チャラ男にあざと可愛いカノジョをNTRされたけど、その後学校一の美少女に何故か猛アピールされるようになった

ごっつぁんゴール

カノジョをチャラ男に寝取られたら学校一の美少女と知り合った

第1話 あざと可愛いカノジョをチャラ男に寝取られた

「よーし、かなり早いけど今日はここまで!しっかりダウンしとけよ。それと、あしたは新チームになって初めての全休だ、ゆっくり身体を休めろ。で、明後日からまたシゴキたおーす!嬉しいだろ?期待してろよ。ガーッハッハッハー!!」


 コーチの刈り上げゴリラこと高知 獅子雄が、練習の終わりと○刑宣告を同時に告げて去って行った。

誤解のないように言っておくと、ヤローのあの言葉は100%の善意からなんだよなー。良いコーチなんだよ?当事者じゃなければね……。近頃妙に気合入ってるし、どうしよう……明後日の生命のために、今からあのゴリラを仕留めに行ったほうが良いかな?でも間違いなくゴリラ大歓喜の反撃にあって逝ってしまうからな。でもしかし、うーむむむむ……。


「おい羅怜央られお、なにゴリラ狩りに行きそうな物騒な顔してんだよ」


「仁か……、止めるなよ?今日こそあのゴリラ仕留めとかないと明後日俺たちが逝ってしまうからな」


 俺が命がけの戦いへ赴こうと悲壮な決意をかためていると、新キャプテンのあらたキャプテンじん、(ちなみにハーフのイケメンでミドルネームもホントにキャプテンって名前です。その名前をからかうとガチ切れします。名付け親も何を思ってこんな名前付けたんだろうね?)が満面の笑顔を向けながら、


「返り討ちにあうだけだから止めとけ。てか、よしんば成功しても、練習メニューは俺とコーチで作ったからその時は俺がみんなをしごきたおーす!ワッハッハー」


「なん……だと……?裏切られた……だと?」


俺は悲しみのあまり膝を着いて(Orzこんな感じ)慟哭した。


「てかもういいか?1年が掃除出来ないって困ってるからダウンして帰るぞ」


「うい。ゴメンなー、はしゃいじゃって」


立ち上がってモップを持って待ってる1年達に謝る。

迷惑をかけたらしっかりと謝らないとね。


「いえいえ大丈夫です。お疲れさまですキャプテン、根都ねと先輩」


「はいよ、お疲れー」


「俺をキャプテンと呼ぶんじゃねえー!!」


俺は暴れる仁の首根っこを掴んで引きずリながらロッカールームへ向かった。





 仁と連れ立って駅へと向かいながら、モンスターペアレントのように華麗に苦情を叩きつける。


「刈り上げゴリラとお前って絶対ドSだろ?新チームになってからのあの練習量と質はエグいぞ?休みもないしね!おかげでカノジョとデートにも行けねーわ、会えなくて拗ねられるわ、下手したらそのうち捨てられるわ!どうしてくれんだ!!」


「いきなり怒鳴るなよビックリするなぁ。いやでもマジで俺達の代は今から追い込んだらかなり上に行けるって!頑張ろうぜ!」


「うがー暑苦しいなぁおい。で、カノジョの件はどうしてくれる?おう?」


下から抉りこむように睨みつけてやると、


「うわウザッ。まあそこは自分でなんとかしてね!としか言えないし、実際に俺はなんとかしてるしなぁ。安里あざとさんそんなに拗ねてんの?」


「……おうもうプンプンだ。いよなの奴、拗ねると面倒くさいんだわ。ホントにプンプンって言うからなぁ」


「うわぁ、相変わらずあざといなー」


 やかましいわ!あざといの可愛いじゃねえか!そういうところがあいつの魅力なんだぞ?面倒くさいけど。あざと可愛いがアイデンティティって当の本人も言ってたし。たしか、


『あたし可愛いの好きだしぃ、自分が人から可愛く見られるのも好きぃ、あざといとか言われてもそれがあたしだもん♡ ねぇラーくん(俺ね)もあたしが可愛いい方が好きだよね♡』


