第34話 伝わる想いと伝える想い


 苦肉の策で予約したアクセサリー工房の体験だが、思った以上に楽しんでくれたようで安心した。

 今も俺が作って華音に贈ったシルバーのネックレスを、大事そうに手のひらに乗せて眺めている。

もちろん俺の胸にも華音お手製のシルバーのネックレスがある。


「とっても楽しかったですね!」


「そうだな、思ったより簡単だったし」


「羅怜央くん意外と器用ですよね……」


 そうなのだ、自分でも意外だったが俺は結構器用なようで、アクセサリー作りもかなり上手く出来た。


「でも華音のデザイン俺好きだよ。大事にするな?」


 ただデザインはありふれた物しか出来なかった。その点華音は俺に合わせて、シンプルながらもセンスのあるデザインをしてくれた。


「ありがとうございます。私も大事にしますね?」


 本当に大事そうに優しく握りしめる。ちょっとくすぐったい気持ちになる。


「さて、次はこないだの遊園地に行こうかなと思うんだけどどうだ?」


「あら、「ニバンセンジ」にまた乗れるんですね♪」


 こいつあれ好きだよなー。まあ一回くらいは付き合うか。


「そうね……」


「あっそうだ!お化け屋敷には行きませんからね!」


「えーそれズルくないか?お化け屋敷行きてー。一回行ってるからネタバレして怖くないって!」


「行きませんったら行きません!」


 頑なだな……相当嫌な思いをしたみたいだ。まあ俺のせいだけどね!




 ところ変わって今どこだと思う?はっは!信じられるか?俺が逃げ腰なの知ってて、遊園地ついた早々に「ニバンセンジ」の乗り場に直行だぜ?

 いつもの奥ゆかしい華音からは想像もつかない「ニバンセンジ」への飽くなき執着……


「一回で勘弁してくれよ?」


「え?でも今の季節なら列も少ないですから乗り放題ですよ?」


「だからなんだよ?連チャンする気か?勘弁してくれよ……」


「あぅ、四回くらい乗りたいです……」


「マジすか?」


前回の倍ってどんだけだよ……好きすぎるだろ。




「……………」


ホントに四回乗りやがった……


「楽しかったですね♫」


「それは何より……」


 すげぇわ連チャンで四回乗っても楽しめるほど、「ニバンセンジ」が好きとは。恐れ入りました……


……まあ、楽しんでくれてるのならそれは純粋に嬉しいし良いや。




 地獄巡ニバンセンジりをやってるうちに辺りはすっかり暗くなり、遊園地のこの季節の売りであるイルミネーションが点灯した。しかも今日はクリスマスバージョンで更に気合が入っている。


「凄い……キレイ……」


 華音がうっとりとした表情でつぶやく、その横顔があまりにも綺麗で思わず見惚れてしまった。


 ここだ!このタイミングで行くんだ!なんか行ける気がする!

 イルミネーションに見惚れている彼女の手を取り、驚いた顔でこっちに振り返る華音に向かって、


「華音……俺は君のことが好きだ。俺と付き合って欲しい……」


 自然に、ごくごく自然に言葉が出た。華音は驚いた顔のままこちらを見上げてる。さらに畳み掛ける、


「あの雨の日、初めて君に出会ったとき、噂の「氷姫」が噂と違ってなんか変だなって感じた。なんかブツブツ独り言呟くし、強引に泊まろうとするし、そのうえ距離感の詰め方が急だしで、なんだこいつってな……」

「で、君がウチに出入りするようになって、料理が上手いこと、いろんなことに気が利くこと、そのくせちょっと抜けてること、自分よりも周りを大事にすること、なのに結構したたかで自分の欲望に忠実なところがあること、俺なんかのために体を張ってくれるところ、意外と子供っぽいところがあること」


