第14話 フィールドの王様
作者注
前回の続きです。
「去年と今年のチームで何が違う?崩壊しかけたチームがなぜ全国手前まで行けた?お前はどう思う?」
「そんなもん対戦相手との兼ね合いもあるし、ゴリラと残先輩がチームをまとめたからだろーが」
「ちげーよ、いやその一面も確かにあった。それは認める。でもホントの要因は……お前だよ」
またこいつは意味の分からんことを……
「どういう意味だ?」
「お前が居たか居なかったか、それが大きな要因だった。お前が居たから半壊状態のチームが全国の扉を開けかけたし、お前が居たから去年一回戦負けのチームが決勝まで行けた」
「お前……ンドバシュ舐めてんのか?一人の力でどうにかなるもんじゃねーだろが」
バカバカしいにも程がある、いったい何年ンドバシュをやってんだ。基本のキじゃねーか。
「普通ならそうだな、そんなのイロハのイだ。ただお前は特別なんだよ。お前ひとり居るか居ないかでチームが変わっちまう。そういう存在なんだよお前は……」
「なんだそりゃ。まるで天才だな俺ゃ」
「その通りだ……お前は天才だよ」
「ハッならとんだ天災だな。チームを、先輩を全国にもまともに連れていけないで何が特別だ!」
俺が天才ってんなら先輩を全国へ連れて行ってるわ!
「お前が居なきゃ去年の秋はあそこまで行けなかった。お前が居なきゃ夏も決勝まで残れなかった。お前が居ない決勝戦、まるでチームが別のチームになったみたいだったろ?そういうことだ……」
「認めねーよそんな事。それはンドバシュへの冒涜だ。ぜってー認めねー」
「認めろよ!お前がそれを認めることがチームにとって大事なんだよ!」
頑なだな、それに認めてどうしろってんだ?天狗になれってか冗談じゃない。
「認めてどうなる?認めてチームがどう変わる?俺に王様にでもなれってか?」
「そうだ、お前がチームの王になるんだ」
「はぁ?なに言ってんだお前は、フィールドでパワハラでもしまくれってか」
「お前の王様に対する認識は置いといてそういうことじゃねーよ。お前はフィールドに君臨してフィールドを支配するんだ」
「意味わかんねーよ」
「別段、特別な事をしろと言ってるわけじゃない。今までお前が無意識にやってきたことを、意識してやれと言ってるだけだから」
「意識するだと?ますます意味わかんね」
「フィールドに立って意識するだけでお前なら分かるよ」
「分かるかそんなもん。それにまだ認めたわけじゃねーぞ、そりゃあ、多少は才能があるのは認めるさ。じゃなきゃ一年でナンバー6は背負えねえ。でも俺は天才とか王様とかそんな御大層なもんじゃない」
当たり前の話だ俺なんかが天才ってんなら、眼の前のコイツのほうが天才だよ。コイツのプレーにチームが何度助けられたか……
「いーや何が何でも認めてもらう。そのためにチームを代表してここに来たんだからな」
「なんだと」
「チーム全員の総意だ、お前にはチームの王になってもらう。拒否権はない」
「なにそれ拒否権ねーのか?」
あれ?なんか風向きが変わってきたような。
「ああ、ない。お前には才能のすべてを賭けてチームに尽くしてもらう」
「どーゆーこと?」
「そのままの意味だ、お前にはフィールドに君臨してフィールドのすべてを支配してもらう。チームのためにお前の才能のすべてを賭けてだ。」
「天才であるお前がフィールドの王様としてチームのために、尽くして尽くして尽くしまくってもらう。フィールドでの責任は全てお前に行く、苦情は受け付けない」
「いーねそれ。先にそれ言えよ」
「認めるか?」
「天才云々は置いといて王様ってのは気に入った。やってやる」
皆がそこまで俺をこき使うってんならやってやる、搾り滓になるまで使い切ってやる。才能っやつをな。
「よしここまで認めてくれたから前提条件クリアだ」
「前提条件?」
「そうだ、お前が特別であってチームの要で王様で、お前の代わりは居ないんだと、お前が認識することが前提条件だ」
大袈裟だなまあ言ってることは理解した。要はギリギリまで絞り尽くせってことだろ?
「で?次はなんだ?」
「初戦の相手が決まった。WSS高校だ」
「あらま系列校じゃん。あのインテリメガネの居る」
「そうだ、それで……だな、えっと」
なんだ?えらい言いにくそうだな?
「なんだよ?言ってみ?」
「怒るなよ?」
「だから言ってみって」
「お前初戦出るな」
「は?なんて?」
「だから、お前出るな。お前が出なくてもあそこには勝てるから。なっ?」
「は?ふざけんな。さっきお前ら俺を使い潰すって言ったよな?なのになんでだ?出るぞ俺は!」
「んなこと言ってねーよ!ほらやっぱりだ。そう言うと思ったんだよ、だから長々説明したのに……いいか?こないだあそことやってお前ケガしただろ?あのメガネがまたやらかすかも知れねーから、だからお前出んな」
「イヤだベンベン」
「嫌だじゃねーんだよ。いきなり初戦でお前に潰れられたら困るんだよ。分かれよ」
「知らねーよ!だったらお前ら下々のものがカバーしやがれ!俺は出る!!」
「誰が下々だバカ王!最後にゃメンバー表から外すぞてめぇ」
「あーお前それ言うか?この独裁者キャプテンが!」
「あってめぇ!やってやるよ、表出ろ!」
「上等だ!来いや!」
「「なにやってるんですかー!!!」」
華音と安達さんが大声でプリプリ怒りながら止めに入る。えーい止めんな!
