最終話 たとえば君がいるだけで


 今年は春の全国制覇を受けて有望な新一年生が多数入部してきた。

 特に全中の最優秀選手賞を取った3品が入部したのは大きかった。

 系列校親善大会には連携が間に合わなかったがさすがに夏には間に合わせてきて、仁とふたりで俺の手足となって這いずり回ってくれた。舞え愚民どもワハハハ!


「あのクソ王、ぜってぇ簒奪してやる!!」


可愛い後輩の弁である。


 春に全国を勝ち進み始めてから俺になんか異名が付いた、その名も「覇王」えらく格好いい異名だこと。

 どうやら名路羽の山田の「皇帝」と対を成すんだと、いろいろ考える人いるよね厨二病かな?


「出世してくれて私も鼻が高いわよ「覇王」さん。クスクス」


「何気に馬鹿にしてるよなお前と仁。俺だって恥ずかしいんだぞ?」


「被害妄想じゃないかしら?純粋に格好いいと思うわよ?「皇帝」と「覇王」の戦い……プークスクス」


この夏の大会は「皇帝」と「覇王」の戦いだそうだ。実際大会のキャッチコピーにも使われているオフィシャルのものだ……高ン連はなに考えてんだ?


 で、結局キャッチコピー通りに決勝はウチと名路羽高校だもんなぁ。ここまで誂えたように進むと運命の作為を感じる。



さてそれはそれとして……さり気なく話を始めるか。


「あぁそうそう、こないだ別のチームからオファーが来た」


「あら、あのニチーム以外は諦めたと思ったのに」


「それがなんとビックリ国外からなんだわ」


「え?」


「ヨーロッパでは一番ンドバシュが盛んなスペインの二部リーグのチームなんだけど、調べてみると今勢いに乗ってて二年前に三部から昇格して去年は八位。今年は一部昇格は逃したけど四位に順位を上げて来年は一部昇格が目標の若いチームなんだ」


「羅怜央くんは行きたいですか?」


さすがにクールモードは解除するか。


「かなり揺れてる……スペインは中東を除けば世界最高レベルだと思う。そこで試してみたいって想いはある……」


「羅怜央くん行きたいんですね」


「……チャンスなんだ」


「そうですか……行っちゃうんですね……」


 やっぱりそうだよな……俺から言わないで華音から言わせようとするのはズルいよな。


「華音……俺たち」


「イヤです……言わないで下さい!」


「聞いてくれ……俺たち……」


「聞きたくありません!!」


「俺たち……結婚しよう……」


「別れたく……は?」


「ホントは君と別れて俺一人でチャレンジするのが筋だと思う……いきなり日本を飛び越えて世界でやろうと言うんだ、絶対成功するなんて言い切る自信ははっきり言ってない。失敗したときに君にまで迷惑を掛けることになる」

「それは分かってるんだ……だけど一緒に来て欲しいんだ。たとえば君がいるだけで、俺一人だと乗り越えられない壁でも乗り越えられると思うから」

「わがままだと十分承「喜んで!!」おおぅ」


「そういう事なら早く言って下さい!別れ話かと思って泣きそうになりました!」


「それはゴメン?」


「しかし、そういう話でしたら答えはもちろん喜んで付いていきます!それはもうベッタリと」


「ベッタリと?」


なに言ってんだこいつ?


「そうと決まれば、準備をしないといけませんね」


「準備?」


「はい!すべての反対を押し切るための準備です!運がいいことに私は推薦を受けてませんので志望校の変更は容易です。推薦を断っておいて良かったです。急いでスペインでスポーツ栄養学を学べる大学を調べないと……学校の反対は無いでしょうし、あっても軽微でしょう」

「代理人を雇って契約関係はお任せしましょう。信用できる代理人は父を頼ります、そういうのには有能な人ですからあてにできます」

「話は前後しますが、両親への説得は任せてくださいな?ぐうの音も出ないほどしっかり説得してみせます!最大の障害物だった父も、羅怜央くんのことは気に入ってますから勝確です!説得が完了したら挨拶に来てくださいね?」

「それから、お義父さまとお義母さまへはふたりでお話しましょう。大丈夫です、熱意をもって説得すれば分かっていただけます」


「ぶっちゃけ世間を舐めた話だから断られるかと思ったのにかなり前のめりだな……」


「私を舐めないで下さい!私はラブラブカノジョ持ち……イライラしますね……の羅怜央くんに半年以上恋をした女です。そんなに簡単に諦めません!」


「分かったそこら辺の事は華音に任せた」


「はい承りました!羅怜央くんは次の試合のことだけ考えてください!ここで日本一になれば説得の材料になります。フフフフッ」


「おおぅ、したたかだな……」


「私達が一緒になる為なら何でも使います。……こんな女でも良いですか?」


なに言ってんだこいつ?


