第3話 「ピンポーン」おっと誰か来たようだ……


 広宮を送り出して一人リビングのソファに落ち着くと、昨日からの出来事が頭を過ぎる。

 

 いつもよりも早く部活が終わって帰宅が早まった事が、ある意味この一連の出来事の引き金になったと思う。多分いよなの想定外に俺たちが早くホテル街に通りかかってしまい、それが浮気の発覚につながった。

 

 あいつは最後まではぐらかしていたが、部活にかまけてカノジョであるいよなを蔑ろにしていたのも、間違いなくあいつが浮気に走った理由の1つだろう。

 

「……やっぱりまだ胸がいてぇ、ずいぶんと引きずってるなぁ」


俺は独り言ながらスマホを操作する。


「はぁ……いよなをブロックする日が来るとはなぁ。って……はぁ?なんでいよなのやつメッセージなんて送ってきやがった?」


メッセージの画面を立ち上げてびっくり、いよなからメッセが届いていた。

開けてみると、


『お別れしたばかりなのにメッセージを送ってしまってごめんなさい。あの後、一人でラーくんとお別れしたことを噛み締めていると、ぽっかりと心に穴が空いていることに気づきました。この穴は下司野では埋まらないそれほど大きな穴でした。それを感じたとき、あぁやっぱり私はラーくんじゃなきゃダメなんだって心の奥から実感しました。すごく遠回りをしていろんなものを犠牲にしてやっと大事なことに気づいたバカな私ですが、もしも叶うなら赦してほしいもう一度やり直したいと想っています。いつまでも待ってるので…………』


 はい途中まで読んでしまったがブロックブロック。ここまで馬鹿にされてるとは……これにはほとほと愛想が尽きた。

あんなもの見せられて、あんなこと言われて、赦してほしい?もう一度やり直したい?どこまで人を舐めれば気が済むんだ?

 下司野じゃ埋まらない穴とか、なんちゃらの奥とかなんか卑猥なこと書いてあったけど、下司野とのそういうところを想像してしまってなんだか萎えたわ。てか、あいつもしかして短小なのか?ウケるw


 今のメッセでかっちりきっかりはっきり吹っ切れた。そういう意味ではアフターケアまでしっかり万全ってか……クソったれ。もういいや忘れよう……




 後は仁からの大量のメッセと着信っと。着信履歴はオール削除してメッセージだけ流し見たけどほとんどお怒りの言葉が綴られていた。なんか怒らせることしたかな……?

分からないことは本人に聞こうとメッセージを打ち込む、


『元気ですか?サイコーですか?特に何もないですか?ところでなんか怒らせることした?あっそれといよなと別れた』


○樫 義博って天才だよね。早く次巻出してくださいお願いします。


 即既読が付く、あいつもしかして暇なのか?てか、カノジョと会ってるんじゃないのか?

 

『言いたいことはそれだけか?てめぇ明日の朝日を拝めると思うなよ?』 

『というか大事なことをしれっと最後に差し込むなよ。でもそうか、やっぱりそうなるよなー。てか大丈夫か?』


『おうもう完全に吹っ切れた』


『そっかー』


『で?キャプテンはカノジョさんと会ったのか?甘えたのか?オギャったのか?』


『てめぇやっぱり喧嘩売ってるだろ?まぁ今のお前には言いづらいけど会ってきたよ。あとオギャってねーよ』


『そかそか。良いカノジョさんなんだから大事にしなー』


『おう。なんかエライあいつに対する評価高いな?やらんぞ?』


『はいはい心配性乙』


ついでにこれも言っとくか、


『あとなんか広宮に会った。そんで傘に入れてもらって家まで送ってもらった。スゲーだろ?』


『広宮ってあの広宮か?』


『そうそう氷姫』


『なんで?友達なのか?』


『いや初対面……のはず。なんでだろうな?』


『しかし安里さんの次は氷姫かよ。なんなのお前の女運?良いのか悪いのかは知らんけど』


『いよなのことは分かるけど、広宮はそんなんじゃないし。氷姫だぞ?』


『ハイハイわかったよ。なんかカノジョから連絡来たからここまでな?明日は練習だからな忘れるなよ?』


『オケオケ分かってるよ。カノジョさんによろしくーじゃーな!』


『おうお疲れ!』


 仁とのメッセを終わらせて時計を見るともういい時間になっていた。腹は減ってないしぶっちゃけ食べたくないんだけど、何か入れとかないとと思いストックを確認。


「カップラーメンが一つも無いじゃないですかヤダー」 

「ふぅ面倒いけど仕方ない、コンビニでも行くかー」


嫌々ながらコンビニまで行く決心をして準備をしていると、


『ピンポーン』


我が家の呼び鈴が鳴った。ウチにはインターフォンなんて付いてないので応対するために玄関まで向かう。


『ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン』


呼び鈴連打してやがる。


「分かった分かった!すぐ行くからちょっと待て!!誰だよ一体!」


頭にきたのでちょっと乱暴に扉を開ける。するとそこには、


「ただいま、とりあえず荷物受け取って?」


さっき送り出したはずの広宮 華音がスーパーの袋を提げて立っている。


「…………」


「呆けてないで早く荷物受け取ってよ」


「……………………」


「はーやーくーにーもーつー」


広宮が荷物を受け取れと急かしてくる。

まだ状況が理解できてないがとりあえず荷物を受け取る。


「ふー重たかった。連絡先聞いてなかったから荷物持ちに呼ぶこともできなくって大変だったわ」


「いやいやいやいや、えっなんで?帰ったんじゃねーの?この荷物なに?なんかまた距離感近くねーか?」


それになに屋内に入ろうとしてんだコイツ?


