第33話 親友


 華音たっての希望で、今日は家に集合とかではなく前回同様駅で待ち合わせすることになった。

 

「帰ってくるときにはどうなってるかな?」


 独りで寂しく帰ってきたりして……ブルブル縁起でもない。

 そんな事になったら食材使えなくて贖罪しなくちゃ……なんちて


「………………」


 ……さてと、そろそろ出ないと待ち合わせに間に合わなくなっちまう。


「行ってきます」


 誰もいない家に挨拶して、なんか戦場に赴くような雰囲気を醸し出す、


「うぅー寒いー……って、誰のギャグがさむいねん!……うん悪くない、キレてるキレてる」


自分のギャグのあまりのキレに戦慄しながら歩いていると、前方に見知った顔が居た。


「お前はなんでここにいんだよ?安達さんは?」


「なんだよ、親友の一世一代の門出を祝いに来たのに、つれないやつー」


「いよなのときはあれだけ無関心だったくせに、華音にはえらく肩入れすんのな?」


「安里さんの事は過ぎたことだしもういいじゃん?広宮さんは……あんだけ健気だとどうしても肩入れしたくなるさ……でも出来るだけ不干渉を貫いたつもりだけど?」


たくっ、どういうつもりだ?こいつも親友ながら、なに考えてるか分かんないとこあるからなー。


「それで、クリスマス・イブにわざわざ親友のケツ蹴飛ばしに来たと?」


「だってお前グタグタだったじゃん?心配にもなるさ。ダサッ」


あっ、こいつ言うに事欠いてダサいだと?


「ダサいとか言うな!泣くぞ?あとしゃーねーじゃん、なんか華音相手だと調子狂うんだよなーいつも一緒にいるからかな?」


「それも贅沢な話だけどな……「氷姫」と一緒に居るのが普通って……刺されるぞ?」


「うるせーよ、自覚はある。でも事実だからなー、あいつグイグイ来るんだもんよ。お前は健気とか言ってるけどあいつの圧すごいぞ?それで引くときはサッと引くし……」


「それで絆されたと?」

 

ストレートに聞いてきやがるな。


「ああそうだよ!がっつり絆されたよ!悪いか?」


「くっくっくっ、悪くはないさ。俺は広宮さん推してるし?しかし素直になったこと」


「まあな、ああも真っ直ぐに来られるとな……」


「安里さんのときはどっちかっつうとお前が惚れてたもんな?惚れられるのも新鮮だったろ?」


「悪い気はしない……けど、さっきも言ったが調子狂うんだよなー」


 あと華音には何しても許されると勘違いしそうになるんだよなー。一番やっちゃいけない勘違い……


「なんか勘違いしそうになるか?」


「うわぁエスパーかよ?」


「分かるさ、あんだけ尽されたら勘違いする奴もいるよ、まあお前はしないだろうけど……」


「フン、で?わざわざイブにカノジョ放っぽってまで来た甲斐はあったか?」


「あったよ?日和って告らず逃げるかもって、心配もしたけど大丈夫そうだし?もしそんな素振り見せたら煽り倒して告らせようかなーって」


「げっ不干渉じゃねーのかよ?」


 暴力に訴えられたら楽勝だけど、勉強出来ないくせに悪知恵だけは働くから厄介なんだよなぁ。


「この期に及んヘタれた事やるようなやつに何も言わさん!」


「勘弁してくれ……」


「まあ羅怜央くんは大丈夫だよなぁ?」


うわぁ肩に腕回してきやがった……ウザッ


「ウザいな親友。分かってるよ……告るさ」


「おぉ言い切った、かっけーさすが親友!」


 なんか言いくるめられて言わされた感あるけど、さすがにこの件でからかったりしないだろ……したら殴り飛ばす!


「もういいだろーが。そろそろ駅に着くぞ、一緒に行くわけじゃないんだろ?」


「ん?俺の待ち合わせ場所もお前と一緒だけど?」


ん?今なんて言った?







