第8話 奇麗なお姉さん(アラフォー)は好きですか?


 いよなと別れて華音を送って行くために二人並んで歩いている。


「悪いな、完全にこっちの事情に巻き込んだ」 


「いえいえお気になさらず……それよりも安里さん大丈夫でしょうか?」


「もうこれ以上はあいつの為にも俺は関わらない方がいい」


 冷たく言い放つ、もう俺とあいつの恋は終わってる。

あいつにしてやれることは何も無い……


「それでしたら何故あなたは泣いているんですか?」


「泣いてる?俺が?」


「はい」


「見間違いじゃないか?雨降ってるから……」


「雨ですか……」


「そうだ……、雨だ……」


「そうですか……すみません見間違いましたね」


「気にするな。それにしてもやけにしょっぱい雨だ」


「そうですね」


 なんだろう、やたら落ち着くこの空気は……心地よくてまた雨が強くなりそうだ……なぁ大佐 




 雨も上がり俺たちは努めて何事も無かったかのように華音の家へ向かう。


「てか、ちょっと前から華音の喋り方に違和感バリバリなんだけど?」


「喋り方ですか?」


「そうそれ、デスマス調になってるゾッと」


「くすくす、実はこっちが素なんですよ?」


 そうだったんだ……まぁ良いとこのお嬢って噂もあったから納得っちゃ納得だな。しかしそれなら、


「なら、出会った頃はキャラ作ってたんだな?」


と聞いてみると、華音は澄まし顔で


「はい。巷の噂では私はクールだそうですから、それに寄せてみました」


「あっちの方に慣れてたけど……まぁこれから付き合いも増えそうだから素で接してくれ。そっちのが気楽だしな」


「付き合いも増えそうですって?キャー!何なんですかどんなお付き合いが増えるんですか?学校からの帰宅デートですか?それともスーパーでのお買い物デートですか?しかもよく考えたら今もお散歩デートみたいなものですよね。キャー!夢みたいです!」


 また華音が小声でなにか早口で呟いている。コイツたまにこの状態になるよね?


「華音?な「なんでもないですよ?」おおう……」


 この流れまでがテンプレになってきたな……

 それから口元に手をやってちょっと皮肉げに、


「クスクス、こっちの方が良かったかしら、まぁ偶にならなってあげてもいいわよ?」


「ああこっちの方が慣れてはいるな……けど素の方も華音らしくて好きだぞ?」


「えっ?好きって……もうなに言ってるんですか羅怜央くんったらそんなこと言ったら今からウチで結納しちゃいますよ?もちろん用意はできてますからいつでもウエルカムです。さあ行きましょう!」


「華音、またなん「なんでもありません」うん分かってた」


 連チャンは初めてのケースだな……



 広宮のにご到着……いやすげぇわモノホンのお嬢様だった。てかなんでうちの学校に来てんだ?お嬢様学校とか行くもんじゃねーの?


「古くて広いだけで大した事ないんですよ?いらっしゃいませ、さあお入り下さいな」


 呆けてる俺に恐縮しながら門を開け入るように促す。

門から玄関までは日本のお屋敷といった印象でケバケバしさのない落ち着いた造りになっている。なんか良いよねこーゆーの。ウチなんか門に入ると三歩で玄関だもんな。


 庭を見ながらしばし歩いて玄関に到着。華音が玄関を開けると玄関先に一人の女性が佇んでいた。


「お母さんただいま帰りました」


 華音が帰宅の挨拶をする。想像通りこの人が華音の母親のようだ。

 見た目30歳〜35歳くらい?多分、実年齢よりも若く見えるタイプだと思う。でもウチのおふくろほどじゃない。てかあれは化け物だから……

 背丈は華音と同じ位でそりゃあ華音の母親だよなーという和風美人。

 俺も慌てて挨拶をする、


「はじめまして、根都 羅怜央と言います。昨日は華音さんにお……僕が風邪で倒れた際に看病してもらいました。そのため華音さんとご両親にご迷惑をおかけしました。すいませんでした」


 しどろもどろの挨拶で華音がおふくろに行った挨拶に比べれば雲泥の差だったが、できる限りの誠意を込めて頭を下げる。


「あらま可愛いわねー。あなたが羅怜央くんね?お話はあなたのお母さまと華音から伺ってますよ。とりあえず上がって頂戴な」


「あっはい。お邪魔します……」


「じゃあ私は着替えて来ますね」


 華音は着替えのために一旦自室へ退く。そして俺は華音のお母さんの案内で応接室へ、ソファーを勧められたのでそこに着席、そして隣にお母さんが着席……え?普通向かいに座らね?


「えっと……か……広宮のお母さん?」


「かすみと呼んで?」


 華音のお母さん改めかすみさんはしなを作ってしなだれかかってくる。てか近い近い!それになんかいい匂いがするし……


「かすみさん……近いです……ちょっと離れて……」


「あん、イジワルなこと言うのね?そんな事言う子には……」

「こうしちゃうわよ……えいっ」


 かすみさんは更に密着してきた。いよなで体験した跳ね返すようなハリのある感じではなく、成熟した女性の吸い込むような柔らかさに俺はクラクラする。


「ゑ?な……なんで?」


「あら羅怜央くん……あなた……へー」

「フフフ……そうなんだ。おばさんびっくり……」


「………………………」


 たっぷり一分ほどそうしていたか?いきなり急にパッと離れて、


「クスクス。ビックリした?ごめんなさい、からかい過ぎたわね」

 