「ちょっと入れてよ。何故通せんぼしてるのかしら?」


「いやいやいやいや、質問に答えてないよね?」


「あら、答えたら入れてくれるの?」


あれ?さっきまでのこいつってこんなだったっけ?やっぱり距離感おかしいよな。


「とりあえず言ってみ?聞くだけは聞いてやるから」


「門限を過ぎてしまって帰れないの。だから今日一日泊めて頂戴」


「は?」


「実はさっきの時点でどうやっても門限に間に合わなかったの。だから泊めてもらうつもりでお礼に食事を作ってあげようと思って買い物してきたの」


「またまたまたご冗談を」


「いえいえいえ本気よ?」


「またまたまた」


「いえいえいえ」


「……馬鹿か!!送ってやるから家に帰れ」


「だから門限過ぎてるから帰れないの」


「俺がご両親に言ってやるから」


「お嬢さんをくださいって?照れるわ」


「はぁ?ちげーよ何言ってんだ!?」


ホントに何言ってんだコイツ?なんかのらりくらりと躱そうとするし、隙をみて中に入ろうとしてるし。てか結構声がデカくなってしまったから、このままだとご近所さんに誤解を招く。……仕方ない。


「とりあえず近所迷惑になるから入っていい。食事もいただく、材料費は後で渡すから必ず受け取ること。そんで食べ終わったら送るから家に帰れ」


「最後の以外は了解よ。腕によりをかけて作るわよ、楽しみにしてなさいな」


「はぁ……、どうしてこうなった……」




〜 広宮 華音 Side 〜



 ふぅ根都くんとお近づきになるという目標のためとはいえ、あの距離感で接するのは恥ずかしいですね。

でも恥ずかしさに耐えたおかげでお料理を作らせてもらえることになりました。

 お料理を食べてもらって連絡先を交換するのが今回の戦略目標なので、まずは第一段階クリアといったところですね。あとは連絡先の交換です頑張りましょう!

 しかし結構簡単に折れましたね……。心配だわ、こんなに押しに弱いなんて色々と大丈夫なのかしら?このままのらりくらりと押し引きしてたら本当に泊まれてしまいそうです。……いっそ泊まってしまいましょうか?なーんて……キャー何言ってんの私ったら!!




 根都くんのご両親が今夏から海外へ長期赴任になったと聞いたとき、一番に心配したのが根都くんの食事をはじめとした家事全般のことでした。カノジョさんがそこら辺のお世話をしてくれるのであればよかったのですが、安里さんは家事が全くできないというのは以前の調査でわかってたことでした。

 なのでまことに僭越ながら炊事洗濯などなど、家事を一通り仕込まれた私が根都くんのお世話を引き受けようと考えたのです!そしてあわよくば根都くんとイチャイチャと出来ればなんて……キャー!!


 ……でもこの完璧な作戦にも致命的な問題点がありました。それは私がまだ根都くんとお近づきになっていないということです。返す返すも一年半前の一学期、あのときに父親の甘言に乗って短期留学などに行かなければと悔やまれます。遅々として進まない作戦に根都くんの生活が私の中では危ぶまれていました。


 しかし、まだ天は私を見捨ててはいませんでした。根都くんには大変お気の毒な事とは思いますが、カノジョさんとお別れをしたという情報が、ついさっき本人の口からもたらされたのです。なので情報の精度・鮮度は完璧です。ならば今の根都くんは正真正銘のフリー、私がお世話をしても誰に憚る事もないということです。そして偶然にもそのタイミングで根都くんとお近づきになることができました。

そのうえ見たところ根都くんは押しに弱い!!もしかするとステディな関係になってキャッキャウフフが出来るかも知れない!