ここで一旦言葉を切ってひと息つく、


「他にもいっぱい君のことを知って……そしてその度に君に惹かれていった」


華音の瞳から涙が一滴頬を流れた……


「あの日、観覧車の中で君に言ったよな?まだわだかまりが有るって。でも君と一緒ならそんなもの簡単に乗り越えていけると思えた。君といるだけで俺は幸せなんだと思うことができた」


「だからもう一度言う……華音が好きだ」



 言葉を切ったあとも、潤んだ瞳でこちらを見上げていた華音が、


「羅怜央くん……観覧車に乗りませんか?」


「観覧車?今からか?」


「はい、ダメですか?」


「いや……いいけど……」


 一世一代の告白をしたんだけどな……まあがっつくのもカッコ悪いし、まさかはぐらかしたりはしないだろうからいいけど……


 ふたりとも無言で観覧車に乗り込む。扉が閉まり外界と遮断されたゴンドラ内で華音が話しだした。


「私が根都選手を初めて知ったのは、中学時代に母校とBSS中学が対戦したときです。」

「その時に思ったんです……なんて楽しそうにンドバシュをするのだろうと、それからは根都選手の試合は欠かさず見てました」


「NTR高校に進学して、根都くんが一緒の学校だと知ったとき凄く嬉しかった。でも、そのあとすぐ諸事情でイギリスへ短期留学に行かなきゃいけなくなりました……」

「そして、留学から帰ってきてすぐ、根都くんと安里さんがお付き合いしていることを知りました。ショックでした……しかし、そのときはなぜ自分がショックを受けているのか分かりませんでした。私は根都くんをプレイヤーとして推してるだけなのにって」

「でも、去年のクリスマス・イブに根都くんと安里さんが結ばれたと報告を受けたとき、自分の気持ちに気づきました。ああ、私は根都くんにこんなにも恋をしているんだと。もう周回遅れの恋なのに……」


「そこから私の七転八倒の恋が始まりましたが、それは割愛して……そしてあの日」


「あの雨の日に羅怜央くんと出会いました……」


「あなたに出会って知ってしまったんです……あなたと並んで歩くスビードを、あなたとおしゃべりする楽しさを、あなたの笑顔の輝きを、あなたとふざけ合う空気の美味しさを、あなたの拗ねた顔の可愛さを、あなたの名前を呼ぶ愛しさを、あなたが淹れてくれたコーヒーの味を、あなたに名前を呼ばれる幸福を、あなたに美味しかったと言われる心地よさを、あなたがくれたメッセージの温もりを、あなたに会えない寂しさを……知ってしまったんです……」