とか言ってたから、自覚してやってるならそれは個性だろ?むしろ尊敬するわ、面倒くさいけど。


「明日は会っときたい、というより会っとかないとヤバい。これ以上拗ねられたら、機嫌治すのにお高い昼飯じゃなくてバカ高い夕食が必要になってくる。俺の財布がガガガ」 


 ここ最近は朝は早朝練習、昼休みは部室で昼飯がてらミーティング、放課後の練習は遅くまである。休日ももちろん練習と練習試合が重なってと、部活フルコースのせいで、いよなと顔を合わせる事も無くほとんどメッセージや電話でのやり取りのみしか出来てない。マジでヤバい、ゴリラとこいつのせいだ!デート代請求してやろうかな。


「俺からしたら明日は休んで体力回復させてほしいんだけどなー。俺みたいにもうちょい要領よくご機嫌取りしないと」


 こいつすげぇわ、どうやったらあの練習量でカノジョとイチャイチャしたりする時間とれるんだ?


「俺はお前ほど器用じゃないからなー。明日は勘弁してください主将さま?てかデート代お前が払え!」


「ほいほい、ほどほどになー。まあ楽しんで英気を養ってくれ。つか何故に俺が!?」






 だらだらと駄弁りながら歩いてると、なんか周りにイチャイチャしてるカップルが増えてきた、いわゆるホテル街に差し掛かる。


「くそーここら辺通るたびにイライラする。こっちはカノジョにも会えずにゴリラのシゴキでヒーヒー言ってんのに、コイツら違うことでヒーヒー言ってんのか。うがぁー」


「僻むな僻むな。明日はカノジョと存分にイチャイチャしてくれ。ん?あいつは……羅怜央、あいつってさ下司野じゃね?」


結構前を歩いてるカップルを指して聞いてくる。


「うーんあのチャラそうな金髪はたしかに転校生だな。よく気づいたな。そういえば結局入部は断られたんだよな?」


「ああ、こっちでは遊びたいんだと。で、しっかり遊んでると……」


「はーっうらやましいこって。あの女子の制服はウチの学校のやつやん。転校早々にカノジョ見つけてラブラブですかー」


 あいつ、下司野げすの 茶楽雄ちゃらおは2ヶ月前に転校してきた。他県の強豪校のレギュラーだったらしく、ウチのゴリラと仁が熱心にスカウトしていたがあっさり断られたみたいだな。なんかチャラいけど資産家の令息らしいし、チャラいけど結構なイケメンだしでクラスの女子がキャーキャー言ってると、やつと同じクラスのいよなが言ってた。イケメン死すべし、慈悲はない。

ていうか、下司野の腕にべったりくっついてるあの女子の後ろ姿……なんか見覚えがあるような……。


「なあ羅怜央……、気のせいかな?下司野の隣にいる子……安里さんに見えるんだけど?」


仁が意味不明な事をほざいる。ホントになに言ってるか意味わかんねー。あの子がいよなだと!?


「あ?訳わかんないこと言ってんじゃねえよ!!たしかにあいつと同じ茶髪のツインテールだし、背丈も同じ位だけれども。あの眼の前でコアラみたいに下司野の腕にぶら下がってるあの女と、ウチのいよなとは全然似ても似つかな……あれぇ?」


「いや、俺も違うと言いたいけど……似てねーか?」


「ぶっちゃけ似てる……。てか声掛けてみるか」


 前方の下司野といよなに似た子に声を掛けようと歩き出したら一軒のラブホテルに入って行った。


「あっ、しまった!入りやがった!!」


 走って追いかけロビーに有るパネルの所まで突入したが、もうエレベーターで昇ってしまったみたいで見当たらない。仕方なく外に出ると仁が目で問うてきた、俺も首を横に振って返事をしホテルから離れて近くの喫茶店に入る。