〜 広宮 華音 Side 〜



 今日はとても大事な日になります……


 居ても立っても居られず、待ち合わせ場所に一時間も前に着いてしまいました……さすがの羅怜央くんもまだ来ていないようですね?


 ちょっと冷たいベンチに腰掛けて道行く人々を眺めてみます。

 カップル、ご家族連れ、ご年配のご夫婦、サラリーマンの方々、皆さんクリスマス・イブを楽しんでるように見えます。

 なのに私の心境はワクワクなのか、ソワソワなのか、ビクビクなのか、自分でもよく分かりません……

 

 羅怜央くんとデートして、この間の続きをする……あの時の羅怜央くんの言葉を信じるなら、怯えることなんてないはずです。なのにどこか怯ている私がいます。


「変ですね?大丈夫なはぴゃっ」


ほっぺた冷たいです!なんですか?


「おーほっぺたあったかーい」


「ほへ?沙織ちゃん?」


「そーだよーメッセ以外だと久し振り!」


沙織ちゃんがここになんで?はて?


「あははは、華音ちゃん驚いてる?」


「それは驚きますよ!どうしてここに?新くんは?」


「いやー仁くんにこの時間くらいには華音ちゃん来てるからって、言われて来たけどホントに居るんだもん。ビックリだよねー我がカレシながらキモいわー」


「新くんですか?」


「そそ、仁くん。もしかしたら華音ちゃんが不安がってるかもって、だから元気づけてあげてって!あと私も華音ちゃんに会いたかったし!明日会えるけどそんなのかんけーないし!」


「ほへー私も会いたかったですよー」


「キャーうれしー!けど、やっぱり元気ないっぽい感じ?うん、やっぱり仁くんキモいな……」


「ははは……そうですね、実際はちょっと不安なのかもしれませんね」


 あの時確かに私の想いは嬉しいし幸せだと、羅怜央くんは言ってくれました。けど自分も同じ気持ちだとは言ってもらってません。

 なのでどうしても一抹の不安が残ってしまいます……


「そっかー、そうだよねー女の子だもん、やっぱり言葉と行動で示して欲しいよねー」


「そうなんです!羅怜央くんはいつも優しいし労ってくれますけど、決定的なところでカベを造るし距離も取るんです!それが哀しいんです……」


「おおぅ、元気だね結構……でも確かに根都くんそういうとこあるなー。それで告られるか不安になっちゃったの?」


「あぅ、実は自分から告白しようかと……」


「はぁ?華音ちゃんから?」


「はい、実は一年前……──────」







「────────というわけでここは乙女心的にも自分から告白したいなーって」


「はーなるほどー。それは気持ち的には自分から告白したいかもね……」

「でも、今更だけど大丈夫?根都くんってンドバシュ選手としてこれからとんでもない事になるよ?多分世界に出ていくほどの選手になると思う。こんな事言うのは何だけど、華音ちゃんに構ってる暇が無くなるほどの……そんなの耐えられる?」


沙織ちゃんが心配してくれてます。優しい子ですね。


「羅怜央くんがすごい選手になるというのは私も思ってます。沙織ちゃんが言ってるみたいに世界に飛び出すようなすごい選手に……確かに私に構ってる暇がないほどンドバシュにのめり込むんだと思います」

「でも、私はそういう羅怜央くんが好きになったんです。ンドバシュが好きでフィールドを駆け巡る羅怜央くんの姿に恋をしたんです……それに私は待つだけの女になるつもりはありませんよ?」


「へぇーいろいろ考えてるんだー。なに?尽くして支えちゃう系?」


「くすくす、そうですね支えちゃう系ですよー。まだ先の話ですけど、実は大学でスポーツ栄養学を学ぶつもりなんです」


「ひゃー!ホントにがっつり支える気なんだー」


「もともと料理は好きですからね」


「いやいや考えてるねー内助の功!」


「照れます……」


「でもそれも告白を成功させなきゃだよねー」


「あぅそうなんです……」


「あーもぅ、華音ちゃん可愛いのー!大丈夫大丈夫、根都くん私から見ても華音ちゃんに惚れてるよー!」


 沙織ちゃんが抱きついてきます。コートを着てても暖かく感じるのは沙織ちゃんの心が暖かいからでしょうか?


