第25話 驕る〇〇は久しからず


 試合開始直前、アルファポリス学園のキャプテンが薄っすら笑ったのが印象的だった……



〜 広宮 華音 Side 〜


 試合の序盤戦、いつものように羅怜央くんがゲームを掌握しようと動きます。


「華音ちゃん、前回もそうだったけどこの時間帯はいつも静かなんだよね?」


沙織ちゃんが聞いてきます、


「そうですね、羅怜央くんも言ってましたが、序盤の流れを掴んでからゲームを掌握するので、どうしても静かな流れになるそうです」


「ふーん、でもやっぱりプレーは凄いなー。うわっまたあの位置でゲドルパ決めた!」


あれ?さっきもあの位置でゲドルパを決めてました……。はて?あっ他の方々の動きが変わってきました。ということは羅怜央くんが流れを掴んだということですね。


「あっ仁くんの動きが変わってきた!ってことは、根都くんが流れを掴んだ?」


「はい、そうだと思います。試合が動くかもしれませんね」



 羅怜央くんが流れを掴んだあとは、優勢になって行きます。ですがさすがアルファポリス学園です、決定的な展開にはなかなかさせてもらえません。

 優勢なのに攻めあぐねる、膠着した嫌な展開ですね。


「なんか空気が重いね?」


「さすがアルファポリス学園ですね、羅怜央くんが攻めあぐねるなんて……」


「さっきからあと一歩なんだよねー。それよりさっきの位置からのプレー、良く効いてたのに使わなくなったよね」


 それは私も気になってました……ただ羅怜央くんがわざとやっているようにも見えます。


「多分、他のところに意識を集中させて、あのスペースへの注意を逸らすためかなと思うんですが……」


「だよね、私もそう思った」


つまり、次にあの位置に羅怜央くんが侵入したら、今度こそ試合が動くかもですね。


「仁くんの位置が少し変わった?他の人もちょっとずつ根都くんとは離れて行ってる……」


「これは動くかもですね……あっあの位置に入りま……」



「馬鹿野郎!やめろ根都それは罠だ!!」


「え?」


あれは金髪のチャラチャラした人?





〜 下司野 茶楽雄 Side 〜

作者注

  時は戻って試合序盤です。ごめんなさい


 比較的に早い時間に、根都が流れを掴んだように思ったが膠着状態が続いている。

 さすがアルファポリス学園というところか、チーム全体が良く纏まっていて根都とはいえ容易く付け入る隙がない。

 

「これは崩すのに時間がかかりそうだな」


 今はまだ焦る時間帯でもない、じっくりと見極めて行けばいい。



 またか……他のところはガチガチに固めているのに、あのスペースだけは時おり緩くなる時がある。

 根都もそこに何度か侵入して崩しを試みている。しかし何とか立て直されているな。


「ここだな……」


 本格的に崩すならこのスペースからだな、他の所とは対応の仕方が違ってる。多分アルファポリスの穴はここだ……そうなるとタイミングを図るためにわざと他のところを攻めるべきだ。


 だが、他のところを攻めようとすると強烈なプレッシャーが来る。圧力を上げてきたな、向こうも根都に慣れてきたか?てか、慣れてどうにかなるものでもないはずなんだがな。さすが全国二位ということか……


 素人が見たらもう少しに見えるかも知れないが、これは根都としてはなかなかに手詰まりかも知れない……と、アルファポリスが考えてくれたらこっちの思うつぼだな。虎の子のあのスペースが使える。



 ……しかし冷静に考えて、あのアルファポリスがそんな目に見える隙間を開けるか?もう一度疑いを持ってフィールドを確認したほうがいいな。


 これは……偶々ではないな、巧妙に隠しているが自然に出来た隙間ではない。何らかの意図がある……

 

 ……!今のアルファポリスの動き、……分かったぞそういう事か!

 今根都が多分ブラフだろうが、絶妙なタイミングで件のスペースに侵入しようとするそぶりを見せた。

 そのときまるで水が流れるような滑らかさで、アルファポリスの全員が動き出そうとした。

 あの動きの意図は……多分、他のフィールドプレーヤーと完全に分断し、根都を孤立させる狙いがあったように見えた。


 上階から俯瞰で見ていたからアルファポリスの意図が読めたが、フィールドプレーヤーとしてあの場にいたら絶対に読めなかった……


 まずいぞ、次にあのスペースを使ったら根都が孤立させられる。

 孤立した王なんてただの飾りだ……その時根都の王権がすべて覆される。まるでリバーシで角を取られるようにパタパタと……


 

 NTRの選手の動きが変わった、まずいぞあのスペースを使うつもりだ!

