第15話 秋の大会初戦 王の戴冠

作者注

ンドバシュ回です。ラブコメはほぼありません。

苦手な方は次回に簡単なあらすじを載せますのでそちらをご覧ください。



 試合当日、仁と俺は連れ立って対戦校のWSS高校が陣取っているスペースへ向かう。ちなみにゴリラはチームの残りのメンツの引率で同行していない。


「よおWSS高校さん、NTR高校の新だ。今日はよろしく頼むな」


「ああNTRさん!こちらこそ胸を借りるつもりでやらせてもらうよ。よろしくな!」


 コーチと一部の選手はだけど、WSS高校の選手は概ね好感の持てる人たちばかりだった。コーチと一部の選手はあれだけどな!

 和やかに試合前の交流を行っていると、


「いやはやNTR高校さん、試合前に対戦相手のご機嫌とりとは殊勝な心掛けですね」


 背後から人を小馬鹿にしたような声が聞こえてきた。こんな一言一句すべてがイヤミで出来ているような言葉を吐ける奴を俺は一人しか知らない。

 後ろを振り返ってみたら案の定、一部の選手を引き連れて前NTR高校ンドバシュ部コーチ、現WSS高校ンドバシュ部コーチの……えーと名前何だっけ?こいつに自己紹介された覚えないから知らね。が居た。

 あと一部の選手のうち向かって右側のやつが俺と目が合ったあとバツが悪そうに目を反らした。ほぉ覚えてるのか、俺は忘れたことないけどな。痛かったわーその膝。


「これはこれは冴島コーチ。親善大会以来ですねぇ、その節はウチのナンバー6がお世話になりました」


 へぇこいつ冴島っていうのか。興味ないからどーでもいいけど。


「久しぶりだねぇ新くん。あれは不幸な事故だった。えーとくんだったかな?その後は大丈夫だったかい?」


 うわぁ絵に書いたようなイヤミだな。こんな挑発に引っかかるやつ今どき居るのか?


「夏の大会優秀選手の名前も知らないんですか?あまり情報収集に力入れていないのかな?そっか、どうせ一回戦で消えるから必要ないか……」


 こんな挑発に引っかかるやつここに居たー!なんかWSS高校の他の方々にも飛び火してるから!そちらに向かって両手を合わせて謝罪、向こうのキャプテンさん苦笑いで手を振ってくれて許してくれた。いい人だ!


「くっ!まったく目上の人間に対する口の聞き方も知らないとは本当に嘆かわしい、教えてるコーチの顔が見てみたいものですね」


 自分から吹っかけといて旗色悪くなったからって矛先変えやがった、しかもここに居ないゴリラに。


「旗色悪くなったからってここに居ない人の陰口なんて、お里が知れますから止めましょうよ冴島コーチ」


 あっそのまま言いやがった。しかもきっちり煽り返してるし、冴島だっけ?すごい顔してるから。ウケる


「あとウチのナンバー6、名前も覚えてないようですけど、この試合後には忘れられなくなりますよ。アンタが認めることができなかった、天才のホントの力をしかとその目で見とけ!」


えーでもこの試合前半しか出れないんだけど……それで印象残すの難しいんだけど?だからフルで出そうぜ?


「フン!天才とは大きくでましたね。そんな大言壮語は後で恥をかきますよ?その選手も少しはやるようですが、今どきブスカでサウジ寄りのスビード型選手なんて通用しません。今はパワー型のヨーロッパスタイルがトレンドです!」


 なんかオタク臭い事言ってるし、トレンドとか知らねーよ。てかンドバシュにトレンドとかあるのか?


「天才を凡人の尺度で測ってんじゃねーよ。黙って見てろウチの王様を、忘れられなくなるぜ?」


 なんか仁が決め台詞っぽい台詞を決め顔で言ってる。あれ?俺って一言も喋ってないな……



WSS高校の陣地を離れながら満面の笑顔の仁が、


「あー羅怜央くん」


「くん?」


あっやっと喋れた。


「羅怜央くん、この試合俺が許すから初っ端から全力でいったんさい」


「えっ!じゃあフルで出ていーのか?」


ズイッ!と満面の笑顔のままこちらに一歩近づき、


「あ?誰がそんなこと言った?試合の前半だ試合の前半だけで冴島に今後ンドバシュの指揮を執れなくなるほどの打撃を与えろ。一切の容赦をするなよ」


「えー」


ズイッ!更に一歩。


「イエス・サー!」


「よし。ならみんなにも説明だ。戻るぞ」






〜 広宮 華音 Side 〜



 まさか秋の大会の初戦が平日とは盲点でした。

 試合を観戦するために、急な体調不良が発生してしまいましたが帰宅途中に急遽完治し、仕方なくその足で会場へ赴かなければならなくなりました。


 会場に到着、さて目立たず羅怜央くんをしっかりと観察出来る場所を探しましょう。

 良さげな所を発見!ですがその場所には先客がいました。しかもこの方は以前から羅怜央くんウォッチングベストポジション争いを繰り広げていた金髪でチャラチャラとした方!流石ですそのポジションにいち早く目を向けるとは。やりますね……


 しかし、私はあなたが知らない情報を持っています。確かに以前までの羅怜央くんを観察するなら、あなたの場所がベストポジションです。

 ですが、今回の大会から羅怜央くんはチームの王様になります。そうなると自ずとポジショニングも今までとは変わってきます。

 それを鑑みた場合本当に私達が座るべきベストポジションは……ここです!

