第35話 烏兎怱怱


 明けて25日クリスマス当日。教会暦でもまだ25日の真っ只中。

 この日はかねてからの約束通り、安達さんとオマケの仁を呼んでのクリスマスパーティー略してクリパが催された。

 華音と安達さんの合作料理は流石の美味しさだった。もちろんコーヒーで労ったさ。好評だった!


 華音と付き合うことになった報告は安達さんには当然、仁には渋々ながら行った。


「まぁ案ずるより産むが易しだな、なるようになったわけだ。よしよし、いじりネタゲット」


「良かったねー華音ちゃん!これからは思いっきりラブラブしなよーって、今までも大概だったよね……」


 安達さんとオマケの仁から祝福?の言葉をもらってからかわれた。華音は満更でもないのか終始ニコニコしていたが……


教会暦で26日になったあと帰り際に仁が、


「年明けから春の全国大会にむけてまた地獄のメニューを組むから……広宮さんをちゃんと捕まえとけよ?同じ事を繰り返すなよ?」


と大きな釘を刺して帰った。大きなお世話だよ親友。






 12月27日つまり明日には両親が帰国するので、今日が今年の華音の仕事納めとなる。つかバイトでウチに来てること忘れてたわ……


「クスクス、私も忘れそうになるけど、しっかりバイト代も頂いてるわよ?」


久し振りにクールモードの華音が説明してくれた。

 

 「私たちお付き合いしてるでしょう?これから先あなたのお世話をするのを、お仕事として行うのに抵抗があるのよね」


「なんで?別にいいじゃん、貰えるものは貰っとけよ。無償でしてもらうのも申し訳ないしな」


「私がしてあげたいのだけど……まぁそう言ってもらえるならお言葉に甘えるわ」 


 俺の懐が痛むわけでもないし、気兼ねなく華音の美味い料理を食えるうえ、毎日のように会う口実が出来る今の状況を変えたくない。


「それで、バイトとしては今日が今年最後として、明日は遊びに来るのか?」


「いいえ、明日はさすがにお義父さまたちもお疲れでしょうから、明後日にでも伺ってご挨拶したいわね」


「親父はともかくおふくろはすぐに会いたがると思うけどな……気遣いあんがと」






 27日の夕方親父達が帰宅、華音が言ってたようにさすがに疲れたのか、この日はお寿司を取って済ませた。おっ寿司お寿司♪


「うん、あんたも大分血色良くなったし?華音ちゃんにお願いして大正解だったわ」


「なんだよまるで俺には自活は無理と言いたいみたいだな」


「言いたいじゃなくて言ってんのよ!」


「やかましいわ」


「それで?華音ちゃんはいつ遊びに来るの?」


「はぁ、明日来るってさ」







「お義父さま、お義母さま、はじめまして広宮 華音と申します。」


「羅怜央の父の雅臣まさおみと申します。いつも羅怜央がお世話になっています」


「Zo○mで会ってるんだけどねー。改めて羅怜央の母の幾乃です。華音ちゃん会いたかったわよー!」


「幾乃さん落ち着いて、華音さんが驚いてるから」


 今にも華音に抱きつきそうな勢いのおふくろを親父がなだめる。駄目だ聞いちゃいねー。あーあ抱き着きやがった……

 あっ華音のやつニヤけてる、なんかしょーもない事考えてる顔だな……


まぁこれで顔合わせも無事に済んだ。






 

 駅に到着、先に着いてるらしい華音たちを探す。

程なく華音と安達さんとついでに仁を発見。華音と安達さんは艶やかな着物を着てて大変良いと思います。


「あけましておめでとう」


「あけおめ」


「おめでとー」


「あけましておめでとうございます」


 メッセで一度済ませているが四人で新年の挨拶をして、連れ立って神社へ向かう。

 その途中でなぜか昭和テンプレくんと遭遇、やっぱり昭和だった。ブラボー!


 参拝後に仁たちと別れて広宮家へ訪問、華音の親父さんの正蔵さんと初対面、最初はなぜか敵対心バシバシだった。

だが、ンドバシュの話で意気投合し、最後は華音のプロマイドを二枚貰った……なぜにプロマイド?