「そうでしょうか?断られたりしませんかね?」


「大丈夫大丈夫!こんなに可愛い私の華音ちゃんを、振るようなやつが居たら私が踏んづけてやる!」


「ありがとうございます……私も大好きですよ?」


「もー可愛いなー私も大好きー!」


 沙織ちゃんのおかげで心が軽くなりました。沙織ちゃんをここに来させてくれた新くんにも感謝ですね……


「あー!仁くん発見!」







〜 根都 羅怜央 Side 〜



「あー沙織居たねー」


 仁が安達さんを発見、そちらへ歩き出した。その後に続きながら華音に目を向ける。

 ベージュのファージャケットにスカート姿、冬のお出かけにいいんじゃね?可愛いし暖かそうだし、知らんけど……

 てか、さっきまで仁のアホと話てた内容的に華音の顔がしっかり見れねーよ。恥ずかしい……

 仁と安達さんがハイタッチで挨拶してる。無駄に元気だな……それを横目に、


「おはようございます?こんにちは?こういう時はどっちですかね?」


あーこの会話覚えがあるな……


「ウス……。両方とも言っとけば間違いないさ」


以前と同じように返すと、


「くすくす、覚えていてくれたんですね……」


「たまたまな」


「たまたまですか?」


「ほぼ毎日一緒にいるんだ、覚えてないことも増えるよ」


「そうですね、毎日一緒ですから忘れても新しく作っていけばいいですよね!」


前向きだな……


「さてとそこのご両人?沙織とも合流できたし、俺らはもう行くねー」


仁と安達さんがこちらに向かってくる。


「おうそうか、じゃあなまた明日な」


「沙織ちゃん今日はありがとうね!新くんもありがとうございます」


華音がふたりに礼を言ってる。てか仁はなんかしたのか?あっ安達さんと華音がハグしてる。うむ百合百合しいのは良いと思います。


「俺等もハグしとくか?」


「嫌だよ!どこに需要があるんだよ?」


「そりゃそーだ、ほら、沙織ー行くぞー」


「はーい!じゃあ明日ね華音ちゃん!」


「はい、また明日!楽しみにしてますね!」


 仁と安達さんが手を繋いで、残った手を振りながら歩き去って行く。おせっかい焼きのカップルだな……


「悪いな、待たせたみたいだな?」


「いえいえ、私が待ちきれなくて早く来ちゃいました。それに沙織ちゃんとお喋りしてたらあっという間でしたよ?」


「そうかー安達さんには世話になりっぱなしだな。仁は知らんけど……」


「沙織ちゃんを私のところへ来させたのは新くんですよ?」


やっぱりか。ホントにあいつ華音を推してるな……


「あいつそういうところ気が回るよなー」


「そうですねー私はありがたかったですよ」


 む?華音の中で仁の株が上がってるだと?なんか納得行かないな。

まあ良い、俺も大人だし大人の対応をしようじゃないか。


「仁のくせに生意気な……今度分からせないといけないみたいだな」


「もう、またそんな子供みたいなこと言って。くすくす」


華音が呆れながら笑っている。むぅ解せぬ……


「まあいいや、俺らも行こうか?」


「くすくす、はい行きましょう」



 さて今日はクリスマス・イブだ、せっかくだししっかり楽しんでもらおう。

そして試合のときのように流れを掴む。そーしないと怖くて告白も出来ねーわ。


がんばるかー






◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


あいかわらず変なところで筆がノッて、待ち合わせで一話使い切りました……

さすがに次話で本題に入ると思います。多分……


ふたりはしっかり真っ直ぐに好意を伝えようとしてるのに、作者の筆のノリがふたりを邪魔して読者をじれじれさせる稀有なスタイル、自分でも嫌いじゃないです。


次回も読んでいただけると嬉しいです。



追伸

今日、最終話を書き上げました。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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