「羅怜央、とりあえず安里さんにメッセージ送れ。繋がったらすぐ会う段取りつけろ。既読が付かなかったら電話かけよう」


「おう、そうだな……そうする」


 俺は若干ふるえる指でメッセージを打つ。普段ならすぐに既読が付くのに10分経っても既読が付かない。電話をかけてもコール音が虚しく鳴るだけ。


「こうなったらあいつらが出て来るまでここで張ってるわ……、お前は付き合わなくていいよ今日はありがとな」


流石にこれ以上付き合わせるわけにもいかないから帰るように促すと、


「何言ってんだ?」


と当たり前のように返してきた。


「そうか、悪いな……」


「フン、いいよ」


ちょっと泣きそう……。










 俺といよなが知り合ったのは、なにか特別なドラマがあったわけでもなく、単純に入学当時に隣の席になったのがきっかけだった。あざといし独特なペースの有る子だから女子からは嫌われていたけど、男子からはある意味順当に人気が有った。俺は隣の席ということでちょこちょこ話をしていたのだが、話してみると意外なほどテンポが合ったし、そのあざといところも可愛いと思えた……。そこで勇気を出してデートに誘い、部活をこなしながら何度かデートを重ねて、ヤロー共の包囲網を突破して夏休み前に告白。見事射止めることに成功したわけである。


 その後は特段語るようなことは無かったが、普通にイチャイチャカップルとして関係を育みクリスマスに身体を重ねた(この言い方趣があって好きなんだわ。古風だよね侘び寂び!)。

 2年に進級してクラスが分かれたりしても関係が壊れることはなかったが、二度目の夏休みで状況が変わる。先輩方が引退し新チームが発足してから、刈り上げゴリラと新主将のキャプテン仁がトチ狂ってなんか熱血し始めた。そこから会えない日々が始まる……。


「そんでもって現在に至るっと」


俺の独り言が耳に入ったのか仁が聞いてくる、


「なんだって?」


「何でもねぇよ、新キャプテン仁さん」


「よし、その喧嘩買ったわ表出ろや」


 何故かキレてるウチの主将を放置して、俺はスマホの時刻表示を確認する。


「そろそろ出て来る頃合いだよな?」


「ああ、安里さんじゃなけりゃいいけどな」


 それなら同級生の逢引きを覗き見してる今の状況も笑い話になるだけだし。そうなったらどんだけ幸せか……でも多分俺も半分認めてしまってるんだろうな、下司野の隣りにいたのが誰かというのを。


「っ!!出て来た!」


ホテルの出入口から下司野とそいつにピッタリとくっついて幸せそうにしているよく知った顔が出て来た。


「……いよな」


「いいのか?行っちまうぞ?」


「ハハハ…悪ぃな、足が震えて動けねぇ」


みっともねぇ、今にも号泣してしまいそう……身体に力が入らない……何がなんだか分からない。


「しゃーねーな、とりあえず写真は撮ってるから必要なら後で送るわ」


いつの間に……抜け目ないというか、この状況だとありがたい。今の場面が心にキてて何も出来ない。








 喫茶店を出てホテル街を抜け駅近くの公園のベンチへ、仁はカノジョさんへ電話中。


「ダチの一大事なんだわ、だから今日は会えない。ああ悪いね、もちろんそうするよありがとうな」


電話を終えてこっちに帰ってくる、


「お待たせ」


「悪いな……、カノジョさん何て?」


「分かったからお友達をしっかりフォローしてあげなさいだってさ」


こいつのカノジョの話し聞くの初めてだけど、


「いいカノジョさんじゃんか……」


「……!悪い……」


「ばっかやろ、気にすんな」


「………」


「………」


あー沈黙がいてぇ……。しばらく無言の時が流れて、


「で、これからどうすんだ?」


と切り出してくれた。ホントにありがたいわ……


「まあ多分別れるのは確定なんだろうけど、向こうの話しも聞きたい……。こうなった経緯とかあいつの気持ちとか……ってかクソ!意見ブレブレだなおい!多分なのか確定なのか自分でも訳わからんしっ!あいつの気持ちとか聞いてどうするんだよ!謝ったら許すのか!?経緯聞いてどうなるんだよ!クソ!頭ぐちゃぐちゃで自分で何言ってんだかわからねー!!」


ホントに自分が何を喚いているのか理解できない、考えなしに言葉がポンポン出て来る。


「知らんぷりしてたらそのままいよなと付き合っていけるのか?知らんぷりが俺に出来るのか?裏であいつらが会ってるのを知ってるのに?くそったれ!てか下司野のヤローぶっ殺してー!!いよなのやつも一緒にぶっ殺してー!!クソクソクソクソーーーーーーーーー!!!!」


