第7話 安里 いよなの来襲 ざまぁ?注意
安里 いよなの日記より
今日悲しいすれ違いからラーくんとお別れした後、私を騙していた下司野とも別れひとり哀しみに沈んでいたとき、やっぱり私にはラーくんしかいないと気づくことができた。
なぜそんな当たり前のことを忘れて、下司野なんかを好きになりかけたのか今となってはよく分からないが、下司野のゲスさに純粋な私は気づくことが出来ずに簡単に騙されてしまったのだろう。
私のコトを騙した下司野のことを考えると、今でも胸がイタくなるほど苦しくて、いまだに許すことはできないのだと思っている。
でもね、この痛みはまだ私がラーくんの事を好きなんだと思い知ることが出来る痛み、その大事な痛みは抱えていようと思う。
そのことに気づいてからラーくんに私の気持を込めたメッセージを送ったけど、ラーくんのスマホの充電が切れたのかな?ラーくんからのお返事が帰ってこない。ラーくんは結構ずぼらなところがあるからスマホの充電を忘れてたんだよネ?
でも私のコトを放置して部活ばかりやってたラーくんや、私を騙した下司野が悪いとはいえ私にも悪いところはあったので私も誠意を見せなきゃだよね……
だから明日ラーくんのおウチへ行ってラーくんとお話するんだ。きっとラーくんも判ってくれてまたラブラブなふたりに戻れるよね?
明日は二人の新しい記念日になるね!
〜 安里 いよな Side 〜
私は今日の日記を書き記したあと、過去の分を読み返してみる。
たった数日前の日記なのにこのときの自分の気持が分からない。なぜ私はこんなに大好きなラーくんを忘れて、あんな男と会うことにドキドキしていたのだろうか?
今となっては悍ましいあの男との行為も、当時は陶酔して幸せだと思っていたのだから呆れてしまう。
色々なものを失ってしまいそうになったけど、私は今回のことで真実の愛を見つけることが出来たと思ってる。
だから、やっと見つけた真実の愛を大切に育んで目一杯幸せにしてもらうんだ。
明日会ってお話ししたあとはしっかりと甘えてあげるからね!いーっぱい甘やかしてねラーくん!!
机の上には何故か使用され赤い線が二本入っている何かが置いてあった……
〜 根都 羅怜央 Side 〜
おふくろとの定時報告を終えて夕食のカレーを作って、やっと帰る気になったのか華音はホクホク顔で帰宅の準備をしている。
「華音のおかげでなんとか強制連行は回避できたわけだな、ありがとな。あとなんか知らんうちに決まった家事代行?のバイト、嫌ならおふくろに断り「嫌なんてとんでもないです!」うわっ……そうか?」
なんなんだろうこの熱意……まぁ華音の料理は美味しいから俺としてはありがたい話なんだけど。
でもいいのかね「氷姫」にウチの家事をさせて……
俺コイツのファンから刺されねーかな?嫌だぞ刃傷沙汰なんて……。
華音の帰宅準備も出来て、さぁ送り届けるかーといった雰囲気になったとき華音が両手を胸の前でポンと打ち合わせながら、
「そうだ羅怜央くん、よかったら連絡先の交換して頂いてもよろしいですか?」
「いいけど……どうした急に?」
「家事をさせていただくにあたって、待ち合わせなど連絡事項を遣り取りする必要があると思うんです」
「そうか、分かった。ホイよ」
「氷姫」の連絡先を持ってるN校生が何人いるかね?ちょっと優越感持っちゃうね。
「ありがとうございます……」
俺の連絡先の入ったスマホを胸の前で大切そうに抱きかかえてポツリと呟く。
その仕草にこちらも照れくさくなって、俺はそっぽを向き頬をかいて照れ臭さを誤魔化した。
華音の家に向かうために二人連れ立って歩き始めたとき、後から、
「ラーくんここに居たぁ……」
うん?なんか今、この場では聞こえちゃいけない声が聞こえたんだけど……
振り返ってみると案の定そこには、昨日別れたはずの元カノジョの安里 いよなが制服姿で立っていた。
「いよな、なんでお前がここに居る?」
「学校の部活の所にもラーくん居なかったからぁ、おウチなら居るかなぁと思って来たんだぁ」
「いやそういう事じゃねーよ……どういうつもりでここに来たって聞いてんだよ」
「だってラーくんスマホの充電切れてるよね?だから私のメッセに返事出来ないんでしょぉ?だから直接会いに来たんだよ?」
「あん?何のこと言ってんだ?メッセの返事?」
「そーだよぉ……そうじゃなきゃラーくんが私のメッセージ無視するはずないもん」
「だから……お前何言ってんだ!?」
何か話が噛み合っていない……なんかおかしい……
「だから私が昨日送ったメッセージだよぉ。お返事来てないけどスマホの充電が切れてるだけだよねぇ?」
メッセージって昨日のあの舐めくさったジュリエットメールだったか?のことか……はぁ?あれに返事を貰えると思ってんのか?てかやっぱりなんかおかしいよなー……なんか俺と話してるのに俺を見てない感じ?
