第9話 地球にやさしいタイプのゲス


 家路につきながら一昨日からの怒涛の展開にため息をつく、ホントに文字通り怒涛の展開で笑うしかない。


「三日前の俺に言っても笑って信じないか、怒るかだよねー」


 三日前の俺は普通にいよなを信じ切ってのほほんと部活に精を出してた。あいつが違うことに精を出されてたとは全く考えずに。


 そして一昨日の俺は、いよなと別れたあとに「氷姫」と知り合って一日でこんなに距離を詰め寄られるとは思ってなかっただろう。ていうか未だに信じられないところはある。


「てか、あんな性格とは思ってなかったからな。噂ってあてになんねーな」


 大分暗くなるのが早くなってきてなんかは少し肌寒くなってきたことに、季節が夏から秋に変わったのを実感しながら、人との付き合い方も変わっていくよなーと妙に悟ったように納得していた。


 なーんて黄昏れてるうちにおウチに到着。

流石にいよなは残ってなかった。ちょっと不安だった。

広宮家とは違い三歩で玄関へ辿り着く。


「ただいま」


 ひとり呟いて屋内に入ってしっかり施錠、最近物騒だからね怖いよね。例えば"い"が付く人とか。あっやべ……か"い"んも、いが付いてたわ。

 さてと……腹減ったし食料のストックを確認しにキッチンへ、スパイシーな匂いに華音がカレーを作ってくれていたのを思い出す。ありがてぇなご飯も炊けてるし。

 

「ありがたやーありがたやー」


 感謝の気持を持ってカレーを焦がさないようにかき混ぜながら温める。しっかりと温まったカレーを、カレー皿に盛ったご飯にかけてその姿をスマホでパシャ。それでは、


「いただきます」


 程良い辛さが口の中に広がる。これは好きな辛さだな。え?料理上手な人って相手の好きな味とか判るもんなの?凄くね?

 あっという間に一皿完食、もう一杯行っとこう。

めちゃ美味いんですが?おふくろのカレーも相当凝って作ってるんだけどそれに遜色ない、てかこっちの方が好きまである。


「ごちそうさま」


 堪能しました。食後のコーヒーを準備しながらため息を一つ吐く。いやー美味かった……しばし余韻を味わって、スマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げる。先程交換した華音の連絡先へカレーの写真と共に、


『ご馳走様でした』


と送信……即既読が付く、そして即レス


『お粗末さまでした、お口に合いましたか?』


『すげぇ美味かった』


『嬉しい……ありがとうございます』


『明日も楽しみにしてるのよ』


『はい!』


『じゃあねおやすみ。ちょっと早いけど』


『おやすみなさい。ちょっと早いですけど(笑)』


 なに?このやり取り……なんか新婚さんとかカップルなりたてみたいな、甘いぎこちなさがあるんですけど?しばらく毎食後にこのやり取りするだろうことを考えると、我が事ながらも口から佐藤さん吐きそう。

ごめんね全国の佐藤さん……


 全国の佐藤さんにお詫びを入れたあと、ついでに仁にもメッセージ送信、


『【悲報】いよな襲来』


『えっマジか。』


『んだ。広宮を家まで送ろうと外に出たら遭遇』


『おっ広宮さん家まで送ったのか?羅怜央くん』


『羅怜央くん言うな……あいつもあの距離の詰め方何なんだろうな……』


『なんだ自慢か?明日から大変だぞ、いきなり「氷姫」に名前呼びされてる男が表れたら……後は分かるな?』


『やめろください……キャプテン』


『てめぇ……八つ当たりしてんじゃねーよ女難男』


『あ?喧嘩売ってんのか?』


『てめぇからだろーが』


『そんな事よりいよなだよ』


『あーで?やっぱり復縁を迫る感じ?』


 こんな感じでときには脱線しながらメッセが続いていく。


『ちげーよそこはお前がガテンタで締めだろが。ふぅさてと……そろそろ勉強するわ』


『あいあい。しかしお前のキャラで成績上位って笑うよなー』


『やかましいわ、成績落としたら強制連行なんだよ』


『そーだったな、まぁ頑張れ!』


『いやお前も頑張れよ……見た目勉強出来そうなのに見た目詐欺だよな』


『大きなお世話だ!てか明日は学校出て来るんだよな?』


『おうもう大丈夫だし。部活も出られるわ』


『オケオケ、じゃあ明日なー』


『おうまたなー』


 メッセのやり取りにも一段落付けて宣言通り勉強を始める。もし成績を落としたら今回みたいに話し合う余地もなく強制連行だろう。一昨日、昨日とできなかった分もしっかりと勉強はやろう。






〜 広宮 華音 Side 〜



 集中していた勉強の手を止めて、脇に置いてあるマグカップに入れたコーヒーを一口。時間が経っているので冷めてしまっています、入れなおした方がいいかな?