 カッコ悪くも涙流して意味のないことを喚き散らす、そんな俺を仁は黙って見ててくれる。

ひとしきり号泣して頭が少しクリアになったとき、「ポロン」とスマホがメッセージの受信を告げる。

覗いてみるといよなからで、


『ごめんねぇうたた寝しちゃってた。いつもよりも早いねぇ、着信もあったみたいだけどどうしたの?』


 画面を覗いてた仁が、「うわぁ露骨に探り入れてるわ」と呟いた。そうなの?俺気づかなかったわ……

とりあえず、


『いや近くでいよなに似た人を見つけたから確認したかっただけだ』


と入力すると、仁が首を振りながら、


「止めとけ。警戒されて言い訳考える時間を与えるだけだ。キツイだろうけど今は知らないふりしとけ」


と言ってきたので、


『うんにゃ何もないよ。久しぶりにいつもよりも早く終わったから、会えないかなって連絡しただけだ』


と入力し直して仁が頷いたのでそのまま送信。

すぐにいよなから返信、


『そーなんだぁ、ごめんねぇせっかく時間出来たのに寝ちゃってて。普段遅くて会えないから今日は会いたかったなぁ♡』


またまた覗いてた仁が「煽るねぇ」と呟いた。……どこが?


『寝ちゃってたのは仕方ねーよ。でさ、明日も休みなんだけど会えないか?』


と入力、仁が画面を見て、


「大丈夫か?」


と聞いてきたので思わず苦笑しながら、


「泣いたらある程度吹っ切れた大丈夫だ」


と返してメッセージを送信。


『うん、大丈夫だよぉ♡ラーくん何かあたしに用事でもあるのぉ?』


あーこれは俺でもわかるわ、疑ってるなこれ……


『いや違うよ、久しぶりに会いたいだけだ』


『そっかぁーあたしに会いたいかぁ♡じゃあ家来る?ママも久しぶりに会いたいって言ってたしぃ』


 仁が「自分のフィールドに呼ぶかー、しかも親込みのところに。それだと変な話はできないしなぁ……やるね」と解説してくれる。え?なにこの無駄に高度な情報戦。てかいよなっていつもメッセでそんな裏の意味仕込んでたの?マジ?気づかなかった……


『とりあえずいよなの家の最寄り駅の方で会って、家に行くかどうかはそん時決めね?』


と入力、仁は「うーん露骨に逃げてるけど、いきなり家に行くよりはマシか?いやしかし……」と悩み出したので俺は、


「まあ会うのは確定なんだし。考え過ぎも良くないって」


と言ってそのまま送信。

仁は「あっ」とちょっと焦った声を出したが、「まあそうだな」と苦笑しながら頷いた。


 『うんいーよぉ、じゃあ明日また連絡するねぇ♡中途半端に寝ちゃってなんか疲れちゃったからもう寝るねー』


フン、下司野とハッスルしすぎて疲れたんだろ?


『ああ分かった、おやすみ』


『おやすみー♡』


 とりあえず明日会う段取りはできた。その時どうなるかは分からないけど、俺といよなの関係が変わることは決まってる。


「ホントに明日大丈夫か?」


 仁が心配そうに聞いてくる。今日は心配かけ過ぎたな。でも実際のところこいつが居なかったらもっと醜態晒してたからホントにありがたい。


「ああ、もう覚悟もできたし腹も決まった。今日はありがとな……カノジョさんにもよろしく言っといてくれ。それとあの写真貰っていいか?」


あの二人がホテルから出て来る写真をスマホに送ってもらい駅で別れる。

気づいたらもう終電に近い時間になっていた。





「ただいま」


 家に入り昔からのクセで帰宅を告げる。もちろん応えはない。何を隠そう親父は仕事の都合で海外に長期滞在、おふくろもそれについて行ってるため現在絶賛ひとり暮らし中なのである。やったね!

