第31話 光陰矢の如しって言うじゃん ねぇ?

 

 師走にとっくに突入し二学期の期末テストも終わり、来週には早くもクリスマスを迎える今日このごろ。

 

「では、お義父さまとお義母さまは、クリスマス明けに帰国されるんですね?」


「ああ、なんかクリスマスを夫婦水入らずで過ごすんだと」


 イントネーションに突っ込むのも、もうなんか疲れるのでスルー。

 それからオヤジ達も外国にカブれてしまって、年甲斐もなくラブラブなんだもんなー。息子は安定の放置ですが。


「あら、それは素敵ですね」


「そうかー?息子の立場からしたらビミョーに恥ずかしいぞ?」


「くすくす、分からなくはないですよ」


「だろ?それでさっきの話、25日に仁達と簡単なパーティーしないかった話なんだけど予定空いてるか?」


「はい大丈夫です」


「準備は安達さんも手伝ってくれるらしいから……いつも悪いけど頼んでいいか?」


「もちろん承りました!他の方にはお任せしません!」


 使命感に燃えてらっしゃる……いつもいつもありがたいし申し訳ないわー、もっとちゃんと労ろう。

……さてこっからが本題、


「それで……だ」


「はい……」


「イブはいつもどうしてる?」






〜 広宮 華音 Side 〜


 キター!遂にこの話題が来ましたよ!


「例年は父が拗ねるので家族で過ごしています」


 去年は羅怜央くんと安里さんの報告を見て、傷心の中でのイブでしたが家族と過ごしました。実はなぜか父が半泣きになって母が愉悦してたくらいしか記憶に残っていませんが……


「今年は……なにか予定あるか?」


 これは……流れがきてますか?この流れに乗っちゃって大丈夫ですか?乗っちゃいますよ?えいやって、乗っちゃいますからね?


「えいやっ」


「えいや?」


「いえ、なんでもありません!こほん今年は予定は入っていません……よ?」


 せめてあざとく上目遣いで言ってみました。さぁ鬼が出るか蛇が出るか賽は投げられました。

 これ以上のお誘いシチュエーションは有りません!

もしこれで、「じゃあ家族と楽しく過ごしてくれな!俺は新しいカノジョと過ごすから!」なんて言われようものなら憤死してしまいますが……


「だったら……いや、ぜひ俺とイブを一緒に過ごしてくれないか?」


 …………来ました、……聞き間違いでは無いですよね?イブを一緒にと確かに言いましたよね?

イブ・〇〇ローランとかではないですよね?

 ここは淑やかに可愛らしくお受けしましょう。


「はひ!ほょろほんえ!」


 ……なぜ?なぜここで盛大に噛みますか?一世一代の可愛さを見せなきゃいけないところで!


「えっなんて?」


ほら!見てください。羅怜央くんがポカンとしてますよ?ポカンと。


「いえ、噛みました」


「そうか……見事な噛みっぷりだったな。それで、どうだ?」


「こほん、はい、喜んで」


羅怜央くんはどこかホッとした表情で、


「ありがとう」


安堵の溜息とともに言葉を零しました。





〜 根都 羅怜央 Side 〜



 ふぅー誘えたぁ……遊びの誘いは以前もしたけど、クリスマスイブの誘いとなるとまた一味違うな……


 てか、去年はいよなと過ごすのがマストだったし。

まあ別のことで緊張してたけど……

 中学時代のクリスマスはヤロー共と遊んでたから、女の子を誘う緊張なんて今回が初めてだもん。


 これはぶっちゃけ怖いな……もしこれで華音から、「えっ?なに言ってるんですか?イブはカレシと過ごしますけど?」とか言われて断られたら憤死する自信があったぞ……


 いやまあ、大概一緒にいるから華音にオトコの影がないのは知ってる。知ってるけど、いよなの件があるから、女ってホントに分からないからな……

 結局男ってのは女の子の掌の上で転がされてる生き物なんだろう。ジゴロとかイケメンしか勝たんとかは都市伝説だな。

 

 しかし、これで第一関門突破だな。あとはそうだな……うん、どこに行こう。あとプレゼントどうしよう……はい、何も考えてなかった!何やってんだ俺は……


 しゃーない、ここはお助けマンを召喚しよう。


『おい、仁えもん。助けてくれ!』


『仕方ないなー羅怜央くんはー。どしたの?』


『イブ、華音、誘った、どこ行こ』


『なんで片言?てか遂にか!覚悟決めたか?』


『ウイウイ、カクゴキメマシタヨー。DA・KA・RAタスケロください』


『なんか絶妙にウザいな?まあいいや、なんも計画してなかったん?』


『うん失念してた!誘うので脳使い切った!だから考えろ!あとプレゼントの案も下さいな!』


『え?プレゼントも用意してなかったん?マ?』


『うん、ホントに助けてくれ』


『うわぁ、仕方ないなぁ、実際予約が要るところはさすがに軒並みアウトだろーから、予約が要らない所かー映画とか寒いけど遊園地?運だよりだけどキャンセル待ちとか、オススメはしないけど自宅デート?あと広宮家に突撃とか(笑)最悪Gaagle先生に聴け!』


