺の手より放たれた時宗による斬撃は誤ることなくロドスの剣を斬り裂いた。キーーンと澄んだ音が辺りに響き渡る。


「なつぁ!! ばっ、馬鹿なっ!! スケール侯爵家に伝わる宝剣【ロクデナール】が!! 斬られただとっ!! おのれ! テツ・オウガイ!! こうなれば貴様も大王都にて裁判にかけてくれる!! 大人しく私に捕まれ!!」


 そこで俺はクソな親父だがそれでも今回は感謝しつつロドスに言った。


「処分されるのは君だ! ロドス・スケール侯爵! 忘れてるようだから言うが、僕は子爵位ではあるがまだ大王族でもある! 大王国の王子として君を処罰する!!」 


「なっ! なにっ!? クソッ! そういう事か!! ならば!!」


 そう叫ぶや踵を返して逃げ出すロドスだが、そこにメリエルの魔法が飛んだ。


「複合魔法、眠りの雷スリープサンダー!」


 アレは痛い! 寝ながらにして感電してるから、ビクッビクッと体がハネてるよ。しかもメリエルが術を解かないと目が覚めないからな……


「テツ様! 危ないところを有難うございます! けれども、私の事など放っておいて御身をもっと大切になさって下さい!」


 ソーンがそんな事を言ってきたから俺はソーンを諭した。


「ダメだよ、ソーン。寄子の危機に助けられないなんて寄り親失格だからね。僕はソーンが危ないと思ったなら何度でも飛び出して助けるよ」


「テツ様!! オニ子さんと結婚して子供が産まれたならば、その子もテツ様への絶対の忠誠を誓います!! 私はもちろん、残りの全生涯をテツ様に捧げます!!」


 野郎の生涯の捧げはいらないぞ、ソーン。それに自分の子供に強制は良くないからな。


「ダメだよ、ソーン。先ずはオニ子に勝てるようにならないとその誓いは守れないんだから」


 そう、腕を上げているソーンだけど、まだオニ子には及ばない。もしもオニ子に勝てる腕前だったなら、ロドスの攻撃に反応して反撃できていた筈だからな。


「ハッハッハッ! コレはテツ様に一本とられましたな。しかしご安心下さい。このソーン・カルビ! 近かりし日にオニ子さんに勝ってみせますぞ!」


 乞うご期待みたいに言ってるけどまだまだ無理だと思うなぁ……


「テツ様、騎士たちには簡易の血止めだけ施し街を出ていくように指示し、既に転移で放り出しました。それで、この汚物はどう致しましょう?」


 いや、メリエル、指示したんなら自分の足で歩かせろよ。転移で放り出したって? どこに?


「この領都とナースコールの中間地点ですが?」


 そうですか、カルビ領都、ナースコールのどちらにも今夜中にはたどり着けない場所に放り出しましたか。うん、仕えた主が悪かったんだし、イエスマンだった君たちも悪かったんだから後は自力で頑張ってくれ。


「あ〜、それとスケール侯爵だけど、このままの状態で魔境に住むメスオークの集落に二日間だけ置いておこうかと思ってるんだ。マナミの案なんだけどね」


「それは素晴らしい考えです! テツ様、早速実行致します! それと、眠ったままだとメスオークたちも可哀想なので、意識は戻して感電状態だけはそのままにしておきますね。あ、大丈夫ですよ。この魔力石をはめ込んだ首輪をしておけばずっとそのままの状態を維持しますから!!」


 善は急げの精神からか、メリエルは直ぐにロドスを連れて転移し、そして一人で戻ってきた。


「テツ様、メスオークの首長から、貢物、二日間だけでも感謝するとの言伝です。返礼として家豚を二十頭領都に送ってくるそうです。受取はゴブリナに頼んでおきました」


 それは良かった。さてさて、二日後のロドスは果たして反省してくれてるだろうか。


 二日後、ロドスは老け込み、やせ細り、俺たちを見ても何の反応も示さなかった。なのでメリエルに頼んで大王都の屋敷に連れ帰って貰い、爵位を弟であるセージ・スケールに譲らせて、領地の屋敷にて残りの生涯を過ごす事になった……


 ちょっとやり過ぎたかな? だけど今までにあいつに泣かされただろう少女たちの事を思えばまだ手ぬるい気がしたので、メスオークに預けるのは五日間にすれば良かったかと考えを改めたよ。


 こうして取り敢えず俺たちの一番の邪魔になりそうなロドスは表舞台から姿を消した。これで安心して俺もソーンも内政に力を入れていく事が出来る。






【作者より】


 この物語はまだ続きます。が、この話で十万文字に達しました。

 この作品はカクヨムコンに応募する予定です。


 ですので、作者の勝手ながら次回の更新は【12月1日】からとさせて下さい。楽しみに待って下さってる読者の皆様、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。

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