 ……しかし、今みたいな状況のときは家族がいたほうが賑やかで良かったかもな。


 もう今日は風呂を沸かす気力も無いので、シャワーだけを手早く浴びて歯を磨いてベッドへ潜り込む。

でも寝ようとするが気が立っているのか眠れない。「いつから関係を持ち始めたのだろう」とか「もう気持ちは下司野の方に傾いてしまっているのか」とか、考えても仕方のないことばかり頭に浮かんでは悶々としてしまう。何が覚悟ができただ、未だにグダグダと見苦しくしがみついているじゃないか。と益体もないことを考えているうちにやっと意識がまどろみの中に落ちていく……。





〜♪〜〜♫〜〜

 着信を告げるメロディで目が覚める。時間を確認すると午前10時を少し回ったところだった。スマホの画面を見るといよなからだったので慌てて出る。


「あーやっと繫がったぁ、あたし今日連絡するねって言ったのにぃ、メッセに既読も付かないしぃどうしたのかと心配したんだからぁプンプン!」


いよなの甘ったるい声が聞こえてくる、あとプンプン頂きましたー。てか、いよなの声を聞いた瞬間すごい寒気が背筋に走ったんだけど……


「あ゙ー悪い、今起きたわ」


俺は動揺を隠しながら謝ると、


「えー大丈夫ぅ?疲れてるんじゃない?やっぱり会うのやめとく?」


気のせいかちょっと嬉しそうに聞こえるのは穿ち過ぎかな?会いたくないのか?


「……いやダイジョーブ大丈夫、会おうよ久しぶりに顔が見たいし」


てか、落ち着け餅つけ、平常心平常心


「うん分かったぁ、じゃあ何時に待ち合わせるー?」


……ちょっと落胆してるように聞こえるのは気のせいだよな?なんとか心を落ち着かせながら、安里宅の最寄り駅に12時に待ち合わせして食事をしようと決めることができた。


「じゃあまた後でねぇ♡」


 通話を終了させると自然とため息が漏れる。会うのを止めようかと聞かれたときとかよく衝動的に怒鳴りつけなかったなと感心する。ヤバいな……かなりネガティブ思考になっている。それにあの悪寒は何なんだ?


 頭をスッキリさせるためにシャワーを浴びてついでにヒゲを剃る。出てから歯を磨いてスマホを確認すると、確かにいよなからのメッセージが数件入ってる。

あと我らがキャプテン仁から「大丈夫か?まあ頑張れ」とのメッセが入ってて苦笑した。なんかエライ心配してくれてんな……イロイロ片付いたらジュースくらい奢ってやるか。





 待ち合わせ場所にとうちゃーく。現在11時50分、ウム待ち合わせには理想的な時間帯。つってもどーせあいつは時間ギリギリか遅れて来るかだろうからしばらく待ちだな……

 スマホでネットニュースを漁リながら待ってると「ラーくん♡お待たせー」と声が聞こえたその瞬間、また背筋に寒気が走る。声の方へ顔を向けると、そこにはいつものツインテールを下ろしてキャップを被り、大きめの長袖のプリントTシャツにショートパンツ、ニーソックスにスニーカーって出で立ちのいよなが居た。

 顔を合わせてハッキリ分かった……あれだけ好きだったあざと可愛い声が、今では嫌悪の対象になってる。あぁこれはもう無理だ……それが嫌でも理解できてしまった。


「そんなに待ってないよ、てか久しぶり。って言い方も変だな……、悪いななかなか会えなくて」


「ホントだよぉー!部活ばっかりで全然構ってくれないんだからぁ、ぶー」


といよなが頬を膨らます。はいぶー頂きました、あざといあざとい。ぶん殴るぞ。


「じゃあ行こ?パスタの美味しいお店知ってるんだぁ」


と自然に、そうホントに自然に手をつなごうと俺の左手へ手を伸ばしてくる。その手が触れる瞬間俺は反射的に手を逸してしまった。


「どうしたの?」


いよなが怪訝な顔で聞いてくる。俺は逸した左手を擦りながら平静を装って、


「いやちょっとビックリしただけ。腹減ってるしさ早く行こうぜ」


と促したがその後決して手をつなぐことはしなかった。





 いよなオススメの店のパスタは見た目もすごくおしゃれで美味しそうなのに味がまったくしなかった。味のしないパスタを食べながら必死に笑顔を作っていよなと話をする。食事がこんなに苦行だったのは生まれて初めてだわ……この数ヶ月の間待ちに待ったいよなとのデートのはずなのに、ひたすら苦痛にしか感じない。

 何を話したか記憶になく気づいたときには食事も終わって、いつの間にか公園のベンチで食休みをしていた。なんとか会話を繋いでいるとふと沈黙が流れた一瞬、いよながこちらに顔を向け目を閉じる。


