NTRサレタ男と「氷姫」

第10話 食後のコーヒーを一緒に


あの休日から一週間が経とうとしていた……


 華音が作る朝食の後に俺のコーヒーを飲むのが定番になってきている。

作る朝食は和食のときもあれば洋食のときもあるが、どちらのときでも食後は俺のコーヒーを飲みたがる。



 今日も朝早くから根都宅までしてくる。 もちろん俺も華音の訪問よりも前に起床する。


「ふぁー……おふぁよーさん」


一分前でも前は前だ。


「ふふ、おはようございます。羅怜央くん」


 一方流石「氷姫」、朝でもしゃっきりしてるなぁ。

自慢の黒髪をポニーテールにして、何故か気に入ったようでおふくろから正式に譲り受けたエプロンを装着し朝食の準備を始める。今日はトーストのようだ。それならコーヒーは同時の方がいいだろうと、


「華音、コーヒーも淹れてしまうぞ?」


と確認したらフライパン片手に、「お願いします」と応えがあった。


 淹れたてのコーヒーを両手に持ちテーブルへ持っていくと、食事の方も準備が完了したようでエプロンを外しながらテーブルに着席するところだった。


 テーブルの上は一人のときでは想像もつかない豪華さだった。俺的にはトーストとサラダに目玉焼きくらいかなと思っており、それでも十分豪華なのに想像を超えていた。

 バターをたっぷり塗ったトーストにカリカリに焼いたベーコンを添えた目玉焼きだけではなく、テーブルの中央でハムとトマトとサニーレタスとチーズが、パンに乗せろと主張していた。


「朝から部活がありますから、これくらいお腹に入れておいた方がいいかなーと……」


 やりすぎたと自覚があるのか、ちょっと照れくさそうに俯きながら人差し指を絡めて言い訳してくる。

てか、あざといな……


「いや、秋の大会も近いから刈り上げゴリラと仁のヤツ、また張り切って練習メニュー作ってるんだわ。だから助かる」


実際ホントに助かってるので素直に礼を言う。


「だったら嬉しいです、いっぱい美味しいもの作りますね!」


 実際に華音の作る料理はどれもとても美味しいものばかりで日に日に胃袋を掴まれている実感がある。


「それはありがたいけど……、夜なんかほぼ毎日来てくれてるが、かすみさんとか何も言ってこないのか?」


 今週頭から通ってくるようになったが、夜は昨日以外毎日、朝は一日おきに来ている。来すぎじゃね?


「母はちゃんと連絡した時間通りに帰宅すればあまり厳しくは言ってこないんですよ?」


 ふーん、かすみさん結構娘の自主性に任せてるところがあるんだ。


「そうか……それで今日の夜はどうする?明日は休みだしゆっくりするか?」


「いいえ、昨日はゆっくりさせていただきましたし、今夜はもしよろしければ来たいなーと」


今日も来る気なんだ、


「それならカギを渡しとくわ。部活終わりを待たせるのも申し訳ないし」


「なんですって……?キャー!ついに……ついにここまで来ました!羅怜央くんからカギを手渡される日が……つまりこれは私が妻と認められたという事ですね?違ってもそういう事だといたします。というか実際に今現在の状況は通い妻というやつではないですか?キャーどおしましょう!ダメよ羅怜央くんまだ私たちには早いわ……でも羅怜央くんがそこまで言うのなら私も覚悟を決めます私の左手薬指はいつでも空いています……」


 おーふ今日のは過去一長いな……相変わらず不穏な単語が聞こえてくるし……


「華音少しきこ「聞き違いです」そうですか」


「正気に戻ったか?」


「何のことかしら?」


あっ久しぶりのクールモードだ。



 そんな事してたら良い時間になってきた。そろそろ部活に行かなきゃな。


「そろそろ行かなきゃなんだけど……いっ「一緒に行きます」だよね」


多分そう言うと思ってたがやっぱりかー


月曜日……大変だったな……前日に仁の忠告があったのに「氷姫」を甘くみてた。まず並んで歩くだけで注目を浴びるわけだ。(休日は全然大丈夫だったのはなんでだろう?)しかもそれが学校まで続く……華音は慣れたもので気にもしてなかったけど。


 そして、学校到着後に更に大騒動……朝練組の運動部の連中が阿鼻叫喚で、しかも俺といよなの関係は運動部でも周知の事実だったため、いよな狙いだったやつらが何故か烈火の如く大激怒……流石に運動部は暴力沙汰を起こせないので、視線で人を○せたらとばかりに凄い形相で終始俺を睨みつける。

 朝練後に教室に入っても以下同文で大騒ぎで普段話さないやつからも質問攻め……答えられるか!


