第20話 焼肉パーティー

 昨日の試合も完勝し県大会決勝に進出。去年の記録を更新した。そして何故か決勝が水曜日に開催される。なんで?まあ勝つけどな!


 そこで、決勝前の景気づけに先週から打ち合わせをしてた焼肉パーティーを今日開催する。まぁパーティーと言っても来賓が二人来るだけだが……その内一人は身内みたいなもんだしな。


 現在只今は食べ物飲み物の準備を、が大わらわになって行っている。俺と仁?手伝いを申し出たら邪魔だから引っ込んでいろと、オブラートに三重くらい包んだ言い回しで拒否られた。解せぬ。


「ホントに根都家のキッチンを掌握してるね。フィールドでの誰かさんみたいだな」


 テキパキ動きながら安達さんにも指示を出してる華音を、ニヤニヤ眺めながら評論する。


「誰かさんって誰だよったく。まあ良くやってくれてるよ、おふくろにも給料弾めっていってるけどな」


「へぇー本当に雇ってんだ?絶対嘘だと思ってた」


「そこを疑ってたのかよ。じゃあこの状態をなんだと思ってたんだ?」


「ハハハ……通い妻?」


「そんな訳あるか!あいつだって仕事じゃなけりゃこんなにほぼ毎日来ねーよ」


「そこは本人に聞かなきゃわからないと思うが?」


「そこの駄弁ってるだけのヤロー共に、沙織ちゃんがお仕事をくれてやりましょう!」


いきなりの安達さん乱入


「ひと通り仕込みと盛り付けできたから、キリキリ和室まで運びなさい!」

「そして私と華音ちゃんは休憩します!!」


 もう盛り付け終わったのか……流石に家事得意の二人だな仕事が早い。


「えー面倒いな最後までやってよー」


 仁がぶーたれてる。馬鹿か、女性陣が仕込みをやってくれたんだから力仕事は男の仕事だろが。


「馬鹿ヤメロ仁、やるぞ。ありがとう安達さん全部やらせて悪かったね?終わったんならゆっくりしてくれ。なんならコーヒー淹れようか?」


 労いの言葉をかけると、安達さんがきょとんとした顔をして、


「根都くんってすごい自然に労ってくれるよねー華音ちゃん幸せ者だ。仁くんも見習いなー」


「俺だって労ってるさ、心の中で」


「表に出さなきゃ意味ないでしょー?」


 なんかふたりは痴話喧嘩を始めた。痴話喧嘩ていうかじゃれ合い?


「いちゃいちゃしてんじゃねーよ、独り身には目の毒だ」


「なに言ってんのー?華音ちゃんがいるじゃん」


「そーだよなー、普段当てられるこっちの身にもなれってんだ」


「はいはいやるぞー」


「あーらま、ツレないねー突っ込みなしかー」





 焼肉は大変美味しゅーございました。男子高校生にはやっぱり肉だな。肉、肉、野菜、にくにくにくだよな。


 しこたま食べたので今は食休み中、他愛ない話で盛り上がっている。とはいえ、学生なら逃げられない話題もあるわけで……


「仁、中間のテスト勉強やってるか?」


「メシ後に勉強の話は消化に良くない」


「ったく、赤点で主将が地区大会出られないとかやめてくれよ?」


こいつホントに有りそうだから怖いわ。


「そこは大丈夫、その程度は頑張った」


「ホントか?ならあとは地区大会本番だな。言う迄も無いことだけど、組み合わせ次第ではあそこに勝てないと全国には行けないからな?」


「アルファポリス学園……」


「そうだ今年の全国大会春夏連続二位のな、去年そこに負けて全国を逃した」


「忘れないさ」


「あぁ借りは返す」


 去年の地区大会の準決勝、アルファポリス学園に敗退して全国大会初出場を逃した。

 

「まあ去年はどうやってもあそこには勝てるイメージが湧かなかったからな」


 あそこは名路羽高校の皇帝 山田のような突出した個は居ない。だけどよくまとまった、チームとして強いと言う印象。まあよく漫画とかで出てくるナンバー2の学校とイメージしてもらえたらおおよそ間違いない。


 実際、俺や仁は個人としてなら普通に太刀打ちできたが、終わってみたら結構な惨敗を喰らった。


「やってやるさ今はどこと戦っても負ける気がしない」


 今大会に入ってからホントに絶好調で、今ならあの名路羽高校にも勝てるのじゃないか?と思えてしまう。




「くすくす、珍しいですね。羅怜央くんが食後にコーヒーを淹れるのも忘れてお話に夢中になるなんて……」


華音が珍しく茶化して来る。


「それだとまるで俺がコーヒー狂いみたいじゃないか。……でもそうだな、そろそろ腹も落ち着いてきてコーヒーも入るだろうから淹れてくるわ」


「やっぱりコーヒー狂いじゃないか」


「おいしーから嬉しーけどね」


嬉しい事を言ってくれる。良い豆出しちゃおうかな?