え?なにこれ?……キスの催促か?誰にすんの?いよなに?誰がすんの?下司野が?それとモオレガ?ナンダコノキモチワルイモノハ?コノカオヲゲスノニミセタバカリナノニ?オレハイッタイナニヲミサセラレテイルンダ?キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ。


 客観的に見たら可愛らしいはずのいよなのキス待ち顔なのに、今の俺にはひたすら悍ましい物に見える。


 体が固まったように動かない俺を不審に思ったのか、 


「どうしたのぉ?ラーくん今日はずっと変だよ?」


心配そうにしながらもちょっと拗ねた声色で、しかし探るような眼差しでこちらを覗き込むいよな。俺はその眼差しから逃げるように目を背けて俯きながら、


「なあいよな、オマエ俺に隠してることあるだろ?」


突然の質問に、いよなは「え?」と返す。


「オマエ俺に隠し事してるだろ?」


せめて自分から白状して謝ってほしい、その思いからもう一度同じ質問を投げかける。

しかし、


「うーん何のことだろ?あたしぃラーくんに隠し事なんてしないよぉ」


やっぱり自分からは言わないよなぁ。

切り出してしまったんだもう戻れない、最後まで行くしかない。


「俺が気づいてないと思ってるだろ?俺になら隠し通せると思ってないか?」


「何のこと?さっきからラーくんがなに言ってるか分からないよぉ」


「昨日のメッセージと着信……届いたとき本当は何してた?」


「昨日も寝てたって言ったよー。届いたときに見られなくてごめんねぇ」


全然崩れないし動揺しないな。まああざと可愛いキャラを徹底してるくらいだ図太くもなるか。それに仁のメッセージの解説で分かったけど、腹の読み合いとかも普通に出来るみたいだし。てか、そういうところに昨日まで全然気づかなかった俺も、カレシとしてどうなんだろうな……


「俺がメッセージ送ったとき、実はラブホ街の辺りに居たんだわ」


ピクンッといよなの身体が反応した。「ふーんそーなんだぁ」となんでもないように応えているが、動揺したのが顔を見ないでも雰囲気でわかる。


「そこでさ、オマエのクラスの転校生を見かけたんだ、おんな連れでラブホに入って行ったよ」


俯いてた顔をいよなに向けて、


「で、もう一度聞くけどさ、オマエ俺に隠し事してるだ……ろ……?」


いよなの顔を見て身体が凍りついた。

さっきまで浮かべてたぽわぽわした笑顔が無くなって、能面のような無表情になっている。


「どうしたのぉラーくん?そんな怖い顔してぇ」


 無表情で今までと同じようなあざとい口調ってすげぇ怖いんだけど……てか今のオマエが言うな、オマエの方が怖いわ。


「て言うかぁ、カノジョ騙すってヒドくないー?多分見てたんでしょう?あたしと茶楽雄くんがホテルに入るとこかホテルから出てくるとこ。実は写真も撮ってるのかなぁ?」

「昨日から嫌な雰囲気感じてたんだぁ、ちょうどホテルに入ったくらいのタイミングでのメッセと着信でしょ?あれに気付かなかったのが不味かったなぁ。しかもぉその後の普段のラーくんらしくないメッセ。あれって仁くんでしょ?」


なんかズバズバこっちの持ち札消してくるし。こんなに頭キレたんだこいつ……全然知らなかった。


「それで今日会ってみたらぁ、あたしの声にいちいち反応するしぃ、手をつなごうとしたら避けられるし、笑顔はぎこちないしでもうバレてんだなぁって」


 ここで普段のいよなのほわほわしたあざとい笑顔に戻って、


「これでもう隠さなくてもいいんだぁってホッとしたんだぁ」


ひとすじの涙が瞳から流れて頬を伝った。





曇ってきたなと思ってたらポツポツと雨が降ってきた


「今更聞いてどうすんだって話だけど理由とかって聞いてもいいか?」


と尋ねると、いよなは涙を拭きながら、


「ホントに今更聞いてどうするのぉ?ただ単に茶楽雄くんの方が好きになっただけだよぉ。茶楽雄くんの方がイケメンだしぃ、茶楽雄くんの方がお金持ちだしぃ、茶楽雄くんの方が幸せにしてくれそうなんだもん」


その物言いにカッとなって、


「あぁそうかよ!なら下司野とイチャコラやってろや!カレシいるのに他の男に股を開くビッチとカレシのいる女に手を出すクズでお似合いだよ!!」


いよなに対して初めて罵倒を浴びせる、


「うん、そうするよぉ、ラーくんなんかうどんとかいうスポーツでもやってればいいんだよぉ」


あん?このアバズレ言ってはならないこと言いやがった!