「こんな女に惚れたんだ。一緒に居てくれ……愛してる」


「私もあなただけを愛しています。もう放さないし離れません」





 


「ぶわっはっはっはっ!すげぇ!すげぇわ、ひー腹痛い!」


「……思い切ったね」


 決勝戦後とりあえず婚約?をしたことを仁と安達さんに報告、仁が大爆笑で安達さんは呆けてる。仁……あとで殴り倒す。


「まぁまだまだクリアしないといけないことが山のようにあるけど、俺たちの気持ちはそーいうことだって決意表明?みたいなもんだ。それと仁あとでしばき倒すから」


「あー笑った……今回は甘んじて殴られるよ、爆笑させてもらったしね。しかし沙織じゃないけど思い切ったね、国内リーグを飛び越えていきなり世界でやろうとはね?」


「そっちかよ……まあせっかく向こうからオファーくれたんだし?最初から誘ってくれてた国内チームには申し訳ないけどチャレンジしたいさ」


「バレンシアだったっけ?」


「ああ、住みやすい土地らしいし華音への負担も少ないみたいだ」


 調べてみたら、オファーのあったチームのホームタウンのバレンシアは、外国人が生活するのに適した街のようで治安も良いとあった。華音と移り住むには良い都市だろう。


「華音ちゃんも根都くんもすごいね……いきなり結婚はぶっ飛びすぎだよー」


「遅かれ早かれそうなりますので……まぁ周囲の説得は大変ですけどなんとでもします」


 華音が力強く断言する……嫁(予定)が頼りがいありすぎる……


「まあ今すぐって話でもない、渡欧も半年以上先の話だし。リーグデビューは来年六月からだから一年近くある」


「そんなこと言ってっとあっという間だぜ?これから全日本の合宿や国際試合が続くんだからな」


「だな、卒業できるかな……」


「出席日数足りてるだろ?成績は問題ないんだから楽勝だろうさ……問題は俺だよ……成績やべぇ」


「たからあれほど言ったのに……」







 広宮家のご両親の説得は俺が思ってた以上にスムーズに出来たようで、説得完了の報告と共に挨拶に行く日程があっさりと決まった。

 結婚の約束をしてから華音がやたら精力的に動き回って俺が何かする暇がない……俺要るかこれ?


 正月以来久し振りに広宮家の敷居をまたぐ。アンダー‐20のWC決勝以上に緊張してるんですけど……

 

「正蔵さん、かすみさん。いえお義父さん、お義母さん、華音さんとの結婚を認めていただきありがとうございます」


「そんな堅苦しい言い方をするもんじゃない!なんなら親父と呼んでくれてもいいんだぞ?」


「あらあら、それなら私はママと呼んでもらおうかしら?」


「勘弁してくださいお義母さん」


「ワッハッハ!華音がパパと呼んでくれたのだ、それだけでなんでも許す!」


「奥の手です。切り札を切るタイミングとしては最上だったと自負します」


 華音は澄ました顔で言っているが、手が硬く握りしめられていたので「パパ呼び」したことに忸怩たる思いがあるのだろう。


 これで両家への説得も完了。あとは来月ウチの両親が帰国するので両家の顔合わせからの結納を行うだけ。

 ちなみにうちの親への説得は三十分で終わった。内訳は説明と説得五分に俺への説教と煽りに二十五分だ。主にヘタレとか根性なしとか言われ放題だった……

 あと結婚式は俺たちの意向を汲んでもらって、家族と仁など親しい友人のみを招待して教会で執り行なう。そして、披露宴は行なわず簡単な食事会をする事になった。








 もうこれでやり残したことは無いな?結婚式前日のホテルの一室で華音とふたりでまったりしながら考えてた。

 基本華音任せだった俺ですら、ここ最近はグッタリするくらい忙しいんだ。メインで動き回った華音の心身の疲れは尋常じゃないだろう。

結婚式が終わったら労ろう……


「今日までの準備ありがとうな」


「いえ、妻の勤めです。それに準備も楽しかったですよ?」


「まあ、明日の式が終わったら少しのんびりしよう」


「はい!」







 入り口に立ちふたり揃って礼をする。

 そしてヴァージンロードを華音と正蔵さんが並んでこちらに歩いてくる。


 ヴァージンロードは花嫁の人生(過去・現在・未来)を表しているといわれている。

 扉から祭壇まではいままでの人生。一歩一歩踏み締めながら過去の出来事に思いを巡らせる。

 そして、新郎との愛を誓う現在へ。

 セレモニー後、退場のためにふたりで後ろを振り向けば、扉の向こうには明るい未来が開けている。


 今は正蔵さんと歩きながら過去の出来事に思いを巡らせているところだろう。


 祭壇下の俺の所へ到着、華音の手を正蔵さんが俺に渡す。その際に、


「私はお前の父親で幸せだったよ……幸せにおなり」


「お世話に……なりました……パパ」


あっやべ、もらい泣きしそうになった……

 