 その後安達さんと、珍しく華音がゲームをしたいと言ってきた。どうも華音と安達さんが示し合わせていたようで、安達さんがハードとパーティーゲームのソフトを持参して来ており、ちょっとしたゲーム大会が始まった。


 ゲーム自体初心者の華音が居るので、罰ゲーム的なものは無しにして純粋にゲームを楽しんだ。

 やはりゲーム自体に慣れてないからだろう、華音は右往左往して皆をホッコリさせてくれた。

あと、レースゲームで車体の向きと華音の身体がシンクロして、左カーブのときに身体を傾けすぎてコテンとコケたのは可愛らしいかった……ウム美少女のゲーム下手はご褒美だな。


 

 焼肉にゲームにと、休日をしっかり堪能し結構良い時間になってきた。安達さんも華音もそろそろ帰らなければならない。

 当然、安達さんを仁が、華音を俺が送ることになる。仁たちは電車のため駅へ、俺達はいつも通り徒歩で送るためウチの前で解散する。


「じゃあ華音ちゃん今日はごちそうさまでした。次は私が招待するね!」


「お粗末さまでした、楽しみにしてますね」


 美少女二人が両手を繋いでブンブン上下に振りながら別れの挨拶をしている……癒やされるな。

 美少女二人の共演に心のシャッターを切りまくっていると、


「根都くんもありがと。今度試合見に行くね!」


「仁のついででいいから応援よろしくな」


「アッハッハまっかせてー」



 仁たちと別れて歩き出す。しかし安達さんは仁にはもったいないくらい良い子だな。


「羅怜央くん、楽しかったですね」


「そーだな、肉も美味かったしな。ご馳走さま、ありがとうな」


「そんな事はいいんですよ、どうせ家族三人では食べ切れなかったところです。食べてもらえるなら、こちらこそありがたいです」


「そう言ってもらえると助かる。すき焼きのときといいこんなに肉を食ったのは久しぶりだったわ」


「くすくす、新くんと二人ですごい食べっぷりでしたものね」


「男子高校生の食欲舐めるな、本気出したらもっと行けるワイ」


 勝ち誇った顔でドヤって見せると、華音は可笑しそうにくすくす笑っている。


「それにテレビゲームも初めてやりましたが、楽しいものですね」


「ははは、華音のレースゲームは笑わせてもらったな。コテンって倒れるんだもんなコテンって」


「あーそんなふうに笑って!恥ずかしかったんですよ?」


「あーゴメンて。ゲームに興味が出たなら俺も持ってるし、ウチでやってみても良いんじゃないか?」


「そうですね、やってみてもいいかも……羅怜央くん教えてくださいね」


「ハハッいいぞ、実地でボコして教えてやるよ」


「もう!意地悪です!」


 頬を膨らませて拗ねて見せる華音がおかしくてついつい笑ってしまった。

 そんなふうに華音をからかったり、華音からからかわれたりしながら歩いているとあっという間に広宮家に到着。これで本日の業務も終了、お疲れさん。


「今日も支度やら何やらありがとな。明日からもよろしくな」


「はい、今日も送っていただいてありがとうございます。こちらこそ明日もよろしくお願いしますね?」


「じゃーなお疲れさん」


「はいでは、おやすみなさい」


さてと、帰ったら華音たちが準備で居ないときに受け渡ししたムフフ本を鑑賞しようかね。


ムフフ……







〜 下司野 茶楽雄 Side 〜



 あの衝撃の一回戦以降も根都の快進撃は留まることを知らなかった。

 ただ、二回戦・三回戦と観戦してひとつ気になることがあった。そして準決勝を観て確信した、一回戦のときに見えた穴が塞がっていない。


 並大抵のチームならたとえ気づいていても、その穴を突くことも出来ずに根都に掌握されてしまうだろう。

 また、その穴を突くことが出来る数少ないチームでも、自分のチームの穴を根都に攻められてそこまで手が回らなくなる。

 

 だからその穴は致命傷にならないように見える。しかし例えば名路羽高校、あの皇帝を擁する日本一のチームならどうだろう。

 自分たちの穴を突かれても耐え忍び、皇帝がその一穴を突ければそれは根都の致命傷になりうる。


 逆を言えば名路羽高校クラスでなければ、今の根都を止めることが出来ないということでもあるが……


 


 転校するまでナンバー6もブスカも自分のもので、根都も俺が従えるとずっと信じて疑わなかった。

 転校して根都のプレーを見てからは、敵わないと気づかされ自暴自棄になったふりをした。

 根都のプレーに未来を見てそれにさらに憧れを抱いたことを認めず、根都の大事なものを奪うことに心血を注いで誤魔化した。


 しかしあの一回戦で根都の天才を魅せられてからの俺は、ありえないことを考えるようになった。

 ふとした瞬間に自分なら根都のプレーにどう応えるのかを考えてしまう……

 俺なら15石に入って名路羽の皇帝 山田を完封は出来ずとも多少抑える事が出来る……3品に入って新・C・仁と名路羽の守りを突き崩す事が出来る……そうすることで穴は塞がる……などなど、そしてその想像が楽しかった。


 今更何を考えているのか自分でも呆れてしまう。俺は根都から大事なものを奪った張本人だ、その俺がどのツラ下げて根都と組ませてほしいと言えるのか。


 ただ今更だと知っていても夢想してしまう……転校後に普通に入部し、根都や新・C・仁と頂点を目指してフィールドを駆けていたらと。



ホントに今更だな……どうしろってんだ……





◇◆◇◆



お読みいただきありがとうございます。


今話で第二章も終了です。

羅怜央くんと華音さんの二人の距離も縮まって来たんじゃないかなーと思います。


そして若干一名、仲間になりたそうにこちらを見ている人がいますね?


次話から第三章になります。

第三章もよろしくお願いします。


次回も読んでいただけると嬉しいです。














よかったら☆と❤を頂けるともっと嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る