前言撤回、戦略目標を修正、今日はこちらにお泊りします。


こんなにお膳立てが整ったのならあとは行くのみ押せ押せドンドンです。





〜 根都 羅怜央 Side 〜




 背筋に寒気が走った。あれ?もしかして風邪引いたか?ヤバい刈り上げゴリラと仁にバレたらえらいこっちゃ。もうちょい厚手の服に着替えるか。


「広宮、悪いちょっと着替えてくる」


キッチンで料理をしている広宮へ声を掛ける。


「どうかしましたか?」


「いや、寒気がしたから温かい服に着替えるわ」


「それならいっその事お風呂を沸かして入っちゃってください。そっちのほうが温まりますから」


「あーそうするかー……って!いやいやそれしたらお前を家まで送れなくなるじゃないか!」


「ちっ……気づきましたか」


「油断も隙もないな……着替えてくる」


自室で厚手の服に着替え終えてダイニングキッチンへ行くと、広宮がこちらに顔を向け、


「ちょうど良かったです。根都くんのリクエストが欲しいのですが、オムライスの卵はフワフワなのが良いですか?それともしっかり焼いた方が良いですか?」


「おー!オムライスかー。俺は両方とも好きだけど、今日はフワフワなのが良いな」


「フフ、分かりました。仕上げますから座って待っててくださいな」


ここで食べたら家に帰れ云々は無粋だよな。


「悪いな、何か手伝うよ」


「ならサラダを並べてくれるかしら?」


「了解それくらいなら俺にも出来る」


「フフフ、ありがとう」


なんだろうこの和やかな雰囲気は?なんか甘酸っぱいんですけどー!照れるわ!!

俺が一人照れていると広宮が顔を背けて何か呟いている、


「なになに、根都くん顔真っ赤なんですけど?めちゃくちゃカワイイんでけど?私へのご褒美ですか!?

神様ありがとうございます!デュワー!」


「広宮?なん「なんでもないわ」そうか……」


スープカップとチキンライスを乗っけた皿を配膳し、


「さてとお待たせしました。できたわよ」


オムレツをチキンライスの上に乗せ、オムレツの真ん中にスッと切れ目を入れるとフワッと卵が広がった。


「おー美味そうだな!」


「クスクスありがとう。あぁごめんなさい、デミグラスソースは用意出来なかったの。レトルトのハヤシライスソースとケチャップどちらにする?」


「ケチャップで食べる」


「なら私はハヤシライスソースにするから一口食べない?」


反射的にまた顔が熱くなる。広宮は何かを察して、


「クスクス、どうしたの?そんなに顔を赤くして」


「つっ!なんでもねーよ!!」


「あらあら、アーンでもしてあげましょうか?」


「勘弁してくれ」


「フフフ、冷めないうちに召し上がれ」


「ったく……いただきます」


まずは口をつける前にハヤシライスソースの方をいただく、見た目通り美味いな……

続いてケチャップの方をいただく、こちらも美味えや。食レポ?出来ねーよ旨いもん食ったら語彙力無くすタイプなんだわ。


「どっちも美味えや」


「あらあら、嬉しいわありがとう」


あれ?そういえば食欲戻ってるわ。


「じゃあまぁ本格的にいただきます」





いやーマジで美味かった。久しぶりにちゃんとした物食った気がする。


「ご馳走さまでした」


「お粗末さまでした」


「いやーマジで美味かった。久しぶりにちゃんとした物食った気がする」


ついつい思ったことをそのまま喋ってしまった。


「ありがとう。でもその物言いだと普段なにを食べてるか気になるわね」


「コンビニって偉大だよなー」


俺がコンビニを讃えると広宮は呆れながら、


「まったく……栄養バランスを考えたもの食べないと身体壊すわよ?」


「ハイハイ、気を付けますよーと。さてと……」


俺の雰囲気が変わったことに気づいて身構える広宮、


「美味いメシありがとな、あと思った以上に楽しかったよ。家まで送るから帰ろうか」




〜 広宮 華音 Side 〜



 さてここからが正念場です。なんとか言いくるめて泊めてもらわなければいけません。


「もうとっくに門限は過ぎてるわ。今から帰るなんてできない」


「それは俺の方でご両親に説明する大丈夫だ」


 まぁそう来ますよねー、さっきも同じような事言ってましたし。ならば、


「実はさっきお母さんに友達のところに泊まると言っちゃいました」


根都くんが額に手をやり、


「……誰か泊めてくれる友だち居ないのか?ほぼ初対面の男の家に泊まるなんてどうかしてるぞ?」


「そんな人居ません。それに同衾すると言ってるわけではないですよ?」


「ふぅ……当たり前だ」


うん?なんかさっきから根都くんの様子が変ですね?

なにか体調でも悪いのでしょうか?


「ちょっと待ってください。さっきからなにか変ですよ、体調とか大丈夫ですか?」


「……話を逸らすな。確かに頭が少し重いし寒気もちょっとするが大丈夫だ。さぁ送っていくから……」


私の方に歩き出そうとしたのに足がついて行かずそのまま前に倒れ込みました。私は根都くんの側へ行き額に手を当てるとすごく熱くなっています。


「すごい熱!ベッドまで連れて行きます。あと少しだけ頑張ってください!」


「ふぅ……ふぅ……いや駄目だ。……お前を送っていく」


私はカッとなって、


「なにを言ってるんですか!今はそんな事を言ってる場合じゃありません!!お願いですから今は言うことを聞いてください!!」


私は目に涙をためてお願いする。根都くんは諦めたように、


「……分かった。ありがとう」


と言ってフラフラと立ち上がり、


「ベッドまで行くから肩を貸してくれないか?」 


と頼ってくれた。なので私は、


「はい!」


と答えて彼に寄り添った。







◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


羅怜央くん倒れちゃいました。桃缶いる?


次回も読んでいただけると嬉しいです。




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