「羅怜央くん、あとは任せた」


「はい、一緒に幸せになります」


ここからは俺たち二人で歩く現在の道……


 神父の前にふたりで並ぶ、

 神父が誓いの言葉を述べる、


「新郎 羅怜央、あなたは華音を妻とし、

健やかなる時も、病める時も、

喜びの時も、悲しみの時も、

富める時も、貧しい時も、

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか? 」


「誓います」


「新婦 華音、あなたは羅怜央を夫とし、

健やかなる時も、病める時も、

喜びの時も、悲しみの時も、

富める時も、貧しい時も、

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


「誓います」



「では、指輪の交換を」



 これは去年のクリスマスに体験したアクセサリー工房で、この日のために華音がデザインして俺が改めて作ったペアリング。

それを華音の左手薬指に通す……


 その後俺の左手薬指にも指輪をはめ、ヴェールアップからの誓いキス……


「照れるな……」


「くすっ、もう羅怜央くんを放しませんからね、私のことも放さないで下さいね?」


「ああいつまでも一緒だ」


 誓いのキスを交わして、あとは扉の向こうの新しい未来へ。






「新婚旅行はフランスからバレンシアだったよな?」


 食事会の席で仁が聞いてくる。今日はホテルに泊まって明日東京へ、明後日の便でフランスへ経ち、そこから観光しながらスペインはバレンシアへ向かう。


「ああ、住む所とかは代理人が手配してくれてるから一週間くらいかけて現地に入って、生活を慣らしたあと来月からチームに合流かな?」


「そうか二人とも卒業式には出ないんだな……」


「ああ、華音には帰国して出席することを勧めたんだが頑固でなー」


「あなたが居ないのに私が出ても仕方ないですもの」


早くも人妻ムーブ決めてんなー


「見てろよ?俺だって近いうちにそっちに行ってやるからな?」


「ワッハッハ!まあ、がんばりたまえ」


「ウザっ」


「なんだとてめぇ!この代表キャプテン!」


「よしその喧嘩買った!表出ろ!」


「「やめなさーい!!」」


 止めんな我が妻よ。こいつはやっぱり分からせなきゃ駄目だ!









pipipipipipipi………


 アラームの音で目が覚める。隣で華音がまだ寝息をたてていた……

 その寝顔が愛おしくて、その頬にキスを落とす。


「ん……羅怜央くん?」


「おはよう。もう朝だよ?」


「おはようございます。くすっ、起きぬけに羅怜央くんがそばにいるのはまだ新鮮ですね」


「そうだな。でも、それが当たり前になる」


「そうですね、私達は夫婦になったんですから。私はもう根都 華音なんですね……」


「そうだよ、嫌か?」


「怒りますよ?こんなに幸せで良いのかって思ってるのに!」


 それは持ち上げすぎだろ?

 今日は午後の便でフランスへ飛ぶから、別段急いではいないけどゆっくりもしてられない。


「シャワー浴びてくるけど……一緒に入るか?」


「いいですよ?用意しますね」


「ごめんなさい冗談です。一緒に入ると飛行機に間に合わなくなるから勘弁してください」


「くすくす、残念です。では入って来てくださいな。私も次に入りますから」






 パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着、ここを出たら代理人が手配した案内人と合流して一週間かけてバレンシアまでのんびり向かう。


「さあここから新生活のスタートだ。心細くはないか?」


「私はあなたが居ればそれだけで生きていけますから」


「じゃあずっと一緒に居てくれ……お前が居てくれればどこまでも行けるから」


「はい、どこまでも付いていきます」



「じゃあ行こうか!」








◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


これにて拙作、


「チャラ男にあざと可愛いカノジョをNTRされたけど、その後学校一の美少女に何故か猛アピールされるようになった」


の本編は終了いたしました!


あとはエピローグと番外編を更新して完結です。


では、あと3話お付き合いいただけると嬉しいです。


宣伝!新連載始めました。


サレ妻の復讐ものです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330665273163974



ご興味が有りましたらご一読下さい。




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