たとえば君がいるだけで
第21話 母親というもの
嫌がらせのように県大会の決勝戦を中間テストの直前に持ってくる、県高校ンドバシュ連盟に抗議の電話をかけてやろうかと思いながら臨んだ決勝戦。
危なげなく優勝をもぎ取り、仁は優秀選手、俺は最優秀選手に選ばれて有終の美を飾った。
返す刀で中間テスト、こちらも三対一で試験範囲を仁に叩き込みなんとか乗り切ることに成功したが……しんどかった。仁のやつ、ンドバシュの事なら頭回るのになんで勉強は全滅なんだ?
しかしこれで後顧の憂いなく部活に精が出せる。あのアホに勉強を叩き込んだのも、万が一にも赤点を出させない為。それを乗り切ったとあれば今まで貯めた鬱憤を、試合でこき使う事で発散してやる。
「という事で覚悟しやがれ仁」
「どういう事で!?組み合わせ抽選から帰って来たらいきなり不穏なんですけど!」
「フン、やかましい!とりあえず覚悟だけしとけ。で?アルファポリス学園とはどこで当たる?」
本題を切り出したら満面の笑顔でもってドヤってきた。殴りたいその笑顔。
「……決勝まで当たらんですタイ!」
「でかした!!」
「フッフッフ崇め奉りなさい……」
「へへぇー流石ですキャプテン!」
「喧嘩売ってんのか!?祟るぞ!」
せっかく崇め奉ってあげたのに何故かキレ散らかすキャプテンは置いといて、これで全国は勝確になった。
「リベンジはしたいけど、どうせなら全国行きを決めてから安心して当たりたいよな?」
「そうそう、また準決勝とかで当たって万一の事故なんてゴメンです。安全第一これ大事!」
「「ワッハッハッハー!!」」
「主将に根都先輩……そんなんでいいんスか?」
一年生がこの世界の真理に異議を唱えた。
「「この……バカチンがー!」」
「おまいらは去年の悔しさを忘れたのか!?」
「いや俺ら一年なんで去年居なかったッス」
「やかましい口答えするな!」
「理不尽!!」
もういい!こんな血も涙もない一年坊主共など知らん!俺は実家に帰らせてもらう!
「よっしゃとりあえず安心したから帰るぞ仁!」
「はいなはいな!ちなみに一回戦は今週末な?」
「おうよ!って近すぎるわボケ!県の決勝と中間テストの疲れが残ってるのに……」
「あれ?お前勉強は出来るのになんで疲れてんの?」
元凶がなに言ってやがる、お前のせいでしなくて良い徹夜をしたっていうのに……てかお前も同条件のはずなのに、なんでそんなに無駄に元気なんだ?
「誰のせいだと思ってるんだ……」
「え?誰のせいなん?」
「お・ま・え・だ・よ!お前のせいだよ分かれや!」
「えーでもなんとかクリアしたじゃん?」
「ギリギリな!てか俺たちがあんなに教えたのになんでギリギリなんだよ!?」
「やぁーなんでだろね?」
なんかもうどうでも良くなってきた……帰って飯食って寝よ。とにかく寝たい……徹夜明けと試験終わりで気分がハイになってたのと、強敵回避の安心感で変なテンションになってたけどもう限界……
「もういいわ……帰る」
「なんか辛そうだな、大丈夫?」
「逆になんでお前はそんなに元気なんだよ……」
「若いから?」
「同い年だ馬鹿ヤロー……」
「突っ込みにもキレがなくなってるな、早く帰って休め?」
なんか冷静なこいつも腹立つな……
「じゃーなお疲れさん」
「お疲れっした!根都先輩!!」
「おおう……元気だな若人たちよ」
早く帰って寝ないと三日後には試合だ、疲れを残す訳にはいかない。
眠気で妖鬼のようになりながら、ふらつく足で校門にたどり着く。睡眠欲しかない状態で口から魂の言葉が迸る。
「な゙ーま゙ーだーま゙ーごー」
「生卵がどうかしたの?」
「だーれ゙ーだー?」
誰何しながら声の方に振り向くと、そこにはもうお馴染みになった絶世の美少女。広宮 華音が鞄を両手で提げ小首を傾げて立っていた。
「まるで妖鬼のように徘徊してたから、どうしたのかと思っちゃったわよ。根都くん大丈夫?」
ああ学校内だから久しぶりのクールモードで名字呼びなのか、なんか今更感が半端ないが建前って大事よね。
「い゙や゙……ゴホンゴホン、いやなんでもない大丈夫だ。てか眠くて頭が回らないから帰って寝る。今は俺の邪魔をするな……」
「いえ、邪魔はしないけど……そんな状態でひとりで帰すのは危ないわ私が送ってあげる」
「ばーか、お前だって状況は俺と同じなんだから帰って寝ろ」
言外に今日は来なくて良い旨を伝えると、心外だとばかりに顔をしかめ、
「それを決めるのはあなたじゃなくって幾乃さんと私だわ。私の雇い主は幾乃さんなんだから」