『うわ情報量すご。助かるありがとう』


『大したこと言ってないのに、羅怜央から素直な礼が出た!ホントに困ってたんだな……』


『あと出来ればプレゼントの提案もプリーズ』


『ちと待て、今Gaagle先生に聴いてるから』


『あざす』


『なんか三駅行ったところに、手作りアクセサリーの体験レッスンがある。これならプレゼントとデートスポットのダブルで行けんじゃね?てか俺が行きたい』


『おー今ガグッたけどいいじゃん。ウェブ予約入れた。ご苦労!』


『はやっ、てか変わり身も早いな……しかしよく予約が空いてたな……あっ予約が締め切られた……何なんだこいつの運は……』


『いやまじで助かった。ノープランに気づいたときには眼の前真っ白になったわ。てか思った事メッセで打たなくても良くね?』


『うるさい、いろいろと事情があんだよ。もとい。それでその後のプランはどーすんの?』


『体験プランが昼からの二時間で三時頃終了だから、そっから遊園地行って観覧車にでも乗るかそんでその後イルミネーション?』


『いーんじゃね?観覧車前に少し遊んでたから夕焼け頃に観覧車とかそのあと夜にイルミネーションとか女子好きそうじゃん?』


『華音がそれに当てはまるかはよく分からんが嫌がることはないだろ。多分……』


『多分なんだ……これは貸 いちだからな?』


『あいよ。覚えてたらなー』



あーそんなやり取りも前に華音とやったなー


『そんなに凄くないですよ私。これは……そうですね貸しいちです!!』


『貸しいち?』


『ンンコホン、そうよ貸し。なにか私が困ったときに返して頂戴?精々高くふっかけてあげる』


そんなに前の話でもないのになんだか懐かしいな。



『忘れんなよ!あと報告よろしくーこれ義務ね?』


『なんの報告だよ……趣味悪いなー』


『知恵を出したものに対する正当な対価だろが!』


『はいはい、じゃーなサンキュ』




「羅怜央くん?」


 あーそうだった華音まだウチに居たんだった……

テンパッて仁えもんに助けを求めることに夢中になってたわ……


「あーごめん。行くとこ決めてみたんだけど、こーゆー所ってどうだ?」


 さっき予約したアクセサリー工房のホームページを開いて見せる。


「へぇ体験レッスンもあるんですねー」


 画面を見るために頭をこっちに寄せてくる。あーなんかいい匂いする……もうちょい嗅ぎたいかも……


「えっ?」


「ん?」


 気がついたら華音の肩を抱いて、自分の方へ引き寄せていた。


「あースマン……」


「いえ、良いですからとりあえず放してください」


「放さなきゃ……駄目か?」


「え?」


 華音がボッと赤面する。その顔に俺はハッとして、すぐに腕を肩から放して両手を挙げて距離を取る。


「あーなに言ってんだ俺は!ごめん!」


「いいえ!大丈夫です!大丈夫ですから!大丈夫なとき!大丈夫すぎる!」


「ほらーテンパッてるじゃねーか!ごめんて!もう離れたから。てかごめん!」


 ふたりしてテンパッてるので事態が収拾せず、混乱が拡大の一途を辿っている。ここは土下座か?土下座なのか?

 流れるように土下座のフォームに移行する。それに勘づいた華音が慌てて止めに入る。


「わー羅怜央くん良いですからそんな事しないで下さい!」


「いやしかし……嫌な思いさせたからここは魂の土下座で誠意を見せるしか……」


「いえいえ嫌な思いしてませんから!大丈夫ですから!」


「なんで土下座させてくれないんだ?」


「なんでそこまで土下座したがるんですか?」


ただ誠意を見せたいだけなんだが……


「仕方ない他でもない華音がそこまで言うなら……」


「ありがとうございます?」


 とりあえず土下座は出来なかったが、誠意は伝えられたように思う。


「それでさ、さっきのアクセサリー工房どうだ?」


「はい楽しそうですし行ってみたいです」


「オッケー、じゃああそこに決めとくな」


「はい、では今日はお暇しますね。カレーをキッチンに作り置きしてますので温めて食べてくださいね?」


「オケオケ、じゃあ気を付けて帰れよ?」


「まだ外も明るいですから散歩がてらのんびり帰りますよ」


 華音を送り出してリビングのソファーにドカッと座り込む。

 何やってんだに俺は……やったことも、言ったことも完全に無意識だった……


 そりゃあ、自分の過去にも踏ん切りを付けて、今の自分の気持ちにも素直になると決めたんだけど……この表し方はいけない。

 

「自重しないとなー、家だとふたりっきりなんだから」


口に出して自分を戒めた。





〜 広宮 華音 Side 〜


 びっくりしました……あんなにいきなり羅怜央くんの顔が近くに見えて、羅怜央くんの手があんなに大きくて力強くて……


ハッいけませんよだれが……じゅるり


 しかし、デートプランを一瞬で決めるなんて、羅怜央くんはさすがに安里さんに鍛えられたという事ですか。ちょとイラつきますね……

 ただ、ディナーの事を何も言っていなかったのが気になりますね。もしかして失念しているかもしれません。羅怜央くんときどきうっかりさんですからね、ここはできる妻!(違います)として保険をかけておくのが良いでしょう。最悪当日使わなくても翌日のパーティーで使うことができます。


クリスマスが楽しみです、どんな素敵なことが起きるのでしょう……






◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


ちょっと駆け足気味ですがクリスマスが訪れます。

物語にも一つの区切りが訪れようとしています。多分


ラブコメさんは今までの分も、もうひと頑張りしてください。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る