「うどんじゃねーよ、ンドバシュだ!カレシのやってるスポーツくらい覚えてろよ!!」


「もうカレシじゃないもん。じゃああたしもう帰るねぇ、サヨウナラ」


いよなはそのまま後を振り返りもせずに帰って行った。





〜 安里 いよな Side〜




 雨が本降りになってきた、涙を洗い流してくれるからちょうどいいや……


ラーくんとお別れをした……

理由はが浮気をしたから……


 きっかけはラーくんの部活が新チームになって、練習がすごく大変になったこと。ラーくんはチームの要だって仁くんが言ってたから、表面上は「いやだー」とか「休みたいー」とか言ってても授業以外の時間をほぼ全部部活に捧げることになる。

そうなると必然的に私と会える時間が全く無くなる。その事が寂しいと思い始めたときに彼が転校してきた……。


 彼の名前は下司野 茶楽雄くん。声をかけてきたのは彼からで、最初はカレシが居るからと全く相手にしなかった。

 私のカレシが根都 羅怜央だと知った彼が、また私に声をかけてきた。その時はまたかと思って冷たく接しようとしたけど、下司野くんが前の学校でラーくんと同じスポーツをやっていたと知ってラーくんの話がしたくて彼とお茶をすることになった。


「NTR高校の根都の噂は前の学校まで響いてた。一緒のポジションであるナンバー6のブスカとしても、俺と同じで日本にはあまり居ないタイプのウジャパーとしても、フィールド支配力は超高校級だってね」


 下司野くんが言っていることはあまり良く分からなかったけど、ラーくんがすごいのは何となく分かったのでそれが嬉しかった。それからラーくんに会えない寂しさを、下司野くんとラーくんの話をすることで紛らわせていった。


「転入したら根都からポジション奪ってやると思ってたけどあれは無理だ。練習を見ただけでわかる、到底勝てる相手じゃない。あんなゲドルパを始めて見た。国内であいつとかろうじて張り合えるのは、コンビを組んでる9番ダボスコスの新・C・仁だけだ。」


 やっぱり彼が言っていることはあまり理解できないけど、仁くんもすごいんだと分かった。

 そうやって何度か下司野くんと会ってるうちに、ラーくんのプレイの内容を目をキラキラさせて話す彼が、言ってる意味は分からないけどカワイイなと思い始めた。


 ひと月ほど経った頃、その頃にはラーくんの話をするために茶楽雄くんと会うのではなく、茶楽雄くんと会うためにラーくんの話をしている自分に自己嫌悪した。そしてその後はもう坂道を転がるようだった……気づいたら彼と手をつないでいたし、彼からのキスも拒まなかった。それから身体を重ねるまでそんなに時間もかからなかった……。


 最低なことをしていると自分でもわかっているけど、茶楽雄くんと居るときはラーくんがそばに居ない寂しさを忘れられる。ラーくんを裏切っている背徳感が、茶楽雄くんとの行為に傾倒させる。


 自己嫌悪と罪悪感と背徳感に心がぐちゃぐちゃになって苦しみながら、表面上は平気な顔をしてラーくんとメッセージや電話のやりとりをしながら、茶楽雄くんとの逢瀬を重ねる。そんな綱渡りのようなバランスも、いつか崩れるときは来ると恐れていたけれど、ずいぶんあっさりとその時が訪れた。


 それは神様の気まぐれかもしくは天罰か。たまたま茶楽雄くんと会った日と、ラーくんの部活が早く終わった日が重なったために起きた悲劇か喜劇。 私はいつものようにラーくんからの連絡は遅い時間になるだろうと高をくくって、スマホのチェックを帰宅するまでやらなかった。自分の部屋でスマホを見て血の気が引いた。その後のメッセの遣り取りで翌日会うことが決まった。


