第11話 「恋心」と「呪い」


 華音を家まで送って再び家路につく。

夜はだいぶん冷えてきた、帰ったらもう一回シャワー浴びよ。

なんて考えながら歩いているとメッセージ受信、


『だいぶん冷えてきましたから暖かくしてくださいね』

 

くすりと笑って返信を打つ、


『おんなじ事考えてた。華音も風邪ひかないようにな』


『なんだか気が合いますね、照れちゃいます』


なにこれ?くすぐったいんですが?


『恥ずかしいから勘弁してくれ。じゃーなおやすみ』


『おやすみなさいです』


メッセージを終了させて前へと歩く。


そして今日までの部活のことを振り返る……

 

 今日まで刈り上げゴリラとサディストキャプテン・仁のドSコンビが嬉々として組んだ練習メニューに沿ってチームを鍛え上げてきた。

 あまりに苛酷な練習量とスケジュールに、俺含めて部内の同級生でカノジョと別れたとか喧嘩した等不幸が起きた生徒は若干名いたが、あの二人のせいだとして闇討ちや果し合いとかの報復行動が起こらなかったのは、ひとえに去年からのことがあったからだろう。

 あの騒動の後に残ってくれた、のこり先輩、物庭ものにわ先輩の先代キャプテンと副キャプテン、そして何よりレギュラーにはなれなかったものの雑用を一手に引き受けてくれた福北ふくきた先輩から渡されたバトンを立派に引き継ぎ、全国制覇を成し遂げるために必要な練習だと理解していたからだ。

 

 その練習も一段落し、来週から秋の大会が始まる。

去年成し得なかった全国への扉を開ける、全国制覇への第一歩としてそれは必ず成し遂げる。

 そのために明日と明後日は心と身体を十分休ませて、万全の態勢で試合に臨めるように努力する。

俺は柄にもなく熱くなっていた……


 そして全国に行ったらあの二人を絶対しばき倒す!

俺は柄にもなく熱くなっていた!!



 未来のためのイメージトレーニング(主に二人に対する報復行動)が佳境を迎えた頃に家に到着。

 夜道を歩いた為に冷えた身体をシャワーで暖め、今日の勉強に取り掛かる。

 それも終わってこれからはフリータイムである。さてなにすんべ?

 






〜 広宮 華音 Side 〜



 明日、明後日の晩御飯の構想をひと通り練ってお手製のレシピ帳を机に仕舞う。


 ンドバシュ部は来週から秋の大会が始まります。去年は惜しくも全国大会への進出は叶いませんでしたが、今年は去年に比べてすべての面が万全に見えます。なので今年こそ全国への扉を開けてくれると信じています。

 そのため明日と明後日は大会に向けて英気を養う大事な日です、羅怜央くんに心と身体を休めてもらうためにも私がしっかりとサポートします!

 

「羅怜央くんなら大丈夫です。私を全国へ連れてって……なんちゃってキャー!言っちゃった恥ずかしーです!」


 しかし言ってみるとなんか心にグッと来ますね……もう少し羅怜央くんと仲良くなった暁には言ってみましょうか?

 そう……もう羅怜央くんと仲良くなっても良いんですよね?……この心を許しても良いんですよね?



 私が恋心を自覚してからもう少しで一年になります。

この気持ちを知ったときの苦しさは今だに胸に残っています。

だって私はその苦しみしか知らなかったから……


 でも私はあの雨の日にあなたと出逢ってしまったんです。そして知ってしまった……


 あなたと並んで歩くスビードを、あなたとおしゃべりする楽しさを、あなたの声が私の耳を通るときのくすぐったさを、あなたの笑顔の輝きを、あなたとふざけ合う空気の美味しさを、あなたの拗ねた顔の可愛さを、あなたの名前を呼ぶ愛しさを、あなたが淹れてくれたコーヒーの味を、あなたに名前を呼ばれる幸福を、あなたに美味しかったと言われる心地よさを、あなたがくれたメッセージの温もりを、あなたに会えない寂しさを、あなたを愛しいと思う切なさを、あなたに愛されたいと思う心を……知ってしまったんです……


 もう知ってしまったら、知らなかったあのときに戻ることなんて出来ない。出来っこない。

 私は歩いて良いんですよね?あなたに続くこの道を

歩いても不実にはならないのですよね?