言ったあとバツが悪そうにさらに顔をしかめる、そして申し訳無さそうに、
「ごめんなさい、やっぱり私も寝不足でイライラしてるみたいね。あなたの言うように帰って寝るわ」
「気にしてないからお前も気にするな。眠い時はお互い様だ。あーあと今の仁のやつを見たらまたイライラするから気をつけろよ?」
おどけて返してやると気が晴れたのか少し笑って、
「あら、新くんも寝不足で参ってるのかしら?」
「逆だ。なんかやたら元気有りやがるから見ててイライラする」
「クスクス、タフなのね羨ましいわ……くぁふ、ごめんなさい。はしたないわね」
小さなあくびをしたくらいで謝罪してるわ。ホントにお嬢だな。バイトとはいえウチの家事やらせて申し訳ないな。見なかったふりして、
「さてとマジでヤバいからほんとに帰るわ」
「そうね私もそうさせてもらうわ。じゃあ行きましょう?」
あーよく考えたら駅まで一緒だわ……
「チッ締らねーなぁ、じゃあエスコートしますよお嬢さま?」
「クスクス、じゃあお願いしようかしら王さま?」
ウチの最寄り駅に到着。ふたりして危なく寝過ごすところだった。これは……
「華音、さっきのお前の言葉じゃないが、お前一人じゃ危ないから送っていくわ」
「ありがとうございます。ですがそれだと羅怜央くんが大変ですから大丈夫ですよ?」
「いやいやそういうわけにも行かないから」
「あぁ、強情を張ってるわけではなく、母に迎えをお願いしようかと思ってます。ですので大丈夫ですよ」
あーそう言うことか、なら安心だな……じゃあ、
「なら、連絡ついてかすみさんが来るまで、一緒に居るからちょっとでも楽にしてな?」
「そうですか?ならあまりお断りするのも失礼ですしお願いしますね」
「悪いな、わがまま言っちまって」
結構意固地になってしまったことを謝罪する。やっぱり寝不足の影響かね?ちょっと思考が変だわ……
「いえいえお気持ちはすごく嬉しいですよ?では母に連絡を取りますね」
スマホを取り出してメッセージを送り出した。カスミさんにだろう。しばらくのやり取りのあと、
「母と連絡が取れてすぐに迎えに来てくれるそうです。ですので羅怜央くんも一緒に帰りましょう?」
「すまんな。じゃあ世話になる」
「はい!」
こちらも意固地にならず好意は受けよう。
しばらくおしゃべりして眠気と闘いながら待っていると、水色のワーゲンビートルがこちらにやって来た。
「羅怜央くん久しぶりね、全然遊びに来てくれないんですもの私寂しかったわよ?」
華音の母親のかすみさんがシナを作って話しかけて来た。
「ははは、ご無沙汰してます」
俺は笑って返すのが精いっぱいだった……眠い
「あらあら、ほんとに限界みたいね。乗りなさい送っていきます。さぁ華音も乗りなさい」
「ありがとうございます」
「ふたりとも着いたら起こしてあげるから寝てなさい」
「かすみさん俺んちって」
「知ってますよ?娘のバイト先くらいは調べます。お店とかではなく個人宅なんだから当然です」
「そうですか……」
「ですから寝てなさいな」
「そうします。ありがとうございます」
何故か悔しくて情けなくて眠気が吹っ飛んだ。でも今はかすみさんと話したくないから、目をつぶって寝たふりをした。多分かすみさんは気づいていただろう。
それでもなにも言わなかった……
「羅怜央くん、着いたわよ起きなさい」
かすみさんの声で目が覚めた。なんだかんだ言っても寝てしまうあたりなんだかなーだな。
「かすみさん、ありがとうございました」
「気にしなくていいわよ?私も意地悪な言い方しちゃたしネ」
「そんな事……」
「いいから、今日は帰ってゆっくりお休みなさい」
「はい、そうします」
「今度遊びにいらっしゃい、待ってるわよ」
と、ウインクを残してワーゲンビートルは走り去って行った。
◇◆◇◆
お読みいただきありがとうございます。
一回戦は作者的には結構盛り上がったのに、決勝戦の描写が五行で終わる大会って……
次の地区大会も似たような感じになるかもしれません。
結構そこら辺は書き始めないと自分でも分からなかったりします。
プロットってなんですか?美味しいですか?
今話から第三章になります。
第三章から物語も大きく動くような動かないような?
次回も読んでいただけると嬉しいです。
よかったら☆と❤を頂けるともっと嬉しいです。
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