「お前……あのメッセに返事貰えると本気で思ってんの?」
「当たり前だよぉ。あんなに私の気持ちがこもったメッセージにラーくんがお返事出さない訳ないもん」
「ホントにお前なに言ってんだ。お前が言ったんだろーが、下司野の事が好きになったって。下司野の方が幸せにしてくれるって」
「メッセージでも言ったよぉ下司野じゃあダメ、ラーくんじゃなきゃダメなんだって気づいたって」
「勝手な事言ってんじゃねーよ」
「勝手じゃないよ?私は下司野に騙されただけだもの」
「騙された?何言ってんだ?」
〜 安里 いよな Side 〜
「そーだよぉ、私は下司野に騙されただけ……だから最後はラーくんのところに戻るんだよ?」
私が当たり前の事をラーくんに話してるのにラーくんはちっとも理解してくれない。
「そもそもラーくんが部活にかまけて私にぃ構ってくれないから下司野に騙されたんだよぉ?」
うんどう考えてもそうだよね、私にしっかり構ってくれてたら下司野なんかに騙されること無かったんだから。
「もちろん私にもぉ悪いところは有ったからそれは直さなきゃなって思うんだ」
私はラーくんに蔑ろにされて下司野に騙された被害者だけど、やっぱり少しは責任はあったかもしれないからそこは反省しなきゃだよね。
「ラーくんは私に構ってくれなかったしぃ、私は下司野と騙されたとはいえ浮気した。どちらも悪かったんだから歩み寄ることはできると思うんだぁ」
お互い過ちを犯したけどラーくんが罪の意識を持って私のコトを一番に考えてくれるのならば私たちはやり直せる。
「だからラーく「いい加減にしてください!!」なんて?」
誰かが私の声に被せてきた……
〜 根都 羅怜央 Side 〜
いよなは初めて俺の横の華音に気づいたように視線を送って、
「あなたどちらさまぁ?って、広宮 華音?」
あっやっぱりいよなも知ってるよね、てかちょっといつものいよなに戻ったっぽい。
「はじめまして、安里 いよなさん。自己紹介の必要はないようですね」
「なんであなたがラーくんの隣りに居るの?」
「それはあなたには関係ありません。それよりもなんですかさっきから聞いていたら、すべて羅怜央くんとその下司野さんですか?その方が悪くて自分は全く悪くないと言いたような言動は?自分が浮気をしておいて見苦しい」
「それこそあなたには関係ない!勝手に話に入ってこないで!ていうかラーくんのこと羅怜央くんとか呼ばないで!」
「いいえ言わせていただきます。あなたは自分にも悪いところはあったとおっしゃっていましたけど、心の中ではそんな事欠片も思っていません」
「なんでそんな事言い切れるのよ!?」
コイツ本当に自分の事だけだな。マジで解ってないのか……
「なぜなら……」
「華音……いいよ俺が話すわ」
「はい……出過ぎた真似でした」
「いいよ、お前のおかげでいよなも少し正常に戻ったっぽいし」
いよなの様子がさっきからなんかおかしいと感じていたのは、話が噛み合っていないってのと、なにより目がイッてたのが原因だった。多分何か心に衝撃を受けて現実から逃げてたんじゃないかな?
それが「氷姫」が俺の隣りにいるというありえないことにショックを受けて正常に戻ったっぽい。
「いよな……」
「ラーくん……」
「お前さ少しも自分が悪いとは思ってないだろ?」
「そんなことない。そんなことないもん!」
「いや、思ってない」
「なんで……なんでラーくんも広宮さんもそんな事言うの?」
なんでって……さっきからお前は……
「さっきからお前は言い訳しかしてないよな?」
「え?」
「ホントに悪い事したと思ってたらまず謝るよな?謝って謝って謝って許しを乞うよな?でも今日のお前からは言い訳しか聞いてない」
「え?うそ……私が謝るの?私何も悪くないよ?ただ寂しくてそれを下司野が埋めてくれた。それだけだよ?」
「ほら見ろ、それがお前の本音だよ。確かにお前を蔑ろにしたのは俺だから、そのせいでフラれるのなら仕方ない。でも別れる前に他のやつに心と身体を開くのは順序が逆だし話が別だよな?」
いよなはポロポロと涙を流し始めて、
「ちがうもん……私の心に開いた穴を下司野が埋めてくれてそれが嬉しくてあげただけだもん」
「だからそれが順序が逆だって言ってんだよ!!!」
「ひっ……!」
俺の怒号にいよなが怯えた声を出す。
「ちがうもん……私は悪くないよ?悪くないもん!ちがう……ちがう」
「お前……まだ……!!」
「いやだいやだ……ちがうもん。ヒック……あいつが優しかったから、あいつがこんな物無くしてもっと私と触れ合いたい近付きたいってヒック……言ったから、だから許したんだもん……」
幼児のように、でも言ってることは幼児なんてもんじゃない生々しさで不穏な事を言ってくる。