 なら私は歩きましょう。

たとえなにが立ち塞がっても、私はこの道を歩きましょう。


羅怜央くん……あなたは今何をしていますか?






〜 根都 羅怜央 Side 〜



 攻略途中のガャルゲーのコントローラーを放りだして天井を見上げる。今何周目かの攻略ルートに入ってしまったあざとい系後輩に途方に暮れたためだ。

 何故どの選択肢を選んでもこのルートに入ってしまうのか?不良品じゃねーのかこのゲーム……

 もう諦めてゲームの電源を切る、こんなもんどうしてもいよなのこと考えてしまうに決まってる。


 ……いよな、実は生まれてはじめて好きになった女の子、俺の人生の恋愛関係で初がつくものに大体こいつが絡んでくる。初恋も、初告白も、初カノジョも、初デートも、ファーストキスも、初エッチも、

全部相手はいよなだった。

 ついでに、初浮気されも、初寝取られも、こいつだよ。語呂悪いな……

 

 これからの人生、恋愛関係で何かを思い出すということはいよなを思い出すということで、つまりはあの別れも否が応でも思い出してしまうということだ。

 

「ここまで来るともはや呪いだな……」


 せめて初恋くらいは小中学校時代に済ませておけば良かったなーと益体もないことを考えていると、メッセージが飛んできた。仁からだ、


『カノジョと喧嘩した。慰めろ』


『お前が悪い』


『ノータイムってひでぇ』


 ふむ、あの出来たカノジョさんでも間違いは有り得るか?


『理由は聞いてやろう。言ってみ?』


『謎の上から目線。理由は明日デートするかしないか?』


『うわぁ、心底どうでもいいわ。ってことでお前が悪い』


『まあ聞け?俺はデートしたかったのに、あいつは休めって言うんだ』


『やっぱりお前が悪い。普通に休めよ!』


『だから聞けって!俺だって普通なら流石に休むわ。けど明日はあいつの誕生日なんだよ』


『ほうほうそれはおめでとうと伝えといて。それで?』


『だからお祝いに食事に行こうって誘ったんだ』


ん?このパターンまさか……


『まさかカノジョさん、その日は用事があるとか言ってなかったか?』


『いや?なんか俺ん家に来るからお家デートしよう、食事も作るしって外出を嫌がるんだ』

『んで、理由を聞いたら俺の大会前なんだから心身共に休んで欲しいって言うから、俺はそんな甲斐性なしじゃねーって怒ったんだわ』


『いやいやお前が100%悪い!よく出来たカノジョさんじゃんか!今すぐ行って土下座してこいボケ!!』


『おおう……えー?俺が謝るの?』


『いよなみたいなこと言ってんじゃねーよ!さっさと行って来い!!』


『わかった……行ってみる』


『誠心誠意謝れよ。これはマジで!親友に対する忠告だから』


 なんなのこいつは?勉強はしないけど普段そこら辺はしっかりしてんのに。たまにバカになるな?

忠告はしたし後は当人同士の話だわ。まあいよなのとき世話になったしフォローくらいはするけどね。


 しかし今の話俺の主観では仁が悪かったけど、見方を変えればせっかく誕生日を祝いたいと言ってんのに、それを嫌がるカノジョさんが悪い。という見方も出来なくはない。つまりは両方とも善意もしくは相手を想っての事が仲違いの原因になった。

 多分今回は普通に仲直りするだろう。つーかカノジョさん怒ってもいないんじゃないかな?でも相手を想ってのことが仲違いの原因になって、それが拗れたら関係が破局してしまう。そういうことだってあるわけだ……


 俺といよなの破局も見方を変えればいよな寄りの見解も有るのかもしれない……。いやねーな……

 うん無いわ。浮気された方が浮気した方より悪いなんてありえねーわ。された方に原因があるならまず別れろよって話だし。



 コーヒーを淹れるためにキッチンへ向かいながら、

恋心って難しいもんだなと独り言ちる。

 そして、どうしても恋愛ごとを考えるときいよなを思い出すんだな、やっぱり呪われてんな……とため息をついた。




◇◆◇◆



お読みいただきありがとうございます。


華音さんの「恋心」と羅怜央くんの「呪い」のお話

後者は時間が溶かして思い出に昇華するしかないですかね?そして前者を多く語るのは無粋ですので本日の雑談はここまでです。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

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