「知ってしまって、どんどんあなたに惹かれて行きました。そして、今日……」


「あなたから想いの詰まった言葉をもらいました。一番の宝物です。涙が出るほど嬉しかった……」

「私は去年のクリスマスから、一年掛けてあなたに追いついたんです……追いつけたんです」


華音の瞳から涙がポロポロとこぼれ出す


「私にはこの一年間の想いがあるから、胸を張ってあなたに言えます。私もあなたが……誰にも負けないくらい大好きです。だからこれからも、どうかよろしくお願いします」


 溢れ出す涙を拭うこともせず満面の笑顔で言う華音がとても輝いて見えて、引き込まれるように華音の頬に手を伸ばして親指で涙を拭い、


「あっ……ん」


そのままそっと口付けた……







〜 広宮 華音 Side 〜



「────────誰にも負けないくらい大好きです。だからこれからも、どうかよろしくお願いします」



 羅怜央くんの熱意ある告白に負けないくらい、心を込めた私の告白を羅怜央くんは静かに聞いてくれました。そして溢れて止まらない涙を優しく拭ってくれて、


「あっ……ん」


 羅怜央くんの唇が私の唇をそっと塞ぎます……


 あっ羅怜央くんの顔がこんなに近くに……唇が熱い……です……あっ羅怜央くんの顔が離れていく……


 羅怜央くんが離れたあとも唇が熱くて淋しくて、自分の指で唇に触れてみる。

 なんだか頭がポーっとしています、今の出来事がまるで夢のようで現実感がありません。


 だから確かな実感が欲しくて、もう一度とせがむ私をあやすように、頭を撫でてから額に口付けてくれました。

 唇じゃないことにちょっと拗ねた私を、羅怜央くんは可笑しそうに笑いながら、


「今はここまでだ。ほら、地上に着くから……」


と優しく諭しました。

 まぁ現に係員さんがすぐに扉を開けてくれましたから、タイミング的には羅怜央くんが正解なのでしょう。

 しかし、その立ち振舞いに経験者の余裕を感じてしまいちょっとイラッとしますね……

 

 でも大丈夫です、そんな苛立ちも吹き飛びますよ。なんたって今日から羅怜央くんとステディなお付き合いが出来るのですから!さらにもうファーストキスも済ませてしまいました。あぅキスってあんなに熱いんですね……


 その事実に地に足が着かないまま気づいたら羅怜央くんの家に帰ってましたし、知らない間にディナーも拵えていました。どう考えてもこんな短時間で出来る品じゃなかったはずなんですけど……キスって物理法則を超えるんですね……

 

ひとつ勉強になりました……






〜 根都 羅怜央 Side 〜



 華音が腕によりをかけると豪語していただけあって

ディナーは手が込んでいてとても美味だった。


「ごちそうさま。あいかわらず凄いな、めちゃくちゃ美味かった」


「お粗末さまです。ホントですか?嬉しい……でも、ならご褒美が欲しいです……」


 多分作る苦労に見合ってないだろう俺の賛辞を受けて、華音はご褒美を要求しながら目をつぶる……

これは……キスの催促だろうなぁ。もしかしてハマってる?テーブルを回り込んで椅子に座っている華音の顎を軽く持ち上げ、

 

「ん……んむ……うん」


 観覧車のときよりも少し長めに唇を重ねて、最後にちょっとだけ華音の下唇を俺の唇で挟んで吸う。

 それだけで華音がぶるりと身悶える……そのまま軽くハグをしたあと身体を離し、


「もう遅い時間だし送るよ」


帰宅を促すと潤んだ瞳で上目遣いに、


「あの……羅怜央くん?私今日はかえ「華音、焦ることない」え?」


「俺たちは今日付き合い始めたばかりだ、そんなに慌てて関係を進める必要はないさ。まぁいきなりキスした俺が言えた事では無いけどな?」


「羅怜央くん……」


「ゆっくりでいいさ、俺たちには時間がたんまりある」


「羅怜央くん……大好きです」


「うん俺も好きだよ。さあ、送るよ」


「はい」



 華音を家まで送り届け、門の前で二言三言話をする。そのうちどちらからともなく、軽く啄むように唇を重ねる。


「羅怜央くんとのキスがこんなに素敵だなんて……」


「そんな事言ってたら自信持っちまうぞ?」


「私に対してだけですからね?」


「もちろん、分かってるさ」


「ん……」


「じゃあ帰るな……また明日」


「はい、おやすみなさい……大好きです」


「おやすみ……俺も好きだよ」


 踵を返して歩き出す。角を曲がって華音から完全に死角になったのを確認すると……


「バカップルじゃん!完全にバカップルじゃんか!」


 電柱に手を付き額を打ち付ける、なにあれ完膚なきまでに完全無欠のバカップルじゃんか!!まさか華音があそこまでハマるとは……これは明日からが恐ろしいぞ?


 いやさすがに明日には冷静になってるだろうが、あんなにチュッチュと学校とかでしてたら刺されてしまう。


せめて俺は経験者として冷静でいよう……


 




◆◇◆◇


お読みいただきありがとうございます。


ついにふたりの想いが通じあいました。

これからバカップルぶりを発揮するのか、落ち着いた関係で愛を育んで行くのか作者にも分かりません(笑)



次回も読んでいただけると嬉しいです。






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