 根都があのスペースへ動こうとする、


「馬鹿野郎!やめろ根都それは罠だ!!」


 俺は無意識に叫んでいた。






〜 根都 羅怜央 Side 〜



「馬鹿野郎!やめろ根都それは罠だ!!」


 その叫びが聞こえた瞬間、俺は掴んでいたものが

スルリと抜けていった感覚を感じた。


 そして実際にすべてが俺の手からすり抜けていった。

 今まで普通に通っていたプレーがすべて止められる。

 面白いように繋がっていた味方との連携もすべて切られてしまう。


 フィールドのすべてを支配しているという万能感が無くなり、フィールドにひとり取り残された孤独感が募る。


 頼みの綱の仁もご丁寧に潰されてる。

とっておきの15石とブスカの合せ技「皇帝スタイル」も、念入りに封殺された。

 よく考えたらこの戦法って皇帝対策だよな、そりゃあ皇帝のなり損ないが通用するわけないか。



 くそったれダメ元で一から掌握し直してやる……って今度はそっちが攻めんのかい!チクショー卒がない。

 しかもこっちの穴を的確に突いて来やがる。


 もう時間もない、こっから勝ちに持っていくことは出来ない。くそ全国二位を舐めてた、そりゃあ対策くらいするわな。あのキャプテンの薄ら笑いもこういうことかよ。勝てるって言いまくってたから格好悪い事この上ないな……


 もうこれ以上格好悪くなりようが無いならとことんやってやる!なんか仁も足掻いてるみたいだし、考えることは一緒みたいだな。さすが相棒、良くわかってるわ。


 今の手持ちが全滅なら新しく創ってやる。

 見てやがれ!






〜 広宮 華音 Side 〜



 涙が溢れて止まらない、隣の沙織ちゃんの嗚咽を洩らす声も聞こえます。


 もう打つ手は有りません、素人目で見てもここから勝ち筋なんか見出すことは出来ないのは分かります。

 なのに……諦めないんです……勝てないって分かってるはずなのに。何か出来ないか……何か爪痕を残せないかと足掻いている。新くんとふたりで這いずり回ってます。


 人によってはみっともないと言う人も居るかもしれません。実際に格好良くはないのでしょう。でも、私にはとても素敵に見えます、沙織ちゃんも同じだと思います。


 多分このまま終わってしまうでしょう。でも戻ってきたときにお疲れさまと、笑顔で迎えてあげたいです。


……あれ?





〜 下司野 茶楽雄 Side 〜



「おいおいおい!……マジかよ。ハッハッハ、やっぱりとんでもねえなお前は。なあ……根都よ!」


 もう試合の趨勢は決した、ここからはどうしようもない。そんな状態から足掻き始めてそして掴みやがった……

 

 さっき根都がやった「皇帝スタイル」はブスカと15石を状況に応じて使い分ける名路羽高校の山田を皇帝足らしめた唯一無二のスタイル。それを真似出来ただけでも称賛に値するが、言っても二番煎じ。


 しかし今根都が見せた、いや創ったものはブスカと15石を使山田と違い、ブスカと15石を。ハッハッハとんでもねぇやつだ。こんなこと考えついても誰もやらねぇよ。

 処理しなきゃならないことがフィールドで一・二を争うブスカと15石を、使い分けるのだけでもヤバいのに、ひとりでやってしまおうと言うんだからとんでもねぇ。

 

 ただし出来たときのリターンは計り知れない。現にアルファポリスの連中、対応できずに右往左往してやがる。味方も新・C・仁以外対応できてないけどそれはご愛嬌だな。てか、対応できてる新がすげぇわ。


 俺なら出来てたかな……?やってみてぇな……


 いややってやる。俺がやるべきことが見えた。

プライドも面子も知ったことか、必要なら頭だって下げてやる!


 俺は日本一の3品になる!





◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


羅怜央くん大惨敗です。

でもただでは負けません。

いや、一瞬考えたんですよ?ただで負けても面白いかなって。


あと、茶楽雄くんがデレました。

どうなることやら……


次回も読んでいただけると嬉しいです。


あっちなみに次回は間話です。











良ければ☆や❤、フォローもいただけるとさらに嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る