 ふふふ、驚いた顔をされてますね?ですが情報を制した私はこの戦いを制するのです。


 ん?あそこの生徒の塊に近づくのは我が校のンドバシュ部の……遠目なのでよく分かりませんがあの銀髪は多分新くんで、あと一人は間違いなく羅怜央くんですね。ああ、試合前の挨拶ですか。なら生徒の塊はWSS高校の方々で向かいあっているのは、WSS高校のヒョロテリコーチですね多分。あっ隣のやつ羅怜央くんに怪我をさせたやつですね忘れませんよその顔は。

 なにか新くんとヒョロテリコーチが言い争っている雰囲気ですね。そして羅怜央くんが両手を合わせて生徒の塊に謝罪してます。可愛いですね。


さてあとは試合が始まるまでしばらく待ちましょう。





〜 下司野 茶楽雄 Side 〜



 試合が始まって10分程経過した。最初試合開始の熱気に包まれていた会場が、開始早々にざわめきが広まり今や静寂が支配している。


 そして会場の全員がただ一人の選手、根都 羅怜央に注目している。……いや注目させられている。

 根都のひとつひとつのプレーに魅入られている。この俺すらも。


 俺はいや俺たちは何を見せられているんだ?根都のプレーは以前と変わっていない。相変わらずのフィールド支配力でゲームを支配している。ただ間違いなくいつもと違う。

 何が違う?よく見ろ俺なら分かるはずだ。……若干いつもよりフィールドイシュガッティが効いてる気がするが、プレーそのものは変わっていない。変わったのは内面か?フン……なるほど……そういう事か。

 今のやつは自分がこのフィールドの王であると自覚・認識し、そうあろうと意識している。それが今のプレーになって現れている。でも、たったそれだけでこうも変わるものなのか?


 ふざけた話だ、つまりなにか?今まで根都は自分の才能を意識せずにあのプレーを行っていたのか?

 それが自分の才能に気づいて、いや違うな気付かされて、それを意識的に使いこなそうとしている。

 


 俺はとんでもないものと張り合おうとしてたんだな。こんな化け物にどうやって勝てって言うんだ。

こんなのと張り合えるのは、名路羽高校の皇帝山田くらいしか居ない。

 

 こいつのチームメイトは幸せだろうさ。この天才を掲げて、この王の求めに応えていればどこまでも連れて行ってくれるんだからな。


 逆に相手は不幸だ。特に事前情報も無かった今回の相手なんて可哀想なもんだ、文字通り何もさせてもらえてない。

 相手のコーチは茫然自失だな、何の打開策も出せないだろう。精神論で頑張れと煽ることも出来ないくらい根都に支配されている。これは何人か心が折れてンドバシュ辞めてしまうんじゃないか?


 今冷静に見てみると穴がないわけではないな。ほんの小さな穴がある……多分根都が慣れたら埋まってしまう程度の穴だけどな。あとは三品か十五石に使える駒が入れば、ホントに名路羽高校くらいしか勝ち目がなくなるチームになるな。とんでもねぇな。まぁ俺には関係ないがな。


 それにあの女なんか泣いてるが、根都の変化を知っていた?いや気づいていた?だから最初からあそこに座っていたのか?これもとんでもねぇな。なんて眼力をしてやがる。






〜 広宮 華音 Side 〜



 私は今何を見ているんだろう?

 

 私の大好きなンドバシュで、私の大好きな羅怜央くんが楽しそうにフィールドを駈けているところを見たかった。

 でも今見ているのはそれ以上。もっと荘厳でもっと華麗でもっと享楽的な、矛盾をはらんだ美しさ。それを羅怜央くんが織り成している。

 これは多分ンドバシュのひとつの到達点。その一片を今見てる。それがあまりにも綺麗で涙が溢れてくる。



嗚呼ンドバシュにめぐりあえて良かった。


嗚呼今日ここに居てほんとに良かった。


嗚呼あなたを好きになって本当に良かった。


 

そして、


ヒョロテリコーチが膝をついた(Orzこんな感じで)






〜 根都 羅怜央 Side 〜




 今まで感覚的に行っていたポジショニング、プレーの選択を自分の中でロジカルに行うようにする。味方のあるべきポジショニング、プレーを自分のそれで導いてやる。そして、対戦相手にすらも同じことを行う。そうすることでフィールドをすべて掌握し支配する。


 なるほど、仁が言っていたのはこういう事か……

これは確かにフィールド上のすべての責任が俺にのしかかる。俺がそう導いているのだから当然だ。

 王が民衆に尽くすように、俺もフィールドプレーヤー全員にプレーで尽くす。そして、民衆がそうするように味方は俺を掲げ対戦相手は跪く。

 

 ああ確かに俺は王になった、このフィールドの上で君臨し民衆を従える王に。



 今日俺はフィールド上の王として戴冠した……





◇◆◇◆



お読みいただきありがとうございます。


まさかの三回連続のンドバシュ回です。スミマセン


普段一話に一日使って書き上げるのを半日程度で書き上げました。楽しかったです(笑)


ラブコメさんもギリ行けると思うんですよ。

ごめんネラブコメさん。


次回も読んでいただけると嬉しいです。



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