正蔵さんから涙ながらに娘を頼むとお願いされた。

うーん熱さが苦しい。






 出国前に一度一緒に食事がしたいとおふくろが駄々をこねるので、華音にお願いして食事に同席してもらった。

 だがどんな話の展開があったのか、華音とおふくろが一緒に食事を作ることになった。


「娘と食事を一緒に作るのが夢だったのよー」


「お義母さま……」


「華音ちゃん、羅怜央をお願いね?」


「はい……お義母さま……」


えーとなに?もう籍入れるしかないような雰囲気なんですが……まだティーンエイジャーなのにおっかないわ!!






 バレンタインに華音の手作りチョコレートを手渡された。

 いよなは料理が壊滅的だったので市販品しか貰えなかった。なので初めての手作りチョコレートだと伝えるとなぜかヨヨヨと泣いてた……その時の一言、


「去年も父から目を離しさえしなければ……」


正蔵さん去年なにしたの?


「最近練習漬けで羅怜央くん家でもあまり構ってくれません……だから今日はずっと一緒に居ていいですか?」


 これで帰すのは野暮だよなぁ。いよなの時の反省を活かして、出来るだけ華音に構うようにしたつもりだったが、つもりはつもりでしかなかったわけだ。

 淋しい思いをさせたお詫びに一晩かけて構い倒した。







 春の全国大会が開幕。順当に勝ち上がって準決勝で因縁のアルファポリス学園を撃破、明日の決勝で皇帝山田率いる名路羽高校と当たる。

 このために再度の地獄を味わってきたんだ、華音ともどこにも負けないと約束してるしここは獲る。


「地区大会の雪辱も果たせたし、明日はついに皇帝と戦れるね、倒せばお前が高校ナンバーワンプレイヤーだ。心の準備は出来たか覇王?」


「そんなもん二の次だ。勝つのが最優先、全国制覇だ!その後すぐお前とゴリラをしばき倒す!!」


「あるぇ?なんで?」


「なに言ってやがる!明日お前らをしばき倒すためだけに、俺たちは頑張ってきたんだ!ぜってぇ勝つ」


「てことは……準決勝で言ってたやらなきゃいけない事って……」


「もちろん、おまえとゴリラへの報復だ。言っとくけどこれはチームの総意だからな?」


「ええーチームのためを思ってやったのにー」


「やかましいわ!前回に続いて今回の地獄で何組の恋人たちが悲劇を迎えたと思ってるんだ!!」


「今回は羅怜央上手くやってんじゃん?関係なくね?」


 今回はな、しかし前回の報復の貸しが残ってるから……あと長いものには巻かれます。


「よっしゃ!ぜってぇ優勝すんぞ?」


「勝ちたくなくなってきた……」








 桜の花びらがひらひらと舞い落ちて、華音の綺麗な黒髪に乗りまるで髪飾りのようになっている。


「華音……花びらが乗っかってる」


「あら、取ってくれますか羅怜央くん」


「動くなよ?ほら……」


「ありがとうございます」


 最近とみに綺麗になったと評判の「氷姫」……広宮 華音がにっこりと微笑む。


「早いもんだもう三年生、受験生ってやつだもんな」


「くすくす、羅怜央くんがそんなこと言ったら周りから怒られますよ?もうほぼ進路決まってるんですから」


 春の全国大会で優勝を飾ってすぐ、プロリーグの数チームから声を掛けられた。

 その中でも熱心に声を掛けてくれている二チームに絞って進路を考えているところである。

 

「まだ決めてねーもん。夏の大会までは保留だよ」


「新くんはもう決めてるのに……」


 ちなみに仁にも声が掛かっていて、あいつはその中からもう進路を決めてしまっている。


『これで高校ラストイヤーは好きなことだけに集中出来る』


 そういう考え方もアリなんだろう、けど俺はそれだとモチベーションが保てない。


「夏も獲る……そのためだ」


「はい、悔いの残らないように。私もしっかり見てますね?」


「ああ、そばで見ててくれ。それだけで俺はどこまでも行けるから」







◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


一気に時間が過ぎていきました。

タイトルの読みは「うとそうそう」

意味は「歳月のあわただしく過ぎ去るたとえ」です。

タイトル通りあわただしく時が過ぎ去っていきました。


次回が本編最終話です。よろしくお付き合いください。


次回も読んでいただけると嬉しいです。



新連載始めました!

サレ妻の復讐とそこからの恋愛ものです、

読んでいただけると嬉しいです!


https://kakuyomu.jp/works/16817330665273163974





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