と、いたずらっぽく笑いながら向かいのソファーに座る。

なんだったんだいったい……



 程なくして私服に着替えた華音が入って来た。

そういえば華音の私服姿は初めて見るな……さすが「氷姫」というべきか清楚なワンピースがよく似合う。


「お待たせしました」


「はいではお茶を淹れてきますね」


「今日は田中さんは?」


「今日はお休みなのよ」


 どうやら今日は休みみたいだけどお手伝いさんが居るらしい、そりゃあこんだけ大きなお屋敷じゃあ掃除も大変か……


「じゃあ華音、羅怜央くんのお相手お願いね?」





〜 広宮 かすみ Side 〜



 昨日娘の華音がお泊りした、まぁそれ自体は事前に本人から連絡があったし問題ありません。ただお邪魔したお宅を「お友達」のお宅としか聞いていなかったのは私の怠慢ですね……。まさか男の子のしかもひとり暮らしのお宅なんて。

 もしあの人が聞いたら大騒動になります。あら、それも面白そうですね?クスクス……まあこうやって笑い話に出来るのもと思えるからですけど。


 先程、根都さんという方から連絡がありました。お話を聞いてみたら華音が根都さんのお宅にお泊りしたこと、根都さん宅が現在羅怜央くんという華音と同い年の男の子のひとり暮らしであること、お泊りすることになった経緯、そして丁寧なお礼とお詫びをいただきました。

 経緯が経緯(病人の看病なのでその件を責める気はないが後で釘を刺しておかないと……)なので仕方ないところではありますが、年頃の男の子と女の子が一晩一緒にいて何もなかったと、素直に信じるほどお人好しではありません。


 なので華音が着替えで席を外した隙に羅怜央くんの方にいたずらしながらそれとなく観察してみました。まぁ女を知ってる様子には多少驚きましたが、昨日今日という感じではないこと、羅怜央くんに後ろめたさや何かを隠す感じがなかったこと、なにより華音の様子に男を知った雰囲気がないことで、ほぼ何もなかったと思うことが出来ました。


 まぁ懸念材料は無くなりましたのであとは軽く二人にお小言を言って、華音の初のボーイフレンドをからかってあげましょう。





〜 根都 羅怜央 Side 〜



 出してもらったお茶を一口いただく、え?めちゃ美味いんですけど?お茶ってこんなに美味かった?軽くカルチャーショック……なんちて……ゴホン。

 

 かすみさんから昨日の対応についてお叱りを受けて(その時に電話なりで相談が出来たはず等)、その後は和やかに歓談していた。


「お父さんも居れば良かったんですけどね。羅怜央くんも会いたかったでしょう?」


「ははは……ですねー」


 会いたくねーよ。同級生女子の父親なんか男子高校生が会いたくない人ランキングの上位だろ。


「あの人愉快な人だから、羅怜央くんとも気が合うと思うのよね」


 それは俺も愉快な人ってことっすか?てか、かすみさんそんなに俺と広宮父を会わせたいですか?


「お母さん、羅怜央くんも困ってるから……」


と華音も助け船を出してくれるが、


「あら、そんなことないわよね、羅怜央くん?」


あっさり封殺し、やたら色っぽい流し目で聞いてくる。

うわー選択肢のない質問来たコレ。こんなん「あははは、そんなことないですよ」一択しかないじゃねーか。



和やかに談笑しているとかすみさんが、


「あらあら、もうこんな時間、羅怜央くんも夕ご飯食べておいきなさいな」


 うん、そのお誘い来ると思ってました。しかしここは三十六計逃げるに如かず、逃げるが勝ち、逃げの一手だ実家に帰らせていただきます!


「ありがとうございます。でも家で夕食の用意をしてきてますので、次の機会にご馳走になります」


「あらそう?残念ねー」


「では、かすみさんお邪魔しました」


「また遊びにいらっしゃい」


社交辞令のオンパレード……建前って大事だよね!


「門まで羅怜央くん送ってきますね」


そそくさと玄関へ、あら華音さん見送りしてくれるんだ。


 そんなことより、全開で嫌な予感がするからさっさと帰ろう!

 なんか華音の親父さん遭遇するとすげぇ面倒くさいと勘が告げている。

 てかもうすぐ親父さん帰ってきそう……。こういうときの予感って当たるんだよ昔から、だから危険がヤバいおウチ帰るー!


 失礼にならない範囲で急いで門まで到着、


「昨日今日といろいろとありがとな華音……」


「はい!明日の朝伺いますねバイトとして、そうバイトとして!!」


そうか……明日からは頻繁にウチに「氷姫」が来るようになるのか……


「おう……ホントに無理しなくていいからな?」


「はい♪お任せください♫」


「じゃあ……まぁ行くわお邪魔さん」


家に向けて歩き出す。


「お気をつけてお帰りください」



 後ろを振り向かず手を上げて応える、さぁ脱兎の如く逃げるです。角を曲がったところで後方を車が横切っていくのが分かった。多分あれ親父さんだわ!俺の勘がそう言ってるもん!間一髪だわ危なかったー


さぁ虎口は抜けたしゆっくりかーえろ♪





◇◆◇◆



お読みいただきありがとうございます。


やっと華音さんがおウチに帰りました。

羅怜央くんも野生の勘?で危機を回避し帰路へ、久しぶり(8話ぶり?)に一人です。


皆さんのおかげで星100超えました。

ありがとうございます。完結まで一生懸命頑張ります。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

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