「まさか……いよなお前避「待ってください」……」
「羅怜央くん……ここは私が……」
「……すまん」
「安里さん?その方と愛し合う時……」
「愛し合ってない……エッチしただけだもん」
「だっ!!……ふぅふぅ。……では、エッチするとき避妊はされていましたか?」
「ヒック、だからさっきも言ったもん……」
「されてないんですね?」
再度の確認にいよなが頷いた……
「はぁ……なんてこと……」
華音はあまりのことに二の句が継げない、俺もいよなのあまりの馬鹿さ加減に絶句した。
「だけど私本当に気づいたんだよ?私にはラーくんしかいないんだって、だから私たち元に戻れるよね?」
この期に及んでも、まだそんな事を言ってくる……いよな……お前そんな奴じゃなかっただろ?もう駄目だ見てられない……
「無理だ」
「え?」
「無理だと言った」
「そんな……私にはラーくんだけなんだよ?」
「いやいやお前下司野に靡いたよなホントか知らんが騙されてなかったら今も下司野と居たんだろしかも避妊無しを受け入れるほどなんだろフザケンナじゃあ俺じゃなく下司野を追いかけろよそれが筋だろそれともなにか下司野にこっぴどく捨てられたからまだワンちゃんある俺のところに来たってかそれはありがとうありがた迷惑だバカヤロウ」
ここまで一気に捲し立てる。
あまりの剣幕にいよなもしどろもどろとなって、
「ちが……そんな事……ちがうから……」
「とにかく、俺はお前が信用できない」
激昂するでもなく、捲し立てるでもない、俺の本気のトーンの拒絶にいよなも慌てだす。
「いや……いやだ……捨てないでよラーくん……ごめんなさい、ごめんなさい!謝ります!謝りますから、だからそんな事言わないで許して下さい!」
「ここでお前を許しても、俺はお前がまた浮気するんじゃないかとずっと疑心暗鬼になりながら付き合って行かなきゃならない。そんなものには耐えられない」
「それでもいい!それでもいいから……ガチガチに私を縛ってもいい、いいえ私を縛っ下さい!だから!だから私をラーくんの側において下さいお願いします!!」
「俺が嫌なんだよ分かれよ」
「いやあああああーー!私をひとりにしないでえええええーー!」
いよなが号泣し倒れ伏した……
〜 安里 いよな Side 〜
私が号泣しているのにラーくんは冷たい瞳で私を見下ろしている。その瞳を見るだけで、もうラーくんの心は私にはないとはっきりと分かってしまう。
心が折れそうになるけど、孤独になるのが恐ろしくて耐えられなくて、最後の希望であるラーくんに縋ってしまう。
「お願いします、お願いします……もう絶対にラーくんを裏切らないから!だから私を独りにしないでええええーうあああああああーーん!!」
「お前ならすぐに俺なんかより良い男が見つかる。俺にこだわらなくてもいいだろ。てか俺はもう無理。昨日はお前の声に嫌悪感も有ったけど、今は何も感じない。それぐらい無関心になっちまってる。もう俺の前に顔を出すなとも言わない。なんとも思わないから好きにしてくれていい」
ラーくんはホントに私に関心がないのが分かるほど、淡々と事実を口に出して羅列しているだけ。そこには感情がこもっていなかった。……ああ駄目だ完全に心が折れてしまった。もうどうにも出来ない。
「グスッ、分かりましたもう帰ります。ご迷惑かけてごめんなさい」
私は立ち上がり深々と頭を下げる。と広宮さんが私の側に来てハンカチを渡してくる。近くで見たらやっぱり凄く綺麗な人、結局この人とラーくんの関係はわからず終いだったな。私はハンカチを受け取り、
「ありがとう」
「いえ、お気をつけてお帰りください。それと差し出がましいようですが、妊娠検査と性病の検査は行っておいたほうがよろしいかと思います」
「はい」
もう妊娠検査はやってるんだよね……
「では」
私はもう一度頭を下げて二人を見送る。
ああラーくんが、私の好きだった人が別の人と歩いていく……
彼の姿が涙でボヤケていく
そして私の周りには誰も居なくなった……
◇◆◇◆
お読みいただきありがとうございます。
いよなちゃんのざまぁ?回です。
今の私の文章力ではこれが精一杯でした(泣)
冒頭の日記と最初のいよなSideはほぼ修正なしで書き上げました。いよなちゃんの当時の支離滅裂さが出てて結構満足してます。
最後のざまぁ?はどっかで読んだことある文言が並んだだけになってしまいました。もっと文章力が上がったら書き直したいです。
作者の愚痴のコーナーでした。
あっ、ざまぁ?タグ追加しました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
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