 茶楽雄くんに翌日ラーくんと会う事を連絡したら、茶楽雄くんもラーくんと会うと言ってくれた。嬉しかったけどこれは私のケジメだからと断って一人で会う決心をする。


 明けて今日、待ち合わせ場所で久しぶりにラーくんを見つけたとき、高鳴った胸の鼓動にまだ彼が好きなんだと気づいてしまった。でも、彼の反応ですでにバレてしまってることを感じて、終わらせるために彼はここに来たんだと分かってしまう。


 私の大好きなパスタ屋さんのパスタなのに全く味がしなかった。こちらまで笑顔にしてくれる私が大好きだったいつもの彼の笑顔じゃなく、貼り付けたような作り笑顔で笑いかけていると分かってしまって辛かった。それもこれも全部私のせいなのだ。


 公園で最後のあがきでキスをせがんだけどそれも拒絶されて、あぁもう終わってしまうんだと思ってたら、ラーくんが私を静かに糾弾してきた。

 私は見苦しく誤魔化したが、ラーくんはそれも許してくれない。あぁ寄りにもよって一番見られたくないところを見られてしまったのか……と、自分の顔から表情が抜け落ちていくのがわかる。


 でもラーくんに見せるカノジョとしての最後の顔が、こんな無表情なのは嫌だからと、なんとか笑って見せた。そしてせめてほんのちょっとでもラーくんが責任を感じないように、嫌な女の子を演じて逃げるようにその場を離れた。





 傘も差さずに自宅の方へ歩いていると目の前に茶楽雄くんが待っててくれた。私に傘を差しかけて


「根都に会ってきたか?」

 

と聞いてきたので、


「うん、お別れしてきた」 


と告げた。そうしたら、


「クックック……ハーハッハッハッ!!」


と茶楽雄くんが急に高笑いをし始めた。私がボーゼンとしていると、


「やったぞ!根戸から奪ってやったぞ!!根戸のやつざまーみろヒャーハッハッハッ!!」


と今までの茶楽雄くんからは聞いたことのないような

ゲスな声で笑い続けている。


「えっ?どういう事?」

 

私は訳が分からず聞いた。聞いてしまった。

茶楽雄くんはピタリと笑うのを止めると、


「ああ、簡単に説明するとこういうことだ。俺は前の学校のンドバシュ部でチームのナンバー6を張ってスターだったんだ。もちろんこの学校でもそうなるつもりだった。根都の噂は聞いていたけど俺なら勝てると信じてた」

「でもこの学校に来て根戸のプレイを観たとき衝撃的だった。フィールドイシュガッティをしてもグデンポギを重ねてもどうやっても勝てない、そう認めざるを得ない天才がいた。だからといって3品や15石なんていうポジションに落ち着くなんて俺のプライドが許さない!」 

「ポジションを奪えないなら他の物を奪うしかないよなぁ?幸いあいつには大好きなカノジョがいたしな。ここまで言えば後は判るよなぁ?」


茶楽雄くんの言ってることはちっとも分からないけど、彼が言いたいことは理解してしまった。


「ウソ……そんな……だって私、避妊もせずに全部あげたよ?ラーくんともお別れしてきたし……あんなに大好きだったのに……それに茶楽雄くんのこと好きになったんだよ?」


「クックック、あぁ美味しかったぜぇー、思わず本気になりそうな心地よさだったなぁ」

「でもなぁ根戸あいつのお古は要らねーなー」


「ウソ……ウソよ……ウソ……茶楽雄くん……うううう」


「ヒャーハッハッハッ、じゃあなもうお前は用済みだ。もう話しかけてくるなよ?あと下手なことしたらお前のハメ撮り動画ネットに上げるからなヒャーハッハッハッハッ!!」


 高笑いをしながら茶楽雄くん……イヤ下司野は歩き去って行った。後に残されたのは私だけ……ラーくんとお別れし、下司野に無惨に捨てられて一人きりになった私だけ……


私の裏切りの代償だとしても、神様これはあんまりではないですか……


ねぇラーくん……これから私はどうしたらいいの?





◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


茶楽雄くん絶好調(笑)


次回 ヒロイン登場です。

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