「放せ華音!コイツ寝惚けてるから殴って起こすだけだから!」
「沙織止めるな。このわからず屋を殴って分からす!」
「放しません!落ち着いて下さい!」
「仁くんも!仁くん弱いんだからボコされるだけだからやめときな!?」
へん!俺は落ち着いてるわ!それに仁、カノジョさんからも何気にディスられてやんの。ザマァ
〜 新・C・仁 Side 〜
なんとか羅怜央に自分が特別であると、少しでも認識させることに成功した。
この自己評価の低い親友は、自分の才能を過小評価してるフシがある。
こいつの才能は日本一の名門校
それを認めさせ、羅怜央をチームの王様にする。そして俺等は王の求めに全力で応える。それが出来てようやく名門 名路羽高校に太刀打ちできるようになるんだ。
それに、この親友の器は日本だけに留まるものじゃない。近い将来こいつは世界に飛び出す、ンドバシュ本場の中東サウジ、最近リーグの成長著しいヨーロッパ、こいつはそんなリーグでしのぎを削る事になる。羅怜央は日本ンドバシュ界の宝になる。
そんなこいつの才能を、こんな高校ンドバシュなんかで使い潰されてたまるか。こいつは率先して自分で使い潰されようとしてるけど……
てか、あのメガネと名前は忘れたがあの三年生のせいで、本当なら今頃全国に知れ渡っていて然るべき羅怜央の名前が、今だに知る人ぞ知るレベルに納まっているのが納得行かない。
このわからず屋のバカ王に言って聞かせて、「試合の前半で交代する。相手がラフプレーをしてきたと、こちらが判断したら交代する。交代後は俺がブスカのポジションを引き継ぐ」の条件でやっと納得させた。
……納得したよな?
これでここに来た最低限の仕事は達成出来た。
あとは根都 羅怜央という天才を担ぎ上げて、どこまでも着いていくだけだ。
あー肩の荷が下りた、キャプ……主将とはいえ難儀な仕事を押し付けられたものだな。でもこいつにこんなこと言えんの俺しかいねぇしなー。
しかし、説得のついでにまさか広宮さんお手製の昼食を振る舞ってもらえるとはね、役得、役得。
なんか羅怜央とも仲良くやってるし……しれっと広宮さんを名前呼びしてるし。
この間の見学してる姿を見てる感じ、ある程度ンドバシュのこと知ってるみたいだし、広宮さんに羅怜央をサポートする気もあるみたいだし?安里さんよりは羅怜央との仲も応援できるかな。
まあ周りがうるさいから、これからどうなるか分からないけどね。
俺は楽しく高みの見物と行こうかな。
〜 根都 羅怜央 Side 〜
「良いか羅怜央、自分で言ったことは守れよ?絶対だぞ分ってんな?約束守らなかったら泣くぞ?」
「うるせぇ!さっさと安達さん遊びに連れて行ってやれ!ゴメンな安達さん無関係なことに付き合わせて」
「約束だぞー」
仁のアホが泣き言を言いながら、カノジョさんに引きずられてデートに行きやがった。
仁たちを送り出したあと、コーヒーを淹れてカップを手渡しながら、
「華音も悪いな……手間をかけた」
「手間だなんてそんな……ただ、喧嘩なんて駄目ですよ?」
「メッ」って感じであざとく叱ってくる。
「いやあれは仁が悪い。人を王様とか持ち上げといて試合に出さないなんて非道な事をしようとしたから」
「もう、またそんなこと言って。新くんも羅怜央くんの事を思っての事でしょうに」
ちょっと言葉に呆れを滲ませながら窘める。
「あいつもチームの連中も大袈裟なんだよ。早々危険なラフプレーを指示したりしないって」
「だといいですけど……怪我だけはしないで下さいね?」
「大丈夫だよ。さておふくろに定時連絡入れるわ」
話を打ち切ってこれからの予定を伝える。
「はい。でしたら私もお話しさせてもらって、夕飯の準備を終わらせたら今日はお暇します。母も帰って来てるみたいですので」
「オケオケ、ならおふくろに繋ぐわ」
〜 広宮 華音 Side 〜
沙織ちゃんと扉の影から二人の話をこっそり聞いていて私は凄く興奮しました。羅怜央くんが名実ともにチームの王様になるなんて!
沙織ちゃんも、「あのオレサマ仁くんが、ンドバシュで誰かにあんなに惚れるなんて、根都くんってどんだけなの?」とビックリしていました。
その後の喧嘩沙汰は感心しませんが、男の子ですそういうところもあるのでしょう。
結果的に双方が納得する妥協点を見つけることができましたし良かったです。
沙織ちゃんたちを送り出したあと、羅怜央くんがコーヒーを淹れてくれて労ってくれたのは嬉しいですね。
ことあるごとに羅怜央くんは私を労ってくれます。ちょっとした事かもしれませんが、それだけでも嬉しいですしやり甲斐も出てくるものです。
さぁあとは、お義母さまとお話しをして。晩御飯の支度もしてしまいましょう。
美味しい晩御飯を作って差し上げますね。
◇◆◇◆
お読みいただきありがとうございます。
前話からの続きです。
羅怜央くんは自分で思っている以上に周囲から評価され期待されています。
華音さんはそれが嬉しくて仕方ありません。
ごめんなさいラブコメさんが息してないですね。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
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