 放課後の部活でも、終わるまでずっとうちの部を見学、ンドバシュ解るみたいで退屈ではなさそうだったのは良かったけど。んで部活終わりも仁が要らん気を使って二人で下校。朝と同じく運動部の目が怖かった……


 火曜日は朝来なかったから一人で登校したらそれはそれで要らん詮索されて鬱陶しいし……

結局下校は一緒だから元の木阿弥、観阿弥、世阿弥


 流石に水曜日になるとみんな慣れてきたみたいで一部過激派以外は大人しくなった。視線の粘度は増したけどね。


「じゃあ……行くかー」


「はい」






〜 広宮 華音 Side 〜



 今週一週間はお試しということで、一〜二日ほど出勤して様子を見ましょうと幾乃おかあさまさんからも言われていたけど、羅怜央くんをお世話できるのが嬉しくてつい張り切り過ぎちゃいました。


 その事をお友達の亜里沙ありさちゃんにメッセージで相談したら、いきなり亜里沙ちゃんから着信があり大カミナリを落とされました。

 事の経緯の説明を求められたので説明をしたところ、羅怜央くんに何もされなかったか、私が暴走して羅怜央くんに何かしなかったか、何故すぐに報告しなかったのか等を詰問されました。      

 一部解せないところがありましたが、心配してくれているのがよく分かる、つっけんどんだけどやさしい口調と声色に心が温かくなりました。


 それはそれとしてとまたカミナリを落とされて、自分を大事にすること、これから関わりが増えていく羅怜央くんに対して節度を持った対応をすること、何かあれば自分に必ず報告することを約束させられました。

 あと、最初から張り切り過ぎると続かなくなる旨を注意されたので今後は気をつけようと思います。


 久しぶりに亜里沙ちゃんとたくさんお話しできて嬉しかったよと伝えると「べっ別にあんたのために電話したんじゃないだからね!勘違いしないでよね!」と亜里沙ちゃんの定番の終わり方にホッコリしました。


 

 さて今日は羅怜央くんからカギを渡されています。なので早めに帰って……帰って……キャー!帰ってだってー!新妻感出てしまいます!……コホン早めに帰って普段できないところのお掃除をやってしまいましょう。あとちょっと手の込んだ食事も用意しちゃいましょうか。


 そうと決まれば善は急げです。授業も終わりましたしサクサク下校しましょう。

 途中どこかで見た事のある金髪のチャラチャラした方から、観察するような視線を向けられたのが気になりましたが、異性からの視線には慣れたものです。あまり気にせずサクサク行きましょう。






〜 根都 羅怜央 Side 〜



 今日も今日とて刈り上げゴリラにしごかれてクタクタになりながら仁と家路につく。


「しんどいー。なんか恨みでもあるのかあのゴリラ……」


「来週から秋の大会だからねー。コーチも去年の事気にしてるから……気合入るだろそりゃあ」


「……去年の事はゴリラ悪くねーじゃん。去年はあそこまでが俺等の限界だよ……実力を最大限出させてくれたゴリラには感謝しかねーよ」


「それでも……だよ。俺等がそう思ってもあの人責任感強いから……」


 しばし去年の秋の大会の事を思い出す。

 急なコーチ交代のゴタゴタのあと、いきなり大半のレギュラーの退部者が出てチームが半壊状態になった。そのため残った三人の二年生と俺等一年生でチームを組まねばならずゴリラが半分死んだ目をしてたっけ……