「ふぅ、ふふふ。羅怜央くん今何をしていますか?」


 昨日今日とずっと一緒にいた人のことを思い出す。

一昨日まであの人とどうやってお近づきになろうかと、四苦八苦していたのが嘘のようです。


 コーヒーを入れ直すためにキッチンへ、お湯を沸かしていると母が入ってきました。


「お勉強はおしまい?」


「いえ、コーヒーを飲もうかなーと。お母さんはお茶で良いですか?」


「あら、ありがとう。お父さんの分もいいかしら?」


 多分私はあからさまに渋い顔をしたと思います。

お母さんはそれを見てちょっと苦笑いし、


「まったく、そんなに嫌わないであげて?お父さんもただあなたのことが大事なだけなんだから……」


「それは……わかっています。ただ会ったこともないのに羅怜央くんの事あんなふうに言わなくても……」


「クスクス、男親なんてそんなものよ?これで華音に彼氏なんて出来たらもっとすごい事になりそうで楽しみだわ」


 お母さんが楽しそうにクスクス笑っている。他人事だと思って……その時が来たら全力で楽しむ気ですね。


「もう……考えたくありません……」


「あらあら、でも羅怜央くんなら大丈夫よ」


 ここでいきなり羅怜央くんの名前を出されて、顔が熱くなりました。私は慌てて、


「何故ここで羅怜央くんの名前が出てくるんですか!?」


「フフフ、我が娘ながら可愛いわね」


「もう!知りません!はいお茶です!」


「はいありがとうね。クスッ」


 母にお茶を載せたお盆を渡し私は自室へ逃げるように引きあげた。









〜 下司野 茶楽雄 Side 〜



 根都から女を奪ったそのあまりの昂揚感に、ついつい勢いでその女を捨ててきてしまった。少し勿体無いことをしたな。

 もう用は済んだから必要ないと言えばその通りだが、不用品の有効活用だな……リユースの精神から地球に優しくなかったと少し反省する。

 まぁ過ぎてしまったことをグダグダ言っても仕方ない……俺は前を向いて生きている。



 俺はンドバシュのナンバー6を背負っていた。県でも五本の指に入ると評判だったが、親の仕事の都合で他県のNTR高校に転校することになった。

 その話を聞いたとき仲間は悔しがってくれたし、俺も仲間と離れるのが悔しくはあったが内心では嬉しかった。NTR高校といえば俺が中学時代から憧れている根都 羅怜央が居る学校。

 そこで憧れの根都からナンバー6を奪い取り、根都を従えて全国へ華々しくデビューする……そんな未来予想図を持っていた。


 しかし、転校前に夏の大会を見学しに行ったとき俺は衝撃を受けた……。俺だって腕に覚えはある、だから見ただけで分かる。分かってしまう。俺ではどうやっても敵わない、ブスカとしてそれほど圧倒的な差があると認めざるを得なかった。プライドがあるからこそ認めないわけにはいかない。

 それでも毛ほどの可能性だとしても、ヤツからナンバー6を奪う糸口を見出す事は出来ないかと、ヤツの練習や試合を観戦して研究した。

 その際にやたら顔立ちの整った女と、根都を観察するベストポジションの争奪戦を行うこととなった。

 前の学校のポジション争いよりも遥かに苛酷なベストポジション争いの末に、俺が手に入れたのは希望ではなく絶望だった……

 研究すればするほどヤツのプレーは素晴らしい。今現在の実力だけではなく、ヤツのプレーには未来を感じる、特にヤツの代名詞でもあるゲドルパはとんでもなかった!俺はヤツのゲドルパに世界を見た……

 

 俺はンドバシュを奪われた絶望感に全てのやる気を無くして、ただただ根都の周辺調査しかすることが無くなった……その際に、何故かヤツの周辺に監視の目が有ることに気づいたが些細なことだった。

 そして調査の結果ヤツにカノジョが居ることが分かった。転校してすぐ声をかけた女だった。

 更に調査を進めると、どうもヤツの方が熱を上げているとのこと。そして余談だがあくまで余談だが、カノジョはンドバシュを好んでいないということがわかった。……俺はこいつだと思った。

 ヤツが熱を上げているカノジョを寝取る。そうすることでヤツに対する復讐になると。


 寂しがっている女を堕とすなど造作もない、あとは女がヤツに別れを告げるのを待つだけ……


 事はうまく運び、根都を絶望の底に落とすことに成功する。ヤツの顔を拝もうとヤツの近くまで行き、傘を差すのも忘れて絶望した顔をする根都に、俺はやつの近くで傘を落とした事にすら気づかず狂喜する。

 ヤツは心ここにあらずといった風情で傘に気づかずその場をフラフラと離れていった。

 俺は傘を拾い上げるとヤツの後をつける。

フラフラとまるでゾンビか不審者のように街を徘徊する根都。俺はその姿を確認すると復讐は完全に成功したと確信しその場を離れる。そしてまた傘を落としても大丈夫なように予備のビニール傘とタオルを購入し帰宅しようとするも、しかし復讐は対象が帰宅するまでが復讐であると思い直し再度ヤツの下へ向かう。

 

 ム?ヤツがウチの制服を着た女生徒と傘をシェアして歩き出した……。第三者の居るところを観察しても発見されるリスクが増える。そう思い俺はヤツの家に先回りすることにした。

 

 しばらく待つとヤツと女(どうやら俺と根都ウォッチングベストポジション争いを繰り広げた奴だな)がやって来てそのまま根都家に入っていった。


 ほう……女と別れたその足で別の女を家に連れ込むか……


 英雄色を好むと云うが根都も中々やりおる……

事と次第では復讐のおもちゃが増える可能性がある、確認のため根都家を観察する。


 しばらくして女と根都が出てきた、女は晴れやかな顔をしてヤツと挨拶を交わしていた。……これはおもちゃが増えたとみなしていいのか?ただまあ次の対象を、


「み~つけた〜」


さて休み明けからまた忙しくなるな……





◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


唐突な茶楽雄Sideにびっくりされたかもしれませんが、私もびっくりしてます。


今話を書き始めたときは出す気は全く無くて華音Sideで今章を締めるつもりが、いざ書き始めたら筆がノリノリで茶楽雄くんも楽しそうだしいいかなーと(笑)


ということで第一章は今話で終了です。

次話から第二章になります。よろしくお願いします。



次回も読んでいただけると嬉しいです。

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