間話 空の上の誰かさん 胸糞注意
〜 下司野 茶楽雄 Side 〜
休み明けの放課後に職員室へ向かう。用があるのはなんかゴリラっぽくてゴツいのに、音楽の教師だという謎の生物。学校七不思議の一つ、ンドバシュ部顧問兼コーチ 高知 獅子雄(三七歳 既婚)のところだ。
「入部届確かに受け取った、ようこそンドバシュ部へ!しかしよく入部する気になったな?」
「確かに今更感ハンパないのは重々承知だ」
「そんな事は言ってない、入部に早いも遅いもない。ただ、以前断られた時の印象がな……」
「フン、あんときとは覚悟が違う」
スースーする頭を撫でながら断言した。
「まあその目を見れば分かるが」
「地区大会の決勝を見に行った」
「それは……ハハ……つまらんものを見せてしまったか」
「違う。最後の根都のプレー、あれを見て入る気になった。あいつと一緒にやりてぇ、それだけだ」
「そうか……ただ……」
「まだなんかあるのか?」
「いや、ただ地区大会が連戦だったから今日と明日は休養日になってる。練習に合流するのは明後日からになる」
まああれだけの激戦だ、敗戦のショックもあるだろうから休養も必要だ。
「分かった、明後日の放課後か?」
「そうだ」
「その日から世話になる」
渡すものも渡した、もうここには用はない。踵を返して職員室を出る。
しかし、以前も思ったが近くで見ると、何故音楽教師なのかと混乱してしまう。学校七不思議は伊達じゃねぇな。
今日の朝イチ、同じクラスのあの女の所へ頭を下げてケジメを付けるために行ってきた。
『すまなかった』
『なんのつもりかなぁ、あたしぃアンタの顔なんか見たくないんですけどぉ』
『ケジメを付けに来ただけだ』
『ふぅーん、で?そのケジメとやらを付けてどうする気ぃ?』
『根都とンドバシュをやりたい』
根都の名前を出したら女の顔が強張った。
『ラーくんとンドバシュ?』
『そうだ』
『へ……へぇーあんたがそこまでする程なんだぁラーくんって。でもラーくんがぁ許してくれるかは分からないよねぇ』
『それはお前には関係ない』
『ふん分かったぁ、てかあんたもラーくんもあたしとはもう関係ないしぃ好きにすればぁ?』
『分かった。すまなかった』
俺はもう一度頭を下げて女から離れる。
『あぁもうひとつ……その頭似合ってるよぉ』
『フン』
ケジメも付けた、入部届も出した、あとは明日根都に詫びを入れたら一応全部ケリだ……
一度根都という光に目が眩んで、道を外れて外道に墜ちた。そんな俺がまた根都という王に縋って王道へ戻ろうとしている。
それは許されることなのか?俺には分からない……一度外道に堕ちたものが真っ当な道を進んで良いものなのか?
まあ、それは空の上の誰かさんが決めるだろう。
この校門を出たらもう難しいことは考えない、前だけを見てただひたすら進んでいく。
そう前だけを見て……
「おい!にーちゃん避けろーー!!!」
『キキィーーパッパァーーー!!ドガシャーーン』
とんでもない音と衝撃、それと一瞬の激しい痛みだけを感じて俺は意識を失った。
「…………」
「……………」
「………………」
「………………いてぇ」
意識が戻ってきたが体中いてぇし、真っ暗闇だしどこだここ?
「……!」
横で誰かが息を呑む音が聞こえる。
「茶楽雄!目が覚めたのね?茶楽雄?」
おふくろの声が聞こえてくるが、この暗闇で顔が見えない。なんで照明点けないんだ?
「うるせぇよ頭に響く」
「茶楽雄、三日も目を覚まさないから」
「三日だと?クソッ入部早々についてねぇ」
「入部?」
「あぁ、ンドバシュ部に入った。またンドバシュやるわ」
「え?あぁ、一昨日来られた高知先生の……」
「で?ここは病院なのか?リハビリにどれくらい掛かりそうなんだ?右脚の感覚がないんだけどよ?」
俺は何とか動く右手で右脚を叩こうとして空振った……え?なんでだ?
「おい、右脚がねぇんだけどどこ行った?」
「うぅ……」
おふくろの嗚咽が聞こえてくる。
「おい!俺の右脚がどこ行ったか聞いてんだよ!答えろ!!」
「生命が助かっただけでも奇跡だそうだ……」
おふくろの後ろの方から違うやつの声が聞こえてくる。
「おやじ」
「よく生きててくれた……ありがとう」
「なに言ってやがる?右脚はどうなった?」
「今は何も考えるな……ゆっくり休め」
「聞かれたことに答えろ!右脚はどうなったと聞いてる!」
「……救急車が来たときには皮一枚でぶら下がってたそうだ。その出血で危なかったようだが奇跡だよ」
「!……つまり、もうンドバシュは出来ねぇって事だな。クソったれが!」
拳をベッドに叩きつける。クソったれ、結局こういうオチかよ。俺みたいに一度外道に堕ちたものは、真っ当な道を眺めるだけでそこに戻っちゃだめってか。
空の上の誰かさんよぉ、そりゃあ厳しくねぇか?
「ふぅふぅ……分かった、一度自分で確認したいから電気点けてくれや。暗闇で話す趣味はねぇからよ」
「茶楽雄……さっきから変だと思ってたが見えてないのか?」
「なに?どういうことだ?」
「ここは病院の病室で今は午後二時だ……」
「あん?もっと分かりやすく言ってくれ。どうも寝起きで理解力が落ちてる気がする。言ってることが理解できない」
「くっ……つまりここは今とても明るい……暗闇にはなっていない……」
オヤジが今何を言ってるか理解が出来ない。えっと今は昼間で明るいから暗闇なはずがない。つまりそれでも暗闇と感じるなら、それはお前の目が見えていないんだと言いたいわけか?
え?嘘だろ?つまりもうンドバシュを、根都のプレーを見ることも出来ないということか?
「ふざけんな……ふざけんな!!ふざけんな!!!どうしてだよ!なんで!!ンドバシュも出来ないうえになんでだよ……もう見れねぇのかよあいつのプレーが……ふざけんな」
つまり何か?俺はンドバシュを奪われて道に戻れないうえに、墜ちた底から天井を見上げることも許されないと。そういう事か?
ふざけんな!俺はそこまでの事をしたのか?なあ、空の上の誰かさんよぉ俺はそこまでの外道なのか?そこまで許されちゃだめな存在なのか?教えてくれよ。
ああ今俺は泣いている。涙が頬を伝う感触は感じることが出来るがそんなものいらない。
ンドバシュをやらせろなんて贅沢も言わないさ。ただあいつの、根都のプレーを見させてくれ。
頼むよそれくらい良いだろ?
なぁ神さまよ……頼むよ……
◇◆◇◆
お読みいただきありがとうございます。
これが私が考えた茶楽雄くんに対する
ざまぁになります。
ただ、これをざまぁと呼んで良いのか
書いてて疑問に思ってしまいました。
そこで、今話の公開時に
皆さんのコメントを募集しました!
その結果は次回の後書きをお読み下さい!
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