 でもそのゴリラの頑張りのおかげで俺たちは一丸になれた。

 結果は惜しくも全国に届かなかったが……


「今年は……行くよ?全国に」


「取るぞじゃないのか?」


「ははは!羅怜央が言うとホントに取れそうだな」


「贅沢を言うともう一人、ンドバシュをよく知ってる3品か15石が欲しいところだけどな……」


「それは無い物ねだりだよ」


「そりゃあそーだな」


 身体を引きずるように歩いてるとラブホテル街に差し掛かる。


「あれから一週間か……」


「安里さん、まだ学校来てないみたいだけど……」


「知らね……」


「そっか」


公園を抜けて駅へ着く。


「じゃあな」


「明日、明後日は休みだ。広宮さんにゆっくり甘えて来週からの試合に備えてくれよ?」


 仁には華音の事を話しているので、よくこの件でからかわれる。


「広宮はそんなんじゃねぇつってんだろが。あいつの仕事だ仕事」


「ははは、まあ今はそういう事にしとくよ」


今も何もあるか……



 駅を出て自宅まで歩きながら一人で色々なことを考える。部活のこと、いよなのこと、華音のこと、両親のことなどなど。ひとつ考えてはまた別のことを考えてと、とりとめもなく考えていると家までもうすぐそこまで来ていた。

 家が視界に入るといつもと違って灯りが点いていた。家で待っててくれている人が居る、それだけでこんなに嬉しいものなんだと初めて実感した。 


 門を抜けて三歩で玄関に辿り着く。ノブを回すと施錠されていた。感心して門へ戻り呼び鈴を鳴らす、扉の横の磨りガラスから玄関の灯りが点いたことが知れる。


「おかえりなさい」


扉を開けて出迎えてくれる。おかえりなさいがくすぐったい。


「ただいま一腹減ったー」


くすぐったさを誤魔化すようにおどけてしまう。


「クスクス、すぐ準備しますから先にお風呂に入ってくださいな?」


「はいよー」


 言われるままに風呂に入る。疲れた身体に熱いお湯が染みてくる。あー溶けそう。

 風呂から上がって部屋着に着替えいそいそとキッチンへ、テーブルの上には結構大量の肉がスライスされて皿に盛られて置いてある。まあ端的に言ってローストビーフである。付け合せは、揚げ焼き野菜のマリネ

とマッシュポテト。


「おおローストビーフ」


「はい。結構いっぱい作ったので余ったらサンドイッチにして、明日の朝ごはんか昼ごはんにしましょう」


 嬉しい提案を聞いてふと疑問に思ったことを聞いてみる、


「あん?土日は休まねーの?」


「ええ、家にいてもやることないですから……来ちゃ駄目ですか?」


 まあ休みの日まで華音の美味い飯が食べられると思えば願ったり叶ったりだけど……


「それは良いけど……ホントに身体とか休めろよ?無理だけはするなよ?」


「それはもちろんです」


「あーそれと……」


「はい?」


「明日来るならいつもよりちょっと遅い時間に来てくれないか?少し遅寝したいから……」


「クスクス、はいわかりました。それならお昼から伺いましょうか?」


華音の提案を受けて、 


「そうしてもらえると嬉しいかな……刈り上げゴリラのヤツがしこたまシゴきやがって、疲れが溜まってるんだ休日はゆっくり寝たい」


「じゃあ、そうしますね。あとこれお預かりしてたカギです。お返しします」


「あいよ確かに。まあおふくろに話して、合鍵渡すことになると思うけどな。ご馳走さま、美味かった」


 近いうちにそうなるだろうなと思ってることを話すと。嬉しそうに胸の前で手を合わせて、


「お粗末さまでした。カギが頂けるなら今日みたいにお掃除もしっかりできますし、お夕飯も手の込んだ物を作れますから嬉しいですね。それと羅怜央くん」



「食後のコーヒーをお願いしてもいいですか?」


にっこりと微笑んで控えめにお願いしてきた……





◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


第二章始まりました。


いきなり新キャラが登場?です。

閑話の冒頭で「本気すぎて逆に引く」と華音の布教にドン引きした子です。



皆さまのおかげで、ラブコメ週間 36位にランクインしました。錚々たるラインナップの中に拙作が居るのは

違和感パないですけどとても嬉しいです。


これからも皆さまに楽しんで読んでいただけるような作品を書いていきたいと思います。



次回も読んでいただけると嬉しいです。

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